
5月5日(日)開催「マチ★アソビ Vol.10」『言の葉の庭』トークイベントのオフィシャルレポートが到着! 新海誠監督と水野理紗さんがSPトークを展開!
5月5日(日)、徳島で開催されたアニメイベント「マチ★アソビ Vol.10」にて、新海誠監督による待望の新作『言の葉の庭』の公開を記念し、新海監督と声優の水野理紗さんによるトークショーが行われた。
▲イベント当日の模様
晴天に恵まれた初夏の昼過ぎ、会場となった東公園ステージには、強い日差しにも負けず300人ほどの熱いファンが押し寄せ、新海監督のトークに耳を傾けていた。
今回は、その時の模様を記したオフィシャルレポートが到着したので、以下にお届けしよう!
◆『言の葉の庭』トークイベントがスタート!
新海誠監督(以下、新海監督):映画『言の葉の庭』を監督しました、新海誠です。
水野理紗さん(以下、水野):第一応援団と言いますか、アシスタントとして参加させていただきます、水野理紗です。
新海監督:この映画は5月31日より公開されるんですが、徳島ではufotable CINEMAで上映してもらいます。この映画を知らない方も、このトークショーを聞いて覚えて帰っていただければと思います。
水野さんには最初の長編『雲のむこう、約束の場所』でお手伝いいただきましたね。『秒速5センチメートル』では花苗のお姉さんの他にも、「水野理紗」という役で出演してもらっています(笑)。水野さんには“働く女性の代表”みたいなイメージがあるんです。『星を追う子ども』では妊娠している池田先生の役を演じてもらいました。『言の葉の庭』では固有の役はないんですが、“お守り”みたいな意味でアフレコ現場にいていただきました(笑)。
水野:徳島にも“お守り”しにきました(笑)。
新海監督:さて、それでは『言の葉の庭』の話をしていきたいんですが、水野さんはいち早くご覧いただいていかがでしたか?
水野:毎回そうなんですが、「なんでこんなに泣かせるんだ!」って(笑)。
それにとても繊細で、色んなものに象徴が込められていますよね。どんどん高まっていくドラマにも一つとして無駄なものがなくて。涙なしには観られない作品ですね。
新海監督:泣かせようとして作っているわけではないのですが(笑)。だけど水野さんのように、誰かの心を動かせたのであれば嬉しいですね。
さて、映画の話をしたいのですがまだ公開されていませんので、今日は映画の予告についてお話できたらと思います。
まず冒頭に、タカオ役の入野自由さんの声で「まるで世界の秘密そのものみたいに彼女は見える」という台詞があります。僕の作品は、一種の揶揄として「セカイ系」と言われることがあります。個人と個人の物語ばかりで社会の話をしない、といったことを言われるわけですが、だけど思春期っていうのはそういうものだと思うんです。まさにこの台詞でも〈彼女=世界〉ということが言われています。だけどこの『言の葉の庭』が終わったときに、主人公が〈彼女≠世界〉ということに気づく、この映画はそういう物語なんだと思います。
水野:このシーンでは二人の後ろにある緑が印象的です。
新海監督:女の人の手前に葉がありますが、これは彼女が男の子の向こう側の存在である、という意味を込めています。僕の作る絵はよく写実的だと言われるのですが、むしろ舞台のような、セットを作り上げるようなつもりで作っていますね。
水野:今回はメインの舞台として日本庭園がありますね。
新海監督:今回は美術監督を滝口(比呂志)さんにお願いしています。一見、写真のように写実的なんですけど、よく見ると絵画的なんですね。滝口さんは山本二三さんを敬愛しているそうで、それがよく出ていると思います。グーグルスケッチというソフトを使って架空の空間を作り上げています。
続いてユキノが立ち上がるシーンですが……。
水野:後ろで光る雷が印象的ですね。
新海監督:立ち上がる瞬間に雷が光っている、というのはアニメで見るからこそ自然に見えるんだと思います。これを実写でやるとわざとらしくなってしまう。やろうと思うと、どうしてもCGになってしまいますからね。
水野:実写で撮影するとなると、雷を待つわけにもいきませんよね(笑)。
新海監督:アニメというのは、画面にいくら意図を込めても、それがちゃんと良いものとして観客に伝わる、そういう表現だと思います。雷は「稲妻」とも言いますが、土地に豊穣をもたらす神様の妻という意味があって、ここでの雷は女の人の神秘性を表しています。
水野:次は男の子が女性の足をなぞっているというシーンです。
新海監督:主人公の少年が靴を作るという話なのですが、15歳の少年が27歳の女性の足を書いている、というちょっと色っぽいシーンです。水野さんが実際にそういうお願いをされたらどうします?
水野:うーん……ちょっと勇気が要りますよね(笑)。
新海監督:ユキノはそれだけ自分を差し出している、ということですし、あるいは前日にたまたまペニキュアを塗っていたからOKということかも知れないし(笑)。今回は女性に色んな話を聞きましたね。女性がちょっと落ち込む瞬間ってどんなときですか?とかね。
次はユキノがベットに倒れこむシーンですね。やっぱり、僕は「胸を見せたいと思ったんです。女性を神秘的かつセクシャルに見せたかった。倒れて、そのあと深呼吸で胸が動いてるんですよ……ってやめましょうかこの話(笑)水野さんが嫌がっている(笑)。
水野:いえいえ、そんなことは……(笑)。
新海監督:それでは、花澤(香菜)さんの話をしましょうか。ユキノの役を花澤さんにお願いするとき、すごく迷ったんですよね。27歳の役なので、25歳以上の方にお願いしようと思ったんですが、花澤さんのテープが送られてきて。「規定の年齢に達してないのに……」って思ったんですが(笑)。ただ花澤さんって、ドキってするくらい甘やかな声を、ふとした瞬間に漏らすことがあるんですね。当時23歳だったんですが、そのギャップが良かった。生意気かも知れないけれど、花澤さんの新しい魅力が引き出されていると思います。
水野:雨の表現はいかがですか?
新海監督:雨にこだわった作品ですね。映画の中で時間が経つにつれ雨の種類も変わっていって、様々な種類の雨を描いています。
水野:このシーン、地面に落ちる雨の表現はこだわりが見られますね。
新海監督:それから、空気中に降っている雨そのものをどう描くか、という点にもこだわりました。今はそういった表現もCGで可能になっていますから。昔のアニメは(雨を表現するのに)線を引くだけでしたけどね。
新海監督:今日は「マチ★アソビ」に来ていただいたお客さんに何かできないかと思い、用意してきたものがあります。ここでサプライズプレゼントとして、まだ解禁されていない秦(基博)さんの主題歌を聴いてもらいましょう。大江千里さんが80年代に作った曲で、僕は大学生の頃によく聴いていたんですね。それでは、お願いします。
♪楽曲♪
新海監督:いかがでしたか?(会場拍手)
水野:映画を思い出してしまいますね。涙が出てくるようです。
新海監督:「Rain」はあまり知られていないですが名曲なんです。この映画は、タカオとユキノが一生懸命に言葉のやり取りをする話なんですが、そんな話の最後に「言葉にできず」という歌詞で始まる曲が来るっていうのは、すごく良いと思ったんですね。
新海監督:さて、ここでもう一つサプライズです。エンディング曲は「Rain」に決まっていたのですが、秦さんとお話をする中で、ご自身でも曲を作りたいと言って下さったんです。「言ノ葉」というイメージソングなのですが、CDのジャケットは僕が絵を書いています。また、ミュージックビデオも映画のカットを使いながら、現在ディレクターズカットというかたちで制作しています。こちらも楽しみにしてください。そんな「言ノ葉」を、今日は聴いてもらいましょう。
♪楽曲♪(会場拍手)
水野:作品を通して歌にしたかった気持ちがよく解りました。この曲で歌われているのは、タカオくんの気持ちですね。
新海監督:制作過程も印象的でした。最初のデモは秦さんのハミングだったんです。だけど、ところどころ言葉になっているところがあって。まずはメロディが思い浮かぶんでしょうね。それから、「ここにはこんな言葉を入れたい」といった風に、詞ができていく。「こんな風に出来ていくんだ」って知ったし、あらためてすごいなと思いました。
水野:歌詞もちゃんと読んでほしいですね。
新海監督:僕としては、ぜひ映画を観た後に読んでもらいたいですね。
◆新海監督への質問タイム!
水野:それではここからは、せっかくなので質疑応答をしていきたいと思います。
新海監督:実は、昨日からtwitterでも呼びかけていたんです。まずはtwitterでいただいた質問からいきましょう。
──星を追う子供では世界中の誰が見てもわかる普遍的な冒険物を作りたいという思いがあったとおっしゃっていました。対して今作では、雨、緑、万葉集など、前作に比べて日本の根っこに通ずるような内容に大きくシフトされている様に感じました。何かきっかけなどあったのでしょうか?
新海監督:『言の葉の庭』を見て、よく『秒速5センチメートル』に戻ったと思われがちなんですが、そういうつもりはないんですね。前作『星を追う子ども』との間に何があったかと言うと、まず東日本大震災があった。そこで、自分たちの足下の地面が盤石でない、普遍的でないことに気づいた。だから、いつも過ごしている新宿という場所を、きちんと描いておきたいと思ったのが一つ。
もう一つ、『秒速』には色んな反省があって。もっと「伝わるように」作らなくてはならないと思ったんです。あの作品を観て、「ご飯を食べられなくなった」といった感想もいただくんですが(笑)。自分としては、励ますような気持ちで作ったつもりなんです。『星を追う子ども』ではその反省を活かして、色々な前提を共有していなくても、ちゃんと伝わるように作ろうとした。それが、先ほど質問に出た言葉の意味です。そう意味では「戻った」ということでなく、今回の『言の葉の庭』にも連続性があると思うんです。
──大人の女性と高校生の恋愛がテーマですが、設定だけで悶えるのですが、この設定でいこう!という、きっかけをよかったら教えてください。
新海監督:これ(男女の性別)が逆だったら、あまり良くなかったと思うんですね。都条例とかに引っ掛かっちゃうんじゃないか(笑)。だけど、年下の男の子と、10歳以上離れている女性という設定によって、何か純粋な部分が取り出せるかな、と思ったんです。セクシャルな部分も含まれてはいるんだけど、手の届かないものとして女性を描こうと思った。年齢的にも社会的にもギャップがあって、それによって描けるものがあると思ったんです。
水野:それでは、会場からも質問をいただきましょう。
──監督の作品は、なぜあんなに背景を綺麗に描かれるのでしょうか?
新海監督:これは色々なところで話しているのですが、いわゆる原風景ということになりますか、僕は長野県の山奥で育ちました。光の変わり方がとてもドラマチックで、例えば向こうの山が明るいときに、自分のいる谷は雲の下で暗かったり。そういう風景に救われていたところがあります。そんな環境で過ごしたせいで、東京に出てきたときにつまらなかったんです。明暗の差はないし、平坦だし。ただそれは最初の3年くらいで。自分の住むところが嫌いというのは辛いでしょう?(笑)東京の景色も好きになっていました。好きになったというより、積極的に綺麗なものを見出そうとしていました。
そもそも僕はゲーム会社で働いていて、そこで背景を描いていました。そうして自分の作品を作るとなったときに、人が描けないから背景を描こうと思った。それが周りの人に褒められたんです。実際はそういう理由からで、先ほどの原風景の話は「後から考えると」という理由ですね。
──『ほしのこえ』でもバスの停留所で靴下を脱ぐシーンがありました。『言の葉の庭』の予告を見たときにデジャブを感じたのですが、『ほしのこえ』でやったことをやり直そうとした意識がありましたか?
新海監督:『言の葉の庭』は「雨宿り」の話なんです。本来の場所に居場所のない二人が、別の場所で「雨宿り」をする。『雲の向こう、約束の場所』だと二人の少年が飛行機を作っている廃屋がそうだし、『秒速5センチメートル』だと少年と少女が雪の晩を過ごす納屋がそう。あれも「雨宿り」なんですね。
──新海監督は、ひょっとして鉄道ファンですか?
新海監督:いわゆる“撮りテツ”とか、そういったコレクションする方のファンではないのですが(笑)。ただ、電車という空間や移動手段には愛着がありますね。今回も、個々のスタッフによる異様なこだわりが見られます(笑)ので、お楽しみに。
◆最後に2人からご挨拶!
水野:集まっていただいたお客さんが暖かくて、監督の横にいて楽しませてもらいました。観た後にいろいろ話したくなる作品だと思います。ぜひ皆さんでご覧になってください。
新海監督:まずは水野さん、無理言って付き合ってもらってありがとうございます。水野さんのTシャツ姿を見られて満足です(笑)。
水野:ちゃんと挨拶してください!(笑)
新海監督:スタッフが1年間、頑張って作りましたので、それだけの密度がある作品です。劇場ではサラウンドによる雨の音が楽しめますし、タブレットで観たとしても「ここまで細かく描き込んでいるのか」と絵の密度を楽しめると思います。色んな楽しみ方のできる作品です。是非ご覧ください。本日はありがとうございました。
>>『言の葉の庭』公式サイト