
抱えているものがヘビーだったとしても、それを“ドラマチック”に脚色しない。内面を表に出しすぎないからこその難しさとは|『花は咲く、修羅の如く』秋山松雪役・山下誠一郎さんインタビュー【連載第5回】
2025年1月7日(火)より日本テレビ・BS日テレほかにて放送中のTVアニメ『花は咲く、修羅の如く』(以下、『花修羅』)。
本作は、人口600人の小さな島・十鳴島に住む少女・春山花奈が、高校で放送部に入り、仲間と共に大好きな「朗読」に向き合う物語。『響け!ユーフォニアム』などで知られる武田綾乃先生がつむぐ高校生の心の成長を、新鋭作家・むっしゅ先生が繊細な筆致で描く青春ストーリーとなっています。
アニメイトタイムズでは、各キャラクターにスポットが当たるエピソードの収録後にキャストインタビューを実施。
第6話と第7話は、これまであまり内面を見せていなかった秋山松雪の家庭の事情が語られるエピソード。彼の本心が垣間見られた劇中ドラマのシーンなど、秋山を演じる上で考えていたことを、山下誠一郎さんにたっぷり語っていただきました。
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声優やナレーターのお仕事に通ずる描写が多い作品。原作を読んで、初心を思い出した
──原作を読まれたときの印象をお聞かせください。
山下誠一郎さん(以下、山下):あの有名な武田綾乃先生が原作を書かれているのはもちろんですが、題材が放送部ということで、声優として色々考えながら原作を読ませていただきました。
もちろん部活なので、声優のお仕事とはまたちょっと違うのですが、“声を使って表現する”という意味では共通していますし、通じるところもたくさんあるんですよね。なので読んでいて、基礎に立ち返るというか、初心を思い出す感じになったのは、この仕事をしているからこそなんだろうなと思います。
そもそも「放送部」を題材にした作品って、他になかなかないですし、胸が締め付けられたり、感動したり、共感するところが多かったので、面白かったです。
──放送部というものに対しては、どんな印象を持たれていましたか?
山下:学生時代にはまったく縁がなくて、それこそ「学校にあったのかな?」というくらいなんです。僕は高校時代に声優というものを深く知るきっかけがあって、そこで自分なりに勉強をしたり考えたりしたんですが、実践的に、滑舌や発声の練習をしたことはなかったので、こういう世界もあるんだなと思いました。
──学校によって、放送部の活動もだいぶ違いますからね。
山下:そうですよね。島袋美由利さん(薄頼瑞希役)は、実際に放送部で「Nコン」にも出られていたそうですし、他にも声優さんで放送部出身の方がいるのは知っているので、遠からずな世界…こうやってアニメで放送部のことを知られるのはいいことですよね。
中学生くらいの方が、原作を読んだりアニメを観てくれたら、高校の部活の選択肢のひとつになったりするんじゃないかな……。
──しかもその先に、アナウンサーや声優、その他の職業にも繋がっていきそうですしね。
山下:選択肢の幅は結構ありますよね。発声がうまくできて困ることはないでしょうし。
──アナウンス部門は、アナウンス原稿まで作っていますから。第6話で夏江杏がアナウンス原稿について、「一文が長い」と言っていましたが、一文を短く、わかりやすくまとめるのは、ライターとしても、とても大事なスキルだったりします。
山下:わかります! 僕もコラムを書いていたので。そのほかにも、朗読とアナウンスの違いとか、吉祥寺博美先生が教えてくれることが、僕自身の学びになっていたりするんです。僕は声優とは別に、ナレーターのお仕事もやっているので。
──それは、テレビ番組に付けるナレーションのことですか?
山下:いえ、それとは別の、自分の名前も出ない、企業の内部で流すPVに声を当てたりする仕事で、デビューからずっとやってきているんです。その仕事のときは、声優とはまた別のスイッチがあるんですが、演じることと読むことを同時にやってきたからこそ、アナウンスと朗読の違いもわかるところが多くて。「こういうことって忘れがちだけど、大事だよな」ってあらためて思いました。
自分の内面を表に出しすぎない、秋山松雪を演じる難しさ
──秋山松雪は、オーディションで選ばれたのですか?
山下:実はオーディションでは、冬賀と箱山を受けていたんです。秋山はオーディション対象キャラではなかったのですが、結果「秋山」に決まりました。
花奈役の藤寺美徳さんと瑞希役の島袋さんのキャスト発表がされたときは、僕はもう落ちたと思っていたので、決まったときは本当に嬉しかったです。この仕事をしていて、演じたい役や出演したい作品すべてに出られることってないので、自分が心惹かれた作品に関われるということは、すごく嬉しいことでした。
──秋山は、どんなキャラクターだと感じましたか?
山下:最初は、第2話のように「まぁまぁ」って、アグレッシブな杏ちゃんと冬賀をなだめるようなポジションで、空気が読めるし、俯瞰で見ることができるタイプだと思いました。自分が何かの起点にならないように、バランスを保つ役割というか。
物語が進む中で、家族との悩みを抱えていることがわかるんですが、それを表立って出すことがない子だったので、シンプルなように見えて、すごく難しい役だなって思いました。
──影が出すぎても、という感じではありますよね。
山下:そうですね。でも抱えている問題自体はなかなかに大きなことなんです。家が窮屈で、いろいろ縛られている中、それでもちゃんとやってきたというのは。しかもそれを飛び越えて、自分の道を選んだ姉を間近で見ていて。彼女への憧れなのか嫉妬なのか、何かしらの感情がある。それをドラマチックにしないというのが結構難しくて……。
そこに関して、現場でいただいた「自分からドラマにしていかない」というディレクションが印象的でした。すごく刺さる言葉をキャラクターたちは言ってくれるんですが、それを自分からは演出していかないということを大事にしていたんです。言ってしまえば、彼らは普通の高校生なので、それぞれ特別な才能を持ってはいるけれど、必要以上にセリフは誇張しないんです。それは、自然な青春の空気感をこの作品で表現する上で、大事なルールであり、僕にとっては難しいところでもありました。たとえば、1話の中に設計図があって、どこが一番盛り上がって、どこで笑って、どこで泣くのか、いろんなことを考えながら台本を読むんですが、そこにとらわれすぎないということなので。
中でも松雪は、ほかのキャラクターよりも分かりづらくて、そもそも感情を外に出したり、表現しないところがあるので、ついつい自分からドラマチックに脚色しようとしてしまうんですよね。特に第6話・第7話は、その塩梅が難しかったので、印象に残っています。
──先ほどのお話にあった通り、抱えているものが結構ヘビーなので、つい出したくなりますよね。
山下:第6話で松雪が花奈ちゃんにインタビューをするんですが、そこでぽろっと自分の家庭のことを漏らすんです。家族のことを匂わせるけれど、“それに対してどう思っているのか”というところはあまり出さない。その絶妙な出し加減が難しくて、「秋山、恐ろしい子……」って感じでした(笑)。
藤寺さんに、掛け合いを何度も付き合わせてしまったので、申し訳なかったなと思います。その日ばかりは、眠れない夜を過ごしましたね……。すぐに対応できなかったことを反省しつつ、でもそうやって考えさせられる現場にいられるって、幸運なことだよなって思いながら、寝ました。
──寝たんですね(笑)。
山下:結局寝ました(笑)。でも、今の自分だからこそできる役に出会えたという意味では誇らしいです。こういった役をたくさん演じてきたわけではなかったので、本当に挑戦でした。
──特に、第6話と第7話は物語的にもすごく面白いですから。
山下:アフレコの休憩時間に、姉(弧ノ夜野終里)役の小清水亜美さんがスタッフさんと、絵に引っ張られすぎずに掛け合いを重視したほうがいいよね、という話をされていたんです。
やはり漫画とアニメーションの違いはあって、まず情報量に差があるんです。アニメだと、原作の順番を入れ替えたり、漫画のセリフやモノローグを絵で説明できるからカットしていたり、30分の作品として、観やすいようにしています。でも、絵が完全にできていない中でアフレコをしなければならないので、どこまで(声の)情報量が必要なのか、絵に頼るのかっていう部分もあります。だからこそ、「絵がこうなっているから」ではなく、横にいる人、相手とのやり取りを大事にしたほうがいい、ということだったので、すごく柔軟性が必要な現場だなと思いました。
──それは、第7話での姉弟のやり取りのシーンですか?
山下:そうです。テストのテイクでも成立していたし、僕としては心地よく掛け合いをさせていただいたんですが、(小清水さんは)姉の心情面を整理されていたんです。5年間弟と会っていなかったところのラグ。その5年間を経て、お互いどう思っているのかという緊張感。そこで会ったときに、どういう感じになるのか。姉的に、松雪に対して謝りたいと思っているのかどうなのか、そういった姉の内面をすり合わせていました。そこで僕も、「松雪はこう思ってるだろうから」っていう話もして……。
──結果的にはどうなったのですか?
山下:松雪は、姉がどう来るかわからないので不安だったけれど、いざ会ってみたら、意外と朗らかにやり取りができるようになったという感じだったので、そのあたりのすり合わせをする感じでした。その前のAパートの劇中ドラマのラストシーンで、気持ちの上では5年前に戻っていた感じだったのかな、と思うので。
ポップでかわいらしい絵柄とは裏腹に、実は人間的なやり取りが多い作品なので、掛け合いで、相手の言葉を受けて気持ちが揺らぐとか、その場でリアルに感じたことを大事に演じたほうが、この作品はいいんだと思いました。