
アクションを考える時のキーワードは「攻略」「再現性」「制限」──スーツアクター、アクション監督として活躍する藤田慧さんインタビュー【スーツアクターという仕事 アクション監督編:連載 第5回】
影響を受けたアクション監督、ミュージックビデオやアニメ
──他のアクション監督から影響を受けることはありますか?
藤田:僕はただアクション映画ファンだから、影響を受けることはありますよ。最近だと『HiGH&LOW』の大内さん(大内貴仁さん)や『キングダム』とか『BLEACH』の下村さん(下村勇二さん)に影響を受けています。
歳が近い⽅だと『るろうに剣⼼』などでご⼀緒した川本耕史さん。撮影現場でのリーダーとしての立ち振る舞いをすごく尊敬しています。
──先程MVの話が出ましたが、他ジャンルの作品から影響されることはありますか?
藤田: MVがめっちゃ好きで。サカナクションさんとかAimerさんとか。1曲リピートが多いのでAimerさんの「残響散歌」、ReoNaさんの「ないない」は無限リピートしています。「残響散歌」のMVは荒船泰廣さんという方が監督をしていて、CG合成に長けた方で尊敬している人です。
影響を受けている作品だとサカナクションさんの 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』、『さよならはエモーション』やゲスの極み乙女さんの『人生の針』とかですね。MVは印象に残るんですよ。
アニメで言うと、僕は『呪術廻戦』とか『進撃の巨人』がすごく好きです。家で使っているマグカップも『進撃の巨人』です(笑)。
役に徹するアクション、自分を残すアクション
──アクション監督としてスーツアクターを選ぶのも大変だと聞きます。
藤田:『仮面ライダーギーツ』でアクション監督をやることになった時に、主役のスーツアクターを誰にしようか、かなり悩んだんです。
いろんなところで言ってはいるんですが、「ギーツ」を中田(中田裕士さん)にしたのは僕がごねて押し通しました(笑)。アクション監督の身分は高くないかもしれないけれど、アクションのことはわかっているので。
──中田さんが演じる「ギーツ」は劇中でもとてもカッコいいアクションをしていましたよね。 中田さんにこだわった理由はなんだったのでしょうか?
藤田:中田はめちゃくちゃ偉いんです。貰った役のために自分を殺せるんですよ。僕は自分を残さないと次の仕事がないタイプだったから、自分を出しちゃうことがあるんです。
──自分を残すとは?
藤田:例えば無駄なアクロバットを入れちゃうとか(笑)。爪痕を残さなくていいこともあるんですが、残さないと不安になることがあるんです。中田にはそれがないんです。
中田は比較的、カメラ前に自然に立てる人なので、『浮世英寿』という役に合ってるんじゃないかなと思ったんです。アクションに対してとてもストイックで、派手なアクロバットから流行りのインファイトスタイルまで練習してくるので、僕は撮っていて楽しいんですよね。
昔、中田に戦隊の現場で「その役でそれやります?」って言われたことがあって。それは役に合っていないってことなんですよね。そこが面白いと思ったんです。
1号ライダーに決まると「抜擢」ってよく言われますけど、僕からすると「抜擢」って上からじゃなくて「お願い」って感じなんですよね。
能力者バトルを「攻略」する面白さ
──台本を読んで、どうやってアクションシーンを考えていくのでしょうか?
藤田:締切があるので毎回、捻り出しています(笑)。究極的な話「変身しました。勝ちました」しか台本に書いてないわけじゃないですか。ここ20年くらいの作品は、基本的に変身したら能力者バトルになるんです。
さっきもアニメだと『呪術廻戦』とか『進撃の巨人』がすごく好きと言ったんですが、
この作品が素晴らしいなと思っているのが、能力が作品に直結しているところです。
本当はシナリオにも仮面ライダーのフォームが乗っかったほうがいいと思っているんです。例えば、主役2人が喫茶店で喧嘩するとして、「お前、いつも透明になって戦ってるばっかじゃねぇか」って会話をしていても良いと思うんです。でも、それはないじゃないですか。ドラマとアクションが分離しているんです。
僕はその分離を極力なくしたいんです。アクションの中にもドラマがあったほうがいいと思うんです。能力が発動したことによって生まれる台詞の掛け合いがあってもいい気がしているんです。
──「力が強い」だけではない能力による戦いの面白さはありますよね。
藤田:アクションを作る時に、いつもキーワードにしているのが「攻略」です。敵が強い能力を持っていて、腕が伸びるとか時間を操作できる能力を持っているとして、それをいかに攻略するか。必殺技を撃って終わりだと寂しいので。
攻略するためには弱点が必要だなと思っています。強い敵に対して、さらに強い力で上回るのではなく、強い敵にどこか隙があるほうが面白いと思っていて。能力者バトルの目指すところはそこなのかなと思っています。
ただそれを⽬指していくと尺が伸びてしまいます。説明台詞を⼊れてしまうと楽なのですが、それはちょっとダサいので。能⼒者のバトルをどうお洒落に⾒せていくかを常に考えています。子供向け番組として、印象に残る決め絵は入れたいと思っています。いかにワクワクさせるか、起承転結を意識して作っています。
──そのワクワクが毎週の楽しみになっていますよね。作品を作る上で、どのような想いがあるのでしょうか?
藤田:この仕事をやっている時に考えているのは、毎週日曜に放映される番組だから、学⽣の⽅でも社会⼈の⽅でも毎週見てくれている人が週末までの糧になって、「日曜日に仮面ライダーがあるから、週末まで頑張ろう!」って思ってもらえたらいいなと思っています。
僕らの仕事は有事が起きた時には無くなる仕事だから、そういう仕事をやっている以上は誰かに何かを届けないと意味がないと思っていて。放送される作品を糧に頑張れる人を1人でも2人でも増やしていきたいと思っています。
──ご自身が演出・考案したアクションで、「これは思い通り、狙い通りになった!」と思うシーンを教えて下さい。
藤田:手応えがあるアクションは1つもないです。なぜなら自分の中では100点を出したことがないからです。
でも楽しかったと言えるのは、去年の映画『仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦』の冒頭のアクションシーンです。ガッチャード勢とギーツ勢が出会うシーンは、台本だと1、2行しか書かれていないんです。
この映画のアクション監督をやらせていただくとなった時に、ガッチャードとギーツ両方立たないといけないよねという思いがあって。
お客さんにとってギーツを半年ぶりに見るわけだから、「そうそう、これこれ!ギーツは!」って胸をキュンキュンさせたいのと、ガッチャードとギーツが出会って初めて生まれるセッションは何かなと考えてつくったシーンです。自分としては目指すものに近いシーンになったと思っています。
CGと実写で追求するのは「シームレス」
──藤田さんがアクション監督を務める作品では、新しい演出を積極的に取り入れている印象があります。アクションとCGのエフェクトの見せ方など意識されている部分はありますか?
藤田:CGと実写は極力シームレスに繋げたいなと思っています。合成が好きな人と嫌いな人がいると思うんですが、嫌いな人からすると合成のCGバトルになると「あーはいはい。そういう時間ね」って見なくなっちゃうイメージがあるんです。その気持ちは僕もわかるタイプなので。
合成なら20mくらいひとっ飛びでいけるのに、実写だとパンチを避けるのにも必死みたいなのは僕も嫌なんです。そこに融合が生まれればいいなと思っています。
──放送中の『仮面ライダーガヴ』では、アクションシーンに文字のエフェクトが出る演出も話題ですよね。
藤田:文字エフェクトを考えたのは確か僕です。杉原輝昭監督やプロデューサーと番組を立ち上げる時に事前に話をしていて、その中でいろんな演出のアイデアを出しました。杉原監督はアイデアのデパートすぎて、無限にアイデアが出るんです(笑)。
監督の仕事や演出に興味があったけど、二人を前にしたら太刀打ちできないくらい視野が広いし、高い。子供番組ってお菓子一辺倒だと良くないから、食育にもなるような要素を考えた時に”音”があると面白いのかなと思ったんです。
音が字面として見えるのはどうだろうと思って提案して採用になっています。そこから杉原監督やデザイナーの田島さん(田嶋 秀樹さん)に助けてもらいながら演出していますね。
──今は劇場や配信作品など様々な媒体で、作品公開がありますが媒体によって演出を変えたりしますか?
藤田:映画だと画面が大きいので人物の寄りや引きのサイズ感は考えますね。作品自体が初見という人が多く見る時は、説明を多くしたりします。逆に1年間見てきてくれたファンのためなら、この説明は端折った方がカッコいいよねって演出をします。誰に向けてやっているかは意識しますね。
フィギュアやポストカードにしたくなる「再現性」
──アクション演出において、フィギュアで再現できるアクションを心がけているとのことですが、そのカットやポーズはどのように考えていくのでしょうか?
藤田:さっき「攻略」ってキーワードを出しましたが、「再現性」も意識しています。「再現性」はこの瞬間、真似したくなるよねってところです。
ジオラマで再現したり、ポストカードで再現したくなるようなシーンを差し込みたいと思っていて、意識した画作りはしています。さっき話した文字エフェクトもそうですね。一枚絵でポストカードやブロマイドにした時に、カッコいい決めのカットはいれるようにしています。
僕は自分のアクションのテンポは非常に悪いと思っているんですが、そこを度外視して、何か心に残る展開と、気持ち良さよりも喉に引っかかる展開を意識しているんです。
──キック前の溜めポーズなどもカッコいいですよね。
藤田:ポーズは今年で言えば縄田さん(縄田 雄哉さん)に「これ全国のヒーローショーで真似するからいいの考えましょう!」って言って決めたりしてます(笑)。
縄田さんはヒーローショーのキャリアがあるので助かってます。いつか歴代主役ライダーが並ぶ時に、一瞬目線が行くようにしたいなと思っています。