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TVシリーズ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』鷺巣詩郎インタビュー

映像として映し出されていたものなのか、頭の中で作り出されたものなのか。多面的にイマジネーションを喚起させる作品世界──『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』音楽・鷺巣詩郎さんインタビュー

音楽によってに空間に奥行きを持たせられるように

──第4話のガッツとキャスカの新規シーンでは、佐野監督があげた「ロマンス」というワードをポイントに、制作が進んだというお話を伺いました。

鷺巣:映画三部作のサウンドトラック制作時には、三部作それぞれに流れがありました。一作目は王道でオーセンティックな表現が多め、二作目は百人斬りなどチャンバラ要素も含め戦闘のスペクタクルが展開されて、後半からは少しずつ人間関係が崩れていく。そして、三作目は世界がひっくり返る展開なので、音楽面でのロマンス要素というのはほとんど入る隙がなかったんです。例えば、グリフィスとシャルロットの濡れ場にしても、ロマンスというより人間の慟哭を描いた場面ですから。

でも、今回は全13話のテレビ用に再構成されて、また違う区切りになってくるので、この回のこのパートはロマンス回みたいな解釈も入れられるようになって。より個々のシーンにフォーカスを当てた音楽を提供できるようになりました。

──第7話のガッツとジュドーが酒場で話す新規シーンにも新しい音楽が響いています。最初のバージョンではうっすらと響くBGMだったものが、佐野監督の意向でより長く流すことになり、手拍子も加えられたりして音が鮮やかに膨らんでいったとのことですね。

鷺巣:先ほどの美術の話とつながってくるのですが、そもそもこの世界にはどんな空気が漂っているのか、どんな音楽が流れているのか、という世界観を紐解くところからはじまりました。ご存知かもしれませんが、「ベルセルク」というのは北欧に伝わる単語で、英語でも「バーサーカー」などと記されますが、北欧神話に登場する熊をも倒す異能の戦士を指す意味なんですよね。じつは北欧と英国は地理的にも文化的にもかなり近く、ですから映画の制作時には、北から文化が南下してきたイメージのもと、ケルトの流れを汲んだ音楽をいくつか鳴らしました。でも、実は、欧州の文化というのは、南で生まれて北上した例のほうが多いんですよね。なので、今回酒場のシーンの新たな楽曲を制作するにあたっては、地中海文化の流れを汲んだ楽曲にしました。地中海文化というのは、ローマ時代に大きく花開いて、中世ルネサンスまで続いたものです。監督からのリクエストはケルト文化の音だったのですが、あえて地中海の音を鳴らしています。もしかしたらその酒場では、民衆は南方のワインを飲みながら、踊ったりしてたんじゃないかな、などと監督にお伝えしたりして、どんどん膨らんでいった記憶があります。

──酒場のシーンでは、心情を顕す旋律としてのサウンドトラックではなく、音楽が美術の小物のひとつになっている。

鷺巣:はい、まさに。それから彼らの文化として、酒、ダンス、音楽というのはセットになっているところがあるから、酒場で誰かがギターを弾き始めたというような設定を想像して音楽をあてました。アンダルシアあたりの軽快な音で、途中でかけ声なんかも入ってね。このシーンでガッツとジュドーは真面目な話をしているんだけど、そんなことはお構いなしに明るい音楽が流れている。たわいない場所で鷹の団の兵士たちがお酒を飲んで話すという日常が浮き彫りになりますからね。

また、ヴァイオリンの元となる弦楽器なども中世にあったはずと考え、ヴァイオリンも入れました。それらの音が、たまに偶然ガッツの心情に寄り添う。現代の日常でもそういうことってあると思うんですけど、カラオケに行ったりした時、とくに聞きたい曲でもないのに急に妙に自分の心とリンクする瞬間ってあるじゃないですか。そういう感じになるといいですね。

アニメも画面自体は二次元なので、音楽によってに空間に奥行きを持たせられるように心がけています。音楽だけでなく効果音も含めて、アニメにおけるリアリティにとって音はとても重要な要素なので、我々もそういう瞬間の心情を追求したのです。

──新規の楽曲としては、これから放送される第9話でのガッツの過去にまつわるシーンへの提供もあります。

鷺巣:『ベルセルク』という作品世界というのは、一面だけでなく多面的にイマジネーションを喚起します。例えば、映像として映し出されていたとしても、果たしてそれが実際に人の目に見えているものなのか、人の目の内側で見えているもの──頭の中で作り出されたものなのか、その境界を想像していくのもひとつの楽しみ方だと思います。

これは以前、平沢進さんと対談した際にもお話ししましたが、『ベルセルク』というのは、山の中に何千年も前からあるような石があるとして、我々の目には石の表面しか見えなくとも、石を裏返してみるといろんな虫が蠢いている……というようなことを象徴している作品だと感じます。そして、その見えない裏側を想像していくことが、クリエイティブにつながっていく。そのように人の内側に膨らむ感情もイマジネーションも言葉や形として固定せずに表現できるのが音楽の強みだろうと考えて、ガッツの過去にまつわるシーンへの楽曲を作りました。

人ひとりの絵力によって現代の神話が作れる

──本作の制作を通して受けた刺激を教えてください。

鷺巣:僕個人としては、10代の頃からヨーロッパを行き来していたので、ひとつには慣れ親しんできた文化のルーツを再確認できる喜びがありました。『ベルセルク』はファンタジーであって何かの史実に基づいた物語ではありませんが、ヨーロッパの地に染みこんだ歴史、美意識、根付いている神話に重なり合うものがありますし、ヨーロッパの友人たちが『ベルセルク』に夢中になる理由もきっとそこにあるのでしょうね。世界観の源になっているスコットランドや北アイルランド、北欧の方々をはじめ世界中の人々が、現代の日本の作家が描き出す新しい神話に夢中になってくれることほど、うれしいものはないと感じます。

これは三浦先生によるイマジネーションの力だけでなく、リアルに表現する筆の力によるものですね。これが人の手から、そのペン先から描き出された絵であり、物語なのだという、とてもプリミティブな感動。そのほとばしりに、私たちは心を動かされるのではないでしょうか。人ひとりの絵力によって現代の神話が作れるのだという実感は、大きな刺激になりました。

──中島美嘉さんによるベルセルクEDソング「Wish」のカップリング曲として、中島さん作詞、鷺巣さん作曲・編曲の「Mirage with Shiro SAGISU」もリリースされました。鷺巣さんご自身も「J-POPでもアニソンでもない『歌物語』の誕生」とメッセージを寄せられていますが、ベルセルクの壮大な物語と呼応する素晴らしい歌ですね。

鷺巣:中島さんから『ベルセルク』の内容に沿った歌を歌いたいというリクエストをいただきまして、『ベルセルク』ファンのみなさんから親しまれているある劇伴をモチーフに歌にしました。非常に聞き覚えのある旋律だと思いますが、そこから深読みしながら聴き入っていただけましたらより面白いのではないかと考えております。

──最後に、これからの放送を楽しみにしている読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。

鷺巣:黄金時代篇のストーリーはかなり劇的に展開していきますが、実は音楽もかなり劇的に変化しています。第1話を見た方が飛ばして第12話などを見たらきっと同じ作品のサウンドトラックだとは思えないのではないでしょうか。現代は視聴方法の選択肢が幅広いですから、どのように見て、何を感じるのかみなさんの自由ですが、その変化がひとつの聴きどころではないかと思いますので、録画や配信などで見返す折には、ぜひ気にしてみていただきたい。TVシリーズで話数を重ねる中で、平沢さん中島さんのOP/EDも繰り返しお届けできますし、素晴らしい映像と合わせて楽曲を何度も曲を聞いていただけるのは、ミュージシャン冥利につきます。

[取材:ワダヒトミ]

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TVシリーズ監督・佐野雄太×STUDIO4℃プロデューサー田中栄子
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ガッツ役 岩永洋昭×キャスカ役 行成とあ
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美術監督 中村豪希
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監督 佐野雄太
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音楽 鷺巣詩郎
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キャラクターデザイン・総作画監督 恩田尚之
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脚本 大河内一楼
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編集 重村建吾&TVシリーズ監督・佐野雄太
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連載|12
編集 重村建吾&TVシリーズ監督・佐野雄太
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TVアニメ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』作品情報

放送情報

2022年10月よりTOKYO MXほかにて放送開始!
・TOKYO MX 10月1日(土) 24:30-
・とちぎテレビ 10月1日(土) 24:30-
・群馬テレビ 10月1日(土) 24:30-
・BS11 10月1日(土) 24:30-
・アニマックス 10月16日(日)23:00~ 

配信情報:

ABEMA、dアニメストア、U-NEXT、NETFLIX、WOWOWオンデマンド、GYAO!、ひかりTV、FOD、バンダイチャンネル、Hulu、auスマートパスプレミアム、TELASA ほかにて配信予定

イントロダクション

全世界累計発行部数5000万部突破(2022年現在)日本を代表するダーク・ファンタジー超大作がTVシリーズとして放送決定!

1989年の連載開始から今もなお孤高の存在として本格ダーク・ファンタジーの軌跡を現代漫画界に刻み続けている『ベルセルク』(著・三浦建太郎/白泉社『ヤングアニマル』連載)。

ファンの間でも最も人気が高い“黄金時代”を三部作で映画化し、2012年~13年に日本をはじめ世界16カ国で公開しました。そして2022年、劇場公開から10年の時を経て、『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』として2022年10月よりTVシリーズにて地上波初登場を予定。

【黄金時代篇三部作】
2012年2月4日公開 『ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵』
2012年6月23日公開 『ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略』
2013年2月1日公開 『ベルセルク 黄金時代篇III 降臨』

今回の放送では2012年の劇場公開時にはなかった原作人気シーンの一つでもある「夢のかがり火」など原作珠玉の名シーンが、劇場版同様に恩田尚之総作画監督のもと新規カットとして追加することが決定!さらに、既存カットも、数百カットに手を加え、リマスターとしてバージョンアップ!

新規カットには、平沢進、鷺巣詩郎による、新たな楽曲提供が決定。

ストーリー

己の剣だけを信じてきた。友も家族も帰る故郷もない──孤独な剣士ガッツは、百年戦争に揺れる地を傭兵として渡り歩いていた。身の丈を超える長大な剣を自在に操り、強大な敵をいとも簡単に倒すガッツ。そんな彼に目をつけたのが、傭兵集団“鷹の団”を率いるグリフィス。

美しい姿からは想像もつかない統率力を持ち、大いなる野望を秘めたグリフィスは、自らの夢を叶えるためにガッツを決闘で制し、鷹の団に引き入れる。数々の激戦を共にくぐり抜けるうちに、信頼で結ばれていく仲間たち。なかでもグリフィスとガッツの絆は、今や特別なものとなっていた。

やがて鷹の団はミッドランド王国の正規軍にのし上がるが、それはグリフィスの目指す頂点へのはじめの一歩にすぎなかった。一方ガッツは、グリフィスの「夢」に取り込まれ剣を振り回すだけの人生に疑問を抱き始める。だが、ガッツはまだ知らない。果てなき夢が二人に与えた、恐るべき宿命を──

STAFF

原作:三浦建太郎
メモリアル・エディション監督:佐野雄太
劇場版監督:窪岡俊之
脚本/メモリアル・エディション脚本総監修:大河内一楼
キャラクターデザイン/総作画監督:恩田尚之
アニメーションディレクター:岩瀧智
美術監督:中村豪希 竹田悠介 新林希文
動画検査:梶谷睦子 加来由加里
色彩設計:成毛久美子
CGI監督:草木孝幸 廣田裕介 斉藤亜規子 今中千亜季
編集:重村建吾
音響デザイン:笠松広司
音楽:鷺巣詩郎
オープニングテーマ:平沢進「Aria」(テスラカイト)
エンディングテーマ:中島美嘉「Wish」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:STUDIO4℃

CAST

ガッツ:岩永洋昭
グリフィス:櫻井孝宏
キャスカ:行成とあ
ジュドー:梶裕貴
リッケルト:寿美菜子
ピピン:藤原貴弘
コルカス:松本ヨシロウ
ガストン:矢尾一樹
バズーソ:ケンドーコバヤシ

アニメ公式サイト
アニメ公式ツイッター(@berserk_mePR)
原作公式サイト
原作公式ツイッター(@berserk_project)

(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
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