
優しいだけじゃない作品──「かなでの視点で観ると、ふとした一言が逆に胸に刺さるような瞬間も」TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』郡上かなで役・寿美菜子さんインタビュー【連載第3回】
なんでもできそうに見えて不器用
──第3話までをご覧になった印象はいかがですか?
寿:原作エピソードの順番を変えながら進んでいるので、最初は少し戸惑いもありましたが、見ていくうちに良い構成だなと感じました。というのも、私たちの日常の思い出も、時系列で一直線に並んでいるわけではなくて、断片的な記憶が重なっているじゃないですか。その感覚に似ているなと思うんです。
それぞれのエピソードがキラキラしていて、大きな出来事もあれば、何気ない日常の一コマもある。でも、その何気ない瞬間こそが心に残ったりする。その切り取り方がすごく面白いなと感じました。
──第3話までの中で、特に印象に残っている場面というと?
寿:ふたり(ぼたんといぶき)が温泉に行く場面ですね。アフレコの時も、そのシーンを見ながら「もどかしいな」と思っていました(笑)。私は後ろの椅子に座りながら本番を聞いていたのですが、それくらい彼女たちの距離がどんどん近づいていく感じが伝わってきたんです。
実際のアフレコでは、もちろんマイク前で均等な距離に立っているので、物理的に近づいているわけではない。でもふたりの心の距離が縮まっていくのはすごくわかる。そのことが完成したアニメからもしっかり伝わってきていて「声優さんってすごいな」って(笑)。
そこに至るまでにも色々な出来事がありますし、日常の積み重ねがちゃんと描かれているんですよね。寮の中での生活が見えるのもよかったです。外に出て埼玉を歩いたり、少し遠出したりするエピソードもあるので、寮の中の時間がしっかり見えるのは、私としても嬉しいポイントでした。
──酔っ払ったときの演技で、意識されていることはありますか?
寿:かなでの場合は、酔うと“柔らかくなる”印象がありました。もともとしっかりしているキャラクターですが、少し可愛らしさやお茶目さが増すというか。いわゆる呂律が回らなくなるタイプではなくて「ご機嫌さが増す」ようなイメージで演じています。
オーディションの時から、お酒を飲みながら話すシーンがあったので、その時点で「こういう人なのかな〜」とイメージしていた部分もあって。かなでは本や映画が好きな子だからこそ、好きなことを話すときにちょっと早口になったり熱量が上がったりします。その延長線上に“酔った状態”がある感覚でした。
──とても楽しそうで、可愛らしかったです。
寿:ありがとうございます。普段は少し一歩引いて見ているかなでが、同じ土俵に乗って一緒に楽しんでいるような感覚が出ていたらいいなと思っています。
──第3話のエンディングはかなでが歌っています。エンディングのレコーディングはいかがでしたか?
寿:歌うときに意識したのは切なさでした。キャラクターによって感じ取り方や大事にするワードは変わると思うんですけど、かなでの場合は、曲の最初からDメロあたりまで、いぶきのことを思いながら歌っていました。
かなではいぶきの前では少し緊張してしまったり、うまく振る舞えなかったり、良いところを見せようとして空回りしてしまうところもあって。だからこそ、“歌い上げる”というよりは、セリフに近い感覚で歌わせていただきました。
後半に向かっていくにつれて、少しずつ感情が溢れていく部分もありつつ、最後は、第3話でぼたんといぶきを遠くから見つめていたあの感覚……「切ないけれど、見守るしかない」という想いに落ち着いていくようなテンションで歌っています。かなでの感情と重ねながら聴いていただけたら嬉しいです。
──楽曲を聴いていて泣きそうになりました。
寿:かなでは不器用なんですよね。なんでもできそうに見えて……いや、実際できる人ですが、恋愛に関しては不器用だったり、思った通りに気持ちを伝えられなかったりする。そんな人間らしさがあるところが魅力的だなと思いました。完璧に見える人でも、うまくいかないことがある。そういう部分に、私自身も少し距離が近づいたような感覚がありました。
──エンディングの氷の音も含めて、全体の雰囲気がとても素敵だなと感じました。
寿:たしかに! 最初に楽曲をいただいた時に、グラスの中の氷が溶けていく音が自然と想像できて。この作品らしいなと思いましたし、キャラクターごとに歌い分けていくというのも本当に素敵ですよね。
この作品が持っているものは優しさだけじゃないんです。かなでの視点で見ると、ふとした一言が胸に刺さるような瞬間もあって。そんな繊細な温度感が楽曲にもちゃんと乗っているんです。メロディも、すごく難解というわけではなくてシンプルなのに、しっかり心に響く。良い意味でストイックな楽曲だなと思っていて「これがこの作品らしさなんだな」と感じました。作品の世界観が貫かれているなと思います。
あと、エンディングの映像にも驚かされました。ここに描かれている思い出は、きっと彼女たちの日々のほんの一部で、その裏側にはもっとたくさんの時間が流れているんだろうな、と想像できるんですよね。キャラクターたちがちゃんと“生きている”感じがして、とても魅力的だと思いました。
「お酒って出会いを生むものなんだな」
──原作に登場するお酒で寿さんご自身が気になったものはありますか?
寿:気になるもの、たくさんありました。作品の中に出てきたお酒を買いに行ってみたり、ふるさと納税で頼んでみたりもしましたね(笑)。
場所でいうと、秩父の三峯神社に行ってみたいです。実は秩父自体、ちゃんと巡ったことがまだなくて。これまでも色々な人から「良いところだよ」と聞いていて。車でも絶対楽しいと思いますが、お酒を楽しむことを考えるとやっぱり電車もいいなと。そこをずっと悩んでいます(笑)。
それと長瀞にも行きたいと思っているのですが、結局まだ行けていなくて。このインタビューが掲載されるころには少し暖かくなっているはずなので、もう行ってるかもしれません(笑)。
──ちなみに実際に試したものはありますか?
寿:宇宙ビールが気になって飲みました。
もともと私の兄が、宇宙ビールが好きなんです。初めて飲んだのも兄からもらったのがきっかけだったのですが、それが原作に出てきて「これお兄ちゃんが好きなやつだよね」と。そこから「じゃあ一緒に飲みに行こうか」と、東京のお店に行きました。
同じビールでも、いわゆる苦みやコクがしっかりあるものもあれば、すごくフルーティーで「これ本当にビールなんですか?」と思うようなものもあって。私は普段、ビールよりも梅酒や果実酒のほうが好きなタイプなので感動しました。
そういうお店って、周りの方とも自然と距離が近くなるんですよね。兄と「何飲む?」って話していたら、目の前にすごく綺麗なブルーのビールを飲んでいる方がいて「あれ何だろう?」と気になって。思わず指差していたら、その方が「これですか?」って話しかけてくださって。
──お酒の場ならではのやりとりが!
寿:私は兵庫県出身なのですが、その方も関西の方でした。そこからすごく盛り上がって、一緒に話しながら飲むことになって(笑)。お酒があるからこそ「乾杯!」って自然に距離が縮まったりして、やっぱりいいなって思いました。そんな偶然の出会いも含めて「お酒って出会いを生むものなんだな」と改めて感じました。
──では、第4話以降の見どころについても教えてください。
寿:学生生活と寮生活の中での何気ないひとときや思い出を覗き見るような感覚で楽しんでいただけると思います。穏やかに楽しめるシーンももちろんたくさんありますし、コミカルで笑える部分や「可愛いな」と思える瞬間もたくさんありますが、その一方で、かなでの心の揺れ動きがどんどん大きくなっていく部分もあります。さらに今後、新キャラクターも登場するので人間関係がどのように変化していくのかも見どころのひとつです。
この作品は、関係性のバランスや距離感がとても丁寧に描かれているので、誰の視点で観るかによって、受け取り方も大きく変わると思います。
自分に近いキャラクターに感情移入して観るのも良いですし、あえて違う視点から観てみるのも面白いです。アルバムをめくるように全体を眺めるような楽しみ方ができる作品だと思います。
物語のテンポ自体は速いわけではないですが、その分一人ひとりの中にしっかりと感情の起伏や彩りがある日々が描かれているので、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。お酒が好きな方は、お好きなドリンクやおつまみと一緒に観ていただけたら、より作品の世界に浸っていただけるんじゃないかなと思います。もちろんノンアルコールもオススメです!
【インタビュー:逆井マリ 編集:西澤駿太郎】
連載インタビューバックナンバー
『上伊那ぼたん、酔える姿は百合の花』作品情報

Onair
TOKYO MX、BS11、とちぎテレビ、群馬テレビ、テレ玉 ほかにて
4月10日(金)24時より放送開始
Streaming
ABEMAにて4月10日(金)24時より地上波同時・最速配信
ほか各配信プラットフォームにて順次配信
キャスト
上伊那ぼたん:鈴代紗弓
砺波いぶき:青山吉能
郡上かなで:寿美菜子
遊佐あかね:天海由梨奈
北杜やえか:富田美憂
張景嵐:河瀬茉希


































