
観てくれる子供たちの心に残る作品を作りたい――『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』寺本幸代監督インタビュー|「へたっぴドラ」が動く音には“ドラえもん誕生秘話”とのリンクも
「映画ドラえもん」シリーズ45周年記念作品『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』が大ヒット公開中!
今回の冒険の舞台は、絵の中の世界! アートリア公国に迫る危機、そして囚われの身になったジャイアンとスネ夫を救出するために、のび太たち、お姫様のクレア(CV.和多田美咲)と幼なじみのマイロ(CV.種﨑敦美)、小さな悪魔のチャイ(CV.久野美咲)が力を合わせて困難に立ち向かいます!
本稿では、今作の監督を務めた寺本幸代さんのインタビューをお届け。
『新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』『のび太のひみつ道具博物館』など、数々の傑作を手掛け、新TVシリーズの第1話の演出も担当された寺本監督。「映画ドラえもん」の制作時に心がけていることや『ドラえもん』のお気に入りエピソード、今作の見どころなどをお話いただきました。
「ドラえもんとのび太を兄弟みたいに描きたい」――制作の糧となった善聡一郎さんの言葉
──寺本監督は2005年から『ドラえもん』の制作に関わられています。まずは「映画ドラえもん」が45周年を迎えた感想をお聞かせください。
監督・寺本幸代さん(以下、寺本):45周年という節目の年にやらせていただいて、本当にありがたいと思っています。私も小学生の頃から「映画ドラえもん」を観て育ったので、とても感慨深いです。
──寺本監督は過去に複数の「映画ドラえもん」で監督をされていますが、制作するうえで大切にしていることはありますか?
寺本:私は元々子供向けのアニメを作りたいと思って、この業界に入ったんです。『ドラえもん』に関われることが非常に嬉しいですし、観てくれる子供たちに向けて作ることを忘れないように心掛けています。
──TVシリーズではのび太たちが住む街を舞台に、日常的なエピソードが描かれますが、「映画ドラえもん」ではキャラクターが街を飛び出して、壮大なストーリーが展開されます。
寺本:TVシリーズと違う点は色々ありますが、映画は尺が長いため、キャラクターの感情をより深く描けるのがいいですね。
──監督が関わった作品への反響や感想に触れることはありますか?
寺本:スタッフの方が観てくださって、感想をくださいますし、今回の映画もドラえもん役の水田(わさび)さんが「良かったです!」と熱く語ってくださって、すごく嬉しかったです。
──スネ夫役の関智一さんは「寺本さんは原作に新たな要素を加えるのがとてもお上手で。蛇足にならない素敵なアレンジでとても良かった」とおっしゃっていて。キャストからもかなり信頼されているように感じました。
寺本:「映画ドラえもん」の監督をやるのは12年ぶり(『のび太のひみつ道具博物館』)なので、実はちょっとドキドキしていました。12年前は若さで何とか頑張れたところもありますが、この頃は老眼が進んで……(笑)。絵を描く人間にとって目は大事なので、「老眼ってこんなにつらいのか!」と思いました。
この12年の間にアニメ業界もデジタル化が進んできていて。業界20ウン年目にしてデジタルを一から学び始めたので、まだよちよち歩きな感じです。様々な変化があったので大変でしたけど、デジタル面では若い演出さんが助けてくれて、ベテランの方も一生懸命力を尽くしてくれました。本当にありがたいですし、そのおかげで私自身も頑張れた気がします。
──監督が『ドラえもん』のアニメに関わることになった経緯についても教えてください。
寺本:うちの会社(ベガエンタテイメント)に『ドラえもん』の新TVシリーズ(2005年〜)のお話があり、社長からご指名いただきました。第1話「勉強べやの釣り堀」(2005年4月)の演出をさせていただくことになって。すごく緊張しましたが、当時TVシリーズの監督をされていた善(聡一郎)さんから「ドラえもんとのび太を兄弟みたいに描きたい」と言われて、それがすごく腑に落ちたんです。その言葉は「映画ドラえもん」を作る上でも大きな糧になっています。
──TVシリーズや映画の中で、特にお好きなエピソードはありますか?
寺本:TVシリーズなら絵コンテと演出を担当させていただいた「ドラマチックガス」(2008年放送)ですね。原作がすごく面白くて、監督の善(聡一郎)さんに「ドラマチックガスをやりたいです!」と頼み込んだくらい、好きなんです。あと「ころばし屋」(2005年放送)でも絵コンテと演出を担当させていただきましたが、西部劇風ですごく楽しかったのを覚えています。
映画はもちろん自分がやった作品がお気に入りです(笑)。その中でも『新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』(2011年公開)と『のび太のひみつ道具博物館』(2013年公開)は特に好きです。
──スネオ役の関智一さんが『新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』をお気に入りの「映画ドラえもん」として挙げていました。
寺本:そうなんですね。ありがとうございます、関さん!(笑)
アートリア公国のモデルは「13世紀の中世ヨーロッパ」
──『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』を着想したきっかけやテーマが決まるまでの流れをお聞かせください。
寺本:本作のプロデューサーから監督のお話をいただいた時に、「絵」をテーマで作ってほしいというオーダーがありまして。絵の中に入るのは今までの映画にはなかったので、「面白いな」と思って引き受けさせていただきました。
──ジャイアン役の木村昴さんによると、「映画ドラえもん」では既に色々な場所に行き尽くしているので、キャスト陣の間で「それがあったか!?」と話していたそうです。
寺本:確かにそうですね。だからこそ、面白いアイデアだと思います。のび太くんみたいにあまり絵が得意じゃない子供たちが観た時に、絵のことがちょっとでも好きになったり、興味を持ったり。そういう映画になったらいいなと思って作りました。
──伊藤公志さんはTVシリーズでも脚本を手掛けていますが、「映画ドラえもん」の脚本は初ですね。
寺本:私自身も藤子・F・不二雄ミュージアムの作品『ドラえもん&Fキャラオールスターズ すこし不思議超特急』、TVシリーズの「悪運ダイヤ」(2018年放送)でご一緒させていただいていたので、作風みたいものは知っていました。ひみつ道具にすごく詳しくて、とにかく『ドラえもん』に精通した方なので、すごく頼もしかったです。
──映像を制作するにあたって、意識した点や苦労した点はありますか?
寺本:舞台となっているアートリア公国は13世紀の中世ヨーロッパがモデルになっていますが、少ない資料をかき集めるのは大変でした。そんな中でイタリアに取材旅行に行かせていただいた時、光と影のコントラストの強さを感じたんです。「この光の強さをアニメで表現しよう」と思いました。テンペラ画の描き方についても東京芸術大学の先生に取材させていただき、なるべく嘘がない形で13世紀の生活を再現することを意識しています。観ていただければタイムスリップして、13世紀のヨーロッパへ冒険に行ったような気分になっていただけるのではないかなと。
──絵の世界が舞台ということで、背景にも絵画的な美しさを感じます。
寺本:絵の中に入る時は、なるべくその絵のタッチで描いていただきました。例えば、油絵であればモコモコと膨らんだタッチとか。メインになるアートリア公国の絵も筆のタッチを活かした背景になっています。美術監督の友澤(優帆)さんをはじめ、背景担当の皆さんは大変だったと思いますが、すごく頑張っていただきました。友澤さんも『ドラえもん』が大好きなので、とにかく愛情を込めて描いてくださって嬉しかったです。
──OPも和洋の名画が並ぶ美術館にいるような感覚になりました。
寺本:タッチの異なる絵画が次々に出てきますから、私自身も観ていて面白いなと思いました。本編でも絵の中に入った時の背景とのび太たちが現実にいる時の背景の差を出すために、現実の方は写実的に描いていただきました。
──メインキャストの皆さんは、OP曲として「夢をかなえてドラえもん」が流れたことに感動されていました。
寺本:久しぶりのようですね。映画館で観てくれる子供たちが一緒に歌ってくれたら嬉しいです。