
特別編集版『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』シリーズ監修・鴨志田一さんインタビュー|『ウルズハント』は『鉄血』の世界観をもっと広く見られる物語
ウィスタリオの前向きさはまだ守るものがないからこそのもの
──ここから『ウルズハント』を掘り下げたいと思います。まずは『ウルズハント』全体の見どころなどをお教えください。
鴨志田:『ウルズハント』は、物語の後半に入ると特にシリアスな展開が続いていく『鉄血』TVシリーズに対して、この世界の別の場所ではもっと違った意識や目的を持って生きている人たちもいることを描いてあげることが大きな目的としてありました。長井監督からも『ウルズハント』を始める時にポップなストーリーにしたいとのお話がありましたし、『鉄血』の世界観をもっと広げて見られる作品にしたかったんです。
もうひとつ見どころに関して言うと、鉄華団とギャラルホルンという2つの視点を軸に物語を繰り広げたTVシリーズに対して、そのふたつに所属していない人たちがこの世界をどう生きているのかも見せたかった。簡単に言うと、ウィスタリオという金星で生まれてID(※戸籍のようなもの)も持っていないような子が、そんな現状をなんとかしたいと大きな夢を掲げるところでしょうか。
──自分たちの現状を打破するために大きな夢を追いかけるという、その出発点は鉄華団と近い印象があります。
鴨志田:鉄華団はもう少しシビアな環境の中で、自分たちの居場所を作るというのが大きな目標でした。ウィスタリオたちの場合は、世界中の人たちから存在しないものとして見られている、言わば透明人間や幽霊のような存在なんですよね。だから、金星を観光立国にしてもっと来てほしいとアピールしたい。要するに自分たちの存在証明を目指しているんです。
とはいえウィスタリオの夢は、実現のためにもう少し何段階か踏む必要があるようなものです。本当ならできないので諦めていたけれど、そこに“ウルズハント”というものが転がり込んできて、この賞金さえ得られれば金星のコロニーを買える。だからこそやる気に満ち溢れているところがあります。
──実現困難な夢ですがそう思わせない前向きさがウィスタリオにはあるように思います。
鴨志田:ウィスタリオの突拍子のなさや思い切りの良さって、嫌な言い方をすればまだあまり守るものがないからなんですよね。彼らが問題になるのは本当に出る杭になった時だと思っています。今はまだ地中深く……地中にあるかどうかもわからない存在なので、まずは行くぞと言い切れるのだと思います。
──もうひとつ楽しい要素だったのが、厄祭戦当時の要素をはじめとして『鉄血』の世界観へ踏み込んでいく、冒険しているような感覚でした。
鴨志田:賞金をかけたお宝探しレースをやったらどうかというネタは、最初に長井監督から出たアイディアでした。それに『鉄血』には厄祭戦という謎がたくさん詰まった美味しい袋があるので、ミステリーや謎解き要素としてそれを少し覗けるようにすれば、キャラクターたちを上手に描くことができるのではないかと考えました。結果的には凄く相性が良かったと思っています。
──『鉄血』TVシリーズには出ていないガンダム・フレームが活躍するというのもワクワクしました。
鴨志田:そうですね。きっと見たいお客さんはいっぱいいるだろうなと考えました。やっぱり“ガンダム”ですしね。
厄祭戦を絡めたものを少しずつ出していくと、その謎にはやっぱりガンダム・フレームというものが関わってくるので、自然と物語に組み込むことができたのかなと思っています。
──他にも、TVシリーズを知っていると『ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』をより楽しめる要素はありますか?
鴨志田:タマミ・ラコウはタービンズに関係してくるキャラクターなのですが、あの見た目でラフタを姐さん扱いする意外性があると思います。立場的にはタマミの方が下なんですよね。後は598(※ゴーキュッパ)でしょうか。ストレートな関係者ではないのですが、彼と同じヒューマンデブリや元ヒューマンデブリのキャラクターたちが鉄華団にもいたので、それぞれの描き方や考え方の違いのような部分は見どころになっています。
──ありがとうございます。あわせて同時上映の新作短編「幕間の楔」についてもいくつかお話しいただけますと幸いです。
鴨志田:僕はノータッチなのですが、ある日「こんなのができました」という連絡と共に岡田さんから脚本が送られてきました。気付いたら絵コンテも送られてきて、最終的に映像も送られてきたので「完成してる!」って驚きました。岡田さんらしさと長井さんらしさがふんだんに盛り込まれた、ただただニヤニヤしながら見られる鉄華団の穏やかで楽しい日常が描かれた素晴らしい映像でした。オルガ愛され過ぎでしょうとも思いました(笑)。
──オルガは鉄華団のみんなだけでなく、ファンのみなさんにも愛される存在ですものね。
鴨志田:僕的に結構好きだったのが、三日月・オーガスと昭弘・アルトランドのやり取りです。昭弘が三日月に声をかけているところ、あのあたりは良い要素がたくさんあったと思います。
──鉄華団の穏やかで楽しい日常という部分で思い出したのですが、1週目の上映前の週替わり特典映像にビスケットが登場していたのもまたグッとくるところでした。
鴨志田:特典映像に関しては4本とも書かせていただきましたが、色々な人の要望を聞いて形になったものなので、みんなの想いが詰まっています。
──「幕間の楔」で久々に声優陣が『鉄血』のキャラクターを演じているところもご覧になられたと思います。今回改めて三日月やオルガたちの声を聞いてみていかがでしたか?
鴨志田:当時のままだなと思いました。何の違和感もなく滑らかにキャラクターとして喋ってくださっていたので、みなさん流石だなと。
──ありがとうございます。それでは最後にファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
鴨志田:『ウルズハント』は、『鉄血』世界の別の場所ではこんな風に生きている連中もいるんだよということを楽しんでもらえると、より『鉄血』の世界を広げて見てもらえるかなと思います。そのあたりに注目しつつ、ご覧になっていただけたら嬉しいです!
作品情報
あらすじ
ギャラルホルンによるアーブラウ中央議会への政治介入事件は、モビルスーツを使った武力行使にまで発展。
事件を終結に導いたのは、鉄華団と呼ばれる火星から来た少年たちだった。
金星に浮かぶラドニッツァ・コロニーで生まれ育ったウィスタリオ・アファムの耳にも、鉄華団の活躍は届いていた。
火星との開拓競争に敗北した金星は、四大経済圏も興味を示さない辺境惑星。
住人はIDすら持たず、今は罪人の流刑地として使われるだけ。
そんな生まれ故郷の現状を変えたいと願うウィスタリオの前に現れたのは、「ウルズハント」の水先案内人を名乗るひとりの少女だった。
「おめでとうございます。あなたは『ウルズハント』の参加資格を得ました」
少女との出会いにいざなわれ、ウィスタリオはコロニーすら易々と買うことのできる莫大な賞金を懸けたレース……「ウルズハント」の入口に立たされていた。
キャスト
デムナー・キタコ・ジュニア:堀内賢雄
コルナル・コーサ:上田麗奈
レンジー・ダブリスコ:木内太郎
カチュア・イノーシー:田中美海
598:三瓶由布子
タマミ・ラコウ:伊藤静
ローム・ザン:稲田徹
アイコー・ザン:山根雅史
シクラーゼ・マイアー:野島健児
【同時上映「幕間の楔」】
三日月・オーガス:河西健吾
オルガ・イツカ:細谷佳正
ユージン・セブンスターク:梅原裕一郎
昭弘・アルトランド:たくみ靖明(内匠靖明)
ノルバ・シノ:村田太志
ライド・マッス:田村睦心
ナディ・雪之丞・カッサパ:斧アツシ
クーデリア・藍那・バーンスタイン:寺崎裕香
アトラ・ミクスタ:金元寿子
(C)創通・サンライズ

























