新作で試みた挑戦とは――　華麗な転生を果たしたVALSHEさんインタビュー【前編】

　シングル『TRANSFORM / marvelous road』、そして初のイベントツアー“THE Quizzical BOX ～TRANSFORM / marvelous road Zepp Tour 2014～”を経て、自らの表現により自覚的になったVALSHEさん(以下、敬称略)。前作から約2か月という短いインターバルで、デビュー4周年という記念すべき日を迎えた翌日・9月24日に、ミニアルバム、シングルを同時リリースする。

　ミニアルバム『storyteller II ～the Age Limits～』は、2010年9月23日に発売したVALSHEメジャーデビュー作である『storyteller』の続編にして、デビュー4周年を飾るメモリアル作品。前作同様、イラストと歌詞と楽曲で、7つ(7曲)のショートストーリーを紡いだコンセプチュアルな内容となっている。

　一方のシングル『TRIP×TRICK』（9月度のTBS系全国ネットCDTVエンディングテーマ）は、“名前を奪われた少年”を題材に、自身が書き下ろした物語を元に制作。タイトル曲では、転調を交えながら、スピーディに、ファンタジックな物語の景色を見せていく。もともとは“趣味の範囲で綴り始めた”という物語に、一体どんな変化が起きて作品化するに至ったのだろうか。

　アニメイトTVでは、VALSHEのクリエイティブな発想と思考が自由に放たれた両作についてのインタビューを前編、後編に分けて公開していく。前編は、“THE Quizzical BOX ～TRANSFORM / marvelous road Zepp Tour 2014～”のエピソードから。

●「一番奥の方の表情までキレイに見えた」

──おととい、リリースイベント“THE Quizzical BOX ～TRANSFORM / marvelous road Zepp Tour 2014～”名古屋公演が終わったばかりですよね。疲れはありませんか？

VALSHE：昨日帰ってきたばかりなんですが、特に疲れもなく。むしろ元気な感じです(笑)。

──(笑)　名古屋はいかがでしたか？

VALSHE：まずは観光的なところで話すと、すごく楽しかったです。景観も想像以上にキレイで、翌日朝から名古屋城に行って、天守閣にも登って……。

──さすが、散歩好きのVALSHEさんですね(笑)。

VALSHE：ははは(笑)。これからファンクラブの会報を作る時期なので、名古屋のレポートも兼ねつつ、ライブも楽しみつつ、二度美味しい感じで、名古屋を満喫させていただきました。当日は9時ころに都内を出たので、翌日の午前中に名古屋をまわったんです。

──そうか、名古屋は当日入りだったんですよね。だからツイッターで当日「来たぞー！　行くぞー！　名古屋ー！　…と、都内から熱く発信してみる」とつぶやかれていたんですね(笑)。

VALSHE：そうなんです(笑)。前日に取材を受けていたので、当日に入って。でも、意外と近くて。ゲームをしている間につきました(笑)。minatoが全公演立ち会ってくれているんですけど、(スタッフの“スタK”さんも含めて)3人で『マリオカート』をプレイしながら向かって……。

──(笑)　改めて、今回のツアーを総括するといかがですか？

VALSHE：大阪、東京、名古屋と、すべての公演が充実していて、自分にとってはリフレッシュの場になったというか。土地土地に、それぞれ空気があったのも面白かった。イベントのなかで映像が流れたんですけど、それぞれ違うシーンでリアクションがあったりして。

　あと、ライブハウスの作りなのか、前回の“LIVE THE JOKER 2013”(以下LTJ)よりもみなさんの表情がハッキリ見ることができたんですよ。LTJのときは奥の方の細かな表情が肉眼では分からなかったんですけど、一番奥の方の表情までキレイに見ることができたんです。

──へえ！　でも距離はかなりありますよね？

VALSHE：そう。でも、スッコーンと見えて。自分が何かを投げかけたときに「うんうん」と頷いているすがたや、瞬きひとつまで分かって。だから、会話をしているような気持ちで話せて、それがすごく良かったなと。通常のライブより、距離が近くなったイベントになったと思います。

── さきほど“リフレッシュの場になった”とおっしゃっていましたけど、LTJを経て、少し心の余裕みたいなモノがあったんでしょうか。

VALSHE：アーティストさんによって、“そこ”に向かう心持ちって違うと思うんですけど……自分にとっては、会いに行くっていうその瞬間が、LTJを経て、なおのこと楽しみな場になったというか。自分にとって待ち望んでいる場ということもあって、リラックスしていました。

──とはいえ、初のツアーなわけで。

VALSHE：そうなんですよ(笑)。でも、1人に歌を向けることと、1000人に向けることって、自分のなかで全然違いはなくて。1000人集まったとしても1人の集合体だから、感覚として、1人に対して投げかけている気持ちが、すごく強くて。

　1000人に対して投げかけなきゃと考えたら気負ってしまうかもしれませんが、それがたとえ1万人になったとしても、1人に対して伝えられれば、結果として1人の集合体の全員に伝わってるはず！……と思っています(笑)。

──絶対に伝わってますよ。手ごたえも相当感じられたのでは？

VALSHE：ありました。名古屋公演の一部のMCで、「初めて来た人はどれくらいいますか？」って問いかけてみたら、想像以上に手が上がったんです。LTJから半年以上経って、その間に知って下さった方、興味を持ってきてくれたひとが、これだけいるんだって。LTJって閉鎖的なライブのあとで、すぐに舞浜の2ndライブに行かなくて、本当に良かったなと思いました。初めての人にも過去の映像を観てもらって、温度感が同じになった状態で次のライブに向かえることが凄く嬉しい。あと、今作の制作がツアーの期間に詰まっていたので、モチベーションを高めながら音源を作ることができたことも、とても良かったなと。

──やっぱりツアー中に制作されていたんですね。今回のリリースの一報をいただいたときに「一体いつ制作が行われていたんだ？」と、まず気になったんです。

VALSHE：えーっと……『TRANSFORM / marvelous road』の直後(7月16日発売／以下『TRANSFORM』)から制作がスタートしているので……結構、あの……うん(笑)。7月28日には『TRIP×TRICK』のミュージックビデオを撮影していました。

──はやっ！　かなり短いスパンにも関わらず、内容はいつになくボリューミーですよね。

VALSHE：だから今回、新しい確認の仕方をしているんですよ。確認場所がライブ会場だったりとか、移動しながら作詞したりとか……信号待ちを狙ってiPadに歌詞をガーっと入れたりとか。

──信号待ちのあいだって、かなり短いですけど(笑)。

VALSHE：そう。それを積み重ねて、“新しい技を覚えた！”っていう(笑)。制作期間は短いけれど、しっかり濃縮された、いつも以上にボリューミーな作品を作れるようにと思って挑んだ作品です。


●「第二弾を作りたいという気持ちがVALSHEとminatoのなかにあった」

──このタイミングで『storyteller II ～the Age Limits～』(以下『storyteller II』)を作ること自体は、随分と前から決まっていたんですか？

VALSHE：そうですね。デビュー作である『storyteller』(2010.09.23)から4年と1日目に『storyteller II』を出すことは、昨年から決まっていたんです。

──あ、じゃあシングルは後から決まったということですか？

VALSHE：シングルに関しては、まったくまっさらな状態でした。ただ、『TRANSFORM』のリリース前には、9月24日にミニアルバムと同時にシングルを出すことは決まっていて。あ、でも中身を作り出したのは、2作品とも『TRANSFORM』後なんです。それまでは、とにかく、目の前の制作に注力していました。

──じゃあ『TRANSFORM』後の短期間に作品を作るということは、決定事項だったんですね。それに挑むことって、ものすごい挑戦じゃないですか。

VALSHE：そうですね。でも、『storyteller』は自分にとってすごく思い入れのある作品で。『storyteller』を発売した直後から、第二弾を作りたいという気持ちがVALSHEとminatoのなかにあったんです。で、昨年に話し合ったときに「出すなら4周年の1日目だろう」という話になって。

──なぜだったんでしょう。

VALSHE：『storyteller』は、7つの短編を語り手が読み聞かせるという構想のもと、1曲1曲全然違った毛色の楽曲を収録する──そういうコンセプチュアルな作品なので、第二弾、第三弾……と、出していけるような内容なんです。でも、ただただ続編を出すというよりも、4年間で培ってきたモノ、付随するモノや成長もしっかり反映できるタイミングで、『storyteller II』を作りたいなと。そうしたらきっと、『storyteller』とはまた違うモノができるはずだって話から、このタイミングでリリースすることにしたんです。

●「(『TRIP×TRICK』の)デモを聴いた瞬間に、すごく物語を書きたくなって」

──　一方のシングル『TRIP×TRICK』の制作の経緯をお伺いしていいですか。

VALSHE：『storyteller II』は、 コンセプトのなかに“全編イラストである”ことも含まれているんですが……昨年からミュージックビデオ、ジャケットを全て実写化しているなか、『storyteller II』を出すことで、そこ(イラスト)に戻ってしまったんじゃないかと思われてしまうのは、解釈としては違うなと。それだったら、今の流れを完全に組んだシングルを同時にリリースしようと思ったんです。

──では、ミニアルバムとシングルで曲の作り方もまったく違ったし、もっと言うと、今までの作品の作り方とも違ったのでは？

VALSHE：きっと、そうだと思います。『TRIP×TRICK』単体としても、新しい作り方をしていて。いつもだったら、デモが上がってきてから、コンセプトをどういうモノにしようかなって考えて、作詞に入っていくんです。でも、今回はデモを聴いた瞬間に……すごく物語を書きたくなって。

──へぇ！

VALSHE：たまたま『TRANSFORM』が出来上がって、一日二日も経たないころのオフの日に、minatoが作ったデモを聴いていて、ただただ趣味で、“名前を奪われた少年”の冒険を書き始めたんです。それが『TRIP×TRICK』の原作なんですね。

　それを元に作詞したいって思って、作詞をして、minatoに持っていって。「minatoのデモを聴いて、物語を書きたくなったから書いてみたんだけど、どう？　それをもとに詞を書いたんだけど、どう？」って。そうしたらスタッフさんにも興味を持ってもらえて……。それで『TRIP×TRICK』の原作をもとに、詞を作り、音楽を作り、ミュージックビデオを作り、朗読CD（初回盤限定特典）で読み聞かせるっていう、コンセプチュアルなCDを作ることになって。

──制作の流れも含めて、新しいことだらけだったんですね。

VALSHE：そうですね。そういう自分の行為そのものが、今回の作品にすごく合っていて。これまで実写化に当たって“新しさ”を提示してきたんですけど、実写であろうと、イラストであろうと、VALSHEにとって変わらないものっていうのは“創造することの楽しさ”なんです。

　何かに影響を受けて、そこから広がっていく世界観、聴き手のかたに想像してもらいたいなっていう想い……。楽曲が変わっても、それって変わらないモノで。その“変わらないモノ”をコンセプチュアルな作品を通して伝えたいっていうのが、このシングルのテーマのひとつというか。これまで出したどのタイトルよりも、一貫性があって、関係ナイものがない、すべてが繋がっている作品になっていると思います。

──なるほど。ところで、このタイミングで物語を書きたくなった理由ってご自身ではどう分析されていますか？　制作に対するモチベーションが高まっているから、とか。

VALSHE：う～ん……趣味、というか(笑)。もともと物語を書きたいという気持ちがあって。でも物語を作品として出すつもりはもともとなかったですし、制作スタッフさんたちに見せた時点でもなかったんです。まさか朗読CDになったり、デジタルコンテンツになったり、そういう形に発展するとは思ってなかったですね。

──今わたしの手元にあるのは楽曲のみなのですが、歌詞だけ読むとすごく謎めいていますよね。はやく物語を読んでみたいです。

VALSHE：『TRIP×TRICK』の歌詞は、原作を読んでいなければ、すべてが分からないようになっているんです。2曲目の『my name is…』は、『TRIP×TRICK』の歌詞と物語を読んでからminatoが書いているので……『TRIP×TRICK』は物語のテーマソング、『my name is…』はエンディングテーマといった感じですね。

──サウンド面で言うと、タイトル曲はマイナー調からメジャー調への転調があったりと、今までにない展開をされていますよね。一方、作詞・作曲をminatoさんが手がけた『my name is…』は、神秘的なミディアムナンバーで、柔らかく、伸びやかな歌声が印象的です。

VALSHE：おっしゃっていただいた通り……『TRIP×TRICK』での、Aメロでは暗い雰囲気、Bメロで急に明るくなって、Cメロでまたマイナーに戻るっていう、そういうファンタジックな展開も新しい挑戦なんですよ。基本的にVALSHEのサウンドはデジタルなマイナーアップをリード曲として進めてきたので。コンセプトありきの試み、世界観の広がりという要素もあるんですけど、曲そのものとしての挑戦もあります。

　『my name is…』は物語を受けて作られたモノなので、レコーディングにしても、物語の少年の気持ちになって歌うことを意識していて。いつも以上に伸び伸びと歌えたかなという印象があります。彼の曲を受けて、物語が生まれて、そこからさらに彼が曲を作るっていう歯車のかみ合い方、楽曲の作り方が自分たちならではだなって。

──朗読CDも新しい挑戦のひとつですよね。どういった内容になっているのか、気になるところです。

VALSHE：ホントに、そのまま原作を読んでいます。吹き替えやアニメのアフレコとはまた違った作業ですけど……声優業で学んできた朗読は、自分にとって好きなことで。音楽のパッケージのなかでそれができるとは、夢にも思っていなかったので、今回お話をいただいて「ぜひやりたい」と。

　内容としては、一時間くらいかな？　特典のデジタルコンテンツでは、原作の小説、物語の挿絵も見られるようになっているので、朗読CDを流しながら、それを見ていただいてもいいなぁと。

──じゃあ楽しみ方としては、朗読CDから？

VALSHE：王道としては。でも、自分がオススメする順序としては、まずは楽曲を楽しんでもらいたい。曲だけ聴くと、分からないワードがいっぱい出てくると思うんです。そういう疑問を経て、物語をじっくり聴いていただけると、すっごくスッキリすると思います。

──ミュージックビデオはどのような内容になっているんですか？

VALSHE：『TRIP×TRICK』のお話を読んでいるVALSHEが、自室にあるモノを使って冒険をするんです。まるで自分がその物語の主人公になったような気持ちで。たとえば、歌詞に“青い森”(＜月の明かりが照らす青い森を駆け抜けて＞)というワードが出てくるんですけど、自分の部屋のなかをどういう風に森に見立てようかなって、いろいろなモノを緑に塗り替えてみるシーンがあったり……想像する過程の楽しさを表現したビデオになったと思います。

●「言わなければ、白皙が描いたとは分からないんじゃないかな」

──シングルも、まさに“ストーリーテラー”(＝構成、ストーリー展開の面白さで、読者を引きつける作家)という言葉がピッタリですね。

VALSHE：そういう意味では、リンクする部分もあるかもしれないですね。

──VALSHEさんのクリエイティブな部分と日々の思考が見事に結実した作品になっているというか。

VALSHE：そうですね。今回の『TRIP×TRICK』に関しては、ミュージックビデオ、楽曲、歌詞、どれが欠けても伝わりきらないと思って、すべてをまとめたので……初回盤は『V.D.』よりも分厚くなってしまいました(笑)。手に取りやすい、お得な作りになっていると思います。

──特典のデジタルコンテンツでは、白皙さんの挿絵も見ることができるんですよね。

VALSHE：完全に物語の挿絵としてのイラストになっています。これまでのイラストとは全然違うので、言わなければ、白皙が描いたとは分からないんじゃないかと。で、その影付けの部分は自分が手がけました。

──VALSHEさんと白皙さんの、さらに進化したコラボレーションを見ることができるわけですね。

VALSHE：そうなんです。実写になるにあたって、自分がイラストを手伝うことも減ってきていたので、ここにきて、ひさしぶりに合宿みたいなことをやったりして。二人で夜中に、彼女が描いた線画をもとに自分が影をつけて、それを切り絵のような形にして……という作業をしていきました。二週間くらい前かな？

──めちゃくちゃ最近じゃないですか(笑)。

VALSHE：(笑)　全てをこの1か月半から二か月のあいだに作っているんですが、細かなところを凝縮してできたので……。すごく達成感のある、満足のいく作品になったと思います。


＜＜インタビュー後編へ続く＞＞


[インタビュー＆文・逆井マリ]


■VALSHE 8th Single『TRIP×TRICK』
発売日：2014年9月24日

【初回限定盤(2CD+DVD+スリーブ仕様)】 2,200円+税
[CD収録内容]
・TRIP×TRICK
(作詞：VALSHE　作曲：minato　編曲：G'n-)

・my name is…...
(作詞・作曲：minato　編曲：丸山真由子)

[特典DVD収録内容]
・“TRIP×TRICK” MUSIC VIDEO
・Making of “TRIP×TRICK” MUSIC VIDEO

[特典CD収録内容]
・朗読ヴォイスCD：The tale of “TRIP×TRICK”
・2CD ＋ DVD ＋ デジタルコンテンツ ＋ mini AL同時購入者対象トークイベント応募用シリアルナンバー
デジタルコンテンツ：VALSHE書き下ろしノベル＋白皙による挿絵。視聴用ID封入。
同日発売「storyteller II ～the Age Limits～」（品番JBCZ-9012）同時購入者対象トークイベント応募用シリアルナンバー封入。


■VALSHE 2nd Mini Album『storyteller II ～the Age Limits～』
発売日：2014年9月24日

【初回限定版(三方背スリーブ仕様)】 2,500円+税
[CD収録内容]
・HIDE & LEAK
(作詞：VALSHE　作曲：minato　編曲：G’n-)

・WISHLIST
(作詞：VALSHE　作曲：DOITOKI　編曲：丸山真由子)

・羽取物語
(作詞：minato　作曲：望月由絵 & 松澤涼　編曲：G’n-)

・Roma
(作詞：VALSHE　作曲：minato　編曲：後藤康二)

・CAINCOMPLEX
(作詞：VALSHE　作曲：桑原佑介　編曲：中山真斗)

・セミステージ
(作詞：minato　作曲：VALSHE　編曲：G’n-)

・Separation
(作詞：VALSHE　作曲：菊池佑介　編曲：FAITH-T)


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