
『もののけ姫』4K UHD+ブルーレイセット発売記念 奥井敦さん×古城環さんインタビュー|不朽の名作を4K UHD化する手法・意義とは?
今、ものづくりをするということ
──当時から現在までの間にも、撮影や作画を含めて、技術や制作環境は大きく変化してきたと思います。お二人はそうした変化をどのように見てこられたのでしょうか。
奥井:フィルムを扱って作品を作った経験のある人たちは、もうだいぶ減ってきていると思うんですよね。
だからそういう意味では、フィルムもデジタルも、その過渡期も含めて経験できたというのは、すごく幸運だったと思います。私も最初は完全なアナログ人間で、デジタルなんてとてもじゃないけど……という感じで。
ジブリで撮影部を作る時に、撮影台をコンピューターコントロールする仕組みを導入しましたけど、自分でプログラムを書いたわけじゃなくて、当然外部の方にお願いして作ってもらったものを使えるようにしたんです。
でも、映像制作そのものにデジタルが入ってくるとなると、避けて通れないんですよね。だから、アナログからデジタルへの移り変わりをリアルに経験して、それを全部自分の血肉にしたうえで、さらに新しい技術を突き詰めていく。今は4Kというフォーマットが出てきましたけど、この先どういうものが出てくるのかは、まだ何とも言えないところもあります。そういうものに対してアプローチできるという意味では、非常に良い時期を過ごせたと思っています。
フィルム作品のHDR化もやらなければいけませんが、実はデジタル作品のHDR化も当然まだ残っているんですよ。
──確かに。
奥井:それはこれからですね。特に2Dアニメーションにとっては、かなりハードルの高い世界だとも思います。
古城:あと、30年で何が変わったかと言われたら、圧倒的に時間短縮ができるようになりましたよね。当然『もののけ姫』の頃は、撮影しても、その日のうちに成果を見られないんですよ。何日か分まとめて撮影して、フィルムを現像所に送って、現像が上がってきて、ようやく確認できる。1週間くらいかかることもあるわけです。となると、「じゃあ次は何をどうするか」という判断も、すぐにはできない。OKが出ればいいですけど、ダメだったらもう一度撮り直さなきゃいけない。そういうことも含めて、当時は本当に時間がかかりました。
でも今は違いますよね。プレビューをかければ、多少待つとはいえ数分もかからず結果が見られる。そういう意味では、創造性に使える時間は増えたのかなと思います。いろいろ試すこともできますし、そこを有用に使えるという意味では、すごくいい時代になったなと。
──時代によって技術が変化していく中で、ものづくりをしていかなければいけないわけです。映像を作るうえで今の時代だからこそ大切だと思う姿勢やマインドのようなものはありますか。
奥井:試行錯誤がやりやすくなっているのは確かなんですよね。ただ、闇雲にいじっていれば何かができるわけではない。要するに、自分の頭の中の完成形が、なんとなくでもいいから想像できること。そして、その完成形に向かって少しずつにじり寄っていくために試行錯誤する。
その理想の映像が思い浮かぶかどうか。それって、結局引き出しの多さだと思うんです。じゃあ、その引き出しを増やすためには何をやるのか。という話で。
──やはり作品を多く見て、手を動かしていくというようなことでしょうか。
奥井:確かに、見ることは大事でしょうね。ただ、アニメーションの撮影をやる人間が、色々なアニメを見ればいいのかというと、そうじゃない。それだと真似になってしまいかねないですから。
アニメだけに限ったことではないと思うんですけど、オリジナリティを出すためには、やっぱり実体験がベースになると思うんですよ。日々のいろんな出来事を、常に観察眼を持って見るということが大事なのかなと思います。
──生きていく上でも大事なことですよね。家から一歩も出ずに、全てを分かった気になってしまうことができる時代で。
奥井:モニター上で、いろんなものが見られちゃいますから。
古城:普段から思っているんですけど、アニメーションというか映像作品って、どこまでいっても複製物だなと。僕はミュージカルや舞台も好きなんですけど、同じ演目でも毎回少しずつ違うし、その日の空気感や緊張感もある。それに対してお客さんは1万円、2万円とお金を払うわけですよね。
一方で映像作品は、何度見ても基本的には変わらない。だからこそ、そのライブの緊張感みたいなものに負けない作品にしなきゃいけないとは思いますね。
──映像作品は「結末が毎回変わる」みたいなことは難しいですね。
古城:そうですね。そういう意味でも、引き出しの話とつながるんですけど、アニメが好きな人がアニメだけ見ていると、やっぱりちょっとダメなのかなという気はします。宮﨑さんがアニメを見ているところって、見たことないですもん(笑)。まさにそういうことだと思います。
「スクリーンに映し出されることを前提に私たちは映像を作っています」
──先ほど奥井さんから「スクリーンで見て欲しい」との言葉がありました。今回の4K UHDや昨年の上映で初めて『もののけ姫』に触れる方もいれば、懐かしい作品として見直す方もいると思います。最後に、そうした方々へメッセージをお願いします。
奥井:30年前に公開した作品ですからね。30代以下の方は、劇場で見ていない方のほうが多いと思います。40代くらいから上でしょうか。スクリーンで見た経験があるのは。そういう意味では、今は半数以上の方が劇場で見ていない作品になっていると思うんです。
もちろん、4K UHDやブルーレイで見たり、テレビ画面で見たりすることも大事なんですけど、やはり映画として、スクリーンに映し出されることを前提に私たちは映像を作っています。
ですから、過去の作品とはいえ、スクリーンで見ていただける機会があるのであれば、ぜひ体験してもらいたいという思いは強いです。
──『魔女の宅急便』のリマスター上映も6月19日から始まりますが、やはりそういった狙いもありますか?
奥井:結果論として、見てもらえるんだったらそれはもちろん嬉しいです。ただ、意味合いとしてはどちらかというとアーカイブが目的ですね。当時制作していた人間がいなくなる可能性も出てくるので、その前にきちんとしたものを残しておきたいという想いが大きいです。
個人的にはより良くなっていると思っています。フィルムの弱点は、やっぱりアナログなので、複製すると画質が落ちるんですよ。公開する時のプリントも、あくまで複製物ですから。そういう意味では、オリジナルネガをきちんとデータ化して、そこから作り込んでいる今回のリマスター版は、最初にお話ししたように、初号プリントで見たときの印象を、さらに良い形で再現できていると思っています。
古城:もし、4K UHDやブルーレイを買って見ていただけるのであれば、冒頭の警告文とは真逆の環境で見て欲しいですね(笑)。できるだけ部屋を暗くして、できるだけ大きな画面で、できるだけ大きな音で見ていただくと、作品をより味わえるとは思います。
CMもありませんし、お好みのスナックや飲み物を手の届く範囲にいっぱい用意してもらって(笑)。2時間13分をゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいです。クオリティ的には、自宅に映画館を持って来てほしいくらいの中身になっているんですよ。購入していただいて、あとはご自宅の環境を整備すれば、豪華なスクリーンと変わらない体験ができます。
──今回の4K UHDさえ持っていれば、生活レベルが上がるにしたがって『もののけ姫』のクオリティも上がりますね(笑)。
古城:そうですね。まずは、壁をグレーとかに塗ることから始めてください(笑)。あと、今回からバリアフリー対応も行っています。日本語字幕と音声ガイドを入れていて、音声ガイドの方は今回新たに制作しました。ぜひ、多くの人に手に取っていただければと思います。
[インタビュー/タイラ]
『もののけ姫』4K UHD+ブルーレイ セット
発売日:6月24日(水)
価格:11,880円(税込)/ 2枚組(4K UHD1枚、ブルーレイ1枚)
コピーライト:© 1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, ND
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケ
『魔女の宅急便』(4Kデジタルリマスター)
6月19日(金)より 全国のIMAX劇場にて期間限定上映

































