
冬アニメ『TRIGUN STARGAZE』内藤泰弘先生インタビュー|「当時必死に描いたものを新たな物語として広げ観せてもらえるというのは、非常に幸運なこと。こんな経験をする漫画家は、そう多くないのではと思います」
「生きて、苦しめ。」
──今回、もうひとつのキャッチコピーとして「生きて、苦しめ。」というあるキャラクターのセリフが使われていますがそれはどう感じられましたか。
内藤:今回のリブート企画って、「僕が描いた『トライガン』という漫画」や「マッドハウス版のアニメ『TRIGUN』」を、新しい世代のスタッフがどこを見て、どう受け止めたのか。その“リフレクション”だと思っていまして。だから「ああ、なるほどたしかにそういう面もあるよな」と思う一方で、「そこを真ん中にドンっと持ってくるんだ!」という驚きも大きいですね。1話と2話だけでも、ものすごくいろんな感情が入り込んでいると思います。
──本当に、1・2話は見ているだけで胸が苦しくなるような……。
内藤:ですよね。でもその一方で痛快さもあったり、とぼけた部分もあったりと、いろんな感情が詰め込まれている。「『トライガン』って、こんなにいろいろ入ってたんだな」と、むしろ僕のほうが「そうか」と思わされました。つまり、「俺はこういう漫画を描いていたということなのか」と。そんな感覚です。
──それはやはり、漫画を描いていた時とはまた違う感覚なんでしょうか。
内藤:違いますね。漫画はとにかく必死で、やったこともあまり覚えていないくらいの勢いで進んでいましたから。その結果として生まれたものを、こうやってまた広げてもらって観せてもらえるというのは、非常に幸運なことだと思います。
──先ほど「漫画だとなんとかなる」というお話もありましたが、それは、読者に“行間を読ませる”、つまり余白を渡す部分があるからこそ、という感じなのでしょうか。
内藤:ちょっとまだ自分でも分析しきれてはいないんですけど……。漫画を「読む」という行為は半分は読者からの持ち出しで成立していると思うんです。送り手と受け手の丁度真ん中に作品があって、描くまでは僕の仕事ですが、それを手にとって読むのは読者の世界で。その共同作業で漫画体験は完成すると思っています。僕の中で確信に近いのは「スピード」に関してです。次のコマへ進むスピード、解釈していくスピードを、読者は“自分が一番気持ちいいスピード”で読んでくれていると思うんですね。だから、ギャグ漫画がアニメ化された時に「テンポが遅いな」と感じるのは、その“自分の読書体験の気持ちいいスピード”と合っていないからじゃないか、と。それと近いことが、感情や解釈の面でも起きているんだと思います。アニメや映像作品では、音・演技・動き……全部のスピードを決め込まなきゃいけない。そこが難しいところなんじゃないか、と僕は思いますね。
苦しみや悲しみの重さが突き抜けている
──1月から放送が開始しましたが、改めてご覧になった感想をうかがえればと思います。
内藤:1話と2話で1セットなんですよね。ここではホッパード・ザ・ガントレットというキャラクターが登場します。漫画よりも不幸の強靭さが半端なくて。「こんなに歪んでしまうほどの悲しみだったのか……」とグッと来ましたね。
──特にホッパードは、前半における欠かせないキャラクターとなります。内藤先生のなかでホッパードはどのようなキャラクターと捉えていましたか?
内藤:原作では、描いたとおりの存在以上には考えていませんでした。ひどい差別を受け続ける中、唯一の光も奪われてしまった被害者。それに対する恨みが全ての原動力となる非常に悲しい人物として描いていました。ですが『STARGAZE』1話・2話では、その苦しみや悲しみの重さが更に突き抜けていますね。
──原作で流れを知っている人でもあらためて本作のホッパードの背景を知ると、感情移入してしまう方も多いのではないかと感じます。
内藤:そうでしょうね、そう思います。“リブート”という名のもとに、原作をないがしろにしているわけではないけれど、まったく同じではない。原作を読んでいても油断して見られないところをキープしながら進んでいる、という印象です。
──『STARGAZE』では、このキャラクターのこういうところに注目してほしい、という点はありますか?
内藤:僕が見ている範囲で「すごい」と感じたのは、チョーさんが演じる(レオノフ・ザ・)パペットマスターです。あれは大変なことになりましたね。狂人でありながら、なおかつポップなんですよね。『TRIGUN』の場合はいわゆるプレスコと言いますか。演技が先にあった上で、ギリギリまでアニメーターさんが粘って手を入れてくださる。その結果、演技にモーションが引っ張られていくような現象が起きています。これは3DCGの面白さだなと思います。
──たしかに。技術は発展している世の中ですが、人同士の感性のすり合わせがあるからこそ、さらにすごいものになっていくというか。
内藤:そう、ギリギリのところになると、人間の“さじ加減”が物をいうといいますか。全編にそれが出ていると思います。ぜひ楽しみにしていてください。
──今後の見どころはいかがでしょうか。
内藤:なんだろうな……毎回、すごいことをやっています。数年前にラフ段階の映像を見せてもらったものが、今ようやく完成するくらいの、手の込んだカットが毎話入っています。もうずっと見応えしかないと思います。
──ナイヴスとの決着もいよいよ……。
内藤:ええ。そこは避けて通れません。その方向に向かって進んでいます。
──最後に『トライガン』がここまで愛され続ける理由について、内藤先生のお考えを聞かせていただければと思います。
内藤:僕は、そういう分析がまったくできないタイプなので、正直、よくわからないんですよね。むしろ、もらいすぎていると思っています。ただ必死に描いていただけで……それ自体は、漫画家としてやりきったし、やりきるべきことだったとは思います。でも、まさかここまで、いろいろな場所へ連れていってくれて、こんな先の景色まで見せてくれる作品になるとは、当時は想像もしていませんでした。それは本当に幸運だったと思っています。だから、「なぜ愛されているのか」と聞かれても、正直わからないんです。ただ、ひたすらラッキーだったな、と。僕自身、あらためて自分の豪運を感じますし、同時に、どこか恐れ多くも感じています。
『TRIGUN』は、そんなふうに思わせてくれる、特別な作品ですね。
[文・逆井マリ]
作品情報
あらすじ
一方、辺境の町でエリクスと名を変え密やかに暮らしていたヴァッシュだったが、そこへ三番艦“ホーム”のSOSを告げる少女・ジェシカが現れる。大切な人々を守るため、因縁を断つことを決意するヴァッシュ――
それぞれの運命が噛み合い再び物語が動き出した時、宇宙の彼方から通信が降り注ぐ。「我々は地球からの移民船団。希望者は、我々と共に新天地へ向かうことができる――。」巻き起こる歓喜と興奮。しかしそれをあざ笑うように、蘇った片翼の天使が絶望と恐怖をもたらす。狂乱のるつぼとなった惑星で、運命は遂に決着する。
キャスト
(C) 2026 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STARGAZE」製作委員会



















































