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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の漫画『銀青(ぎんせい)のプルースト』(著・えもふう先生)。2025年4月より連載がスタートし、現在コミックス2巻まで発売されています。
本作は、経営者の父を持ち裕福な家庭で愛されて育った高校生の女の子・和希と、不良高校に通う奔放な女の子・萌花が出会い、関係を築いていく物語です。
筆者は連載開始から本作を楽しんでいるのですが、生まれ育った環境も、性格も、価値観も、何もかもが違う2人の女の子が出会い、少しずつ心を通わせ、互いに成長していく姿に、何度も心が温まる思いがしており、「少年ジャンプ+」の中でもトップクラスで好きな作品です。
そこで、そんな『銀青のプルースト』をもっと多くの方に知っていただきたく、その魅力をお伝えしていきたいと思います。正反対な和希と萌花だからこそ紡がれる物語にぜひ触れてみてください。
本作の主人公である和希は、丘の上にあるお嬢様校・豊薫女学院に通う高校生。父は町の再開発を行う大企業「AZAMI」グループの社長で、一人娘である和希は両親からの愛を一身に受けて育ってきました。
とても真面目で素直な和希は、真面目過ぎるがゆえに学校では少し浮いており、友達と呼べる同級生はいないようです。それでも、この町の誰もが知る企業の社長令嬢であるため、誰も邪険にすることはありません。
恋愛にも興味はあるものの、純粋な彼女は何も経験がなく、今はただただ恋愛に憧れを抱くばかりの女の子です。
萌花は和希と同じ町の不良高校に通う高校生。お手本のようにかっちりと制服を着こむ和希に対して胸元が見えるほどシャツのボタンを開け、下着が見えてしまうほど短いスカートを履いています。
同じ町に住んではいるものの、治安が悪いと言われている地域に家があり、学校をさぼったり、夜の公園で一人寝転がったりと奔放に暮らす萌花。掴みどころがない彼女の言動の端々から感じられるのは、和希とは正反対の環境で育ってきたのだろうということ。
儚さや憂いをまとい、へらへらと笑う萌花。彼女はどんな過去を背負っているのでしょうか……。
同じ町に住んでいながら違う世界の住人だった2人。ある日和希が一人で海辺を歩いていたところ、彼氏といっしょだった萌花と出会います。目が合った和希に絡んだ萌花は、なんと見せつけるように和希の目の前で彼氏とキス。
恋愛経験ゼロの和希は生々しい口づけを目の当たりにしてしまい、パニック状態で家に逃げ帰ります。しかし、帰宅してからも、翌日になってからも、そのことが頭から離れません。
その数日後、図書館からの帰宅中、和希は夜の公園で一人寝転ぶ萌花と偶然再会を果たします。初めてお互いの名前を知り、落ち着いて話をする中で、自分でも気が付かないうちに萌花に惹かれていく和希と、彼女の純粋さに心和ませる萌花。
こうして違う世界に住んでいた彼女たちの世界が交わり始めるのでした。
新連載「銀青のプルースト」
— 少年ジャンプ+ (@shonenjump_plus) April 25, 2025
本日連載開始!
丘の上のお嬢様学校に通う和希。
優等生そのものの生活を送っていたある日、不良高校に通う奔放な萌花と出会い…
潮風香る街で始まる、
上質なガールミーツガールです!#銀青のプルースト#えもふうhttps://t.co/FADZZoF3vE pic.twitter.com/EXqYE84xjM
綺麗な世界、優しい世界だけを見て育ってきた和希。高校生という若さゆえか、それ以外の世界があることを想像すらしていないようで、治安の悪い地域に住む萌花に「どうしてこんな所に住んでるの?」と訊ねたり、大学の学費を「家族が協力するものだから心配する必要ない」と言い切ったりと、住んでる世界が全く違うことを悪気なく見せつけてしまいます。
萌花には住む場所を選ぶ権利などなく、当然のように学費を工面する余裕などありません。罪深いまでの世間知らずっぷりを見せる和希ですが、そのようにスレていない彼女だからこそ萌花を癒すことができているのもまた事実。
例えば、2人が出会ったばかりのときのこと。萌花は海辺でキスしていた彼氏に浮気されて振られたことを何でもないことのように和希に打ち明けました。
内心傷付いていながらも平気なふりをする萌花に和希は「貴女はすごく綺麗なひと…だから すぐにお相手が見つかる…と思う…から 落ち込まないで…」と慎重に言葉を選び、心からの励ましの言葉をかけます。
それを聞いてそれまでのヘラヘラとした笑い顔ではなく本当に嬉しそうな顔を見せる萌花。彼女の交友関係から察するに、そんな言葉をかけてくれるような人は周囲にいないのではないかと思います。
いっしょにいればいるほど、育ってきた環境の違いをまざまざと見せつけられる萌花。それでも和希から離れないことこそ、純粋な和希の持つ温かさが彼女を癒している証拠です。
己の無知さで無自覚に萌花に失礼な言動を取ってしまう和希ですが、萌花は決して言い返したり怒ったりすることはありません。それは彼女の優しさによるものである一方で、その生い立ちから他者に何かを求めようとしないためであり、自分のパーソナルな部分に踏み込んでほしくない思いもあるでしょう。
ところが、交流を重ね、和希が大切な友達になっていくにつれて、辛い過去を含めてもっと自分のことを知ってほしいと思うように。
しかし、萌花は和希には想像もできないような自分の過去を知ったとき彼女がどう思うのか、引いてしまわないかという不安も覚えており、打ち明けることを躊躇します。
とはいえ、萌花が自分の生い立ちを打ち明けないままでは、家庭環境が違いすぎる彼女たちが真に分かり合うことは難しく、2人の間に生まれる亀裂はどんどん大きくなるばかり。
そしてついに大きなすれ違いが起きてしまったことをきっかけに、萌花は自分の過去を打ち明けることに。萌花の言葉を受け止めた和希の反応や返した言葉はぜひご自身の目で確かめていただきたいです。
世間知らずな温室育ちのお嬢様である和希ですが、ただの箱入り娘というわけではありません。
萌花が元彼に暴力を振るわれているところを見つけて、怖がりながらも助けに入る勇気や正義感を持っており、自分が間違っていれば認めて謝ることができる素直さや傷付いた萌花に心から寄り添うことができる優しさも彼女の魅力です。
和希の家は裕福なだけではなく、家族仲も非常に良好。彼女を見ていると、愛情で満たされて育ったからこそ友達の萌花にも純度の高い愛情をあげられるのだと感じます。
また、世間知らずだった和希は萌花と友達になったことで、自分の知らない世界を知るようになり、その価値観も変化。萌花と出会うまでは父が行う町の再開発を良いことだと信じて疑いませんでしたが、変わりゆく町の犠牲になる人々を知り、変わっていく町に寂しさを覚えるようになっていきます。
将来は父の会社を継ぐ可能性が非常に高い和希。萌花との出会いで広い世間を知ったことはきっと彼女の大きな財産になることでしょう。
萌花と出会ったばかりの頃の和希は、初対面でも遠慮なく肩を組んだり、肩に顔を乗せてきたりと、何かと距離の近い萌花にドキドキしています。
私はそれを過剰な反応だと感じていたのですが、学校で親しい友人がいない和希は、家族以外でこんな距離感で人と付き合ったことがなく、ゆえに同性の萌花相手でも至近距離で感じる人肌や香りに気持ちが高ぶっていたのだと気付きました。
一方の萌花は、友達のような人物は出てくるものの、実際は萌花の彼氏の浮気相手であり、とても本当の友達と呼べる関係ではありません。自分を心から思いやってくれる友達は和希が初めてなのです。
そうしてかけがえのない親友となった2人はいっしょに過ごす中で互いに変化をもたらしており、和希は以前よりも雰囲気が柔らかくなり、学校でもクラスメイトとの交流が増えていきます。
一方、辛い生い立ちから感情が麻痺してしまっているところのある萌花は、素直に感情を表現する和希といっしょに過ごすことで、少しずつですが以前よりも感情が豊かになったようです。
重い描写も登場する本作ですが、微笑ましい2人のやりとりが読者を癒してくれるため、シリアスなシーンも受け止めることができるのだと感じています。
先日11月8日に最終話が掲載されると発表された本作。ファンからは惜しむ声が多数聞かれています。現在公開されている話数は全23話で、最終話まで含めると全25話の物語となる見込みです。
育った環境が正反対の和希と萌花が他人からかけがえのない親友へと静かに変化していく物語は、読者の心をじんわりと優しく温めてくれます。「少年ジャンプ+」では初回全話無料で読むことができますので、海辺の町で紡がれる和希と萌花の物語を一人でも多くの方に読んでいただけると嬉しいです。

1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。
