
「仮面ライダーアギト」が背負った“ヒーロー論”としての宿命とは――『アギト—超能力戦争—』井上敏樹さん×白倉伸一郎さんスペシャルインタビュー
食事シーンで“キャラクターの色”を見せる
ーー新作で初登場する「超能力者」たちも曲者揃いですが、こういった主人公と敵対する側の描き方について、大切にしていることはありますか?
井上:悪は説得力を持たせたいと思っている。好みで言えば、格好良い方がいいね。見た目も感性も。
白倉:ザ・悪役というと、いかにも悪役めいた格好をして、悪役めいたセリフを吐いて、憎らしい表情や姿になりがちなんです。ただ、それでは人間ではなくなってしまう。「そんな人いないよ」となってしまう。その辺りに大先生の絶妙なバランスがあると思っています。
井上:ギャグに振るならそれでもいいけどね。
白倉:不思議なんですよ。かろうじて“人間スレスレ”のところで踏みとどまっている感じがします。「なぜこの人はこんなことを考えてしまったのだろう?」とは思いつつ、人間そのものは逸脱していない。今回でいうと、ルージュ(演:岩永洋昭)は果たして人間と言えるのか怪しいですが……(笑)
ーーまた今作も含め、井上先生の作品では、食事シーンが印象的に描かれます。こういったシーンを作品に取り入れる意図もお伺いできますでしょうか?
井上:例えば主役がご飯を食べていると、主役と視聴者の距離感が縮まるんだよ。一般的な“誰でもするようなこと”をしていると、少しこちらに近づいてきた感じがする。
あとは趣味というか、キャラクターの色合いも出しやすい。食事って、どこか滑稽なところがあるじゃない? 少しほっとする空気感が流れるんじゃないかな。そういうことを総合的に考えたうえで、食事のシーンを入れるのは好きだね。でも、いちいち食事のメニューを考えるのは面倒くさい(笑)。
白倉:そこですか?(笑)
井上:最近は「豪華な食事」とか書いているよ(笑)。ケースバイケースだけどね。
ーー逆に言えば、メニューまで事細かに書かれていた時もあったんですね。
井上:そういう時期もあったよ。
白倉:当時の『アギト』で言えば、G3ユニットは焼肉屋に行ったり、田口主将さんが演じた河野浩司はラーメン好きだったりしましたよね。焼き鳥屋、おでん屋、屋台など、何を食べるかというだけではなく、どこで食べるかといったことで、その人のポジションを表すという側面もあると思います。翔一君が飯係で「恐らく有機野菜的なものに謎にこだわっているのだろう」みたいな。ただ、最初はまさか料理人になるとは思っていませんでした。
『アギト』が背負った宿命
ーー最後に、白倉さんから見た、井上先生が描くヒーローのカッコ良さをお聞かせください。
白倉:あくまでも日常生活に根ざしたヒーロー性というものが大切に描かれていると言いますか。特に仮面ライダーだからかもしれませんが、日常と非日常の行き来が妙味だと思います。変身前はどんな人間なのか、どんな暮らしをしているのか、何を考えているのか。そういう部分で地に足が着いていないと、変身した時のカタルシスがなくなると思うんです。
井上:日常がないとつまらないね。昔はそうじゃなかったけど、今や日常のないヒーローというのはあり得ないくらいじゃないかな?
白倉:例えば、ゴレンジャーや本郷猛は日常生活もへったくれもないですから。
ーーそういった日常の延長線上のヒーロー像については、お二人が作り上げてきた部分も大きいのでは?
白倉:我々というよりも、時代がそういう流れだったのだと思います。ただ、『アギト』『龍騎』『ファイズ』がなかったifの世界は分からない。もし『アギト』のような作品が2001年の段階でなかったとしたら、もう少し超越的なヒーロー像が長く続いていたのかもしれません。
例えば、『クウガ』と『アギト』を比べた時、五代雄介と津上翔一という主人公はのほほんとしているキャラクター性が少し被っている……と思いきや、五代というのは冒険家であり「2000の技」を使いこなすので、割と超人なんですよね。一方で、先ほど大先生が「仙人」と言っていましたけど、翔一は意外と超越的なところが少ないんです。むしろ記憶喪失も含めて、欠落している部分がある。その対比があるからこそ、五代雄介と津上翔一というのはなかなか比べづらい訳です。
白倉:そういう意味で、もし『アギト』がなかったら、やはり「仮面ライダーたるもの、何でもできるべき」となった可能性はありますね。本郷猛もそうですが、IQが高くてスポーツ万能、武芸にも秀でていて元から強い。そういう人が変身したらもっと強いというヒーロー像を追求してしまった気がします。今日は『アギト』の取材なので持ち上げていますが(笑)、『アギト』以前・以後という分岐は、特に仮面ライダーの歴史においては大きいと思います。
井上:大きく言うと、ヒーローって昔は“遠い存在”じゃないと駄目だったんだよ。「疾風(はやて)のように現れて、疾風のように去っていく(※)」じゃないけど、一般市民や庶民からは遠い存在でないといけなかった。
※:昭和の特撮作品『月光仮面』主題歌「月光仮面は誰でしょう」の一節
白倉:どこかの洞窟に潜んでいるとか、お屋敷の中にこもっているとか、バベルの塔に住んでいるとか。
井上:そうそう。なぜかと言うと、怖いから。ヒーローって強いじゃない? だからお友達になってほしくないし、助けてもらった後はすぐ帰ってほしいわけ(笑)。ところが最近は、ヒーローもそんなことを言っている場合じゃない。心臓病で手術をする子供がいたら、励ましに行ったりするだろ。ぐっと身近になってきた。ずっと遠いヒーローばかり書いても話にならないしね。
そういう意味で『アギト』がとても身近なヒーローになったのは、“ヒーロー論”としての宿命なんだよ。
[インタビュー/小川いなり]
『アギト—超能力戦争—』作品情報
2026年4月29日(水・祝)全国公開
あらすじ
半凍死、半焼死──
相反する死が、一つの遺体に刻まれていた。
それは、超能力を操る者たちの暴走が生んだ、誰も見たことのない“不可能犯罪”だった。
警視庁未確認生命体対策特殊武装班=通称<Gユニット>が出動。
若手隊員・葵るり子(ゆうちゃみ)は、最新鋭の特殊強化装甲服<G6>で超能力者たちに挑むが、その強大な力の前に撤退を余儀なくされる。
G ユニット管理官・小沢澄子(藤田瞳子)は確信する。この事態を打開するには、氷川誠(要潤)の力が必要だと。しかし彼は今、とある罪で刑務所に囚われていた。
氷川の不在に、小沢が思い至ったのは、かつて<アギト>という未知の力でアンノウン(未確認生命体)と戦った男・津上翔一(賀集利樹)。だが、翔一はすでにその未知の力を失っていた。
キャスト
氷川誠:要潤
葵るり子:ゆうちゃみ
小沢澄子:藤田瞳子
北條透:山崎潤
尾室隆弘:柴田明良
風谷真魚:秋山莉奈
美杉太一:田辺季正
大山:駒木根隆介
黒谷:今井悠貴
ルージュ:岩永洋昭
鬼頭春馬:鈴之助
渋川:青島心
速見:金田哲(はんにゃ.)
美杉義彦:升毅
村野かすみ:ベッキー
木野薫:樋口隆則
津上翔一:賀集利樹

































