『ユーリ』『ゾンビランドサガ』etc. 大人気タイトル制作の裏側|MAPPAプロデューサー 大塚学 独占インタビュー【前編】
これまで『この世界の片隅に』、『ユーリ!!! on ICE!』、『ゾンビランドサガ』などの大ヒット作に関わってきたアニメーション制作スタジオ MAPPA。そんなMAPPAが手掛ける最新作、『かつて神だった獣たちへ』(講談社 刊)が2019年7月1日(月)より放送開始となります。
今回は、『かつ神』のアニメ制作のキーパーソンの1人、MAPPA代表の大塚 学さんに独占インタビューを実施。前後編にわたってお送りしますが、前編はアニメーションスタジオ、MAPPAの信念や制作スタイル、ターニングポイントになった作品などをお聞きしました。
作品への衝動とエネルギー、優秀なクリエイターとのつながりが今のMAPPAを作った
――まずアニメ制作におけるMAPPAの特徴やポリシー、他の制作会社と違う点をご紹介お願いします。
MAPPA代表 大塚 学さん(以下、大塚):自分達が一番大切にしていることは、作品を作りたいというエネルギーと衝動を持って取り組めるかどうかです。そのエネルギーを発見し、高めていくことが僕の使命だと思っています。
例えばスケートものをやりたいとか、ずっと温めていた原作ものをやりたいなど、プロデューサーやクリエイターの人の気持ちを大切に、そしてそれを強みにやっていきたいと思っています。
――MAPPA作品に関わったキャストさんから……例えば『ゾンビランドサガ』のキャストさんから「クォリティが高い」とか「よく動く」という感想をよく耳にしました。
大塚:うれしいですね。京都アニメーションさんやボンズさんなどお手本にするべき会社のスタイルはたくさんありますが、僕らなりの存在感を発揮できるように能力が高いクリエイターとのつながりを大切にしていこうと。その結果、クリエイターが頑張ってくれて、今の状況があるのかなとか思います。
――またMAPPA作品はとがった作品も多い印象があります。
大塚:狙っているわけではないんです。こうすれば売れるという方程式みたいなものは世の中にはなくて、一生懸命、ヒット作のマネをしたところで同じように売れるわけもないし。
何が売れたというのはデータ的には大事だけど、僕自身がしっかり楽しめたり、確信を持って世の中に出せるということを大切にしていくとどうしても個性的になっていくんですよね。そこに監督やクリエイターなどのカラーや考え方が作品ごとに反映されて、バリエーション豊かな作品を送り出せているのかなと思います。
企画を持ってきた人の熱意や人柄、信頼関係がアニメ化を引き受ける理由!?
――アニメ企画を持ち込まれた時に、「やろう」と決めるポイントは?
大塚:うちはほとんど持ち込み企画ですが、話を持ってきてくださった方の熱意が大きいですね。ただ「最近、こういうのが流行っているんで、MAPPAさんのあの作品みたいな感じでやったら当たると思うんですよね」くらいだと難しいですね。
提案された方の人となりや信頼関係も大切で、「この人おもしろいな。もっと考えていることを知りたいな」と思ったり、「自分がこういう経験を積んで生きてきたうえで、今こういう能力があるからこういうものを世の中に出したい。だからMAPPAさんに力を貸してほしい」と熱い想いが感じられるものに乗ることが多いです。
『ゾンビランドサガ』はまさしくそうで。最終的には条件などで決めるわけですが、出会いや熱意を大切にした作品作りをしています。
――大塚さんの周りに個性的でおもしろい方が自然と集まってくるのかもしれませんね(笑)。
大塚:僕自身も変わった人が周りに多いなと思います(笑)。そんな人たちからいろいろな刺激を受けながらモノ作りできることは本当に幸せです。
多くの予算といろいろな人を巻き込む責任の重さ。今後世に出そうなおもしろそうな企画も
――大塚さんからGOサインをもらうのは敷居が高そうだなという感も(笑)。
大塚:高くしているつもりはないけど、そうなのかもしれませんね。例えば社内から企画が上がってくることもあるんですけど、やりたいのはわかる、ただ何を目的として、どういう力を持ってやるのかまで考えが及んでいないものが多くて。
TVアニメは1クールやるのに数億円かかって、いろいろな人を巻き込んでやっていくものだから説得力がとても大事なんです。それがスタッフィングなのか内容なのか、そこまで考えて持ってくる企画はなかなかなくて。でも最近はうちのプロデューサーがクリエイターと一緒に考えているものでまだ世に出ていないけど、おもしろそうだなと思うものはいくつかあります。
――では、その芽から大きな花を咲かせる作品もそのうちに?
大塚:これからですね。これまで僕がその部分をずっと一人でやってきましたが、最近はもっと分業してやっていく体制に切り替わっていったので、楽しみではありますね。
MAPPAの土台と体力を作った2014年の3作品
――これまでMAPPAからたくさんの作品が世に送り出されていますが、ターニングポイントになった作品や大塚さんにとって大切な作品を挙げていただけますか?
大塚:2つあって、まず『坂道のアポロン』です。僕がスタジオ4℃というTVシリーズをやらない会社で働いていたんですが、TVシリーズをやりたくなって転職して、最初の作品が『坂道のアポロン』なんです。ご一緒したかった渡辺信一郎さんと作品が実現できて、その後の考え方やMAPPAの土台ができたと思います。
もう1つ会社として大きかったのは2014年に、『残響のテロル』と『神撃のバハムート』と『牙狼
――確かに世に出た時期も近かったような……。
大塚:夏に『テロル』、10月に『バハムート』と『牙狼』で、しかも『牙狼』は2クールあって(笑)。どれも重い内容の作品に挑戦して、ボロボロになりながら納品して。売り上げ的なインパクトは残せなかったけど、業界内、いろいろなメーカーやプロデューサーにはインパクトを残せたかなと。
それらをやるまではなかなか企画も実現しないし、仕事も少なかったけど、その後は仕事の話を途切れずいただけるようになったので転機だったなと思います。
オンエアが7月から翌年の3月いっぱいまで続くというのは初めての経験だったし、それぞれの予算規模も大きくて、かなり鍛えられました。またうちのスタイルも確立できて、ライン数を増やして、どんどん世の中に出していこうというスタイルはあそこで決まったかなと思います。
「ギリギリまで粘って良いものを」のスタイルは現在も
――正直、普通はリリース時期をずらしたり、お断りするようなスケジュールだと思います(笑)。
大塚:あの時は僕自身、正直焦っていたんですよね。結果も出ないし、会社も小さくて、いつつぶれてもおかしくないような状況でずっとやっていたから。ここで無理やりでも、インパクトを出して、業界的に名を上げていかないと将来、厳しいだろうなと思って。
――あとよく音声合わせで作画を直されるというお話もお聞きしますが、それも体力とシステムが整ったからでしょうか?
大塚:本当はやらないほうがいいんでしょうけど(笑)。でも制作が遅れて、いい素材でアフレコできなかったとしたら「しょうがないね」とあきらめるのではなく、いい芝居に合わせて、絵を直そうと。当時は粘って直す力、ギリギリのものを直せる力に特化したスタジオだったので、そのスタイルが今も残っているんでしょうね。
今はリスクを考えて、もっと効率がいい方法を模索している最中ですし、他の会社よりいろいろな挑戦ができているのかもしれません。やっている側にとっては課題ばかりですけど。
『ユーリ!!! on ICE』は時代とタイミングに合わせる体力と頑張りがヒットの理由!?
――『ユーリ!!! on ICE』や『ゾンビランドサガ』は珍しい題材や大きなヒットが記憶に新しい作品ですが、これほどの人気を得た理由を挙げていただけますか?
大塚:時代に合っていたのもあると思います。『ユーリ!!! on ICE』は、フィギュアスケートに対して女性の視聴者がすごく熱を帯びていたタイミングで出せたことがかなり大きかったかなと。
もちろんクリエイターたちのこだわりも素晴らしかったけど、2014年の経験から、ラインをたくさん抱えてやる姿勢が難易度の高い作品を、ギリギリになってでも何とか形にできる力に繋がっていたのかもしれません。体力もつきました (笑)。
――確かにフィギュア熱が高まっている、あのタイミングで、あまり時間も渡されていない中で放送が始まったことに驚きました。
大塚:特殊な作品で、いろいろな理由から遅れて、でも内容は重くて。普通じゃない状況をどう乗り越えるかが大切で、もしオンエアを落としたり、ひどいクォリティものを出してしまったらあれだけのヒットはなかったと思うので、僕の目線では、スタッフが一生懸命頑張ってくれて、世に出せたことがヒットの理由かなと思います。そして題材と男同士の友情や戦いも刺さったのかなと思います。海外でも大きな反響をいただきました。
『ゾンビランドサガ』は大人たちが熱いエネルギーをもって勝負した結果
――『ゾンビランドサガ』についてはどう分析されていますか?
大塚:これもタイミングが大きかったと思うんですよね。企画が上がってきたのはアイドルアニメ全盛の頃で、その時にもしこの作品が流れていたらここまでヒットすることもなかっただろうし、そもそもこの内容になっていなかったと思います。
いろいろな要素から企画が進まなかったこともプラスに働いて、いい形で変貌を遂げていって、結果的にアイドルアニメとかぶらなかったし、佐賀を元気にしていこうという空気にもなって、ちょうどよかったかなと。
――1話の冒頭でいきなり主人公が死ぬという衝撃的な展開が話題になりましたが、最後まで勢いやテンションを落とさずに走り切ったこともすごいなと思いました。
大塚:作っている側は狙いを持ってやっていたけど、自分たちが自信を持っているだけで、お客さんがどこまでついてきてくれるかは結果でしかなくて。そういう意味では想像以上の結果で嬉しかったです。Cygamesさんもavexさんも一緒に勝負してくれたこともうれしかったです。
斬新な内容に、大人たちが一見ふざけているようだけど真剣にのってくれたことがお客さんに届いた理由かなと思います。
また、みんな、それぞれ細かい角度ではバラバラだけど、何か世の中に残したいという想いはあって、そのエネルギーがいい形で合わさって。打ち上げも、いい雰囲気で終わったので、本当によかったなと思います。
オリジナルアニメ『ゾンビランドサガ』の成功は大きな自信に
――2作品共、オリジナルアニメであったことも業界的にも意義が大きかったと思います。
大塚:僕は原作ものも、オリジナルもどちらも好きなんですけど、特に『ゾンビ』はアニメの人だけで作った作品なので、それぞれのスタッフの自信につながりますよね。ちゃんと世の中にインパクトを残せるんだと。若いスタッフにはいい刺激になったと思います。
――オンエアが始まってからの反響は気になるものですか?
大塚:気になりますね、オリジナルは特に。スタッフィングから自分の意志が入っている作品だとお客さんに伝わらなかったことやそれがどのような影響を及ぼしてしまうのか、少なからず責任は感じてしまうので。基本的にはオンエアは見たくないんです、というか見ていられない(笑)。
自分がどう思われるかというよりもみんなが一生懸命やってくれている分、それにちゃんと応えられるかどうか怖くて。でも見なくても放送されてしまうし、いい話は耳に入ってくるので、いい知らせを待つという感じでしょうか。一生懸命作っているからこそ、そういう緊張感があるんだろうなと思います。
アニメに何ができるのかを考え、楽しんでもらうための挑戦は貫きたい
――今後、どのようなアニメを作っていくのか、MAPPAの未来や展望を教えてください。
大塚:いろいろな作品を、いろいろな監督やクリエイターと一緒に作ってきた結果、今があって、その先に何をやっていこうかという時に、ただ作っていくのは違うと思っていて。アニメーションに何ができるのかに目を向けていきたくて、それが制作体制の強化や予算などであり、自分たちだからできることは山ほどあるけど、まだ目を向けられていないこともあるので、考えていきたいなと思っています。
その中でどんな作品を世に出せるのか……なんですけど、予定している作品は沢山ありますので楽しみにしていただきたいです。同時に自分たちも今よりも次と成長していきたいです。
『ユーリ』や『この世界の片隅に』など、素晴らしいクリエイターが結果を残してくれたけど、その作品やクリエイターに寄っかかることなく、次にまた新しいクリエイターと、それを超えることを目標とした作品作りをしたいし、もちろん山本沙代さんや片淵須直さんとも、一緒にやった時よりも更にいい作品作りをしたいなと純粋に思っています。
――MAPPAの作るアニメなら間違いない! というファンも多いので、毎回プレッシャーも大きいそうですね。
大塚:そう思っていただけるならありがたいことですけど、それが当たり前のことだと僕らはまったく思っていないし、今後もお客さんが楽しんでもらえるものを追求して、チャレンジしていくつもりです。
チャレンジしていく中で失敗することもあると思うけど、お客さんを楽しませるということを忘れなければ、例え失敗しても次につながると若いクリエイター達に言っているので、そういう姿勢は貫いていきたいです。
〔後編へつづく〕
MAPPAが手掛けるTVアニメ最新作『かつて神だった獣たちへ』作品情報
7月1日(月)よりTOKYO MX・MBS・BS11にてTVアニメ放送開始!
FODにて独占配信!
放送情報
7月1日(月)よりTOKYO MX・MBS・BS11他にて放送開始!
FODにて独占配信!
TOKYO MX・BS11:7月1日より毎週月曜23:00~
MBS:7月2日より毎週火曜27:30~
AT-X:7月3日より毎週水曜23:30~
(リピート放送:毎週金曜15:30~/毎週日曜6:30~/毎週火曜7:30~)
FOD:7月1日より毎週月曜23:00配信
※都合により放送日時は変更になる場合がございます。
イントロダクション
パトリア大陸に生まれた民主主義国家【パトリア】。
経済的不一致から【北部パトリアユニオン】と【南部パトリア連合】に分裂したこの国では、長きに渡る内戦が続いていた。劣勢に追い込まれた北部は、南部打倒のため、遂に禁忌の技術を用いてしまう。人間を異形の兵士へと造りかえるその術は、人の姿と引き換えに、神にも喩えられる力を得るというもの。その力により長き戦乱は、和平へと導かれる事となった。
【擬神兵】、それは【神】と称えられた救国の英雄。
時は経ち、戦争が過去へと移り変わる今。
人の姿と引き換えに【擬神兵】となった者たちは、その過ぎたる力故、
人々からただ【獣】と称ばれ、恐れ蔑まれる存在へと変わっていた。
元擬神兵部隊の隊長・【ハンク】は、【獣】に身を堕としたかつての戦友でもある【擬神兵】を殺す者【獣狩り】として旅を続けていた。擬神兵だった父の仇を探す少女【シャール】はハンクと出会い、父の死の意味を知る為、共に旅することを決意する。やがて知る、戦い続けなければならない本当の理由。そしてハンクが探す【獣を解き放った男】の存在。
仲間殺しの罪を一身に背負い続けていく【ハンク】の旅路の行き着く先とは?
戦争が生み出す数々の無常と非日常、そして犠牲。異形の兵器【擬神兵】と【獣狩り】との激しい戦いを、圧倒的なリアリティとクオリティで描く『かつて神だった獣たちへ』。
アニメーションを手掛けるのは、「ユーリ!!! on ICE」「神撃のバハムート」「この世界の片隅に」など数々のハイクオリティ作品を世に送り出して来たヒットメーカー、MAPPA 。監督は「はじめの一歩」2期・3期監督、「ユーリ!!! on ICE」演出チーフを務めた宍戸淳。シリーズ構成・脚本は「ゾンビランドサガ」「牙狼アニメシリーズ」を手掛けた村越繁。
最強の布陣で綴る究極のダークファンタジーに世界が咆哮する――。
スタッフ・キャスト
■キャスト
ハンク:小西 克幸
シャール:加隈 亜衣
ケイン:中村 悠一
クロード:石川 界人
ライザ:日笠 陽子
エレイン:能登 麻美子
ミリエリア:市ノ瀬 加那
エリザベス(アラクネ):坂本 真綾
<【擬神兵】キャスト>
エドガー(バジリスク):安元 洋貴
ウィリアム(ニーズヘッグ):平川 大輔
ダニエル(スプリガン):立花 慎之介
セオドア(ミノタウロス):内山 昂輝
アーサー(ベヒモス):津田 健次郎
クリストファー(ガーゴイル):福山 潤
ベアトリス(セイレーン):早見 沙織
ロイ(ガルム):鈴木 達央
マイルズ(ケンタウロス):杉田 智和
■スタッフ
原作:めいびい(講談社「別冊少年マガジン」連載)
監督:宍戸 淳
シリーズ構成:村越 繁
キャラクターデザイン・総作画監督:新沼 大祐
擬神兵デザイン監修:佐野 誉幸
色彩設計:鎌田 千賀子
美術監督:森川 裕史
CGディレクター:大田 和征
撮影監督:三舟 桃子
編集:相原 聡
音楽:池 頼広
制作:MAPPA
■OP/EDテーマ
OP:まふまふ 「サクリファイス」
ED:Gero×ARAKI 「HHOOWWLL(ハウル)」
■Blu-ray情報
Blu-ray第1巻9月26日(木)発売!
収録話数:第1~3話
初回限定版仕様/特典:
・アニメ描きおろしアウターケース【シャール】
・池頼広による、オリジナルサウンドトラックCD
・完成披露上映会キャストトークショー 昼の部 など
TVアニメ『かつて神だった獣たちへ』公式サイト
TVアニメ『かつて神だった獣たちへ』公式Twitter
(C)ゾンビランドサガ製作委員会
(C)小玉ユキ・小学館/「坂道のアポロン」製作委員会
(C)残響のテロル製作委員会
(C)Cygames/MAPPA/神撃のバハムート GENESIS
(C)2014「炎の刻印」 雨宮慶太/東北新社
(C)めいびい・講談社/かつ神製作委員会