
劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』篠原俊哉監督に聞くストーリー・映像・音楽のこだわり|「お茶会のシーンで床が斜めになっていく映像と音楽がシンクロしていて音階がちょっとずつ下がっていくんですよ」
りせと同じくらいのころはたぶん、世の中を舐めていましたね
──主人公のりせと同じくらいのころ、監督はどんな日々を過ごしていましたか?
篠原:たぶん、世の中を舐めていましたね。幼稚な怖い物知らず。僕はおもに高畑(勲)さんや宮崎(駿)さん、自分の師匠でもある出崎(統)さんの作品に感化されてアニメの世界へ飛び込んだんです。業界に入ったばかりの頃は、自分にもできるはずだという根拠のない自信に満ちていました。でも、当たり前ですが実際には全然できないわけです。アニメは些細なことの膨大な積み重ねでできているということがよく分かってきて、しかもその些細なことが何一つできてないことに気づき、右往左往してしまいました。
──華やかな世界だと思っていたけれど、実際は地道な作業や積み重ねが多かった。
篠原:華やかというより「面白いものを作る」ということに関してですね。で、そこからもがき始めて、今に至るという感じです。今ももがいてますけど(笑)。僕がりせと同じ歳の頃はスマホはありませんでしたし、情報を手に入れるツールはテレビ・新聞・本・映画が主だったんです。それもあって、りせほど自分の美意識を埋没させちゃうみたいなことはなかったと思います。
──昨今は、もしかしたら情報があふれているからこそ悩むという人がいるのかもしれない。
篠原:そうかもしれないですね。判断ができなくなる、鈍くなるというのは、結局は自分の中にちゃんとした美意識とか価値観を育み損なっているのからなのかもしれません。それが正しいかどうかは分かりませんが、仮説としてそういうものを立てて本作の物語を組んでいるところはあります。
──監督も今の社会でりせぐらいの年頃だったなら、もしかしたら色々と悩んでいるかもしれない。
篠原:絶対に悩んでいると思いますね。色々な情報を取り込むだけ取り込んで、どれが正しいのかよく分からなくなっていそうです。
自分の価値観のベースって、好きなものの積み重ねだと思うんです
──監督はこれまで自分の進む道に迷ったとき、どうやって解決してきましたか?
篠原:実は進む道に迷ったことはないんです。アニメの現場以外考えられなかっただけですが…。進み方がわからない時はよくありました。そんなある時、たまたま書店で見つけたフェデリコ・フェリーニ監督のインタビュー本を読み始めました。フェリーニは有名なイタリアの映画監督ですが、その本の中に好きなことを話す項があるんです。驚いたのはひとつひとつのディテールが細かくて、しかも延々2ページ近く並べている。好きなもの(こと)と言われて、明確なイメージを持ったものがこれだけ大量に出てくることになぜか感銘を受けました。それ以来、折に触れては好きなものを書き留めるようになりましたが、これが実は結構進み方を探す役に立っている気がしています。
──そうなんですね!
篠原:結局、自分の価値観のベースって、好きなものの積み重ねの結果だと思うんです。自分がいったいどういうものが好きなのかを考えて積み重ねていくと、自然とあぶりだされるというか。それが色んなことの判断基準になっている。もうひとつ、僕は河合隼雄先生の著作を読んで以降、夢判断を試みるようになりました。
──夢判断。
篠原:夢には無意識が表出するという心理学上の考え方です。何か引っかかる夢を見た時には、いま自分の無意識は何に気を付けろと言っているのか、どうしたらいいと言っているのかを読み解こうとしてみます。夢には色々なものが衣をまとった形で登場するので、それが何を意味しているか考察する必要があります。素人なのでその解釈が合っているかどうかは分かりませんが、行動を起こすときのきっかけにつながるとは思っています。ちょっとスピリチュアルな話になりますが、無意識は何をするべきか知っているけど、簡単には教えてくれず、夢を通して物語の形で語りかけてくる、という感覚ですね。
──本日は色々なお話ありがとうございました。最後に本作の見どころを改めて教えてください。
篠原:見どころは……ぜんぶです(笑)。とにかく見て楽しんでいただけたら、作り手としては本望です。
──何を受け取っていただくのかは、見てくださるみなさん次第。
篠原:そうです。みなさんが見た段階で、もう僕らの手は完全に離れているので。映画をどう見ようと、見る方の自由な訳ですから。そのなかで楽しんでもらえたりとか、少し別のところで面白さを見つけてもらえたりしたら、作り手としてはこの上なく嬉しいです。
[インタビュー/M.TOKU]
作品情報
あらすじ
みんなと同じようにやってるのに、
なんでうまくいかないんだろう――
人生に迷っていた大学生の安曇野りせは、
ある日、亡き祖母が遺した招待状に導かれて、”不思議の国“へと入り込んでしまう。
そこでアリスという少女と出会い、一緒に旅をすることに。
白ウサギや青虫、ハートの女王にトランプ兵、マッドハッターと三月ウサギ、ハンプティダンプティ、
双子のトゥイードルダムとトゥイードルディーにチェシャ猫に......
次々にりせの前に現れるへんてこりんな不思議の国の住人たち!
そして、巻き起こるハチャメチャな大騒動!?
アリスとめぐるとびっきりおかしな冒険で、りせはどんな未来を選ぶのか――
この冒険で、明日がきっと笑顔に変わる
キャスト
(C)「不思議の国でアリスと」製作委員会






































