
積み重ねてきた「鬼滅の刃」と冨岡義勇への思い――『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』 冨岡義勇役・櫻井孝宏さんインタビュー
炭治郎の成長と、義勇の解放
ーーあらためて冨岡義勇という人物の印象をお聞かせいただけますと幸いです。
櫻井:彼は言葉数は少ないのですが、心の声でリアクションしています。その心の声をできるだけバリエーション豊かにしたくて、これまでよりも表現の幅を広げてみようと考えてました。
ーー義勇は孤独な一面が印象的に描かれるキャラクターでもありますよね。
櫻井:彼は錆兎の一件以降、自分は柱にふさわしくないんだと決め込んでいた節があると思います。私は、義勇の本質を「俺は嫌われてない」というセリフに見出しています。
胡蝶の「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」、という投げかけに謝るでも怒るでもなく、「嫌われてない」と言い返す。普段は体温の低い振る舞いをしている中で、「嫌い」という発言には明らかに違う返しをしています。本来の彼の個性はこういうところにあって、錆兎と切磋琢磨していた頃の、素直な彼を感じることができる言葉なのかなと思っていました。
ーー前作「柱稽古編」では、冨岡義勇の「痛み」が描かれました。今回の「無限城編」では、演じるにあたって彼の変化などを意識した部分はありますか。
櫻井:義勇の物語が明確に見えてくるのは「柱稽古編」からでした。「柱稽古編」での炭治郎とのシーンで、自責の念に駆られていた義勇が大切な言葉を思い出して、解き放たれる。ようやく自分を取り戻したような実感を込めながら「無限城編」の収録に望んだところはあります。
「無限城編」で彼は戦闘中の猗窩座の問いかけに対し、「俺は喋るのが嫌いだから話しかけるな」と答えるのですが、話しかけてきた相手を無視しない律儀なところが義勇らしさなんだろうなと思います。「俺は嫌われてない」と根拠なく答える彼らしさに通じる部分がありますよね。そういう義勇の人となりを「クール」とか、「人見知り」といった言葉に置き換えると、どうにも違和感があって上手く彼を表現できていないように思っています。
ーー「無限城編」での炭治郎を見て、改めてどう思われますか?
櫻井:義勇は物語の幕開きで炭治郎に手を差し伸べて、ある種の救いを与えたことで、実は自分自身を救っているんですよね。
それを思うと、感慨深い気持ちになります。ふたりの縁、歩んできた時間と道のりを感じると言いますか。義勇は、炭治郎には何かしらの可能性を感じていたわけですから、やっぱり感慨深いです。
この出会いは偶然だったのか、必然だったのか。あの厳しく叱咤した少年が可能性の塊に成長するとは思ってもみなかったですよね。義勇の直感も、彼らしさの一つなのかもしれません。
ーーそんな炭治郎と義勇の共闘にも注目ですね。
櫻井:猗窩座との遭遇は、義勇にとっては初めての上弦との戦いになります。能力としての優位は柱である義勇にあるのかもしれませんが、一度対峙したアドバンテージは炭治郎にある。ふたりが背中を預けながら戦う姿は、やはりグッときますよね。
ーー櫻井さんは作品を深く読解して、ご自身の解釈を持っている印象があります。
櫻井:たしかに、そういう目線で作品を見てしまう節があります。ただ、これは私の解釈なのであって、原作の先生のお考えとは違うかもしれません。
私は元々、映画が好きで、それが高じてそういう見方をする癖がつきました。かつ、声優の仕事に携わって、もっと内側を覗いてみたくなりまして。表現する側の目線で言うと、自分のキャラクターを深く知るには、自分以外のキャラクターの理解を深めることが近道になると思っています。とはいえ、直感的に掴んでいる場合も多いので、理解というより「解釈」や「意訳」に近いですね。
ーー海外ファンも多い本作ですが、その熱は櫻井さんにも伝わっていますか?
櫻井:昨年は『鬼滅の刃』の施策で、海外にいかせていただきましたが、どこに行ってもウェルカムな雰囲気で、熱量が本当にすごい。
ファンの皆さんがコスプレで参加していたり、分かりやすく熱や愛着を表現してくれました。積極的に作品を楽しんでくれていますね。
ーー作品に参加される際に心掛けていることはありますか?
櫻井: 自分の言葉をきっかけに観てくれる人や、作品を楽しむヒントにしてくれる人がいるので、作品にまつわるコメントは意識して発信するようにしています。ただ、それが刷り込みになってしまうのは違うので。あくまで、一つの見解としてお話ししているだけですから。
原作があって、アニメ化されて、その先にやっと声優がいる。私たちは自分自身の読解と解釈で、キャラクターを表現している、という順序を大事にしたいと考えています。








































