
『もののけ姫』4K UHD+ブルーレイセット発売記念 奥井敦さん×古城環さんインタビュー|不朽の名作を4K UHD化する手法・意義とは?
1997年に公開されたスタジオジブリ作品『もののけ姫』。2025年には4Kデジタルリマスターとして、IMAXスクリーンで上映され、2026年6月24日には4K UHD+ブルーレイ セットが発売されます。
不朽の名作のリマスター化はどのような考えのもとでおこなわれたのか。
アニメイトタイムズでは、『もののけ姫』制作当時に撮影監督を務め、現在はスタジオジブリ執行役員 映像部部長 エグゼクティブ イメージング ディレクターを務める奥井敦さん、そして現ポストプロダクション部部長の古城環さんにインタビューを実施。
アナログ撮影の現場で行われていた驚きの作業、『もののけ姫』がアナログとデジタルの過渡期に生まれた作品であること、そして「スタッフが制作当時の初号試写で見た映像を残す」というリマスターへの哲学まで。『もののけ姫』制作に奔走したお二人に、作品制作の裏側と時代を超えて名作を残していく意義について、お話を伺いました。
「アナログ撮影」という仕事
──まずはおふたりが現在どのようなお仕事をされているのか、スタジオジブリでどのような役割を担われているのかをお聞かせください。
奥井敦さん(以下、奥井):私は映像部の部長を務めており、執行役員としても仕事をしています。映像部という名前の通り、映像に関わる業務全般を取りまとめている部署ですね。
もともとはアニメーションの撮影を担当していました。現在もデジタル撮影の業務には関わっていますし、映像に関するさまざまな業務を担当しています。
古城環さん(以下、古城):僕は現在、ポストプロダクション部の部長を務めています。
撮影が終わった素材を編集したり、音響や音楽、キャスティングに関する制作業務を行ったりしています。また、最終的なマスター制作まで担当しています。
──『もののけ姫』の制作は、共にやられていたんですよね?
奥井:私が撮影監督という立場でしたね。
古城:僕はその末端の撮影で、ただひたすらコマ撮りをしていました(笑)。『もののけ姫』までは、ずっと撮影部で奥井の部下として働いていましたね。
──では、その「撮影」というお仕事についても伺いたいと思います。具体的にどのような仕事なのかイメージしづらい方もいらっしゃると思います。改めて教えていただきたいです。
奥井:そうですね。アニメーションの画作りにおいて、撮影は最終工程にあたります。今、古城が担当しているポストプロダクションよりも前の、いわゆるプロダクションと呼ばれる工程です。
アニメーターが描いたキャラクターに色が付き、美術スタッフが描いた背景の上にそのキャラクターを配置する。そして、さまざまな効果やカメラワークを加えて、最終的な画面を作り上げる。皆さんが目にする完成映像を作るのが、撮影の役割です。
──当時は撮影台があって、その上に実際のセル画を重ねて撮影していたんですよね。
奥井:そうですね。今はデジタル化されていますが、『もののけ姫』の頃までは「フィルム」という映像メディアを使うのが一般的で、アニメーションの撮影も、実際にフィルムカメラを取り付けた撮影台を使って行っていました。
背景の上に、キャラクターが描かれた透明なセルを重ね、ライティングを施しながら、1コマずつフィルムに撮影していく。それを繰り返して映像を作っています。
アナログとデジタルが融合した『もののけ姫』制作
──『もののけ姫』は、公開当時としては先進的なCGやデジタル技術も取り入れた作品でもあります。ただ、実際にはアナログ作業が中心だったと。
奥井:基本的にはアナログ制作です。ジブリでは、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)の時に初めて3DCGを取り入れました。
その後、『耳をすませば』(95)で本格的にデジタルでの映像制作に取り組み始めて、『もののけ姫』では初めて社内にCG制作の部署を作り、運用を始めました。ただ、当時は映画用の映像をデジタルで作ること自体が非常に大変な時代でした。ものすごく時間がかかる作業だったんです。
ですから、作品全編をデジタルで制作するという発想はまだありませんでした。CG表現が必要なカットを限定して、その部分に技術を投入していくという形でしたね。
あとは、終盤になるとスケジュールの問題でセルペイントが間に合わない状況も出てきました。その対応として、一部でデジタルペイントも導入しています。それは『もののけ姫』以降の制作体制につなげていくための試みでもあったんです。結果的に、作品全体の約1割ほどがデジタル技術を使ったシーンになっています。
──その境目というか、「ここはデジタルを使おう」という判断は、どのように行われていたのでしょうか。
古城:「ディダラボッチ」の中のパーティクルなど、CGやデジタル技術を使って表現を豊かにするためのものは、事前に決めていました。
先ほどのデジタルペイントの話は、現実的なスケジュールとの戦いの中で決まったんです。監督やアニメーターが膨大な動画を描くわけですが、残り時間を考えると、物理的にセルで塗り切れないカットが出てくる。じゃあデジタルにしようと。しかも、作画カロリーの高いカットほど後ろに残りがちなんですよね(笑)。
当時は仕上げ会社も常にテレビシリーズを抱えていて、急に大量の仕事を受けてもらうのは難しかった。そうした事情もあって、残された時間の中で対応する手段としてデジタルが役立った部分もありました。乾燥時間が必要ないというのも、デジタルの大きな利点ですから。
ただ、1カット1カットが、アナログ/デジタルでバラバラになってしまって、差異が目立ってしまう可能性みたいなものもあって。その辺りの方向性って奥井さんたちは相談していたんですか?
奥井:もうそんなことをやっている状況ではなかったと思います。
古城:そんな余裕もないですよね(笑)。なので、制作や、仕上げの方々の判断で、デジタルの使用を決めていったのかなと思います。
奥井:ただ、もともとはスケジュール対策のためだけにデジタルペイントを導入したわけではないんです。
CGで制作するカットについては、作画部分もデジタルで彩色した方が親和性が高いという判断がありました。ですから、まずはそうした用途で導入していて、その運用範囲を少しずつ広げていったという流れですね。
































