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- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

すう先生の大人気BLコミック『キスは捜査のあとで』が、渡部 秀さん&齋藤璃佑さんW主演で実写ドラマ化。渡部さん演じる天然人たらしのアラフォー人情派刑事・多古井平助と、齋藤さん演じる毒舌エリート後輩・塩野 秀が織りなす、ノンストップ・ラブコメディです。
2026年7月26日にドラマの放送がスタートし、毎話視聴者を魅了してきた本作。続編を望む声もあがるなか、ついに迎えた最終話では、TVerランキング1位を獲得するなど大反響を呼んでいます。
本稿では、ドラマ『キスは捜査のあとで』最終話「俺の全部をあげるから」をレビュー。人生を捧げたいと思える相手。そこには、愛する人のために頑張りたい、全部あげたいという覚悟がありました。
※本稿はドラマ『キスは捜査のあとで』最終話までのネタバレを含みます。
久しぶりに会える喜びを胸に多古井のもとに駆けつけた塩野。しかし、そこには多古井と親しげにする大前田洋(演:小方蒼介さん)の姿があり、塩野の表情は一瞬にして凍りつきます。
多古井は大前田を連れて来た上に、彼に狙われていることに気づかず。ひたすら堪えていた塩野でしたが、ついに激しい怒りをあらわに。内側に押し込めていた不安は制御できなくなり、「特別好きじゃなくたって相手に迫られたら受け入れちゃうんでしょ」と、多古井に強い感情をぶつけます。
こうして迎えた最終話。自分の気持ちは塩野に伝わっていると思っていた多古井は憤り、2人の想いはすれ違ったまま。
そんな折に多古井へと積極的に詰め寄る大前田は、塩野との関係を探りつつ「好きです」と突然の告白。さらに、都合よく遊ぶ関係でいいからと強引に迫りますが、多古井は「悪ぃけど、そういうのねぇから」と毅然とした態度で突き放します。
塩野にはこういう多古井の姿も見てほしい……! 普段は危うい隙だらけの多古井ですが、ここぞという時には誠意やモラルが隙を埋め尽くします。
塩野が「好きです」と真剣に想いを告げた時と、多古井の態度がまるで違う。塩野の時は心を揺さぶられていたのに、今回は全く心が動いていないようでした。塩野に信じてもらえていないことにモヤモヤしつつも、塩野以外なんていう選択肢はもはや皆無なのです。
とはいえ、学生時代に一瞬で恋に落ちた塩野は、多古井がいかに好意を持たれやすいのか、実体験を通じて知っています。誰にでも優しい多古井の好意=自分に向けられた特別な愛情だとなかなか結びつけられない塩野は、遠距離という試練の中で不安に飲み込まれていました。
多古井に振られた大前田は姿を消し、その理由に思い当たる節がある多古井は落ち着かない様子。山ノ道署に大前田の目撃情報が入ると、多古井は単独で動いて繁華街のビルへと潜入します。
その頃、ある事件を追っていた塩野は、連絡が取れない多古井のことが心配に。大前田の失踪と塩野が密かに進めていた捜査はひとつに繋がり、多古井の身に危機が迫っていました。いよいよ本格的な“捜査”に緊迫感が漂い始めます。
大前田にとって塩野は、自分が得られないものを全て手に入れて、苦労せずにいい思いをしている疎ましい存在。しかし、それは違います。人は見えないところで努力をしたり涙したり、周りからは見えないことの方が多い。塩野は本気で正面からぶつかってくるし、全然器用ではなくて、そんな彼の頑張りを多古井は愛おしそうに語ります。
「俺は全部知ってっから」と大前田に言ってのける多古井は、どこか誇らしげ。恋愛もそう、仕事のことも真剣に取り組む塩野のことが大好きでたまらないんですね。
ここで度肝を抜かれる大前田の豹変ぶり。当初は塩野との関係を匂わせてくる伊達ジョージ(演:渋江譲二さん)を警戒していた多古井ですが、本当に警戒すべきは大前田だったようです。とらわれた多古井のもとへ、必死の形相で塩野が駆けつけます。
キャラクターの性質上、多古井の感情表現の振れ幅に対して、表面化する感情の動きが狭い塩野ですが、全身の血が沸き立つような感情をまざまざと見せつけてくれる瞬間も。ドラマ全編を通して、塩野の内側に宿る熱さを随所で感じ取ることができます。
多古井の身に危険が及び、塩野にとって最も耐え難い事態に。大前田はガサ入れがいつなのか塩野に吐かせてキャリアを潰そうと目論んでいました。
多古井は絶対に言うなと訴えかけますが、塩野は静かな怒りを滲ませながら多古井を守る選択をします。塩野のキャリアを潰したくない多古井は、自らの身を犠牲にすることで塩野を守ろうとしていました。
「お前の人生のために頑張りてぇっつうか」
恋愛は面倒だと口にしていた多古井が、こんなふうに誰かのために頑張りたいと思えるようになるなんて。優秀な塩野に対して純粋に尊敬の念を抱きつつ、温泉で打ち明けたように立場や役職の差に対する不安もある多古井。複雑な気持ちを抱えながら、愛する人のために何ができるのか、それを真剣に考えて寄り添おうとする愛の深さに私の視界は霞んでいきます。
今回はアクションシーンの見応えと破壊力も抜群で、塩野の長い足を最大限に活かした後ろ回し蹴りが痺れるほど端麗。拳銃を構える仕草や立ち姿まで、一寸の狂いもない造形美に目を奪われてしまいます。このあたりの塩野の動きは特に、原作漫画の再現度が高すぎて驚愕。
「触んな、俺のだから」
この台詞も忠実に再現されたわけですが、多古井はとっくに塩野のものになっているということで、改めてじっくり噛み締めたいところです。
堂々と愛を宣言して多古井に駆け寄り、緊張の糸が切れたように「大丈夫ですか?」と震える声で尋ねる塩野は、今にも泣き出しそう。冷静を取り繕ってはいても、内心では激しく乱れていたんですよね。
次々と警察官が乗り込み、こっそり逃げ出そうとする大前田の前に立ち塞がったのは伊達。微笑んでいるけど目が笑っていない。ネチネチと取り調べをしそうなねっとり感に思わず口角が上がりました。
発砲したことを多古井から咎められると、鼻でフンと笑いながら「あの距離で当たるわけないでしょ」「俺を誰だと思ってるんですか?」と塩野節で反論。いつもの2人らしさが戻っていました。
塩野は温泉で多古井がくれた“プロポーズ”にも似た言葉を、反芻していたのだろうと思います。10年先を見据えて語ってくれた多古井の言葉を噛み締めながら、ずっと一緒にいるためにできることを、塩野なりに考えていたのでしょう。
塩野自身は、離れている間に誰かに取られそうとか、多古井を繋ぎ止めたい気持ちが強い。偉くなったら多古井のことを本店でもどこでも引っ張るという目標は、多古井のためでもあり自分のためでもあるんですよね。
「怖いんです」と吐露し、バックハグして「俺以外見ないで」と懇願する塩野。もう……こんなに好きで好きでたまらないのに、不安を溜め込んで、多古井のことばかり優先してきて、本当に不器用で愛らしい。多古井を独り占めしたい素直な気持ちを伝えた塩野は、ぎゅっときつく抱き締めていました。
「俺の人生全部あげるから」
「俺のものも全部お前にやる」
人生を捧げたいと思える相手。そこには愛する人のために頑張りたい、全部あげたいという覚悟がありました。
多古井が自分の腕時計を外して塩野に着けてあげるシーンは個人的に大好きなのですが、その言葉も含めて多古井からの“プロポーズ”の意味を持つのでしょう。塩野の驚いた表情が非常にリアルでグッときました。
そのままキスをした塩野が「浮気したら撃っちゃいますからね」と愛の言葉を贈ると、多古井は「怖ぇよ」と笑いながら彼の重たい愛を包み込むように迎え入れます。
最後に多古井の方から引き寄せたキスは、構図的には第1話の取調室のキスとほとんど同じなのに、お互いに添える手も、見つめる瞳も、閉じていくまぶたも、宿る想いが全く違う。なんとも美しい対比に、2人の想いの変化を見ることができます。誰も代わりになんてなれない、絶対に離さないという“誓いのキス”のようでした。
ついに“キスは捜査のあとで”のタイトルを回収した最終話。お互いに自分の中の脆い部分をさらけ出したことで、2人の心はより深いところで結ばれたのではないかと思います。
多古井と塩野はお互いに尊敬する存在であり、追いかける存在なんだなと思いながら観ていました。本当はもうとっくに肩を並べて隣にいるのだけど。ただ、形として多古井が立場や役職の違いを気にするのも、塩野が自分ばかり好きなんじゃないかと自信を持てなくなるのもよく分かります。
どちらの気持ちにも共感できる部分があって、だからこそどちらにも寄り添いたくなる。ひとつ塩野にずっと言いたかったのは、多古井は塩野の想いに応えたわけではなく“惹かれた”ということ。誰でも受け入れるわけではなく、塩野だから本気で好きになったのでしょう。塩野の重たい愛を包み込む、多古井の深い愛情と包容力に心を打たれます。
元々、すう先生の原作が好きで毎週楽しみにドラマを視聴していました。脚本は原作の本質をそのままにドラマオリジナル部分を交え、台詞のこだわり、実写ならではの描写の工夫、粋な演出にも唸らされるばかり。私が気づけていない仕掛けもまだまだありそうなので、またじっくり観返したいです。
そして、最高のキャスティングにも感謝。多古井役の渡部さんと塩野役の齋藤さんのお芝居の上手さに毎話のように感動を覚えながら、笑いあり涙ありトキメキもあり、『キスは捜査のあとで』は“この夏一番のラブストーリー”となりました。多古井と塩野の物語はまだ終わらない……続編があることを心より願っています。“ソルト様”の実写化も諦めていません……!
| 作品名 | キスは捜査のあとで |
|---|---|
| 放送形態 | 実写ドラマ |
| スケジュール | 2026年7月26日(日)~2026年9月27日(日) ABCテレビにて |
| 話数 | 全10話 |
| キャスト | 多古井平助:渡部秀 塩野秀:齋藤璃佑 江川まり子:工藤遥 長谷川次郎:金井勇太 八木保:ドロンズ石本 大将:矢柴俊博 松雪みすず:菊川怜 |
| スタッフ | 原作:すう『キスは捜査のあとで』(Jパブリッシング) 脚本:村田こけし 演出:大内隆弘 浅見佳史 プロデューサー:藤田洋平 寺川真未 川西琢(ABCリブラ) 制作協力:ABCリブラ 制作著作:ABC |
| 主題歌 | 「なつめき」OCTPATH |
