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藤本タツキ最新作『さよなら絵梨』ネタバレレビュー

藤本タツキ先生最新読切『さよなら絵梨』ネタバレレビュー|繰り返される「束縛」と「開放」

 

優太への束縛と開放

まずなぜ私がこの点に注目したのかというと、私自身が母子家庭で母親との結びつきが強かった事、そして優太が絵梨(好きな人)に求めたものと私が求める事が近いように感じた事です。

優太のような少し冷たい関係では無かったのですが、母と過ごす時間が多く、母の生き方が最も身近な人生のサンプルだったので、彼女が辛いことは私も避けたいし彼女の喜びが私の喜びにも影響していると思います。それは一種の束縛とも言えるでしょう。

優太は母に褒められることも無く、強制的に映画を撮影させられており、学校を休んでまで母のために撮影をし続けていました。きっとそれだけでは無く優太と母の距離は遠かったと思われます。彼は母親に縛られていた。その束縛に何かシンパシーを感じたのかも知れません。

また優太は絵梨が「クソと言われた自分の作品を認めてくれた」事によって自殺を回避し、後に絵梨を好きになっています。私も「自分の良き理解者である」という点を恋人や友人に求める傾向があるのでそこに目が止まったと思います。

自分語りばかりで申し訳ないのですが、そんな母の束縛からの開放が一度目の爆発です。

 

母に利用されていた優太は……

優太の心の中には母親が亡くなった事で私利私欲による時間、労力の搾取(撮影の終わり)や満たされない、褒められない関係から開放された感覚があった。それが爆発エンドに繋がったのかも知れません。

彼は母親を家族として愛していたので、憎んでいる部分もあったかも知れませんが母の良い面を切り取って、最後は自分の持ち味であるファンタジーを映像に盛り込みました。

よって母親とは色々あったけれども自分の中で最高の作品を作って母との関係を清算し良い形で「さよなら」を言うことが出来た、と思っているのだと思います。

読み返してみると、初見時には気付くことができない優太の思いや爆発の清々しさを感じることが出来ました。これが1つ目の束縛と開放です。

 

絵梨からの「束縛」そして「開放」

そんな作品をボロクソに言われ、傷ついていた時に現れた絵梨。彼女と過ごした時間も見方を変えれば「束縛」です。絵梨は自分の死期が近づいている事をわかっていて、優太の母のように自分を彼の映像に残してほしいと思っていました。

彼女は自分の希望のために優太の時間や労力を搾取した。と言っても良いでしょう。それは優太の母親と同じ事であり優太を利用し縛っている事でもあるのです。

その時彼は自分を認めて映画を好きだと言ってくれた人がまた自分を利用しているのだとがっかりします。しかし、絵梨の事を好きになっているため撮影を続行(父の言葉もあり)。

今度は母親の時には出来なかった「最期の撮影」までこなし、映画を完成させたのです。

感動的な映画となりますが、優太は納得が行かない。まだ絵梨に束縛されたままなのです。気持ちに踏ん切りがついていない。

それはその作品が「絵梨好み」ではないからです。つまり優太の味が出ていない。それをなんとなく優太も気づいているからでしょう。

そこで物語終盤で絵梨に再開します。絵梨は「無限の命の中で絶望しないため」優太に映画を制作させたことを明かします。つまりこの映像が永遠に生きるという絵梨の苦しみの中の「希望」である事が優太に伝わります。また、やはり絵梨がファンタジーが足りないエンドに退屈していることも。

そして優太は絵梨がいた建物を「爆発」させるのです。これは絵梨との「さよなら」(開放)です。利用されながらも、自分が作った映像が好きな人の希望になったことを知ったから、そして絵梨は優太の「ファンタジー」が好きだから。優太は足りなかったものを知りました。

彼女のために何かが出来た、そして自分好みのエンドを迎えた。それが2つ目の開放であり、爆発です。この爆発は実際に優太が爆破したのか、彼の脳内映像で爆破したのか、後に自宅で編集して爆破したのかは明かされていません。ですが私は少なくとも彼が束縛から開放され、もう少し生きて行くだけの魂を得られたと感じることが出来ました。

 

誰かを縛るということ

これが私の『さよなら絵梨』の解釈です。正直書いている途中にも色々と自分の中で受け取り方が変わって行きました。もう少しマイナス思考なエンドだと思ったのですが、最後あたりの優太の顔が笑っているように見えたので上記のような解釈となりました。

またもう一つ思ったことは、私も日常的にクリエイターや作品を束縛しているのでは? ということです。私たちは自分が楽しむために作品に触れるし、感想を述べたり考察したりします。

もちろん面白い作品であればあるほど、次回作や新作を期待しますよね。しかし、どんなに好きな作品でも自分の納得できない展開などを迎えると、冷めてしまったりがっかりしたり、もしかすると本作に出てきた優太の同級生たちのように攻撃に転じてしまう場合もあります。

そのような過度な期待や、不本意な結末への攻撃はまさに束縛と言えるかも知れません。しかしその反面やっぱり熱量を持って作品を楽しむこと(攻撃はダメです)は、作者や作品への愛や信頼であり良いことでもある。

中々答えの出ない難しい事ですが、少なくとも瞬間的な感情の高ぶりで誰かを束縛してしまうことはせずに生きたい、と私は思います。

 

99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えなかったので、「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行い、ライターに舵をきりました。面白いコンテンツを発掘して、壁に向かってプレゼンするか記事にしています。アニメ、お笑い、音楽、格闘ゲーム、読書など余暇を楽しませてくれるエンタメや可愛い女の子の絵が好きです。なんでもやります!

この記事をかいた人

タイラ
99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えない間「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行いライターに。

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