アクションを考える時のキーワードは「攻略」「再現性」「制限」──スーツアクター、アクション監督として活躍する藤田慧さんインタビュー【スーツアクターという仕事 アクション監督編:連載 第5回】
企画連載「スーツアクターという仕事」は、様々な特撮作品やヒーローショーで活躍するスーツアクターさん達に焦点を当て、第一線で活躍する方々にお話を伺うという企画。
前回の好評を受け実現した今回のインタビュー第2弾では、スーツアクターとしてキャリアを築き、現在はアクション監督としても活躍する方々に取材を実施しました。
今回は現在放送中の「仮面ライダーガヴ」でアクション監督を務める藤田慧さんが登場。スーツアクターのキャリアを振り返り、アクション監督として演出方法や作品への向き合い方について伺いました。
連載記事
プロフィール
■藤田慧 ふじた さとし
11月24日生まれ。身長165cm。
スーツアクターとして2009年『仮面ライダーW』でクレイドール・ドーパントを演じて以降、仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズに多数出演。2012年『仮面ライダーウィザード』仮面ライダーメイジや2019年『仮面ライダーゼロワン』仮面ライダーバルキリーなど女形スーツアクターとして活躍。2016年『仮面ライダーエグゼイド』仮面ライダーレーザーや2017年『仮面ライダービルド』仮面ライダーグリスではアクロバティックなアクションで人気ライダーを演じる。
2022年『仮面ライダーギーツ』でアクション監督に起用される。現在放送中の『仮面ライダーガヴ』ではアクション監督として活躍中。
若手からベテランまで、俳優との二人三脚の役作り
──この世界に入ったきっかけと、幼少期に好きだった特撮ヒーローについて教えてください。
藤田慧さん(以下、藤田):上⼾彩さんの『あずみ』と、『仮⾯ライダー⿓騎』を中学⽣の頃に⾒て「⾝体でこんな表現をする世界があるのか!」とアクションというものに興味を持ったことがきっかけです。
⼦供の頃、世代で⾒ていた戦隊は『恐⻯戦隊ジュウレンジャー』ですね。
──小さい頃から体を動かすのは好きだったんですか?
藤田:体を動かすことは好きでしたね。中学の3年間は野球部で、高校の3年間は陸上部でした。家系は文化系なので、よくやったほうだなと自分では思います(笑)。
──スーツアクターとして演じたキャラで、転機になったキャラクターはいますか?
藤田:転機ではないのですが、⼈からは『仮⾯ライダービルド』の「仮⾯ライダーグリス」は良かったねってよく⾔われます。あれは役得だったと思います。武⽥航平さんのお芝居もとても素敵でしたし。
最近スーツアクターをやった『仮⾯ライダーリバイス』の「ギフデモス(⾚⽯)」では、変⾝前を演じられる橋本じゅんさんと、役に対しての考え⽅など沢⼭お話しさせていただきました。
その時に『仮⾯ライダーリバイス』という作品の中での⾃分の「悪」役としての⽴場・⽴ち位置を踏まえて考えていらしゃった姿に感銘を受けました。すごく勉強になり、良い半年でした。
『仮⾯ライダーセイバー』では「仮⾯ライダー剣斬」の変⾝前の俳優の冨樫慧⼠くんがめっちゃいい⼦でした。俳優として「アクションの練習をしたいんです!」と申し出てくれて、アクション監督と先⽅の事務所に確認をして空き時間にアクションの練習をしていました。
その時に「こういう⾵に伝えると伝わるんだ!」と勉強になりました。「仮⾯ライダー剣斬」を冨樫君と⼆⼈三脚でやってこられたと感じた⼀年でした。
──『仮面ライダーゼロワン』では、女性ライダーの「仮面ライダーバルキリー」やイズの「仮面ライダーゼロツー」を演じられていましたね。
藤田:久しぶりに⼥性のキャラクターを演じました。「仮⾯ライダーバルキリー」も「仮⾯ライダーゼロツー」も⾒た⽬だけでは⼥性キャラクターとわからないデザインだったので⾃分の中では表現の仕⽅や演じ⽅を悩みました。
良かったと⾔ってくれる⼈も多いですが、⾃分の中ではもっとこうすれば良かったという事や、役への向き合い⽅の⽢さや⾜りなさを感じていました。苦しい時期でした。⽇々精進ということで。
『仮⾯ライダーゼロワン』では、アクション監督が渡辺淳さんに変わり、淳さんを⼿伝う、というスタンスが⽣まれた年でもありました。アクションを作る勉強をさせてもらいました。そういう意味で⾔うと”転機”の⼀つかもしれませんね。
──今後、スーツアクターとして参加はされないのでしょうか?
藤田:⾃分が演じるのも好きなのですが、どの瞬間が⼀番幸せかと⾔われると、「⾃分がやっている役に深みが出たな!」とか、「役としていい表現ができたな!」と感じた時です。
スーツアクターはやり甲斐はありますが、「役としての表現の裁量」って演出に回る⽅が増えたんです。この役をもっと輝かせたいと思った時に⾃分が演じるよりも演出する側にまわった⽅が自分の振るえる裁量があると感じたので、⾃分の⼈⽣で今はそっちの時期だと思っています。
身長165cmながらも、メインキャラクターで輝く実績
──アクション監督になるきっかけはあったのですか?
藤田:『ゼロワン』の時に淳さんのアクション監督の⼿伝いを始めたことがきっかけです。結果的に淳さんが3 年で僕をアクション監督に育てたわけですから凄いですよね。アクション監督になる決まったシステムというものはなくて、僕はアクション演出に興味があったので淳さんに相談しました。そこからV コンテの整理などをはじめ、⾊んな勉強をし始めました。それが『ゼロワン』や『セイバー』の時期ですね。
──以前から興味があったのですか?
藤田:昔から監督側には興味があり勉強はしていたのですが、渡辺淳さんの元でアクション補佐の仕事をして編集ポイントなどを本格的に勉強しました。実際に残る映像で勉強できたのはすごく有り難かったです。
⾃分では意識してなかったのですが思い返せば10代の頃から⾳楽のMVが好きで、⾳楽を聴いているときに脳内でカットを割ってMV を作ってたんですよ。今やっている仕事は⾃分に向いている仕事なんだろうとは思います。
──アクション監督補佐の仕事が活きているんですね。
藤田:初めて出会ったアクション監督の宮崎さん(宮崎 剛さん)から「背が低いやつは(スーツアクター)大変だぞ」って言われていて。
宮崎さんから「背が低いやつが生き残っていくのはかなり少ないから、身の振り方は考えた方がいい。それは早い方がいいよ」って1、2年目くらいの頃から言われていたんです。そんな宮崎さんから結果的に3号ライダーの「グリス」をやらせて貰えたのは大きかったです。
身長165cmの人が、メインの仮面ライダーを張れるのはまずないんです。身長170cm以下の男性でちゃんと一角として活躍している人ってほぼいないので。
後進に何か残せたとしたら、身長165cmでもメインライダーを張れたって実績を残したことくらいかなと思っています。それが前例になったとしたら、実績としては僕はもうそれで十分です。
それは女形のスーツアクターとしての出世でもあるし、男性の仮面ライダーとしても「グリス」、「レーザー」、「剣斬」としてもメインを張れたって思っています。
10代の頃からそういった環境だったので、どこかでアクション監督を意識せざるを得ない環境にはいたのかもしれないですね。
──身長や体格が影響される世界ですよね。
藤田:狭い世界なので、身長ひとつとっても厳しいです。アクション監督の立場から、アクションや芝居がうまくても、身長などで様にならないと、キャスティングさせてもらいにくいことはあるんです。
そのくらい見た目というのはとても重要なんです。身長も才能、足の長さも才能。でも、それだけがあればいいってことでもないんですね。僕は待っていても仕事が来るタイプではなかったので自分で取っていかなければなかったですね。