
『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』テクニカル隊長ブーケ様の組織行動から考察するリーダーシップの諸相~ブライダンの目的達成の鍵を握る幹部のリーダー力~
『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』に登場する敵組織「ブライダン」。幹部である特攻隊長ファイヤキャンドルとテクニカル隊長ブーケはその魅力的な人物描写によって、多くの視聴者から注目と関心を集めています。
ブライダンは「不完全な人間世界を完全なものに生成し直すこと」を目的に、絶対的な存在である女王テガジューンを頂点として、ファイヤキャンドル、ブーケ、Mr.シャイニングナイフ&Mrs.スイートケークの3人の幹部が各部隊を率いており、各部隊には小隊長的な金アーイーの下、多数の銀アーイー達が編成されている組織だと思われます。
目的を達成するために、組織の力を最大限に引き出すには、3人の幹部によるリーダーシップが重要な鍵を握っていると言えるでしょう。(クオンは組織の外、エージェント的な立場で暗躍していると推察します)
普段、人事領域の仕事に従事している筆者にとって、物語に登場する組織の在り方やリーダーの振る舞いには、職業的な興味と関心を抱かずにはいられません。ひと昔前には、ファイヤキャンドル隊長のように、自らが先頭に立ち、強い意志と情熱でメンバーを牽引するリーダーが注目されてきました。
しかしながら、VUCA(Volatility変動性, Uncertainty不確実性, Complexity複雑性, Ambiguity曖昧性)と呼ばれる現代社会においては、リーダーのあり方も多様化しており、柔軟性や共感力を重視するリーダーシップスタイルが求められるようになっています。
ブライダンにとっては、自分たちの世界であるノーワンワールドとは違う、不完全な人間社会を舞台に活動しなくてはならず、敵対するゴジュウジャーだけでなくユニバース戦士という不確定要素も加わり、よりVUCAなシチュエーションで目的を達成しなくてはなりません。
本稿は、テクニカル隊長ブーケ様の作品中における言動を手がかりに、リーダーシップ哲学やリーダーシップ理論と照らし合わせながら、彼女のリーダーシップスタイルを考察することで、ブライダンの組織運営ひいては目的の達成に貢献することを目指します。
「心理的安全性」の高い組織
ブーケ様のリーダーシップを考察する前に押さえておきたいのが、彼女の属している「ブライダン」という組織は「心理的安全性」が高く保たれているということです。
「心理的安全性」は、1999年にハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、簡単にいうと「対人リスクを恐れずに自分の意見や感情を率直に表明できる環境」を指します。
言葉のイメージから誤解をされることもありますが、対立がない、仲の良さや心地良さを指す概念ではありません。不利益を受けないことが担保されていることで、厳しい指摘や反論であっても率直に意見し合うことができ、組織内での学習・創造・協働を促進することができる状態のことを指します。Google社が行った「プロジェクト・アリストテレス」においては、心理的安全性こそが最も効果的なチームをつくる鍵であることが、科学的に証明されています。
さてここで、ブライダンにおいてはどうでしょう。第13話、陸王祭壇の前で、ブーケ様が金アーイーであるチョウ・シンセーと、推しの百夜陸王についてフレンドリーなディスカッションを行うなど、ブライダンにおいては幹部と部下が率直に話をしている様子がたびたび見られています。
また、ブーケ様が上司である女王テガジューンに指摘や反論するシーンも何度か出てきます。第10話で、往歳巡に妖しいゴーグルをかけて洗脳し、人格を失わせて新たな戦力にしようとする女王様に「こんなやり方は……!」と疑問を呈していましたし、第15話では、本来必要であるすべての指輪集めと運命の乗り手探しが不十分なうちに儀式を行おうとする女王様に「時期尚早なのでは・・・」と進言しています。第27話では、不完全で醜い存在である人間、百夜陸王への自身の愛を否定する女王様に対して、愛をわかっていないのは女王様の方だと反論しています。
一方で組織内において絶対的な権力を持つ女王テガジューンは、その時々では、自分に逆らうブーケ様に怒りを見せることはありますが、それが後に引いて彼女を疎んでいるような様子はありません。第28話で、反論したブーケ様に罰を下すことなく寛大な心で許し、ブーケの人間に対する真っすぐな愛も受け入れています。また、第17話では、進言を受け入れずに世界の再生成に失敗した自らの非を認めてブーケ様に謝っており、そういったトップの姿勢が組織の心理的安全性に大きな影響を与えていると考えられます。
次項より、ブライダンという組織が持つ「心理的安全性」への相互作用も踏まえつつ、ブーケ様のリーダーシップスタイルを考察していきます。





































