
“スパイアクション”の枠を超えた、優しさと共感――『アマチュア』日本語吹替版 チャーリー役・中井和哉さんインタビュー|玄田哲章さんに励ましてもらえるのは“吹替版の特権”!?
“共感できるスパイ”をどう表現したのか
ーーラミ・マレックさんの日本語吹替を担当されるのは、本作で3度目ということになりますよね。
中井:(ラミ・マレックさんが)とても達者な役者さんなのは間違いないです。僕がこれまで担当してきた彼の役は、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』での日常から飛躍したようなヴィランや、『オッペンハイマー』での公聴会シーンという特殊なシチュエーションでの演技。本当に幅が広いんですよ。今回は、妻を亡くしたことによる悲しみや憤りといった“より日常に近い”役柄だと感じました。
芝居としては、「ここを強調すればいい」という明確なポイントがなくて、掴みどころがないというか。そういった部分は、今までの彼が演じてきたキャラクターとは大きく違うところだと思います。加えて、この違いは声色などのハッキリとしたものではなく、もっと微妙な“オーラ”の違いなんです。
ーー“オーラ”の違い、ですか。
中井:言葉で説明するのは難しいんですけど、身に纏う雰囲気が変わっているんです。
セリフがないシーンでも、ただ立っているだけで伝わってくるものがある。だからこそ、「これって声を当てる側としてどう表現したらいいんだろう?」と感じる瞬間もありました。
そういう意味では、“取り組み方”もこれまでと少し変えています。以前は何度も映像を繰り返し観て、「ここはこうしよう」「ここのブレスを合わせよう」など、細かい部分を事前に書き込んでいたんです。
ただ、今回のラミさんは、映像を観ながら台本をチェックしている時の印象、本番で改めて観る印象がもう違う。それくらい微妙なニュアンスや繊細さがあるように感じられたので、事前準備はあえてシンプルにして、基本的な確認をしたうえで本番に臨みました。本番で映像を観たときに受けた印象を、そのまま照らし返すようなお芝居ができたらなと。
ーーチャーリーは専門用語をまくし立てる場面など、演じるうえで難しい部分も多そうです。
中井:そうですね。逆にセリフが少ないシーン、例えば、ため息やちょっとした呼吸だけで感情を表現する場面もあって。その両方がスイッチを切り替えるように交互に出てくるんです。その振り幅が面白い反面、苦労した部分でした。
ーー収録の中で印象的だったディレクションはありましたか?
中井:映画の冒頭のほうで、彼が気を許している相手と喋るシーンと、「ちょっと苦手だな」という人間と会話するシーンを「しっかりと演じ分けてほしい」という指示がありました。チャーリーが周りの影響を受けてしまう“普通の人”であるということを明確にするのは、作品全体としても重要だったと思います。
ーーお話いただいたような中井さんの繊細なお芝居を堪能できる吹替版となっていますが、ご自身で振り返ってみて、手ごたえを感じた部分は?
中井:ないですよ!(笑) 僕自身は自分の芝居を振り返ると、真っ先に反省が浮かぶタイプなんです。「もっとこういうやり方もあったんじゃないか」って。
アニメだとある程度レンジが広くて、「こう演じてもいいし、ああ演じてもいい」という自由度を感じる一方、吹替は“正解”がすごくピンポイントにある。そこに当てるのはかなり難しいんです。
ただ、今回は観終わったあと、不思議と「ダメだったな……」という気分にはなりませんでした。それは映画自体が持つ力、そしてラミさんの演技や物語の魅力だと思います。
ーー最後に、これから映画を観る方に向けてメッセージをお願いします。
中井:“スパイアクション”と聞くと「ちょっと自分には合わないかも……」と思う方もいるかもしれませんが、「良いラブストーリーないかな?」くらいの気持ちで観ても楽しめる映画だと思います。
もちろん派手な見どころはありますが、本質は人間ドラマ。“復讐劇”なのに、観終わったあとで「温かい気持ちになる」という珍しい作品です。普段アニメしか観ない方にとっても、実写映画ならではの世界観を味わっていただけるはずです。
「観終わって嫌な気分にならない」ということだけは保証します(笑)。
[インタビュー/失野 撮影・編集/小川いなり]




































