
アクションを考える時のキーワードは「攻略」「再現性」「制限」──スーツアクター、アクション監督として活躍する藤田慧さんインタビュー【スーツアクターという仕事 アクション監督編:連載 第5回】
「おもちゃを買って良かった」と思える番組
──おもちゃでも商品展開される変身アイテムや武器などの演出について意識されていることはありますか。
藤田:武部プロデューサー(武部直美さん)の言葉で感銘を受けたものがあって、「このおもちゃが欲しいって思う番組じゃなくて、おもちゃ買ってくれた人達が『おもちゃ買って良かった』って思える番組にしたい」って言っていて、それは心に留めています。
──作り手の皆さんがそういった意識で作品を作っていると、おもちゃを手にした子供たちや家族、作品のファンにとっては嬉しいですね。
藤田:『仮面ライダーギーツ』で言うと最強フォームのギーツⅨが、人気が出てありがたかったです。ギーツⅨの初登場回(38話 慕情 F:九尾の白狐!)が、すごく印象に残ったと言われることが多いです。あのシーンは杉原監督の功績が大きいのですが、全部採用したくなるくらい演出のアイデアをくれて。
ギーツⅨが指を当てて「しーっ」ってやると戦闘中に流れていたオープニングの曲が止まるシーンがあるんですが、そこは僕が「やりたい」と言ってやったんです。おもちゃで発売される武器の変形ギミックを見せたいなと思って。
印象的に残る瞬間が欲しいなと考えた時に「音だな」と思ったんです。銃が剣に変わるギミック自体は珍しくはないので、変形の音に集中させたいなと思ったんです。
戦っている中でOPの曲が流れているのですが、ただミュートになるんじゃつまらないなと思って。ギーツⅨが「しーっ」って指を立てて曲が止まるなら、主人公の英寿のキャラにも合っていると思いついたんです。実はあのシーンはおもちゃの変形ギミックから発想したシーンだったんです。
──あのシーンはおもちゃの変形ギミックから発想されていたんですね!浮世英寿のキャラにも合っていますよね。
藤田:番組とキャラクター性にハマると楽しいです。いかに役柄が表現されるかは演出で考えますね。そのために場面と小道具もあった方が良くて。『ギーツ』でこの路線で考えればいいんだって思った回があって。
12話(12話「謀略 III: スロット★フィーバー」)のギーツの単独のアクションの終わりに、鉢植えが落ちて、戦っているギーツが拾うって戻すシーンがあるんです。戦っている最中だけど、花が落ちたら拾う余裕がある。
そして、スカしているキャラなのにお花を助ける優しさも出せたんです。英寿が「強い、優しい、イケメン」ってキャラクター性がぎゅっと詰め込まれたシーンです。
「制限」があるからこそ、スリリングになる物語
──演出を考える上で、キャラクター性やアイテムなど考えなければならない要素がたくさんありますね。
藤田:たとえば学生時代、制服だとルールがあると思いますが、ルールがある中でのお洒落って楽しいと思うんです。制服の中にカラーシャツを着ようとか、スカートを短くしようみたいな。
アクションにもルールがあると楽しいと思うんです。弱点があったり、数回しか変身ができないといった「制限」があるとハラハラする。
──「制限」があるからこそ、ストーリーの展開が面白くなりますよね。
藤田:アニメで言うなら、ガンダムW(『新機動戦記ガンダムW』)でウイングガンダムのバスターライフルは3発しか撃てないとか、強いけど制限がありますよね。それがバスターライフルの良さじゃないですか。
ガンダムX(『機動新世紀ガンダムX』)のサテライトキャノンも物凄く威力があるのになかなか撃てない。撃てないからこそ、やっと撃てる時の良さがあるんですよね。
──ご自身の担当回が放送されたら、SNSでエゴサーチしますか?
藤田:作品名や関連ワードでエゴサはします。世間の評判とか数字は気にしています。その意⾒に全振りする訳ではないのですが「そう⾔う意⾒もあるよね」という感じで。
世間の反響、原宿で若者が着ているTシャツ
──世間の反響は大事ですよね。
藤田:原宿で若者が着ているTシャツのことをよく考えるんです。原宿で『MARVEL』や『呪術廻戦』のTシャツを着ている人がいても違和感なくお洒落だと思われるけれど、それが「仮面ライダー」だったらどう思われるんだろう。世間一般の評価は厳しいと思うんです。
たとえば街中で若者の着ている「marvel」や「アニメ」のT シャツの中に「仮⾯ライダ
ー」のTシャツも違和感なく混ざっていければ良いなって思います。
──特撮の作品が世間でもっと評価されて欲しいですね。
藤田:今年『仮⾯ライダーガヴ』のゴチゾウが社会現象になってくれるといいなと思っています。
ゴチゾウ可愛いでしょ。流⾏ってほしい。ゴチゾウと変⾝ベルトで遊びたくなる演出も杉原
監督と考えて撮影をしているのでゴチゾウだけじゃなくて変⾝ベルトも⼿に取ってほしい
です。
※ ゴチゾウ:『仮面ライダーガヴ』に登場する、主人公がお菓子を食べた分だけ生まれる小型モンスター。劇中では変身アイテムとしても使用される。
──お話を伺っていると、スキルの幅が広く必要とされて大変なお仕事ですよね。今後の撮影に向けての課題意識はありますか?
藤田:「低予算で労働環境が悪くて撮影時間が⻑い⽅がいい作品が撮れる」とはなってほしくないんです。「クリーンな撮影環境の⽅が良い作品を撮れるよね」ってなってほしい。
お世辞抜きで今の撮影現場はクリーンになったと思います。ただ、労働時間を抑えた結果、撮影に使える時間は減っているのが現状で、それでも納期、準備時間は例年通りです。
決してスケジュール的に余裕が増えた訳ではなくて、10年単位で⾒れば作品作りに使える時間はむしろ減っています。その中で先⼈達が守ってきた作品のクオリティは落としたくないし、加えて僕がやりたい演出もあるので、監督、縄⽥さん達、スタッフさんの⼿助けがあって何とか楽しくやれているという感じです。
時代の変化に合わせて僕⾃⾝も変化しないといけないし、作品作りの現場をより良い形にして⾏きたいですね。あと、いい作品を撮るにはお⾦をかけないといけないということは沢⼭の⼈に知ってほしいです!!!
──それはいろんなコンテンツの制作に言えますよね。前回の渡辺淳さんのインタビューでもアクション監督に補佐がいて欲しいと話されていました。
藤田:確かにアクション監督にも補佐がつくとういうのも1つの選択肢かもしれないですね。
スーツアクターが演じるからこそ、絵から出る熱量
──特撮ファンだけでなく、作品を見た人がキャラだけでなくスーツアクターを応援する楽しさが広がるといいなと思います。
藤田:アニメなら作画ミスでもない限り起きないことが⼈間が演じていると起こる。まっすぐ歩かなきゃいけないところでつまずいたり、テイクを重ねるごとに芝居が変わったり。
時には予定していない素敵な動きが撮れたりする。その偶然性をモニターで⾒届けられるのは幸せだなと思うんです。スーツアクターの存在が、画の熱量につながると思っています。
スーツアクターがやることに意味が出てくるといいなと思っています。絵からの熱量って絶対に出ると思うので、また一つの魅力になればいいなと思います。
──それが、スーツアクターさん達が演じる醍醐味ですよね。
藤田:思ってもいない芝居が現場で生まれるのはスーツアクターが演じる魅力だと思います。僕は「スーツアクター」を撮っている瞬間があるんです。
例えば「永徳さんだ!」って思えるパンチとか、「縄⽥さんだ!」と思える佇まいとか。作品の中でスーツアクターが歯車にならないように極力考えていて。スーツアクターとして「そこにいる」という存在感を大事にしています。
──スーツアクターを経験されているからこそ、アクション監督で活きることですね。このお仕事をやっていて良かったことはありますか?
藤田:この仕事をしていて良かったことは、やっぱり作品が完成した時が楽しい。撮影現場が好きな人もいますが、僕は作品が完成してカットが繋がって、音楽が入ったときがいいですね。Vコンテ出来た時も実は嬉しいんですが、ここで喜んだらダメだぞって自分に言い聞かせてます(笑)。
音楽家の佐橋さん(佐橋俊彦さん)がレコーディングする様子を見学させてもらった時、作品が出来上がっていく様子を目の当たりにして感動しましたね。曲が当てられて作品が出来上がる過程は本当に楽しいですね。それが放送されて人に届いた時も嬉しいです。
──最後にこれからご自身が目指されることを教えてください。
藤田:これからも素敵な作品にたくさん関わりたいですね。あと、この先⾃分が演出を考えるに当たって”普通でいい”って思える瞬間がいつか来るかもしれないけど、今は喉に引っかかるものがある⽅がいいかなって思っています。
まあ突き詰めて考えなくても「やりたい時にやりたいことやればいいじゃない」という感じです。その時々に感じた事を表現出来る⼈になりたいです。
──それはご自身だけでなく、後進のスーツアクターさん達にも言えることでしょうか。
藤田:というよりは20年前の自分へのアドバイスですかね。だから「やりたい時にやりたいことやればいいんじゃない」と。でもアクション監督やスーツアクターは必要なスキルや準備が多いので、急に思いついて明日からやれる仕事ではないですよ、とは言っておきます(笑)。
──今後の藤田さんの作品が楽しみですね!本日はありがとうございました!
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