
「初音ミク」は人じゃないからこそ、人に寄り添える。『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』連載インタビュー|ボカロP・40mPさん×sasakure.UKさんが語る世代を超えたボカロ音楽と文化
アプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(『プロセカ』)』が、待望のアニメ映画化! 『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』が、2025年1月17日(金)より公開中です。
劇場版の公開を記念して、アニメイトタイムズではボカロP・スタッフインタビューを実施しました。本稿では、本作のオープニング主題歌を手掛けた40mPさんとsasakure.UKさんが登場です。
ボカロPとしての活動歴が長いお二人ですが、意外にも今回が初タッグ。オープニング主題歌『はじまりの未来』に込めた想い、制作秘話をたっぷりと語っていただきました。
そしてお二人が語る、バーチャル・シンガー「初音ミク」が世代を超えて愛される「ほかにない」理由とは。
意外と初タッグ! 「40mP×sasakure.UK」
――お二人は、普段からお互いの楽曲を聴かれるのですか?
sasakure.UKさん(以下、sasakure.UK):聴きますね! 40mさんの新曲がリリースされた際、ランキングやおすすめ動画に出てきたりするので、「あ、40mさんの新曲だ」と、よく聴かせていただいています。
個人的に、『トリノコシティ』がとても好きで、僕のバンドの「有形ランペイジ」でカバーさせていただいたこともあって。大好きすぎて、『プロセカ』でも『トリノコシティ』をよくプレイしています(笑)。
40mPさん(以下、40mP):ありがとうございます(笑)。僕もsasakureさんの楽曲を普段から聴かせていただいていますよ! 自分が活動をはじめたころ、すでにsasakureさんはボカロシーンで活躍されていました。ボカロだからこそできる表現やサウンドをたくさん作品に取り入れられていて、自分もそこからたくさん勉強させてもらってます。
――となると、今回のコラボの前から親交があったり?
40mP:sasakureさんとは、頻繁にお話ししたことはなかったのですが、イベントや即売会などでお会いする機会があったり、DECO*27さんとsasakureさんの『39』という曲でピアノを弾かせていただいたこともありました。
このような形で関わらせていただいてきましたが、今回のようにがっつりと、腰を据えて合作で制作するのは初めてですね。
――ボカロシーンの第一線で活躍するお二人の、実質的な初タッグ作品なのですね。
sasakure.UK:そうですね。イベントで隣同士のスペースのサークルになったり、何かとお話する機会はあったけど……。
40mP:意外と合作はなかったんですよね。
――ちなみに、お互いをどのように呼び合っているのですか?
40mP:僕は「sasakureさん」ですね。……そういえば、sasakureさんって、このほかだとどのように呼ばれているんですか?
sasakure.UK:うーん……たまに「UKさん」とかですかね。でも「sasakureさん」が一番多いんじゃないかなぁ。僕は「40mさん」ですね。
40mP:制作中も「sasakureさん」「40mさん」で進んでいましたね。
もっと『プロセカ』を好きになれる作品ではないかなと
――それでは、本作のシナリオを読んだ感想からお聞かせください。
sasakure.UK:もっと『プロセカ』を好きになれる作品だと思いました。ミクが「歌えない」という設定が焦点になっていますが、自分の想いや願いが届かない苦悩は僕も経験があるので、自分のことのように思いながら、感情移入して読ませていただきました。
40mP:sasakureさんがおっしゃる通り、『プロセカ』の魅力が詰まった作品になっていると思います。各ユニットの特色がそれぞれの音楽として表現されていますし、それが「閉ざされた窓のセカイの初音ミク」を救うきっかけになっていて。『プロセカ』ならではのストーリーや問題解決の仕方が描かれているのが素敵だなと思います。
「初音ミク」はミク自身の自我がないからこそ、クリエイターが表現したいものを歌ってくれる代弁者としての魅力があると思っているのですが、今回の劇場版ではミク自身が伝えたいことがあるのに、それを歌えない、届けられないという問題を抱えている……。これは、これまで自分が思い描いていたミク像とは違ったポイントで、ある種の成長のようにも思えました。
ただ、その「届けられない」という問題に対してキャラクターたちが協力して、音楽の力で解決していく展開がボカロらしいし、『プロセカ』らしいなと。どちらの魅力も詰まっている作品だと思います。
――まさに「音楽の力」を届け続けるお二人ですが、クリエイターとして楽曲制作時に意識していることは何ですか?
sasakure.UK:たくさんの人に聴いてもらうことも大切ですが、僕にとっての大切な人に聴いてもらって、喜んでもらえることを大事にしています。
今回制作した「はじまりの未来」では、バーチャル・シンガーのミクという存在を大切に考えながら作りました。人間ではない存在が歌う楽曲だからこそ、その背景や世界観をしっかりと意識して制作しています。
40mP:楽曲を聴く人が置かれている状況や環境も大事な要素のひとつで、そのときに抱えている悩みだったり、楽しい気持ちだったり……これらも音楽と深くリンクすると考えています。
そうした印象を強く残せる音楽を作りたいという思いが常にあります。今回も「はじまりを彩る」というテーマのもと、新しいストーリーが始まる中で、聴いた人たちの思い出に残るようなメロディや言葉を意識して制作しました。
――オープニング主題歌を担当されることが決まった際のお気持ちをお聞かせください。
40mP:最初のオファーの段階から、光栄だなと思うポイントが2つも揃っていました。
『プロセカ』の劇場版オープニングという大事な場面の楽曲を任せていただけることと、僕がボカロPを始めた頃から活躍されていて、たくさん影響を受けたsasakureさんとのコラボであることがすでに決まっていたんです。とても嬉しかったですね。同時に恐縮する気持ちもありましたが……(笑)。
コラボの仕方についても、最初に2人で話し合いました。その結果、僕が今まで経験したことがないやり方での制作が決まって。
――経験したことがないやり方?
40mP:作詞・作曲・編曲のクレジットすべてに僕たちの名前が並んでいると思うのですが、通常のコラボでは、作詞・作曲を分担して、編曲もそれぞれの得意な楽器で分けることが多いと思います。なので今回のように、作詞も作曲も2人で取り組んで、編曲も気になった箇所をそれぞれが自由に担当する形は珍しいかなと。
今となっては、どのフレーズを誰が担当したのかが分からないくらい、密なやり取りで制作が進められました。
sasakure.UK:発案は僕だったのですが、実は僕もあんまりやったことのない方法だったんですよね(笑)。
40mP:ご提案いただいた時はビックリしましたね(笑)。最初はイメージが湧かなかったので、とりあえず思いつくままにフレーズを出して、sasakureさんに聴いてもらうことから始めました。
sasakure.UK:そうそう。10個くらいのメロディフレーズが届きましたね。その膨大なデモを僕が調理して、ワンフレーズデモのような形にして40mさんにお返しして、それを組み立ててはまた送り返して……。交換日記のような形式でやり取りしていました。
――作詞・作曲を分けずに一緒に作ろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
sasakure.UK:きっかけとしては、活動期間も同じくらい長くて、イベントやライブでご一緒したりしていたものの、40mさんと一緒に作品について考える機会はなかったんですよね。だから一度がっつりと、作品を一緒に作ってみたかった。それによって、アーティストとして「何を大切にしているのか」のようなことが知れたら良いなぁ、という個人的な興味もありました。
40mP:たしかに、人柄がわかる制作でしたね(笑)。
sasakure.UK:そうでしたよね(笑)。本当に密にコミュニケーションを取りながらの制作になって。
40mP:わかりやすく(作詞・作曲・編曲を)棲み分けすると往復する回数は少なくて済むので、言ってしまえば相手のことがわからなくても制作は進むんです。僕が作詞だけを担当する場合もあるのですが、作曲者さんと綿密な打ち合わせをせずに進められることもあったり……。でも、今回はそういうわけにはいかないので(笑)。
sasakureさんが出してくれたフレーズに対して自分の意見を付け加えてお戻しすることもあったし、もちろんその逆もありました。sasakureさんが何を考えていたのかを考えつつ、自分の考えもしっかりと表現しなければならない。コミュニケーションがとても大事な制作でした。
sasakure.UK:終わってみて思うのは、ボカロPとしての活動歴が近い40mさんだからこそできた方法だったなと。ボーカルの響きや歌詞の細かい表現など、気にするポイントがとても近かったんです。
おそらくですが、僕が提案した意図を40mさんが理解して汲んでくれていたのだと思います。お互いの良いところを伸ばしながらアレンジする形で進めることができて、推敲しながら作曲しているような感覚でしたね。
――細かなニュアンスの部分も、お互いに理解し合いながらの制作だったと。
40mP:そうですね。自分の経験から理解できることもありましたし、仮にわからなかったとしても、「sasakureさんが気にしている」だろうという雰囲気はわかる、のようなこともありました。
sasakure.UK:(笑)。ずっと40mさんのことを考えながら作ってました。