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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。
マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中のみかわ絵子先生による大人気漫画『忘却バッテリー』。中学時代に“怪物バッテリー”として名を馳せた天才投手・清峰葉流火と捕手・要圭が、要が記憶喪失になったことをきっかけに野球部のない都立高校に入部し、かつて自分たちが挫折させた球児たちと再び野球に打ち込む日々を描いた高校野球漫画です。
ギャグ調に描かれる男子高校生たちの日常と野球に真剣に取り組むゆえにぶつかるシリアスな問題との絶妙なバランスが多くの読者の心を掴み、2024年4月にはアニメ第1期が放送され、第2期の制作も決定しています。また、主題歌となったMrs. GREEN APPLEの「ライラック」はその年のレコード大賞を受賞し、こちらも大きな話題となりました。
隔週木曜日はそんな『忘却バッテリー』の更新日! 2月6日には最新169話が公開されました。現在、小手指高校は地区王者である帝徳高校を下し、決勝戦で強豪校の氷河高校と対戦中。勝てば甲子園出場となる大事な試合ですが、要の主人格は眠ってしまい、もうひとつの人格“智将”が決勝戦に臨んでいます。
本稿ではSNSに寄せられた反響とともに、169話の内容の振り返りや考察をしていきたいと思います。
※本稿には、169話のネタバレが含まれますのでご注意ください。
おちゃらけた性格の主人格(ファンの愛称:恥将)と厳しい野球の世界で作られた人格・智将。少し前までは智将の方が高い野球スキルを持っていましたが、現在は練習と経験を重ねた主人格が実力を上回り、清峰の魔球・スプリットは主人格しか捕球できません。
「起きろアホ!!」「勝つんだろ‼ いい加減にしろよ‼」となかなか起きない主人格に心の中で悪態をつきながら必死にプレーする智将でしたが、ふと気付きます。主人格があまりにも静かすぎる、と。
要は幼い頃からアホで、野球によって切れ者の智将となったものの、精神的ストレスが限界に達したため、智将としての記憶が失われ、元々のアホでおちゃらけた要が出てきた、という話だったはず。さらに智将は、主人格が自分を超えたためいずれ消えてしまうだろうとすら話していました。しかし、ここにきて要のキャラクターの根幹を揺るがす展開が提示されたのです。
「えっまさか恥将が消えるの…?」「もしかして智将の方が主人格の可能性ある?」「恥将も智将も消えてほしくないよぉ」「どっちかなんて選べないよ」と思わぬ展開に騒然とする読者。ファンは明るく優しくムードメーカーな要も、格好良くて努力家な要もどちらも大好きであることが伝わってきます。
一方で「どっちも圭ちゃんなんだよな」というコメントや「人格統合のフラグなんじゃない?」「恥将のいいところを取り込んで要圭が成長するんじゃない?」と、これを好転の兆しだと捉える読者も。冷静な判断力とカリスマ性を持つ智将とみんなから愛される優しいキャラクターの恥将がいっしょになれば向かうところ敵なしではないでしょうか。筆者も、恥将も智将も大好きなので2人が“要圭”として共存する未来を願ってやみません。
不穏な空気漂う中、覚悟を決めた智将・要圭に読者の胸は熱く燃え上がりました。天才投手・清峰の豪速球も強豪・氷河打線相手ではすぐに捕えられ、試合はピンチの状況に。スプリットを投げるべき局面であるとわかってはいるものの、自分の捕球ミスで更なるピンチを招いてしまう事を恐れ、要はなかなか投げさせる決心がつきません。どうにかスプリットなしで配球を組み立てようとするも、氷河打線はどんどん出塁してしまいます。
窮地に立たされた要は、自分を信じて疑わずマウンドに立つ清峰の視線に背中を押され、ついにスプリットを投げさせることを決意。しかし、鋭く落ちるその球を要はキャッチすることはできませんでした。幸いピンチには繋がらなかったものの、球を取り損ねるシーンには読んでいるこちらも戦慄してしまいました……。
改めてスプリットの捕球ができないと自覚した要は四番・巻田を前に、再びスプリットを投げさせるかどうか葛藤。極限まで苦悩しきった智将は、以前に主人格が「打倒智将 要 圭だ」と自分を超えることを目標にしていたことを回想します。さらにダメ押しのようなタイミングで、バッターボックスに入った巻田が「俺にもスプリット投げてくれよ」と一言。この2人の発言が智将の心に火をつけたのです。
「どいつもこいつも舐めやがって 俺は“智将”要 圭だぞ」「捕れねェなら捕れるまでやるだけだ」とのモノローグとともに覚悟の決まった表情でキャッチャーミットを構える姿で169話は幕を閉じます。
この姿に読者からは「智将、お前も立派な主人公だよ」「圭様~~~~!!!!」「捕れる!智将なら絶対捕れる!!」「そうだよ!できるまでやる!努力の人なんだよ智将は!!」「見開きの智将最高にかっけぇ」「智将がんばれ~!」と嵐のような大声援! 「智将がこうなったら絶対小手指勝つっしょ!」「こっからの試合展開楽しみ過ぎる」と熱い試合展開への期待も高まっています。甲子園出場をかけた試合の行方やいかに……!
葛藤する要の姿や試合展開と合わせて注目されたのはバッテリーの関係性の変化です。これまで自分を導いてくれる要に全幅の信頼を置き、思考さえも託していい球を投げることだけに全力を尽くしていた清峰でしたが、記憶喪失となった要やチームメイトたちとともに野球をする中で情緒が育ち、自分の意思を持つようになりました。
前話である168話では、氷河のエース・桐島の投球を見て闘志に火が付き、自分も全力で戦いたい、スプリットを投げたい、と初めて要に対して自分の意見を持ったことに気が付きます。しかし、「俺が思い付いたことなんて圭はとっくに考え終わってる」と意見を伝えることまではせず、これまで通り要を信頼して投げることに。
一方の要は、清峰の想像通り、スプリットを必要とする試合であることも、清峰がスプリットを投げたがっていることもわかっていましたが、自分の実力不足のため投げさせることができずに葛藤。苦悶する要をマウンドから見つめる清峰の瞳は、野球を始めたころと変わらず真っ直ぐに信じたまま。身に余る信頼を寄せられるからこそ、要は苦しいのだとわかります。読者からは「なんでこの漫画はこんなに絶望の解像度が高いんだ」という声も。
智将がスプリットを捕球できないことに清峰が気付いているかはわかりません。しかし、現時点で捕球できなかったとしても、清峰は「圭なら必ずできる(できるようになる)」と、そこまで含めて要を信じているのではないかと私は感じました。
「圭の構えたところに最高の球を投げる」というスタイルは一見すると以前と何ら変わりないのですが、全く思考していなかった過去と、自分の考えを持ったうえであえて口には出さずに信じている現在とでは天と地ほどの差があるのではないでしょうか。きっと清峰の瞳に彼の意思や想いが出ているからこそ、要に“意地でもスプリットを捕る”という覚悟を決めさせたのだと思います。
天才投手の信頼を糧に、“智将”要圭はどんな成長を遂げるのでしょうか。最後に私も応援させてください! 圭なら“絶対”捕れる!! がんばれー!!
[第169話]忘却バッテリー - みかわ絵子 | 少年ジャンプ+
1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。