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- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中のみかわ絵子先生による大人気漫画『忘却バッテリー』。中学時代に“怪物バッテリー”として名を馳せた天才投手・清峰葉流火と捕手・要圭が、要が記憶喪失になったことをきっかけに野球部のない都立高校に入部し、かつて自分たちが挫折させた球児たちと再び野球に打ち込む日々を描いた高校野球漫画です。
ギャグ調に描かれる男子高校生たちの日常と野球に真剣に取り組むゆえにぶつかるシリアスな問題との絶妙なバランスが多くの読者の心を掴み、2024年4月にはアニメ第1期が放送され、第2期の制作も決定しています。また、主題歌となったMrs. GREEN APPLEの「ライラック」はその年のレコード大賞を受賞し、こちらも大きな話題となりました。
隔週木曜日はそんな『忘却バッテリー』の更新日! 2月20日には最新170話が公開されました。要圭の主人格が眠り続ける中、4番バッター・巻田が打席に立ち、試合は緊張の場面が続いています。
本稿ではSNSに寄せられた反響とともに、170話の内容の振り返りや考察をしていきたいと思います。
※本稿には、170話のネタバレが含まれますのでご注意ください。
主人格しか捕球できない清峰の魔球・スプリットを試合の中で「捕れるようになってやる」と覚悟を決めた智将・要。「智将と恥将がライバルなのいいね…」と、前話から多くの読者が智将の戦いに熱視線を送っていました。
しかし、投げられたスプリットは予想外に落ちが悪く、巻田に当てられてしまいます。清峰本人は本気で投げたつもりだったスプリットでしたが、直前に捕球ミスを目の当たりにしていたため、無意識のうちに遠慮してしまっていたようです。
野球を始めた頃から天才・清峰と肩を並べてプレーするため、そして彼がいつでも全力で投げられるよう、血のにじむような努力を続けてきた要。他でもない清峰に遠慮した球を投げられることは何よりも悔しいはず。スプリットを捕る覚悟を決めた直後ならばなおさらです。スプリットの打席の後の要の横顔が切なすぎて胸が痛かったですね……。
幸いにも巻田が当てた打球は二遊間と一塁手・山田のファインプレーによってゲッツーとなり、小手指はピンチの局面を乗り切ることとなりました。読者からも「二遊間かっこよすぎた」「っぱ二遊間とヤマちゃんよ!!」「ゲッツーのシーン鳥肌立った」「画が動かないのにこんなに魅せられるなんてすごすぎるよ……」と賞賛の嵐。
そしてここから物語のスポットは二塁手・千早に移っていきます。千早は要と同じく、恵まれないフィジカルを数えきれない努力でカバーし、才能の壁に苦しんできた選手。彼曰く「智将要 圭は嘘つきだ」と。自分の本心である「やりたいこと」をやるのではなく、「やるべきこと」を頭で判断して行動しているのだというのです。
それがわかるのは、千早本人が智将と同じ「嘘つきだから」。2人は似た者同士なのです。しかし、千早は「直接物言うことはないが 似た者同士として一つ プレーで示せたらいいなと思う」と、本音をプレーで見せようと打席に向かいます。
この展開に「自然な流れで千早のターンになるの最高」「似てるからこそ気持ちがわかるんだよね」「千早~~~!智将を救ってくれ~~~!」「言葉じゃなくてプレーで本音を語るのかっこよすぎない?」「千早回来るぞ…絶対泣く」「バッテリーだけの物語にならないところが忘却バッテリーの好きなところだよ」と読者も大盛り上がり。
試合はどちらも0点のまま4回裏、小手指高校の攻撃です。最初に打席に立つ千早の本音のプレーに期待が高まります!
緊迫した試合展開が続く中、読者を和ませたのはもはや『忘却バッテリー』の名物ともいえる“おじさん”たち、通称“おじ”です。“おじ”は高校野球が大好きなおじさんたちの総称で、第38話あたりからたびたび登場しています。
強豪校や注目校には特定学校を応援する“おじ”も存在し、本話ではゲッツーの場面で激しく落胆する“氷河おじ(氷河大好きおじさん)”と歓喜に沸く“小手指おじ(小手指大好きおじさん)”が描かれました。
「試合で緊張しっぱなしだったけど悲喜こもごものおじたちで癒された」「モブおじにここまでフォーカスする野球漫画ないやろw」「相変わらずおじの描写が丁寧でわろた」「個性豊かなおじたちがこの漫画をより華やかにしている」「氷河大好きおじさん、妙に品があって好き」と試合展開に一喜一憂する”おじ”に読者はホッと一息。シリアスな場面が続く中でもギャグ要素を忘れない『忘却バッテリー』の魅力が垣間見られました。
ここからは私の個人的な感想なのですが、小手指の監督・佐古の洞察力が本当に素晴らしく、言及すべきだと思いました。前話から智将がスプリットの捕球技術を主人格から共有されていないことを感づいたり、投球で遠慮された要の心中を察して心配したりと、本当に選手をよく見ていると思います。
スプリットを試すタイミングも要と一致していますし、過去には彼の判断で打者であった清峰を下げて、レギュラー落ちした佐藤を代打にしたことで帝徳高校を下しており、試合中の判断力に関しても申し分ありません。
普段はだらしない大人として描かれるからこそ、監督力を見せつけられると心が震えるような感動を覚えますし、彼が監督で本当に良かったなあと思います。誰にも本音を打ち明けず一人で苦悩する要を、佐古がどのようにサポートするかも注目したいところです。
[第170話]忘却バッテリー - みかわ絵子 | 少年ジャンプ+

1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。
