
2ndアルバム『LANDERBLUE』に刻んだ“25年の軌跡”と“お守り”のような11曲――楠木ともりさんが語る創作の現在地と、声優として迎えた過渡期
リスペクトするAAAMYYY提供の「浮遊」、制作中に感じた共通点
──その「twelve」ですが、語り口が御伽噺っぽいと思っていたら、セルフライナーノーツにもそう書いてありました。
楠木:1曲目なので、オーバーチュアみたいなポジションの曲で、アルバムの世界に誘ってくれる、もしくはそこから現実世界に引き戻してくれる境界みたいな歌にしたくて作りました。このアルバムって11曲入りなんですけど、この曲を12曲目としても聴いてもらうということを推奨したくて。アルバムが回る、巡る、もしくはスッと現実に戻ってこれる、そんなことをイメージしているんです。
──だからこのタイトルなんですね。12月生まれだからだけではなく。
楠木:実はまだ仕掛けがあって、歌詞が全部12音で区切られているんですよ。
──それだと、メロディに変化をつけるのが難しくないですか?
楠木:でもそこが楽しかったです。同じ文字数の歌詞に、メロディで変化をつけていくのが。
──楠木さんのライブの始まりは、アンビエントな感じで始まって、その世界に入っていく印象が強いのですが、このアルバムも似た印象を持ちました。それは、ライブのオープニングSEを手掛けているarabesque Choche(Chouchou)さんがアレンジをしているからというのもありますよね。この曲は、どんなお願いをしたのですか?
楠木:ゲーム音楽っぽくしたいというのはお伝えしていて、『ゼルダの伝説』みたいな、異国感のあるテイストにしたいと。あと、一度聴いて満足するのではなく、何度聴いてもストレスがない曲にしたくて、構成も平歌とサビがあるポップスの形にとらわれず、メリハリがないようである、あるようでないみたいな感じを出してくださいと、無理なお願いをしました(笑)。
──異国感はありつつも、歌とすごく一体化しているというか。楠木さんの歌に寄り添っている感じがしました。
楠木:私が仮歌を送って、パーカッションにこだわりがあったので、それも入れていたんです。そこからもう少し詳しく話を聞きたいからと、リモートで打ち合わせをしたんですけど、楽器はたくさん使われているみたいで、最後まで音の配置を調整していただきました。本当に、世界にグッと入り込める曲にしてくださって嬉しかったです。
──続く「浮遊」は、アルバムの新曲では唯一の提供してもらった楽曲になります。AAAMYYYさんの「愛のため」という曲が特に好きだと発言されていましたが、音楽的にも、すごく親和性があるアーティストだと思いました。
楠木:すごく影響は受けていると思います。だからこそ、いつかお願いしたいとずっと思っていたんですけど、AAAMYYYさんは世界観が独特だというのと、楽器構成もシンセがメインなので、頼むのならアルバムのタイミングだと思っていたんです。まだ他の曲を書く前ではあったんですけど、今回のアルバムでお願いしたらいいかもと思ってお願いをし、そこから他の曲のバランスを考えていきました。
──どんなテーマで書いてもらったのですか?
楠木:AAAMYYYさんの純度100%の世界観を浴びたいと思っていたので、本当は何も言いたくなくて、アルバムのコンセプトを話したくらいだったんです。でも、私に提供をするのならば、何かしら私の中にある景色とか、浮かんだ言葉があったほうがいいということで、そこから言葉とイメージにある写真の画像をお送りしました。その言葉の中に「浮遊」というのがあったので、そのあたりからイメージを膨らませてくださったと思います。それに画像から曲を書くって、私もそうだったので、同じ思考を持っている方と出会えたことが嬉しかったです。
──言葉って、漠然と浮かんだものを送ったのですか?
楠木:最近の自分とか、日々の気持ちと重なる言葉を送ってくださいということだったので、いくつかピックアップして送りました。画像に関しては、少しダークさがあるけど美しい、みたいな写真を送っていたんです。
──すごく良い曲が届きましたよね。
楠木:もう最高でした! 仮歌もAAAMYYYさんだったから、ファン心理としては、そのまま出してほしいという気持ちではあったんですけど、どうにか自分のものにできるようにと考えました。AAAMYYYさんも優しい方で、柔軟に対応してくださって、レコーディングだけではなく、ミックスも一緒にやらせていただきました。私から何かを言うこともないかな?と思ったんですけど、私が「ちょっと、こういうのってどうですか?」とお伝えしたら、「それ、めっちゃいい!」と言って採用してくださったりして、だんだん共感しあって、「ここの長さ、もうちょいですよね!」とか、通じ合うものがあったので、似た気持ちや感性があるのかもと思えて、それも嬉しかったです。
──コーラスも素敵ですよね。
楠木:コーラスの構成が意味わからなすぎて驚きました(笑)。4〜5声重ねたところは全部バラバラの動きをしているから、これで合っているのかな?と思いながら1本ずつ録っていったんです。でも全部合わさったらすごくきれいで、衝撃でした。メインのラインがわからないからこそ、ゾワッとする広がりがあったんですよね。
──ウィスパーな歌い方は、楠木さんの魅力ではありますけど、そこもAAAMYYYさんの歌い方を参考にしたりもしたのですか?
楠木:それはありましたね。AAAMYYYさんの歌い方って独特で、ダイナミクスと音程の移り変わりをパキッとさせないんですよ。ずっとふわ〜って動いていくのが、ゾクッとする感じになっているんです。音が動いている間にある一瞬の不協和音みたいな感じなんですけど、その一瞬を作ることが大事なんだなと思って、なるべくパキッとさせず、柔らかくなるように歌っていきました。でも、モノマネにはならないようにはしていたので、自分のウィスパーな歌い方も磨いてもらった気がします。
──良いヘッドフォンで聴くと、結構声がダイレクトに響いてきますよね。
楠木:脳みそが溶けそうになりますよね(笑)。こんなにふわふわしているのに、リバーブとかディレイといった空間系のエフェクトはあまりかけていないんですよ。結構ドライなボーカルにあえてするというのがAAAMYYYさんのこだわりで、それがあるからすごく隣で歌われている感じがするんです。音量が大きいというわけではないんですけど、それがボーカルの主張になっている感じがしたので、そのあたりのミックスの仕方は勉強になりました。
──この曲には、〈月の夜〉というワードが出てくるので、次の「シンゲツ」にうまく繋がるし、声質的なところで「シンゲツ」の入りとも繋がっている感じがしたので、曲順が絶妙でした。
楠木:私もすごくいい流れができたと思っています。「シンゲツ」もシンセ混じりなバンドサウンドなので、「浮遊」ときれいに繋がるんですよ。
自分の中にあった“受容”というテーマ、曲で表現した「turquoise blue」
──続いての新曲は「優等生」ですが、これは楠木さんが以前よく話されていたような内容なのかな?思いました。
楠木:確かに私を煮詰めたような曲ですよね(笑)。自分のもやもやを紐解いた曲になっていて、曲のターゲットを絞るとなってから、どういうところが共感してもらえなくてもやもやしていたのかを考えていたんです。要するに、ヤンキーは更生したら褒められるけど、はなから良い子は褒められないということなんですけど、学生時代の私は、それにすごくもやもやしていたんですね(笑)。中学生まではだいぶ優等生していたんですけど、それが本来の自分だったのかというと、そうでもなくて、周りの期待に応えたり、周りに愛されたくて優等生をしていた気がするんです。
でも結果、優等生でいようとする自分の愛ははらわれていくし、愛も受け取れない。それを当たり前とされて苦しかったんですよね。腹が立つというより悲しかった。でも、それを言うと、なにそれ自慢?みたいな感じで、悩みなのに、悩みとして受け取ってもらえなかったり……。それに対するもやもやがかなりあったんです。
──すごくわかります! 私もこれをやってるよと言うと、なぜか自慢扱いされますね(笑)。優等生なんだから成績が良くても当たり前みたいな。
楠木:きっとそれに共感をしてくれる人っているだろうなと思ったし、そういう曲って意外とないと思ったので、自分で書こうと思い、できた曲です。後悔ばかりの優等生だった自分の頭をちょっと撫でてあげられたらいいなと思いました。
──重永さんには、どんなアレンジにしてほしいとお願いしたのですか? 結構毒があるような感じもしたのですが。
楠木:基本、リズムは打ち込みでお願いしたいというのは伝えました。打ち込みのリズムってずっとジャストなので、そのかっちり感が優等生っぽくていいのかなって。でも最初に持ってきたアレンジが、あまりにラスボス感というか、圧倒的強者感があったんですよね。たしかに歌詞は無敵感があるけど、それだと悩んでなさそうな感じがしたんです。私が届けたいのは、まだくすぶっている、こういうのをツラいと感じる脆い人に届けたかったので、ヒリヒリする感じがほしいなと。なので、音を削ぎ落としたり、リズムを変化させたりして、この形に落ち着きました。
──ベースとかが派手な音を出したり、ボーカルの一部に思い切りエフェクトを掛けたりするのも、ヒリヒリ感になっていますね。
楠木:目立つところを要所要所に入れて、自分の中にある、優等生じゃないからこそ持っている黒い気持ちみたいなものを出したいと思ったんです。だから歌っていても楽しかったんですよ。キャラソンのアピールに近いのかな。気持ちを表現するためにどう歌えばいいのか、ニュアンスで遊べる幅が多かったので。
──「Nemesia」は、おしゃれなテイストで、ブラックミュージックのような感じが良いですね。
楠木:最初の重永さんのアレンジは、もっとブラックミュージック感が強く、コード進行も尖っていたんですよ。私がいつも尖っていたばかりに、曲の雰囲気に合わせてくださったと思うのですが、もう少しポップス寄りの、重永さんの得意なところで大丈夫ですとお伝えしました。あと、生音感もあって、ある意味リッチな感じがしたので、もっとテープっぽいというか。音の上下をカットするようなイメージで音作りもしてもらいました。
──ローファイな感じですかね?
楠木:そこまでではないんですけど、少しレトロで、ピアノもグランドピアノではなくアップライトピアノの音、みたいなイメージですね。既存曲だと「アカトキ」に近い、クラップが似合う曲という印象があります。開放感があるけど、こじんまりとした優しさやかわいらしさがある曲になったと思っています。
──それこそネメシアの花ですね。
楠木:まさにそうです! こういう明るい雰囲気の曲は、あまり選んでこなかったので、自分の中では新しい感じがありました。
──曲調の明るさもいいんですよね。
楠木:歌詞はいつもとそんなには変わらないんですけどね(笑)。結構衝動的に書いていった曲なんですけど、明るい曲を作ろうかなと思っている自分もいたんです。だから、アルバムに1曲くらいは入れたいなと。
──歌詞にはどんな意味を込めたのですか?
楠木:声優とアーティストの仕事をするに当たって、こういうインタビューなどで、自己表現をすることって多いんです。それを私は褒めていただくことが多いんですけど、そこに自信がない人もいるんですよね。
──感情を言語化するのって、実は難しいし、それに悩んでいる人はいますよね。
楠木:それで自分の想いに蓋をしてきたり、言いたいことが言えない人って多いと思うんです。私も意図せず伝わっちゃったり、自分の言葉で誰かを傷つけちゃったなと思うことはたくさんあるんです。でも私は、誰が発したのかとか、どういう気持ちに紐づいて発せられたのかも言葉の一部だと思っているので、あなたの発したことに意味があるんだよ!ということを伝えたいと思って書いた曲になります。
──それがすごく伝わってくるストレートな歌詞だったと思います。声もちょっとボーイッシュな感じもして合っていました。
楠木:真っ直ぐさをイメージした結果、ボーカルも少しカラッとしているかもしれないですね。
──「それでも」は、大切な人への渡せなかった手紙というモチーフがライナーノーツに綴られていますが、もう会えないという人だというのは、明確に感じられる歌詞でした。
楠木:この曲をずっと書いていた気がするんですけど、どうしても気持ちが消化できなかったんです。歌詞にもある、渡そうと思っていた手紙の下書きはスマホに保存していたんですけど、それも全て消してしまって……。そうやって伝わらないまま終わったという経験は、初めてだったんですよね。
“彼女”に対して、自分は大きな気持ちを持っていたけど、相互性がないままで終わってしまった……。でも、“彼女”の歌からいろんなものをもらっていたから、私も歌で何かを残したいと思ったんです。正直、これはリリースできなくてもいいかなと思って、自分のためだけに書いていたんですけど、一応アルバム候補曲の中に入れていたんです。でも、書いた意味とか理由を言うと、ダメだと言われる気がして言わなかったんです。ただ、アレンジはどうしても江口亮さんにお願いをしたくて……。
ただ、江口さんにお願いをするのならば、全部話さないとダメだなと思い、曲を書いた背景を伝えました。そこで「では、より良いものを作りましょう」と言ってくれるチームで良かったなと思っています。
でも、こういう感情は、みなさんにもあると思うんです。会えずに終わる別れって、身近にもあるじゃないですか。私には私が思い浮かべる方がいるけど、聴く人によって思い浮かべる方が違っていてもいいと、リリースをするからには思っているんです。
──憧れの人とかだと、むしろ相互性がないほうが多いかもしれないですしね。
楠木:そうですよね。私はめっちゃ好きだったけど、マイクを通さない声も聞いたことがないし、匂いも知らないし、どんな眼差しで世界を見ていたのか、どんな夢があったのかも知らない。私って何も知らないんだということが虚しくて、そんな思いをストレートに書いた歌詞になります。「それでも」というのも、彼女がインタビューで話していた言葉で、そのアンサーだなと思ったので、タイトルにしました。
──メロディの儚さ、美しさがありつつ、アレンジは悲痛な叫びのような感じもしました。
楠木:エモくするのはどうかという意見もあったんですけど、エモくするほどきれいな感情ではない、もっと独りよがりで、エゴな感情だと思ったんです。キラキラ泣けるような感じもなく、醜い感情である気もしたので、衝動的で、叫ぶような、収まりきらない気持ちを吐き出すような感じにしたいと思いました。江口さんは事情を知っているので、彼女の音楽のオマージュのようなものを入れていただいたし、私の歌も少しだけ意識をしている部分はあります。
──「turquoise blue」は、透き通る歌い方と、このアルバムを集約したような曲だと感じました。
楠木:実は一番最初にできた曲なんですけど、この曲はどういう人に伝えたいとかではなく、逆にターゲットを広めに見据えているんです。ターコイズの石言葉だったり、自然の中にあるものであることを想像しながら作っていったので、アレンジもそのような感じにしていただいています。
ここ数年、自分の中のテーマとしてあったのは、受容という言葉なんです。これまでって、自分が望んでいるものに出会えるように、必死に抗っている自分がいたんですよね。でも最近は、自分ではどうにもならないものが世界には絶対にあるという考え方に変わってきていて。挫折ってネガティブな印象に取られる言葉だけど、ちゃんとそれを納得して受け入れて、そこから新たに自分がどうするかを考えたら、それって今の自分も大事にできている気がしたんです。その受容というのをサブテーマにしているので、〈自分で決めてもいい〉とか〈身をまかせて〉というワードを入れて、背中を押せるような力強さがある曲にしたいと思いました。
──〈鮮やかに咲いた花は たとえ枯れても胸に残る 希望を捨てずもういちど 私の青を咲き誇りたい〉という歌詞は、まさにそのことを言っている感じがしました。ここはすごく良い歌詞ですよね。
楠木:良いですよね! 自分で言ってしまいましたけど(笑)、みんな今を生きてしまうし、今を生きたほうがいいんだろうけど、今が良くなくても、昔良かったことって変わらないと思うんです。だから、この曲は、私が最近考えていたことが詰まっている曲だと思います。
──そして、それらの曲を引っさげてになるのか、『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2025 “LAPIDARIES”』が12月22日に開催されます。ソールドアウトの会場で、どんなライブを見せたいですか?
楠木:まず、アルバムは引っさげないといけないなと、さすがに思っています(笑)。スタンディングでライブをするのも初めてなので、今までと違う部分を出していきたいなと思いつつ、この曲、どうやるんだろう?みたいな楽曲も増えたので、どうしていくかはこれから考えます。バンドアレンジにするのか、同期を流すのか、まだ全然決まっていません。あとサブタイトルは今回、造語ではないので、イメージも湧きやすいと思います。ライブって一方的なものに見えて、相互で影響し合えるものだと思っているので、そんな気持ちが芽生えるライブにできたらいいなと思っています。
[文&写真・塚越淳一]
2ndアルバム『LANDERBLUE』
【発売日】2025年11月26日
【価格】
完全生産限定盤:16,500円(税込)
初回生産限定盤:4,400円(税込)
通常盤:3,300円(税込)
≪収録内容≫
【CD】 ※全形態共通
01. twelve(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:arabesque Choche(Chouchou))
02. 浮遊(作詞・作曲・編曲:AAAMYYY)
03. シンゲツ(作詞:楠木ともり 作曲:TETSUYA 編曲:陶山 隼&TETSUYA)
04. DOLL(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:亀田誠治)
05. 優等生(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
06. MAYBLUES(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:KBSNK)
07. Nemesia(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
08. back to back(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
09. 風前の灯火(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
10. それでも(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:江口 亮)
11. turquoise blue(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
【Blu-ray】※完全生産限定盤
01. turquoise blue -Music Video-
02. 浮遊 -Lyric Video-
03. LANDERBLUE -Before processing Movie-
【Blu-ray】※初回生産限定盤
01. turquoise blue -Music Video-
02. 浮遊 -Lyric Video-
03. turquoise blue -Before processing Movie-

























































