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『正反対な君と僕』平と東について考える

【ついに完結!】『正反対な君と僕』平と東について考える──「どうせ俺なんて」な自己肯定感の低い男子と「まあいっか」で幸せな恋愛ができない女子は高校でどう変わっていった?

マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で先日完結を迎えた阿賀沢紅茶先生の漫画『正反対な君と僕』。正反対な性格の主人公カップルとその友人たちの高校生活が描かれたラブコメで、テンポの良い会話劇やキャラクター同士の丁寧なコミュニケーションが魅力の作品です。

2022年5月より連載が始まり、様々なマンガ賞に選出されてきた本作ですが、先日11月25日についに完結。さらにアニメ化も決定し、話題になりました。最終話では、主人公カップルの谷悠介の視点で第1話の物語が描かれる演出に大きな反響が集まり、SNSには多くのファンが「完璧な最終話」とその感想を投稿していました。

その一方で、未だ両想いとなっていない平秀司(たいらしゅうじ)と東紫乃(あずましの)がこの先どうなっていくのか気になる! という声も多数見られました。彼らは中学時代の人間関係があまり良いものではなく、それによるコンプレックスを抱えて高校に入学してきます。

それから3年後、高校の卒業式では「高校が楽しかった」と2人だけでこっそり涙を流すまでに。彼らにとって高校は自分をコンプレックスから解放してくれた場所となったのです。根深かったコンプレックスの呪縛から、2人はどのように解放されていったのでしょうか。

本稿では、彼らがなぜコンプレックスを克服できたのかを考えてみたいと思います。さらに、平と東(愛称:タイラズマ)の距離が縮まったターニングポイントを振り返りつつ、彼らの今後を少し妄想してみました。

※本稿にはネタバレが含まれます。

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平と東について

 
まずは、平と東について触れていきます。実は彼らは地元が同じで、同じ中学出身です。しかし、中学時代はお互いのことを認識してはいたものの、関わることはなかったようで、お互いがどんな中学生活を過ごしていたのかはほとんど知りません。

高校に進学してから同じクラスになり、特に2年のクラスではグループでいっしょに遊ぶようになったため関わりが増えていきます。

自己肯定感の低さに苦しむ平秀司

平は自己肯定感が極端に低い男子で、自分自身の考えや評価に自信が持てないためいつも他人からの評価が気になって仕方ありません。

明るいギャルな鈴木と真面目で大人しい谷が付き合い始めたとを聞いた時も、「鈴木は“谷で”いいのか?」と、他人事ながら周囲からの目を気にしています。

本当は優しく良い子なのに自分に全く自信がないため、自分の発言や行動のひとつひとつが周りにどう思われているか不安になってしまい、その日の言動を夜寝る時に振り返って一人反省会をしてしまうことも少なくありません。

平の根底にあるのは「どうせ俺なんて」という考え。彼は他人からの好意も素直に受け取ることができず、いつも卑屈に物事を捉えてしまう捻くれ者なのです。

原因は中学時代の嫌な経験

平がそんな卑屈な性格になったのは、中学時代の嫌な経験が原因。詳細は描写されていませんが、どうやら平は小学校から中学校にかけて、何もしていないのに同級生から心ない言葉を言われたり、ヒソヒソ話で嘲笑されたりしており、そんな環境が彼の自信や自己肯定感を奪っていったのです。

高校になって、自分を馬鹿にしていた同級生たちと離れたことで悪環境から解放された平でしたが、小・中学校での経験がトラウマのようになってしまっていることもあり、一度失ってしまった自信はそう簡単に戻ってきません。

人から雑に扱われることを許してしまう東紫乃

一方、東は大人びた容姿と雰囲気の女子です。中学時代に同級生から蔑まれるようなことはなかったものの、その男好きする容姿から女友達に恋愛事で利用されることが多かったよう。

また、一度は付き合ったはずの男性からもなあなあで関係を終わらせられたり、かと思うと謝罪もなしに突然連絡を寄越されたりと何かと雑に扱われてしまっています。東はそんな扱いを何となく嫌だとは思いつつも、優しく寛容すぎる性格から「まあいっか」で済ませてしまい、ちゃんと怒ることができません。

しかし、心にもやもやは溜まる一方で、いつしか女友達と仲良くなり過ぎないようにする癖がついてしまった東。高校に入ってからも数人とは1対1で仲良くしていても、グループには属さない立ち位置をキープしていました。

幸せな恋愛ができない

大人っぽく美人な東は、男性に言い寄られることも多いようですが、なかなか幸せな恋愛に巡り合えません。第一印象で惹かれる男性はみんな良くない男性ばかり。詳しいことは語られないものの、そのスレた言動からも今までの恋愛が痛ましいものだったことがうかがえます。

「誠実な男から旨味を感じられないんだよね」と自分の経歴を口では憂いているものの、同級生にない経験をしている自分を完全に悪いものだとは思っていないようにも筆者は感じています。それは自分を肯定したいという思いによるものかもしれませんが、自分の悲惨な恋愛経験を語る東が、それらを少し良いもののように思っている感じも否定できません。本当に嫌だと思っているなら友達に話すことすらしないでしょう。

とはいえ高校生らしいピュアな恋をしてみたいと思っているのもきっと本心。結論から言うと、彼女は高校生らしい恋を経験することになるのですが、それはもう少し後のお話です。

コンプレックスの呪縛からどのように解放されていった?

では、2人がどのようにコンプレックスから脱却していったのでしょうか。中学までの嫌な経験によって2人の心に根深くはびこる問題は、高校の友達とのコミュニケーションで少しずつほどけていきます。

そのままの自分が愛される居場所を得た平

強い劣等感から捻くれた性格となってしまった平ですが、本当はとても優しい人柄。修学旅行でバス酔いしてしまった谷に、車酔いに効く飲み物を調べて買ってあげたり、クリスマス当日のバイト終わりに遊びに来てくれた友達にクリスマスケーキを自腹で買い「廃棄でもらった」と言ってご馳走したりとその行動はとても紳士的です。

中学時代はそんな人柄をちゃんと見てくれる人がいなかったためか、同級生たちから理不尽に蔑まれていたものの、高校では優しい人柄をきちんと見てくれる友人に恵まれます。

それでも当初は同級生たちから対等に受け入れられていることを信じることができず、心の隅でダサい自分を知られてガッカリされたときに傷つかないよう予防線を張っていました。しかし、友達が「平がいた方が楽しいから」と自分が働いているときを狙って来店したり、遊びに行くメンバーに当たり前に自分が含まれていたりといった些細なことで少しずつ自分の居場所を信じられるように。

ついに高校3年の卒業間際で、自分が居場所を求めていたこととそのままの自分を受け入れてくれる居場所を手に入れていたことに気付き、「疑う癖を手放すだけで良かったんだ」とはっきりと自覚します。

平は、自分の居場所があると自覚し少し自信を取り戻したことで、長く心に蔓延っていたコンプレックスから脱却できたのです。

恋愛に支配されない人間関係を知った東

平のようにわかりやすいコンプレックスがあるわけではない東。なんでも許容してしまう彼女は、初めは自分が雑な扱いをされていることに気付きながらもあまり気に留めていませんでした。

そんな彼女に転機が訪れたのは第24話でのこと。修学旅行の班決めをきっかけに、東は人見知りでもない自分がなぜ友達と一定の距離を取ってしまうのかを考えます。すると、中学時代、同級生から友達という名のもとで恋愛事に利用されていた記憶が蘇り、「利用されることとそれに気づきながらも流されている自分」が嫌だったことに気付きます。

恋愛に関心が強くなる中学生にはありがちではありますが、、東の周りは特に恋愛を重視する同級生が多かったのかもしれません。しかし、今はそんな中学の同級生とは離れた高校にいる東。利用されることを怖がる必要は全くありません。

そのことに思い至った東は、今まで少し距離のあった友達・渡辺と佐藤といっしょに放課後買い物へ出かけ、一歩踏み込んだ仲に。不安要素がなくなった東は、これ以降、心から友達との時間を楽しめるようになります。

また、高校では男子との関係も変化。東は今まで男子とは恋愛ありきで仲良くなってきており、彼女自身もそれが普通だと思っていました。しかし、高校で出会った男子たちは東をいい意味で女扱いせずに純粋な友達として接する子ばかり。

それにより、東は男子と「ちゃんと友達」である関係の心地よさを知り、この関係を大切にしたいと思うようになります。恋愛に支配されない人間関係が東の抱える心の問題を解決していったのでした。

<次ページ:平と東のこれまでを振り返り!>
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