アニメ映画『HELLO WORLD』伊藤智彦監督BD&DVD発売記念インタビュー|あのラストシーンは、エンドロールの後に流したかった!?
2020年4月8日にBlu-ray&DVDが発売となるオリジナル劇場アニメ『HELLO WORLD』。
『ソードアート・オンライン』シリーズを手掛けてきた伊藤智彦監督、『正解するカド』でも脚本を務めた小説家の野﨑まど、『けいおん!』や『たまこまーけっと』で総作画監督を務めた堀口悠紀子がキャラクターデザインを、さらにOKAMOTO’S、Official髭男dism、Nulbarich、OBKR、Yaffle、STUTS、BRIAN SHINSEKAIといった面々が、本作のためのユニット「2027Sound」を結成し、劇中音楽を担当するなど、非常に豪華なスタッフ陣が集結して作られた作品です。
「この物語は、ラスト1秒で引っくり返る」というキャッチコピーも話題を呼び、その衝撃的な展開の数々には大きな反響が寄せられました。
そんな『HELLO WORLD』を作り上げた、伊藤智彦監督を直撃。今回は上映から時間も経ってのインタビューということで、筆者が個人的に気になっていた疑問点や、あのラストシーンが生まれるまでのネタバレを含めた内容や、昨今流行を見せているVRMMOというジャンルをどう捉えているのかなど、様々な話題に切り込んだインタビューの模様をお届けします。
大人ナオミが眠っていたのは、ただの記憶装置のアルタラではない
――公開から大分時間も経ちましたが、現在の心境を教えて下さい。
伊藤智彦監督(以下、伊藤):実は今、次の作品で忙しくて、ようやく最近になって『HELLO WORLD』から頭が切り替わってきたところで。前の作品が残っていると支障が出てしまうので、意識してあまり思い出さないようにしてはいました(笑)。
その上で今振り返るなら、分かりやすくしようと思ったけど、これでもちょっとハードルが高いというか、分かりにくかったのかなと。自分としては100人を相手にして100人全員が満足する作品を作る必要はないという考えはあるのですが、意図したところと、お客さんの反応とのギャップを感じたところは少しありました。
それは何年も作品に関わっていると、その世界について分かりすぎてしまうので、そこがズレになってしまったのかなとは思っています。
――自分も決して難解な作品ではなかったと思います。ただ、大分構造が特殊だったこともあり、SFを見たことがない人には難しかったのかもしれないのかなと。
伊藤:もうちょっとうまい手があったかもしれない、と考えることもあったのですが、例えばSF的なワードが出てくると拒否反応を示すような人にも、楽しんでもらうのはさすがに無理があると思うので……そこはあまり気にしても仕方ないのかなと、割り切るようにしています。逆にSF的な文脈を理解してくれる人からは好意的な反応が多かった感覚がありますね。
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— アニメイトタイムズ公式 (@animatetimes) October 29, 2019
――視聴者から寄せられた考察や感想の中で、意外なものはありましたか?
伊藤:覚えているのは、立命館大学の中村彰憲教授が、「この世界は大人ナオミを覚醒させるためのプログラムの世界で、サブキャラクターの性格が分かりやすいのはAIだから」という解釈をされていて。
――ああ、なるほど。確かに、本作の世界の構造を考えると、そういう解釈も可能ですよね。
伊藤:ええ。こちらとしてはその意図はなかったのですが、確かにそう捉えることもできるかもしれないなと。個人的にはその考え自体は否定はしませんが、若干キャラクター達がかわいそうかなとは思いますけど(笑)。
――『HELLO WORLD』というタイトルは、どういう風に決まったのでしょうか?
伊藤:語源はもちろん、プログラミング用語で、主人公が新たな世界で目覚めるシーンにぴったりなタイトルはそれかなと。ただ後々振り返ると、ちょっと言葉が一般的すぎて、検索とかに引っかかりにくくなってしまったなと(笑)。
――先にプログラミング用語の方が引っ掛かっちゃいますよね(笑)。それ以外のタイトルの候補はあったのでしょうか?
伊藤:いや、実はなかったんです。野﨑さんたちと、はじめに企画合宿をした時の最終日に『HELLO WORLD』という言葉が出てきて、満場一致で決まりました。
その段階ではまだシナリオが固まっていたわけではなかったのですが、おそらくこんな形で終わるんだろうという漠然としたイメージはありましたから。
――あの誰もが「タイトルを回収した」と感じるシーンで終わらず、ラストにそこからもう一つどんでん返しがあるのが、本作の面白さでもあると感じました。
伊藤:実はあのシーンは、エンドロールが終わった後で出したかったんですよ。けど、エンドロールが始まったら席を立ってしまうというお客さんも大勢いますよね。
本作に関してはあのラストを前提とした構造になっているので、そこは切り分けられないでしょうと。ただ、本当はその前のシーンから少しブレイクがあった方が良かっただろうとは思っていました。
――そのラストシーンについては、どのように決まったのでしょうか?
伊藤:あれも最初の企画合宿の段階で、「主人公が現実と思わしき世界で目覚める」というところまで固まっていました。実はその段階では、本当にその世界も現実かどうなのかを匂わせるような要素も入っていたのですが、それはより大きな混乱を招いてしまいそうだという理由でボツになりましたが。
――自分も、あの世界もアルタラの中の可能性があるのではという考えがずっと脳裏をよぎっていたのですが、それもあながち間違いではないと。
伊藤:そうですね。意図として組み込んではいませんが、実際にあのシーンは、そういうことを考えてもらう役割を果たしているはずなので。
自分があそこを現実世界だと断言しないようにしているのもそういう理由で、あの答えに安住してもらう必要はないだろうということです。
――それに関連して、伊藤監督に確認したかったことがあって。大人のナオミがいる方のアルタラは、大人ナオミが目覚めるために作られたものではないのでしょうか?
伊藤:違いますね。それには、「大人ナオミがなぜ眠っているのか」という問題が関わってきていて。そこに関しては受け手の想像に委ねるという形をとっているのですが、作中で描かれていた、落雷事故の対象が瑠璃から直実に入れ替わっただけというものではないです。ただ、それに近い、何かしらの出来事があった、といったところでしょうか。
アルタラが記憶装置というのも、あくまで子供の直実の世界での話ですから。最後のシーンで明かされる世界側のアルタラは何か別の目的で動いていて、瑠璃たちはそれを利用したのだと自分は考えています。
――直実と瑠璃というキャラクターについては、どのように設定が固まっていったのでしょうか?
伊藤:最初の企画合宿の時にだいたいの方向性は決まっていたのですが、そこからシナリオ化する段階で、主に野﨑さんの手で固まっていきました。とくに瑠璃については結構変遷があって、最初は運動部に所属していて、直実とはまったく違う属性のキャラクターで、幼馴染という設定もあったり……。
――もし幼馴染だったら、物語の流れが大分変わっていそうですね。
伊藤:もし瑠璃が幼馴染だったら、なぜ眠ってしまった瑠璃をナオミが10年間追い続けるのかの理由付けが明確にできるのですが、それはそれでご町内感というか、世界が狭くなりすぎるかなと(笑)。
あとは、1から出会いを描いた方が感情移入もしやすいだろうという狙いもあったのですが、それを描くには尺が少し不足していたかなという反省もあります。
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