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「サンダーバード」と「バルキリー」それぞれのデザイン性の違いとは

「サンダーバード」と「バルキリー」、それぞれのデザイン性の違いとは――『サンダーバード ARE GO』河森正治さんインタビュー!

 ジェリー・アンダーソンによる革新的な演出手法で作られた特撮人形劇『サンダーバード』。1965年にイギリスで放送が開始されて以降、日本でも未だ何度も再放送が行われるほど高い人気を誇る作品です。2015年には、『ロード・オブ・ザ・リング』や『アバター』といった超大作に関わってきたウェタ・ワークショップが制作したミニチュアと、CGを融合させた革新的な手法で生まれ変わった、50年ぶりの新作『サンダーバード ARE GO』がスタート。既に日本でもTV放送が行われており、2016年5月11日にはDVD・ブルーレイ コレクターズBOX1がリリースされました。

 そんな『サンダーバード』といえば、ロケットや輸送機といった個性的な救助メカが大きな魅力の1つですが、実は『サンダーバード ARE GO』に登場するメカ「サンダーバードS号」のデザインは、最新作『マクロスΔ』も放送中の『超時空要塞マクロス』シリーズでお馴染み、河森正治さんによるものとなっています。
 そこで今回は『サンダーバード ARE GO』にまつわる話題を中心に、『マクロス』シリーズの裏話から、河森さんならではのデザイン論までお話いただけるという、大変貴重な機会を得ましたので、その模様をお届けしていきます!

 

■「サンダーバードS号」が生まれるまで

――まず、どのような経緯で『サンダーバード ARE GO』に参加されることになったのでしょうか?

河森正治さん(以下、河森):今回の場合、日本で『サンダーバード ARE GO』のエージェントをやられている会社から、新型メカのデザイン依頼をいただいたのが最初です。その時は、まだメカの名称も決まっていない状態でしたけど。

――具体的に、どのようなオーダーがあったのでしょうか?

河森:具体的なオーダーを受けたのは、最初にお話をいただいてからしばらくして、監督のデビッドさんが日本に来られて直接お会いした時でした。救助メカというよりは、忍者のように小回りが効く、サンダーバードの護衛任務につくステルス戦闘機としてデザインして欲しいと。ステルスに関しては現実的な形状での機能性より、あくまでステルスらしいムードが出ていればいいという感じでしたね。

――デザインのパターンなどはいくつも用意されたのでしょうか?

河森:7、8種類……いやもっと多かったかな。こちらでとにかく沢山のパターンを用意して、その中から選んでいただくという形でした。大まかなデザインが決まったあとも、エンジンやインテークの形状をどうするかなど、細かい部分に関しては何度もキャッチボールをしながら、ブラッシュアップを重ねていきましたね。

――S号にはシャドウという意味合いもありますが、黒を基調としたカラーリングも河森さんが決められたのでしょうか?

河森:ステルス戦闘機というイメージだったこともあり、黒をベースとしたものにするという事は最初から決まっていました。機体に入っている細かいラインなどは、他のサンダーバードのデザインを踏襲しながら、自分の方でデザインしていった形になります。

――デザインで苦労された部分はありますか?

河森:やはり国が違うので、細かいニュアンスを伝える時のやりとりには苦労しました。より近い場所ならより具体的な使い方とかの話し合いももてたのですが、距離が遠いとなかなか難しいので。ただ最終的には、自分がニュージーランドの方に直接赴いて、最後の詰めやモデリングチェックなどもやらせてもらえたので、そのあたりはやりきれたかなと思っています。

――河森さんは海外のクリエイターの方とお仕事されることも多いと思うのですが、『サンダーバード ARE GO』チームの印象はどうでしたか?

河森:すごくフレンドリーでやりやすかったですね。ニュージーランドの気質なのか、エグゼクティブプロデューサーのリチャードさんの人柄なのか分かりませんが、もう会社というよりファミリーなんです。あの規模の会社であれだけアットホームなムードをもてるというのはビックリしました。日本ではああいう会社はなかなかないと思いますし、やろうしてもそう簡単にできるものではないので、羨ましいくらいで。

■「サンダーバード」と「バルキリー」のデザイン性の違いとは

――河森さんが総監督を務めておられる『マクロスΔ』にも、「VF-31ジークフリード」という戦闘機が登場しています。こちらとS号ではデザインにどのような意図の違いがあったのでしょうか?

河森:サンダーバードの場合、メカの航空力学といったリアリティもある程度は満たすのですが、シルエットだけでも特徴が分かるようなキャラクター性の方を重視しています。
 一方のバルキリーに関して言えば、変形という要素以外は極力現用機に近いリアリティを追求しているのですが、本物に寄せすぎてしまうと今後は変形させるのが難しくなるので、キャラクター性もある程度は残すようにしています。分かりやすくいうなら『マクロス』のリアリティとキャラクター性の割合が「7.5:2.5」くらいとするなら、サンダーバードの方は「3.5:6.5」といった程度の差になります。

――『マクロスΔ』に登場する「VF-31 ジークフリード」は、「YF-30クロノス」の正式採用機という設定ですが、デザイン面でもかなり異なる印象を受けました。

河森:現実の戦闘機開発においても、試作機と正式採用機では細かい仕様がかなり変わっていることが多いんです。そういったテイストを盛り込みたかったのもありますし、変形機構はクロノスのものをベースに、腕の畳み方であるとかの細かい部分をブラッシュアップしています。今回の場合は、クロノスの超合金(※バンダイから発売されている玩具)が既に発売されていたので、その時の問題点を改善しながらという作業でした。TVアニメの前に立体物があるという経験は初めてだったので、やっていて新鮮で楽しかったですね。

――変形構造を確認するのに、河森さんがレゴブロックを使って立体のバルキリーを作られていることは有名ですが、今回は使われなかったと。

河森:ええ、クロノスの時は普段通りレゴを使って試作したのですが、ジークフリードの場合は本当に超合金が試作機になっていて、そこに改良を加えていくという流れでした。今思えば、元からあるものに改良を加えてアップデートしていくというのは、実際に戦闘機が正式採用機になっていく工程に近かったかもしれないですね。いろいろな伝統もあって日本ではよく誤解されるんですが、現実ではこうした改良によっては試作機よりも量産機の方が優秀になるわけですから(笑)。

―― 一方のサンダーバードの方は、特にキャラクター性を重視していると。

河森:これまでも何度かお話していますが、あの長い機首と丸いコクピットの部分を横から見ると、ニュージーランドのキウイのような形になるんですよ。他にも自分がサンダーバード2号のポッドのようなことがやりたかったのと、狭い所に入っての潜入任務を想定してというオーダーだったので、コクピット部分がバイクに変形するというギミックもこちらで考案ところ、大変喜んでいただけました。バイク部分も自分がデザインして、7、8種類はバリエーションを考えましたね。

――現実の戦闘機ではあまり想定されないような用途を想定してデザインする難しさはあったのでしょうか?

河森:その点はあまりなかったですね。小回りを効かせるためのベクタードノズルをつけたり、いろいろなアイディアで対応できますし、何かしらの規制があった方がデザインって面白いんですよ。僕は本質的には、オーダーにあわせて作るのがデザインで、何もないところから作り出すのはアートだという区分があると思っていて。ですからデザイン的な視点から言うと、具体的な用途などを予め指定されていた方がやり甲斐はあります。自分だけでは思いつかないような発想をもらったり、刺激を受けることも多いんです。

――比較すると、『マクロス』シリーズのように、河森さんが一から関わられている作品のデザインではどうなのでしょうか?

河森:自分の作品の場合でも、最初のVF-1バルキリーは例外として、予めクライアントさんから求められる方向性が決まっていることが多いので、意外と自由にデザインできる機会というのは少ないんですよ。だから、実は他の人の作品の方が好き勝手できるという側面もあって(笑)。
オーダーの中で1番困るのは「○○みたいなのをデザインして」と言われることなんですが、今回の場合は、『サンダーバード』そのものだったからこそできたのかなと。例えばこれがもし、「サンダーバードのようなもの」をデザインしてくれというお話だったら難しかったと思いますね。

――これまで関わられてきた中で、特に難しかったオーダーというのはあるのでしょうか?

河森:その時その時で苦労はありますが……今思い出せたものあれば、『エウレカセブン』ですね。最初はビークルに変形するロボットという依頼を受けていたのですが、それだけじゃありふれているし、作品のアイデンティティにはならないだろうと。世界観の話を聞いていくと、トラパーという粒子が存在して船が飛んでいるということだったので、せっかくならそれを使うことを思いついて。実は最初ロボットはジェットで飛ぶはずだったんですが、サーフィンをさせることを思いついたんです。

――河森さんがこれまでデザインされてきた中で、特に自由に好きなものを詰め込んだというものはあるのでしょうか?

河森:それぞれの作品の中で好きなものを詰め込んでいるので、どれかを選ぶのは難しいのですが、飛行機・変形・追加装備と、自分自身が好きな要素を詰め込みやすいのはやはりバルキリーシリーズになりますね。ファイター形態では空力を無視してはいけないという制約もあるので、デザインしていて楽しいんです。
バルキリーの中であれば、やはり最初のVF-1は思い入れが強いです。近年であれば『マクロスΔ』の「VF-31ジークフリード」と「Sv-262HsドラケンⅢ」は、変形のギミックをこれまでにない形のものにしたり、いろいろな挑戦ができたかなと思っています。勿論、歴代全ての機体でその時考えられるベストの工夫をしているつもりですし、全てに思い入れはあります。

■ミニチュアとCGを組み合わせることで実現した、初代『サンダーバード』への徹底的なリスペクト

――『サンダーバード ARE GO』では、ミニチュアとCGを組み合わせて撮影するという全く新しい手法が行われていますが、実際にご覧になられていかがでしたか?

河森:凄く驚きましたし、最初にお話を聞いた時は、本当にやるつもりなのかと耳を疑いました(笑)。これは監督のデビッドさんがおっしゃられていたことなのですが、「これだけCG作品が当たり前になって、実写と見紛う作品も作れるようになってきた時代だからこそ、オリジナル『サンダーバード』のテイストを残したい」と。
実はエグゼクティブプロデューサーのリチャードさんが『サンダーバード』の超がつくファンで、本当は全てミニチュアでやりたかったそうなんです。ただ、やはりどうしても予算の問題もあって実現が難しく、最終的になんとか背景だけでもミニチュアを使えることになったそうですが、その分撮影はとんでもなく大変だったらしいです。本当に、よくあれだけ見事に合成しているなと思いますよね。

――個人的にも、すごく『サンダーバード』らしさを感じられる作りになっていると思いました。CGのはずなのに、メカもまるでミニチュアのように見えたり。

河森:そうなんです。実はあれは、CG自体がウェザリングの仕方やディティールの作り方などに到るまで、実寸大ではなくミニチュアに合わせたテイストで作られているんですよ。汚しなども全て、ミニチュアに見えるような形になっていて。

――徹底したミニチュアへのこだわりに、『サンダーバード』への強いリスペクトを凄く感じます。

河森:その想いはすごく強いはずです。逆にそれが過ぎると悪い方向にいってしまう作品もあるのですが、『サンダーバード ARE GO』に関して言うなら、良い方向にいってくれていると思いますね。

――新しい手法というと、河森さん自身も、まだロボットアニメの手書き作画が主流だった時代に、いち早く『マクロス ゼロ』でCGを採用されていました。

河森:基本的に、新しい文化はハイブリッドからしか生まれてこないんじゃないかという仮説をもっているくらい、僕自身が何かと何かを掛け合わせるハイブリッドというのが好きなんですよ。新旧のテクノロジーやスタイルが混在するというのも面白いですし、最初の『サンダーバード』自体も、特撮と人間ではなく、そこに人形劇を入れるという一種のハイブリッドですよね。異質なものが同居するということ自体がチャレンジになりますし、今回のも凄く好きなアプローチだったので、個人的にも興味深かったです。

――以前から初代『サンダーバード』がお好きだというお話を耳にしていたのですが、どのあたりに魅力を感じられていたのでしょうか?

河森:最初に見たのは小学校2年の頃だったと思いますが、当時はそれぞれがもつメカの魅力はもちろんのこと、なんといってもあの『サンダーバード』が発進するシークエンスはたまらなかったですね。

――自分も子供の頃に見ていたのですが、あの発進シークエンスには本当にワクワクさせられました。

河森:乗り込むところから本当に格好良くて、滑り台を何度後ろ向きに滑り降りたか分からないくらいハマりましたね(笑)。もう少し大人になってから感じたことだと、基本的に戦闘をせず、あれだけメカが活躍するものって今でもほとんど存在してなくて。かといって同じようなことをやると、必ず『サンダーバード』だと言われるくらい、今でもオリジナリティが強い。あの作品を50年も前に作り出したというのは、本当に驚異的ですよね。

――初代『サンダーバード』には、今見てもまったく見劣りしない魅力があります。

河森:本当にそう思います。特にメカの重量感に関しては未だに圧倒的で、『ARE GO』では初代と比べて尺が半分になっている分、メカの重量感が伝わるような演出をする余裕がないのが惜しい。技術的にできないわけではないのですが、スピードアップしたが故の弱点といったところですね。もっとも、その分作品として見やすくもなっているので、特に現代の子供達には『ARE GO』の方が反応がいいという話も聞いています。

――『サンダーバード』では、どのメカがお好きなのでしょうか?

河森:もう圧倒的に2号です。当時前進翼とリフティングボディを組み合わせたようなフォルムは強烈なインパクトがありましたし、ポッドが分離するギミックは痺れましたね。ただ、話に聞くところ国民性の違いなのか、イギリスでは2号よりも1号の方が人気なのだそうで、個人的に衝撃を受けました(笑)。リチャードさんは2号も大好きだけど1番は4号なのだそうで、それぞれにコアなファンがついていますよね。

――日本で海外の違いとなると、それぞれで好まれるデザインも異なると思うのですが、どちらかの市場を意識されることもあるのでしょうか?

河森:まず前提として、世界の中でも日本というのは兵器に対する感覚が特殊な部分があって。例えば日本で人気のある人型ロボットは、他の国では現実味がないとなかなか受け入れてもらえかったんです。本当に最近になってからは、海外も日本の影響を受けた作品が出てきて状況は変わってきましたが、当時の『マクロス』の場合も、戦闘機という題材でなければ受け入れられるのは難しかっただろうなと。もちろんそれぞれの個人差はあるのですが、日本と海外では全体の傾向として好みがはっきりと別れるのは面白いと思いますね。
その上で、自分はどちらかというと海外に寄った、リアリティを重視した考え方をしてしまいがちなので、むしろ日本で受け入れてもらえるよう意識をすることの方が多いです。例えば『マクロス』で、特殊な任務以外ではあまり戦闘中にバトロイドに変形しないのは、リアリティを重視しているからという理由が大きいです。これが『アクエリオン』のように、人型というのが作中で重要な意味や設定をもつ作品であれば、また事情は変わってくるのですが。

――作品の世界観に合わせるというのは、今回の『サンダーバード』のデザインにも通じる部分がありますよね。

河森:そうですね、『サンダーバード』の世界観の中だとまず救助というのがベースにあり、キャラクター性が重視されますから。ただ、撮影方法やメカの飛ばし方なんかは徹底的に拘られていて、非常にリアリティを感じられるようになっているんです。初代も含めて、『サンダーバード』はこのキャラクター性とリアリティのバランス感覚が本当に素晴らしいと思っています。

――それでは最後に『サンダーバード ARE GO』を楽しみにされている皆さんに、メッセージがありましたらお願いします。

河森:シリーズとしては50年ぶりに蘇り、今の時代にあわせてテンポアップされたことで、非常に見やすい作品になっています。個人的にインターナショナルレスキューという考え方自体が素晴らしいものだと思っていますし、本作のように大人も子供も一緒になって家族で楽しめるメカモノの作品というのはなかなかありませんので、是非大勢の方々に『サンダーバード ARE GO』を楽しんでいただければと思います。

 

■商品情報
「サンダーバード ARE GO ブルーレイ コレクターズBOX1<初回限定生産>」
「サンダーバード ARE GO DVD コレクターズBOX1<初回限定生産>」
5月11日(水)リリース ブルーレイ¥19,200(税別) DVD¥15,200(税別)
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

※S号のデザイン変遷については、ブルーレイとDVDの特典映像でさらに詳しい解説が収録されているのでお楽しみに!

>>公式サイト


(C)ITV Studios Limited / Pukeko Pictures LP 2015. All copyright in the original ThunderbirdsTM series is owned by ITC Group Limited. All rights reserved. Licensed by ITV Studios Global Entertainment.

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