
優しいだけじゃない作品──「かなでの視点で観ると、ふとした一言が逆に胸に刺さるような瞬間も」TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』郡上かなで役・寿美菜子さんインタビュー【連載第3回】
「原作を読んで『いぶきってどんな子なんだろう?』と」
──衣装設定もかなり作り込まれていますよね。かなでの衣装で好きなところというと?
寿:原作を読んでいた時も、エピソードの切れ目ごとに、先生の「お洋服はこんなこだわりを持って描いています」のようなコメントが入っています。さっき、自分でも見返していたのですが「かなでは“気品”が大事」といったコメントがあって。そこまでしっかり設定されているんだ、と改めて驚きましたね。塀先生ご自身もお洋服がすごく好きだとおっしゃっていて「なるほどな」と。
また、服だけではなく「この子が好きな音楽はこれ」「映画はこれが好き」というように、人物の背景まで本当に細かく設定されていて。「どんな頭の中をしているんだろう」って思います(笑)。掘れば掘るほど、まだまだ出てくるんでしょうね。
──(笑)。ぼたんだけでも30着ほどあるとうかがいました。
寿:えっ、そんなにあるんですか……! いつか「衣装展」みたいなものも見てみたいくらいです。
みんなそれぞれ、その人らしさがちゃんと服に出ていて、ボタンひとつとっても「これはこの子にいちばん似合うもの」と感じられるんですよね。「これは一緒に着られるね」「この服、今度貸してよ」みたいなやり取りが、寮の中で実際にあったりするのかな、なんて妄想していました。
──先ほど、最近は大学生を演じる機会が多くなかったというお話もありましたが、その点はいかがでしたか?
寿:この作品は余白が多い分「ここはアドリブでつないでください」と委ねていただく場面もけっこうあったんです。そういう時に、自分で入れたやり取りを振り返って「ちょっとおばちゃんっぽかったかな……」と思うこともあって(笑)。そこは、周りの空気と合わせながら調整していきました。
私ひとりで学生を背負っているわけではなくて、ほかのキャストの皆さんが絶対的に“学生”でいてくださるんです。その空気に支えていただいていたので、自然にその場にいられる感覚がありました。
かなでが少しお姉さんっぽい目線を持っていることも含めて、自然に入っていけたといいますか。……とは言え、自分ではお姉さんポジションだと思っているかなでも意外と周りからツッコまれたりもするんですよね。
──そのあたりも魅力ですよね。繊細さもありつつ、少し子どもっぽさもあって。
寿:そうなんです。本人は正論を言っているつもりだけど、あとから振り返ると「ん?」となる瞬間があったり。一生懸命すぎて空回りしてしまうところも彼女の魅力だなと思っています。
──ほかのキャストの皆さんのお芝居について、印象に残っていることなどはありますか?
寿:やえか役の(富田)美憂ちゃん以外、ガッツリ共演という形でご一緒するのは、初めての方が多かったのですが、やはりかなでとしては(砺波)いぶきが気になっていました。原作を読んでいる時から、「いぶきってどんな子なんだろう」とすごく気になっていて。
もし自分がいぶきを演じるとしたら、どうしたらいいか分からないかもって思っていたところもあったんです。だからアフレコで(青山)吉能ちゃんのお芝居を聞いた時に「あぁ、なるほど……!」とすごく腑に落ちたんですよね。普通にも見えるけれど、良い意味で少し斜に構えているというか、ネガティブな部分も持っていて。でもそれが嫌味にならず、すごくナチュラルに存在している。「人間ってそうだよね」という部分を、わざとらしくなく自然体で表現されていて。かなでがいぶきに惹かれていくのもわかるなと感じました。
(青山さんと)現場でも隣に座らせていただくことが多かったのですが、いつもすごく真剣に話を聞いてくれて、体ごとこちらに向けてくれるような優しさがありました。かなでがいぶきに惹かれていく理由って、こういう懐の広さなのかなって。本人は自覚していないかもしれませんが、そんな部分に引っ張ってもらっていたなと思います。
──寿さんが他にも気になったキャラクターというと?
寿:(上伊那)ぼたんも本当に可愛くて。自分が気になっている相手(いぶき)と仲が良いという関係性もあり、台本を読みながらちょっとヤキモチを焼いてしまうような瞬間もありました(笑)。そこで「ああ、私もいぶきのこと好きなんだな」と再認識したんです。
でも、ぼたんと話していると、そういう気持ちもふっと忘れてしまうんですよね。言い方が正しいかわかりませんが、魔性というか(笑)。みんなが納得してしまうような説得力があって、受け止めてくれる存在でもあって。
各キャストの皆さんがいいパスを投げてくださるので「このくらいの温度感でいいんだな」「一緒に歩いていけばいいんだな」と自然に見えてきました。
──いいパスが来るからこそ、受ける側としても無理に構えなくていいといいますか。アフレコでは「セリフのタイミングや尺もあまり気にしないで」と言われたとか。
寿:本当にありがたかったです。それと、オフセリフ(画面の外にいる人物などのセリフなど、画面外からの声のこと)の扱いも印象的でした。
原作でも、顔が映っていないコマにセリフだけが“ぽん”と置かれているようなシーンがあります。アニメでも画面には映っていないけれど、声だけがふわっと聞こえてくるような場面があって。
そんな時、みんなと一緒に収録している空気感があるからこそ、自然にこぼれるようなセリフを言わせてもらえるんです。その“ふわっと溢れる感じ”が出せたのは、とてもありがたかったですね。
──収録時のディレクションはいかがでしたか?
寿:都度ディレクションをいただいていました。というのも、ついお芝居として濃く演じてしまうこともあったんです。すごく綺麗な映像なので「そこに乗せていこう」とすると、どうしても本来のイメージよりも色が濃くなってしまうことがありました。そういう時に「もう少し、ぽつりとつぶやくような感じで」といったディレクションをいただきました。
特にかなでは、モノローグのように心の内がこぼれてしまうセリフが多いので「誰かに向けて言っているわけではなく、本当にこぼれてしまった言葉」にするのが難しくて……。“こぼれた感じを演じる”になってしまうとイメージと離れてしまうので、本当に思わず出てしまった、というお芝居まで持っていくのに試行錯誤しました。
──通常のアニメとはまた違う、ナチュラルなお芝居が求められるというか。
寿:本当に削って削って、極限までナチュラルにしていくからこそ生まれる良さがたくさんある作品なんだろうなと思います。実際、収録している時は「こんなにお芝居しなくていいのかな」と感じる瞬間もありました。そこはもう皆さんとの信頼関係に委ねて「きっと大丈夫」と思ってやり切っていました。
そうして完成した映像を見た時に「自分ひとりで全部を色付けしようとしなくてもいいんだ」「アニメはみんなで作るものなんだ」と改めて実感しました。
──素敵なお話ですね。アニメ制作現場の魅力を感じます。
寿:本当に『上伊那』の現場は素敵でした。スタッフの皆さんも楽しそうにされていて、その空気がこちらにも伝わってきましたし、キャストの皆さんも楽しそう。もちろん私自身もとても楽しかったです。挑戦したいことはしっかり挑戦させてもらいつつ、ちゃんと役として居られる環境を作ってくださっていたのが印象的でした。
それこそ、収録後にキャストで食事に行ったりもしましたし「スタッフさんとも一緒にお酒を飲みたいです」と話していたら、本当に場を設けてくださって(笑)。
──へえ!
寿:こたつがあるお店で、みんなで囲んで飲んだりして。すごく新鮮で楽しかったです。寒い時期だったので、温まりながら過ごす時間も含めて印象に残っています。そのあと、行ける人で二次会に行ったりもして。作品を通してこうやってみんなで飲みに行くのも久しぶりでしたし、スタッフの方々もたくさん来てくださって「あのシーンはこうだったよね」と作品の話をしたり。とても充実した時間でした。


































