この記事をかいた人

- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

「週刊少年ジャンプ」にて2021年から2026年にかけて連載された漫画『逃げ上手の若君』(作・松井優征先生)。2024年7月よりアニメ第1期が放送され、この7月から第2期の放送がスタートしました。
本作は、滅亡した鎌倉幕府で1人生き残った北条家の正統後継者・北条時行が、“逃げ隠れ”の才能を活かし、北条一族を裏切った足利尊氏から鎌倉を奪還するため厳しい試練と戦いに身を投じていく物語です。
本稿では、毎週の放送に合わせてそのストーリーを振り返りながら、戦の戦況や政治情勢を整理していきます。今回は第十七話「負けざる者たち」です。
※本記事は本編のネタバレ要素が含まれます。
諏訪神党優勢だった戦況に突如乱入してきた国司・清原の戦闘神輿。刀を持った屈強な男たちが担いだ神輿に国司が乗って矢を射るという、武士の常識を大きく外れた戦術です。
一見こけおどしのように思えるも、強固な守りと攻撃力を備えており、なかなか切り崩すことができません。そのうえ、奇抜さから兵を引きつけている点でも非常に危険な存在となっています。
神輿の中で意気揚々と矢を射る国司。先の戦で吹雪に烏帽子を斬られて逃げ帰った彼は、一度は後醍醐天皇にその旨を報告し、自分に信濃の統治はできないと泣きついていました。
しかし、弱気になった国司を帝は奮い立たせます。帝が清原を国司に任じたのは、鎌倉時代から彼の内にある気概や野心を感じていたため。
家柄の低い下級貴族である自分を、ずっと前から帝が評価してくれていたと聞かされた清原は、内に秘めた野心を再燃させ、戦場に戻ってきたのです。
満ち満ちた闘志で次々に矢を射る国司。しかし、保科党もやられっぱなしではいられません。
吹雪が伝令した戦闘神輿の弱点に攻撃を集中させ、神輿のバランスが崩れたところで騎馬の保科・四宮両名が横から蹴りつけると、神輿は横転。見事国司の策を打破します。
ホッと胸を撫で下ろしたところで、四宮軍の背後の山で何かが光ったのに気がついた時行。その光は、日光が武具に反射した光。山に誰かが潜んでいるのです。
何かを察した時行は、四宮軍に逃げるよう伝えるため慌てて馬を走らせます。孤二郎や玄蕃は、誰もいるはずがない、敵将は出尽くしたと言いますが、時行の頭の中には1人だけ思い当たる人物がいました。
「狡猾で用意周到 山伝いの奇襲を得意とする知略の将」。そう、以前時行が一対一で戦い、勝利した賊侍・瘴奸(しょうかん)です。
四宮軍本陣に、裏山からの奇襲を伝えた時行。しかし、武士たちの反応は悪く、時行の話を全く信じてくれません。
国司を神輿から引き摺り下ろし、勝利も目前という状況ですから、その反応も当然のこと。伝令役とはいえ子供の言うことなのでなおさらです。
時行が必死で訴える最中、とうとう敵軍が四宮本陣を奇襲。四宮軍は一瞬にしてパニックに陥ってしまいました。
騒然とする中で、時行の前に現れたのは瘴奸。彼は此度の戦の流れを完全に読んでおり、決戦の日となるだろう四日目に合わせて、深い山の中を進軍。国司の戦闘神輿に注目が集まる隙に、四宮本陣の背後に自軍を潜ませ、奇襲に及んだのでした。
「これが軍略だ 長寿丸殿」と瘴奸。敵ながら見事ですね……。
瘴奸は以前の報復とばかりに時行に襲いかかりますが、馬に乗った孤二郎に救い出されます。窮地は脱したものの、時行は圧巻の軍略に感服。軍略の重要性を痛みと共に学ぶこととなりました。
一度崩壊が始まった軍を立て直すことは難しく、四宮はこの敗けをどうまとめるか頭を悩ませます。
簡単に領地は捨てられないけれど、逃げずに踏み止まれば全滅してしまう……そんなときに現れたのは三大将のひとり・望月。持っていた大木で敵味方ともども薙ぎ払うというなんとも彼らしい豪快な登場っぷりです。
望月は勢いそのままに「逃げるが勝ちと心得よ!」と四宮党へ伝令。敵を自身が引き受ける間に一族と共に保科領へ退却するよう命じます。このシーンの望月、とっても格好良かったです! さすが亜也子のお父さん!
「北」の戦場にいたはずの望月は、「中」の戦場の敵の動きが少ないため、何かどんでん返しがある気がして、この戦場に来たのだそう。歴戦の武将の勘でしょうか。
元々勝ち目の薄い戦であるため、「北」の犬甘・常岩軍には、敗けた際に潜む住居も物資も頼重によって準備されており、そちらの心配も無用。
そもそも頼重の狙いは、この戦で諏訪神党の結束を高めること。犠牲者を出してまで領地を守るよりも、逃げて生き延びることの方が重要なのです。
そんな戦で献身的に働く時行の姿は、諏訪神党の民の心に深く印象付いており、時行もまた多くの味方を得ることになりました。
逃若党が「中」の敗北を「南」に伝令すると、三大将の海野と祢津が「中」へ急行。三大将が奮戦したため、四宮党は救出され、人的な被害は最小限に抑えることができました。
「北」と「南」も山中に逃げ延びたものの、領地は大きく奪われることに。国司も混乱の中で取り逃してしまいました。
朝敵のレッテルを貼られ、領地もどんどん奪われていく諏訪神党の民たち。彼らの希望は、諏訪明神が立ち上がるその時──大乱の日はもう間近に迫っています。
本話では、国司の胸の内を描いたアニメオリジナルシーンが登場しました。
なんとか逃げ延びた国司は、ボロボロの姿で静かになった戦場の中、崩れ落ちた戦闘神輿を見つめます。その脳裏に浮かぶのは、出世が叶わず辛酸を舐めるような思いをしていたかつてのこと。
「才あっても家柄のせいで出世の道が続かぬというのもつらいですなぁ」と他の公家に話しかけられた国司は「出世の道が続かぬのもつらいが、鎌倉に下らねば出世できぬのもつらいものです」と返答。
さらに、こんな時代だと受け入れるよう進言された国司は、「それでも、家柄のないものでも出世が叶う日が来るのを待つのみです」と。
その表情は、国司就任以降の傲慢さや卑劣さはなく、どこか悟ったような雰囲気さえ湛えています。
悪しき行政官だった清原もまた、身分制度や時代に苦しんでいた1人だったのでしょう。苦痛に耐えていた分、出世の好機に目が眩み、国司という肩書きに思い上がってしまったことが彼の敗因に感じました。
一方、諏訪大社に戻った時行は、負け戦を報告すべく頼重の元へ。決して良い報告ではないため、自然と重くなる足取り。
しかし、頼重が自身の無事を何より願っていたことを知り、改めて感謝と敬愛を感じ、彼と共に天下を取ることを決意します。
戦を経てさらに絆を深めた時行と頼重。そんな2人を草陰から覗き見る怪しい影……一体何者なのでしょうか……。