
25周年を迎えた『しゃばけ』がアニメで広げた世界――原作・畠中恵×一太郎役・山下大輝が語る、江戸妖怪推理帖の魅力
鳴家の鳴き声の由来は?
── 一太郎の話をしていきたいのですが、一太郎を演じた際に苦労した点や、役作りの話をお聞かせてください。
山下:大店の御曹司というところで、恵まれた立場にある人間であることに対して、彼自身はどう思っているんだろうというところから役作りを始めました。彼にとっての普通が、いわゆる世間一般からは少しズレている。よく栄吉(一太郎の幼馴染で、菓子屋の跡取り息子)にも言われていたことなんですけど、金銭感覚の部分は浮き世離れをしているところがあるんですよね。
でも、演じていく中で、この子のコアだなというところがあって、それが「自分が決めたことは絶対に通す頑固な心根がある」ということなんです。それは演じていても思うとこでした。身体が弱いというところは、付いてきたものなのでどうしようもないから、それに対して、どうとかは思わなくて、彼は前のめりに生きているし、そういった部分が彼らしい部分なのかなと思って、演じさせてもらいました。
第一話あたりは、それこそ監督や音響監督含めて、細かい部分を突き詰めて確認しました。そこからは、一太郎という人物はきっとこうだろうというのが、僕が思い描いていた一太郎とリンクしていくような気がしたので、スムーズに、ストレスなく収録ができて楽しかったです。
──特にクライマックスは、意志の強さも伝わってきました。
山下:そうですよね。もはや利用できるものはすべて利用しよう!くらいのガッツを、彼からは感じました(笑)。お金とか使えるものは使って、弱さを強さに変えるというか。強くなろうという気概を感じたので、めちゃくちゃ強い子だなと思ったし、演じていて、どんどん好きになっていきました。
──畠中先生は、一太郎の声を聞いてどう思いましたか?
畠中:序盤で、「欲が深いよね 我々は……」という言葉を最初に聞いたとき、すごく強い言葉でもないのにゾクゾクというか、素敵だなぁと思ったんです。戦っているとか、すご〜くガンガン言っているわけではないんですけど、グッと来たので、とても素敵な声だと思いました。
山下:ありがとうございます(照)。
──書いているときは、声はイメージされていないのでしょうか?
畠中:そうですね。一太郎には、これというモデルさんもいないので、書いたときに声のイメージはなかったんですけど、今回のアニメの声を聞くと、“この声”という感じになりました。
──やはり頑固な心根はありますか?
畠中:あると思います。このあと、一太郎さんはいろんなことをしていくんですけど、それでも今も元気に寝込んでいるので、とても頑固なんだと思います。
山下:あははは(笑)。良いですね、元気に寝込んでいるって。
──見た目はどうでしたか?
畠中:お兄様含めて本当に優しそうで。でも頑固と言われればそうかなという感じで、とても素敵だったと思います。
──アニメを観て、ここが印象に残っているというシーンはありましたか?
山下:いろいろとありますけど、最初から振り返っていくと、日常の物語なのかと思いきや、ミステリー?みたいなところの温度感の差は印象的でした。
ほのぼのとするような色使いだし、妖たちも、どこかかわいらしいフォルムをしていたりするからこそ、温かい物語が始まりそうだな、という振りから、雲行きが怪しいぞ?みたいな感じになるコントラストが、すごく面白いんです。
『しゃばけ』には人と妖のつながりなどが描かれていますが、人間にもいろんな人がいて、誰かのために動ける人もいれば、自分の私利私欲のためだけに周りを利用する人もいる。妖も、人と同じような心根を持った世界で生きている感じなでしょうか?
畠中:そうかもしれないですね。ただ、ひとつ違うのは時間軸で、妖はずっとそのままいるんですよ。25年経っても、まだそのまま変わらずにいるんです。若だんなたち人間のほうが変わっていくんですけど。
山下:確かに年月に対しての価値観とか、向き合い方は違うのかもしれないですね。それこそ仁吉の片想いをしているというエピソードがありましたけど(第六話)、ずっと想いを秘めたままでいられるメンタリティはすごいと思ったんです。妖だからこそ耐えられているのかなって。いろんな考えが巡っていたんですけど、心の持ち方、嬉しいとか悲しいといった部分で、妖のほうが、すごくピュアだなと思ったんですよね。複雑で入り組んでいる人間の気持ちよりも妖はもっとシンプルなのかなって。
畠中:そうですね。鳴家(やなり)なんかシンプルそのものですからね(笑)。人より、めんどくさくて単純で、という感じなのかなと思います。
──妖の見た目はどうでしたか?
畠中:皆さんステキでした。屏風のぞきさんってああやって屏風から出てくるんだ!と思いました(笑)
山下:ぬるっと出てきますよね(笑)。
畠中:一番違うのは鳴家の見た目で、それぞれの作品でパッと見が違うんですよ。今回の鳴家さんはかわいかったなと。
山下:先生の描かれている鳴家も、ぽて〜っとしてて、かわいらしいですよね。
畠中:資料にある鳴家さんの顔って、結構怖いんですよ。
山下:そうなんですね!
畠中:サイズは一緒なんですけど顔は怖いですね。小鬼ではありますから。
山下:やっぱり鬼なんですね。
畠中:鳥山石燕先生の絵だと、どこ行っても怖いんです。
──そう考えると、だいぶかわいくアレンジされていますね(笑)。
山下:しかも「きゅわきゅわ」って鳴くんですよね。
畠山:あれは昔、修学旅行で行った二条城だったかな。そこのうぐいす張りと言われる廊下が「キュッキュッ」って鳴るところで、そこから取ったんです。
山下:そうなんですね!
畠中:家が軋む音が、うぐいす廊下の「キュッキュ」って音なのかなと思い始めて、そこから「キューキュー」と言い始めて、だんだん「きゅあきゅあ」に変わっていきました(笑)。
山下:そうだったんですね! かわいいから「きゅあきゅあ」なのかと思っていました!
それぞれの印象的だったシーンは?
──畠中先生が印象に残っているシーンはありますか?
畠中:私は青いビードロの玉をかざすシーンです(第八話)。玉が、いろんな青で描いてあって印象的でした。あのシーンは自分の中でも一生懸命青を書こうと思っていた記憶があるので、「あぁ、きれいだな」と思いながら観ていました。
山下:アニメの中でも、とてもキーになるシーンですからね。あのビードロが、みんなをつないでくれた気もします。一太郎とお兄さん(松之助)もそうですし、一太郎のことを守ってくれているような気もしました。安心する温かいシーンでした。
──クライマックスの戦いのシーンはどうでしたか?
山下:付喪神への“なりそこない”との決着を付けに行くシーンの前に、一太郎がお札や守り刀を用意するんですけど、やれることは全部やり切る、使えるものは使い切るというのが一太郎らしいですよね。仁吉や佐助だけでなく、母にねだってお金まで使うという。
畠中:だからといってあんなにがばっと出す親も親なんですけどね(笑)。100両とかでしたよね。
山下:大店の息子だな感というか、カリスマ感というか(笑)。投資すべきところでは有無を言わさずに投資する思い切りの良さが、「うわぁ、一太郎すげぇな」となるんですよね。だって普通はちょっと残しておきたいじゃないですか。僕だったら、これだけ使って何も効果がなかったらイヤだから、半分くらいにしておきますもん(笑)。あそこはアフレコをしていても、面白かったし、みんな「一太郎、すごくない?」と言っていました。
畠中:お金を使って手に入れたものが役に立つんですけど、私はあのシーンの中で、火が妖たちによってどんどん広がっていくシーンがあったんですね。これは本当にアニメならではだなと思いました(第十二話)。ああいうシーンを伝えたいと思っても、なかなか文章だと難しいので、とても印象的でした。
──あまりに火が広がっていったから、みんな生きているのかな?と不安になりました。
山下:結構悲惨な状況でしたからね。
──では先生から、山下さんに聞いてみたいことはありますか?
畠中:声優さんって、いろんな声を出してらっしゃると思うのですが、だいたいこういう声でいこうというのは、どういうふうに決めているのですか?
山下:演じるのが人間であれば、声質を変える必要はそんなにないかなと基本的には思っています。人間以外はフォルムだったりに合わせています。これだけ小さかったら声帯もすごく細くて小っちゃいんだろうなというところから、声の発声も考えていったりします。
それでいうと一太郎も、たとえば大きな声を出すキャラクターだと、腹から声を出したり、語気も強かったりするんですけど、彼はそうではいと思ったんです。腹式呼吸とか、そういう知識も一切なさそうだし、お腹から声を出さずとも、みんなが耳を澄ませて聞いてくれそうな環境にいるから、きっと呼吸も浅いんだろうなって。そうやって、体の作りからも考えたりしますね。
畠中:それは考えたことがなかったです。すごく面白いですね。
山下:その一太郎も、話の中でだんだん重心が下に降りてきているのが終盤だったのかなと思っています。最初は浅く浅くというところだったんですけど、挑戦をしていく中で、自分の中で限界を超えていき、もっと行けるとなったところで、彼なりにではあるけれども、より腰が入って立つことができたのかなと思っています。なので、そのあたりの呼吸だったり息遣いの変化は意識して演じていきました。
畠中:すごく面白いお話です。
──以前の取材でも話されていましたけど、第一話の一太郎の叫びは、そういう意味では、腹から声が出ていない感じでしたし、最終話のそれとは全然違いましたね。
山下:もう全然違うと思います。第一話のふらり火を呼ぶときは、走って息切れをしていて苦しい中で必死に叫ぶところでしたし、彼も叫んだりしたことがないと思うんですよ。スポーツをしている人に比べたら肺が小さいと思うので、いろいろなことを考えた末、浅い呼吸で必死に叫ぶ、みたいなのが、あの時の彼の限界だったのかなと思いました。だから、あの時点での彼の100%がどのくらいなのかというのは、探ってやっていきました。
そこから最後にちゃんと覚悟が決まって、自分がここで“なりそこない”と真正面から向き合う覚悟が決まったところでは、少し冷静さもあるんですよね。しっかり真正面に相手を見据えて言葉を届ける。向き合うという心が決まって、ブレない想いみたいなところがあるからこそ、重みがある言葉になったのかな、なれていたらいいなと思って演じさせていただきました。
──声からも、一太郎の変化や成長は感じ取れると思いますので、配信やBlu-rayで、何度もアニメを楽しんでほしいですね。では最後に、ファンへメッセージをお願いします。
畠中:江戸を感じられるすごく楽しいお話です。ぜひ観ていただけたらと思います。よろしくお願いします。
山下:最終話までご覧いただきありがとうございました。光栄なことに先生と対談の機会をいただけたことを非常に嬉しく思います。こうやってお話をしていると、先生の熱量だったり、25年の想いを本に詰め込んでらっしゃるんだなと思いました。先生とお話していくうちに芽生えた欲求として、もっと先の先の話が見たいなという想いです。アニメーションとしても、この先の『しゃばけ』の物語を描いてくれたら嬉しいですし、僕もまた、一太郎を演じさせていただけたら非常に嬉しいです。最後に、『しゃばけ』をご覧いただきまして、ありがとうございました。
[文・塚越淳一]
作品情報
あらすじ
キャスト
(C)畠中恵・新潮社/アニメ「しゃばけ」製作委員会

















































