制作テーマは「NOTご都合主義」!? サブタイトルに込められた秘密とは? 春アニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』の魅力を高橋敦史監督に聞く【インタビュー後編】
『ゴジラ』シリーズ国内初のTVアニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』が先日、最終回放送&配信されました。様々な謎が明らかになり、世界を舞台にひろげ人類の危機を救うために行動していた、銘やユンたちの奮闘が実を結んだ結末でした。もう1度、1話から見直して答え合わせをしたくなった方もいるのでは?
『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』の最終回放送&配信を祝して、作品を手掛けた高橋敦史監督へのインタビューを前後編に分けてお送りしています。
後編の今回は、最終回を作り終えた感想と作品を改めて振り返ってみての印象、今だから話せる制作秘話、そしてタイトルとサブタイトルの由来や謎についても語っていただきました。
無事に最終回をお届けできて安堵。テーマに掲げたのは「NOTご都合主義」!?
――先行配信されていたNetfixに続き、地上波でも先日、最終話が放送されました。感想をお聞かせください。
高橋敦史監督(以下、高橋):まず無事、完成して、皆さんにお届けすることができて良かったです。コロナの影響で、途中で制作や収録が止まったり、いろいろありましたから。アニメ制作はルーティンワークですが、この作品では今まであまりやれていないこともやっているので、スタッフ陣の負荷も大きかったと思いますが、頑張って乗り越えてくれたおかげです。
――このシリーズを振り返ってどんな作品になったと思われますか?
高橋:お話の都合に合わせて作るのではなく、設定に合わせて設定に縛られながらお話が進んでいくため、簡単に空を飛んだり跳ねたりということが出来ないので、ケレン味の少ない作品になってしまったかなと。また、暗くなりがちなテーマなのでなるべく明るい話になるよう構成したのですが、予想以上にペロ2やジェットジャガーによって救われた作品になりました。わかりやすく派手なものが好まれる今のご時世にこの作品はどう評価されるのか? 不安な部分もありましたが、意外と楽しんで見てくださる方が多くて良かったです。
――制作にあたって掲げたテーマはあったのでしょうか?
高橋:ご都合主義にしないことです。例えば東京からドバイに移動するには飛行機に乗らないといけない。そのためには移動時間も必要だし、時差も存在するわけです。そういう細かい部分も曖昧にせず、しっかり描いていこうと思いました。
<シンギュラポイント>というタイトルはあの作品にあやかって? ジェットジャガーを登場させたのはボンズ作品だから?
――タイトルの<シンギュラポイント>は「特異点」という意味ですが、どうしてこのタイトルにされたのですか?
高橋:最初の頃に、特異点を英訳するとシンギュラポイントで、タイトルにしたら『シン・ゴジラ』と間違って見る人もいるんじゃないかと冗談で言っていました(笑)。その後、最終的に「『ゴジラ対ジェットジャガー』にしましょう」と提案したのも却下されて、なぜか最初のタイトル案で決まっていました。
――ジェットジャガーは『ゴジラ対メガロ』に登場したヒーローロボットですが、なぜ今回登場させようと思われたのでしょうか?
高橋:最初はこんなに活躍する予定ではなかったし、人間の力だけで解決しようと思っていたんですが、作っているうちにアニメの性というか、ジェットジャガーの存在が大きくなって。あとボンズさんなので、ロボットを出したほうがいいかなと。そうなるとジェットジャガーとメカゴジラくらいに絞られるので、メカゴジラよりはジェットジャガーかなと思って。
――序盤では『マジンガーZ』のボスロボットくらいの立ち位置かなと思っていたら回を増すごとに強くなって。
高橋:一応、町工場で作れるロボットでも、10年後にはあれくらいのものは作れるかなと思ったし、現在でも実際作っている方は何人かいるので、ギリギリいけるかなと。あとスタートは人が乗っているほうがいいなと思ったけど、徐々に自立して動けたほうがいいかなと思って、無人でユングのAIを取り込む形になりました。
――全話の中でお気に入りのエピソードやシーンをお聞かせください。
高橋:7話と10話など、お話をまとめる小休止回があったんですけど、テンポで説明とまとめになりがちなところをドラマっぽく作れたかなと思っています。
――お気に入りキャラクターも教えてください。
高橋:最終回のペロ2は僕も原画を描いているので、お気に入りです。
――今だから話せる制作秘話がございましたらお聞かせください。
高橋:東京が赤い煙に包まれることと、最終決戦で、東京でゴジラが暴れまわると言うと美術会社から断われるんです。「ムリです」と。東京を俯瞰で描くシーンではビル群が続きますが、「赤い霧でほとんど見えないので大丈夫です」と説明しました。いざ作っていくと、赤い霧で何も見えなくなり過ぎて、ゴジラさえ見えないということさえ起こってしまって。そのため霧の濃度バランスをどうするかテイクを重ねたので、苦労しました。見えないことで助かっている部分と苦労している部分があって、諸刃の剣でした(笑)。