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『ダンまち』第4期 早見沙織&井内啓二対談インタビュー

井内さんは世界で一番早見さんの演技を聞いた!? 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』リュー・リオン役 早見沙織さん・シリーズ音楽 井内啓二さん対談インタビュー

 

音楽から伝わる孤独感や絶望感

──井内さんは『ダンまちⅣ』、特に厄災篇の音楽を制作される際に、どういったことを特に意識されましたか?

井内:先程早見さんもおっしゃっていたように、『ダンまちⅣ』ではヒロインのポジションがリューさんというところもあって。音響監督さんと監督さんを含めた音楽の打ち合わせの時に、リューのテーマが欲しいという話になったんです。

確かに、これまでの『ダンまち』がベルくんを主人公とした一人称として描かれている物語であったのに対して、厄災篇はリューの内面をかなり掘り下げるエピソードでもあったので、確かにリューのテーマは必要だなと。

ただ、どうせ書くなら、ベルがリューに接する時の「ベルを主語とした楽曲」と、それと対となる「リューを主語とした楽曲」の2つが必要になるとも思ったんです。これも先程早見さんもおっしゃっていましたけれど、現在のリューの人格や背景を形作るきっかけになった過去が描かれているので。

恐らくリューは、敵討ちを果たしてしまったら、かつての仲間のところへ逝きたいという気持ちが少なからずあると思うんです。その抑止力になっているのがベルの存在であったりとか、ベルと共に過ごした時間そのものなのではないか、と。

そういったものに徐々に救われていくリューの心情を、早見さんがすごく丁寧に演じられていたので、そこに寄り添った音楽演出にしたいと思い、リューのテーマは2パターン書かせていただきました。

 

 
あと、これまでの戦闘シーンでは、ベルが中心になって突破口を開くといった「作戦ベル・クラネル」みたいな感じが多かった気がするんですけれど、厄災篇はベルがパーティから早々に離れてしまうのもあって、残されたパーティメンバーが個々の特性を生かして問題を打破していくという場面が多く、集団戦に趣を置いた戦闘曲を数多く書きました。

加えて、この先の展開がどうなっていくのか、どっちに転んでもピンチ! みたいな状況を表現するために、1小節ごとに拍子を変化させていたり、細かな転調や復調を用いて刻々と変化する戦況を表現しています。

基本状況が不利なので、不利の方向に転んでいくような戦闘曲を書きたいなあというのは、原作を読みながらも思っていたんですけれど、音響監督の(明田川)仁さんもずっとピンチみたいな曲が欲しいとおっしゃっていて。

確かにそれらの楽曲が数多く要るかなって思っていたのですが、本編でもたくさん使っていただけているので、狙い通りになったかなと思いますね。

──ありがとうございます。今、早見さんの演技を聞かれてというお話が井内さんからありましたが、早見さんは実際に音楽を聞かれた際にどういった印象を受けましたか?

早見:今回はベルくんとリューさんのいる場所とほかパーティメンバーのいる場所が全然違うので、そこの音楽の空気感が本当に全然違うなっていうのはイチ視聴者として感じていて。音楽にもそれぞれのシーンで違う怖さがあるみたいな(笑)。

井内:(笑)。

早見:リューさん側というか自分がお芝居させていただいたところって、無音のパートも多くて。音楽が無い中でずっと2人で会話していく、殆ど効果音も入らないような静かな場所で基本会話が進んでいくんです、2人ともボロボロで。

そこへ更にピンチな事が起こった時には、静かにすり寄って来るような音楽が流れて。ひたひたと近づいてくる、静かな怖さみたいな恐ろしさを感じました。それこそ本当に絶望に取り囲まれていくような、そういう怖さを感じたんです。

 

 
反対にヴェルフさんたちが戦っているところだと、武器がぶつかる効果音もかなり派手に入っていますし、音楽に関してもイチ視聴者として聞いていると大きく波を感じるというか。

作品を通して見ているとベルくんとリューさんがいるシーンでは「本当に2人しかいないんだ……」みたいな孤独感とか、まさに絶望感っていうのが耳で聞いているだけでも伝わってくるんです。

──ヴェルフたちのシーンを見て、場面が切り替わってベルとリューが映った瞬間「あ、またここか……また厳しいシーンが続くんだ……」と……。

早見・井内:(笑)。

早見:あそこ、すごい救いでした。腐ったポーションを飲むシーン。
※17話「白の迷宮(ホワイトパレス)」

井内:ああ(笑)。

早見:ちょっとポップな音楽みたいな。日常の音楽が一瞬だけ流れて。

井内:そうですね。

早見:「こんな中でも、こういう曲が流れるんだ」みたいな(笑)。ちょっとだけ救われました。

──その後のスライムを溶かして飲むシーンとかも。

井内:(何度も頷く)

早見:そうですね。

──『ダンまち』のいつもの感じだ、と(笑)。

早見:そうですよね。これこれみたいな(笑)。

 

井内さんは世界で一番早見さんの声を聞いた!?

──早見さんに実際に音楽を聞いた印象をお伺いしましたが、早見さんのご感想を受けて井内さんいかがでしょう。

井内:有難いです。基本的に僕が劇伴作家として思っていることは、劇伴のそもそものメロディーというもの自体が、やっぱり役者さんの台詞なんだということなんです。

演じられている演技というものが、キャラクターの背景として経緯や過去があるから、もしくは未来に向かっているから今こういう発言をこういうテンションで演じる、ということを(脚本を)すごく読み込んで表現されているので。

それを無視して音楽を書いてしまうと、それは感情曲線を無視して勝手に自走するBGMになってしまう気がしていて。特にアニメーションや映画では、物語を通してお客さんにどういうエモーションを与えて、それを持ち帰っていただくかということを常に意識しています。

 

 
今回は、事前にいくつかの話数で、アフレコが終わった後のデータをいただく事ができたので、皆さんの演技を相当な回数聞かせていただきました。作曲しているよりも演者の皆さんの演技を聞いている時間の方が圧倒的に長かったと思います。

決してフィルムスコア(※)で書いたわけではないんですけど、会話を通してキャラクターの感情がどれぐらいの時間をかけて緩やかに変化していくのか、それこそリューのベルを呼ぶ呼称が「クラネルさん」から「ベル」へと変化するに至るまでの、その感情曲線のグラデーションをとても丁寧に拾うことができた気がしています。たぶん僕、世界で一番早見さんの声を聞いたんじゃないかな(笑)。

早見:(笑)。

井内:監督より繰り返し聞いているんじゃないかと思うんですけど。一方では、音楽家として、どこか音楽だけで全てを表現せねば、と考えてしまう職業病みたいなところがあるんですね。

ミュージカル作品でも無い限り、台詞ってメロディーとして書けないことの方が多いんです。ですが、考え方を変えるとそれこそ早見さんと松岡さんがそこを演じてくださっているので、画面に描かれていない心情だったりフレーム外の景観を、お二人の演技に合わせて、丁寧に(音楽で)翻訳することに徹することが出来れば良いのだな、と。『ダンまちⅣ』はそれらの試みを丁寧に表現できたことが、個人的にすごく良かったなと思いますね。

フィルムスコアで書いたのは『ダンまちⅣ』1話のアバンぐらいしかないんですけれど、今回はそうしなくてもピタッとハマったなあという感触がありました。

(※フィルムスコア 完成した映像に合わせて楽曲を制作すること)

──最初におっしゃられていたように、スタッフの皆さんが同じ方向を見ているからこそですよね。

井内:ええ。本当に選曲も編集も素晴らしく、楽曲を書いた私本人が気付かないような使い方をしてくださっているので、すごく信頼できる現場だなと。特に『ダンまちⅣ』はそこがビタッとハマっているので、ここにきて相思相愛になった気がします(笑)。

 

 

──(笑)。第19話のエンディングはベルがリューの元に戻ってくるシーンで、ある種、英雄がもたらす希望が見えるようなエンディングでした。第20話を楽しみにされているファンの方に一言メッセージをいただければと思います。

早見:20話は厄災篇において必見。必ず見ていただきたい話数のひとつですね。ここの物語があるから、この後の流れに繋がっていくと思います。

19話ではベルくんがリューさんの英雄として、光みたいな存在として、リューさんの目に映りましたけれど、20話ではもうひとつ、リューさんとしては核となる部分の物語が描かれるので、ぜひぜひ、ぜひぜひ見ていただきたいです!

井内:僕の言いたいことをほぼ言われてしまったんですけど(笑)。

早見:(笑)。

井内:不思議とこれまでの『ダンまち』シリーズでは8話に重要なエピソードが来ることが多く、各々のスタッフがやたらと熱を入れてくるっていう、よくわからないお約束があってですね。厄災篇における“8話”がこの20話にあたるんですよ。

それならば音楽の方でも! と、ちょっと大掛かりな試みをしているので、そこを是非楽しみにしていただければなと思います。

──ありがとうございます。

 
[取材・文/太田友基]

インタビュー後編はこちら

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TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』作品情報


2023年1月5日(木)~
TOKYO MXほかにて放送

イントロダクション

悪夢は終わらない。
絶望は破滅を誘い、厄災は惨禍を招く。
ジャガーノートとの闘いのさなか、奈落に消えたベルとリュー。
行き着いた先は、全ての冒険者が恐れるダンジョンの深淵――『深層』。
満身創痍、孤立無援、迫り来る厄災の脅威。
迷宮決死行の渦中、五年前の後悔に苛まれる妖精はかつての仲間を追憶する。
一方、ベル不在のパーティの前に現れたのは、双頭の巨竜アンフィス・バエナ。
破壊の化身が吐き出す凶悪な炎流が全てを呑み込む。
希望も光明も失われた迷宮で、冒険者達が辿る運命は幕切れか、それとも……
これは少年と妖精が押し寄せる死に抗う、過酷に満ちた【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】――。

スタッフ

原作:大森藤ノ(GA 文庫/SB クリエイティブ刊)
キャラクター原案:ヤスダスズヒト
監督:橘 秀樹
シリーズ構成:大森藤ノ/白根秀樹
キャラクターデザイン:木本茂樹
美術監督:金 廷連(ムーンフラワー)
色彩設計:安藤智美
撮影監督:福世晋吾
編集:坪根健太郎(REAL-T)
音響監督:明田川 仁
音楽:井内啓二
オープニングテーマ:早見沙織「視紅」
エンディングテーマ:sajou no hana「切り傷」
プロデュース:EGG FIRM/SB クリエイティブ
アニメーション制作:J.C.STAFF

キャスト

ベル・クラネル:松岡禎丞
ヘスティア:水瀬いのり
リリルカ・アーデ:内田真礼
ヴェルフ・クロッゾ:細谷佳正
ヤマト・命:赤﨑千夏
サンジョウノ・春姫:千菅春香
カシマ・桜花:興津和幸
ヒタチ・千草:井口裕香
ダフネ・ラウロス:小若和郁那
カサンドラ・イリオン:真野あゆみ
アイシャ・ベルカ:渡辺明乃
リュー・リオン:早見沙織
アストレア:中原麻衣
アリーゼ・ローヴェル:花守ゆみり
ゴジョウノ・輝夜:千本木彩花
ライラ:諏訪彩花
ノイン・ユニック:河瀬茉希
ネーゼ・ランケット:泊明日菜
アスタ・ノックス:遠野ひかる
リャーナ・リーツ:香坂さき
セルティ・スロア:川口莉奈
イスカ・ブラ:広瀬ゆうき
マリュー・レアージュ:関根明良

公式サイト
公式ツイッター(@danmachi_anime)

 

(C)大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち4製作委員会
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