バトミントン選手と営業マン、二足の草鞋を履いた彼らを追っかけてほしい|リアルな実業団選手を描くオリジナルアニメ『リーマンズクラブ』宮澄 建役・三木眞一郎さんインタビュー
1話の収録でびっくりしたこととは?
——声を担当される宮澄 建は、三木さんからご覧になってどのような人物なのでしょうか?
三木:面倒見や人当たりの良い、相手の立場に立ってものを考えられる人だと思っています。『リーマンズクラブ』は原作がないオリジナル作品ということもあって、このように彼の家族構成や生い立ち・学生時代のこと、バトミントンのプレイスタイルなどが事細かく書かれている資料をいただきました。
(手元の資料を見せてくれる三木さん)
——すごい細かいですね!
三木:ここまで細かい資料をいただけることはなかなかないことなので、とてもありがたかったです。この頂いた資料を自分の中に落とし込んでいきました。資料の情報量によってディスカッションの濃さも変わりますよね。
——収録時はスタッフさんたちとディスカッションをされたと思いますが、ディレクションを含めて印象に残っていることはありますか?
三木:僕自身が相手に気持ち的に寄り過ぎてしまうことがあったとき、そこまで寄らなくて大丈夫だと言われたことが印象に残っています。僕の人の良さが出てしまったのかな(笑)。
一同:(笑)。
三木:それは冗談として……参考にバトミントンのシーンを見たり、そういうところは相談しながら作りました。あと、びっくりしたことがありまして、榎木くんと一緒に1話のテストをやったとき、お芝居的なダメ出しがまったくなかったんです。
——おぉ!
三木:咄嗟に「お芝居のことは何もないんですか?!」と聞いたら「芝居の面はありません」と言われて(笑)。2人とも1話のテストからハマっていたのかなと。
きっとキャスティングしてくださった方たちのバランスの取り方がお上手だったんだと思います。なので、お芝居に関してのディレクションは僕も榎木くんもあまりなく、アフレコが進みました。
——お二人のお芝居が噛み合ったその収録現場を拝見したかったです。
三木:ね! 本当は登場人物全員が集まって居酒屋でご飯を食べているシーンとか、全員一緒に収録できればワイワイと録れるんですけど、それができないのがちょっと心苦しいです。
ガヤで先に変なこと言われると後の人はそれに合わせて考えないといけないので、先に録ったもの勝ちになっているところはありますが(笑)。
でも、一緒に収録できずにいても、良い作品になっていると感じます。
榎木さんとの掛け合いで感じた空気感
——本作には石川界人さん、逢坂良太さん、柿原徹也さんも出演されていますが、彼らが演じるキャラクターとの掛け合いはいかがでしたか?
三木:それが、一緒に収録することがあまりなかったんです。ただ、少し不安だったことと、自分の役はみんなの先輩的な立ち位置だからバランスを取らなきゃいけないと思い、実は第1話の全員分の音声が入った映像をいただきました。
それぞれのキャラクターが個性的に成り立って生きていたので、面白くなりそうだなと思いました。作品が違ったら戦隊もののような人物の棲み分けがきちんとできているような印象です。
——「少し不安だった」というのは、何か気になるところがあったからなのでしょうか。
三木:自分がとにかく落ち着きたいという気持ちがありました。別録りでみんながどういうお芝居をしているのか分からなかったので、みんなの声を聞いていたら「きっと彼だったらこういうセリフがこういう言い回しになるのかな」と想像しやすいんです。
そこに対して無責任にセリフを言いたくない気持ちがありましたし、収録現場にいない相手のセリフを想像できるようにしたかったので、資料としていただきました。
フィクションとはいえ、その世界ではちゃんと生きている人たちなので、おいそれとマイク前でただ喋ればいいわけではありませんし、やっぱりいただいた役の血と肉が乗ったものが口から出ないといけないので、どの役においてもプレッシャーみたいなものはあります。
——収録についてもお伺いしたいのですが、基本的に収録はお一人だったのでしょうか。
三木:僕の場合は、宮澄 建が白鳥 尊と一緒にいることが多かったので、白鳥 尊役の榎木くんと一緒に収録するようにスタッフさんが調整してくださいました。
——榎木さん演じる白鳥 尊との掛け合いはいかがでしたか?
三木:ちゃんとセリフのやり取りになっているなと。たとえば、「ボールド」といって、どのキャラクターが今喋っているのかが分かる表示が画面に出るんですけど、そのタイミングで喋らなかったんです。
お互いに気持ちで喋っているからこそズレてしまうことがありましたが、それはきちんと相手の言葉を聞いているからこそ起きてしまうので。そういう意味ではきちんと会話が成立しているんじゃないかなと思います。
最初の収録の時から、榎木くんの尊を成立させようと“こうしたい”という気持ちは空気感から察していました。
——やっぱり現場で感じるものや、相手がいるからこそのお芝居は大事なのですね。
三木:お芝居は相手がいることで成立するものですし、家で考えたことをゴリゴリで固めても現場で言われたことに対応できなければ意味がないと言いますか。やっぱりそこはストレッチ素材でなくてはいけないなと。現場のやり取りで初めて生まれるものはあると思うんです。
また、せっかく2人で一緒に収録できるように調整してくださっていますし、スタッフさんも今までに比べてすごく大変な作業をされていると思います。
そんな中で、自分のワガママだけで凝り固まったお芝居よりも、現場で生まれたもののほうが絶対に良い。柔軟さというと人によっては“いい加減”と捉えられることもありますが、“良い加減”という意味ですから、その“良い加減さ”を僕は持っていたいです。
それこそ、建と尊はダブルスで1つのシャトルを追っかけていく仲間なので、お芝居においても信頼関係がないと1話の収録から成り立たないと思います。たぶん、視聴者の皆様にもそういうところは筒抜けになってしまうんじゃないかなと。
正直、ダメなお芝居だったら音でカバーすればいいというケースもあります。テレビドラマや映画でも、後ろに流れている音楽に助けられているシーンがあるように、声のお仕事も同じで。
逆に言えば、僕たちがちゃんとすることでいろいろな人の作業が減るんです。そういう意味でも、僕らはちゃんとしなくてはいけないと思っています。
——ちなみに、榎木さんとペアを組む役として共演されることは初めてですか?
三木:もしかしたら初めてかもしれません。忘れていたら申し訳ない。加齢により特技の物忘れに拍車がかかりまして、僕の特技は物忘れになってしまって(笑)。
一同:(笑)。
三木:記憶ではここまで絡んだことはないので、今回ペアを組めてすごく面白かったです。こういう風に尊としてセリフを出してくるんだなと新鮮でもありました。
尊は声を張るような喋り方をする役ではありませんが、尊の内面にすごく触れたシーンでは遠慮なく声を出してくるところが、失礼な言い方になるかもしれませんけど好感が持てるなと。自分を見せようとしていないところに、ちゃんと(役と)向き合っているんだなと感じました。
——“自分”ではなく“役”と向き合っていると。
三木:はい。“自分”を見せたいんじゃなくて“お芝居”がしたい人なんだなと。あくまで自分が感じたことですので当の本人は違うかもしれませんが……もしかしたらそれが彼の手で、自分がまんまと術中にハマっているのかもしれません(笑)。