
“神出鬼没”のルパン三世を信じるなーー『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』脚本・高橋悠也さんインタビュー
『ルパン三世』約30年ぶりとなる2Dアニメ劇場版『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が絶賛公開中!
『次元大介の墓標』をはじめとした、小池健監督による『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの集大成となっています。
アニメイトタイムズでは劇場版の公開を祝して、本シリーズの脚本を手掛けている高橋悠也さんにインタビュー。シリーズの誕生秘話や本作の見どころなど語っていただきました。
※本記事には、『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』のネタバレが含まれます。
ルパン三世は視聴者さえも騙すキャラクター
──最初に『ルパン三世』のTVアニメや劇場版をご覧になったのはいつ頃ですか?
脚本・高橋悠也さん(以下、高橋):子供の頃にあまり観た記憶がなくて、TVスペシャルを何度か観たことがあるくらいでした。
ちゃんと意識して観るようになったのは、『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(2014年)で脚本を担当することになってからですね。特に「ルパン三世 PART1」を重点的に視聴して、色々と学びました。また、マモーが登場することも決まっていたので、劇場版『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年公開)はもちろん視聴しています。
──シリーズを視聴する中で、アニメ『ルパン三世』にどんな印象を持ちましたか?
高橋:月並みな表現になりますが、「大人の観るアニメ」だなと。金曜ロードショー枠で放送されていたTVスペシャルは広い年齢層が観ることを意識した作風になっていましたが、「ルパン三世 PART1」はR指定が付いてもおかしくない世界観ですよね。
それがルパンたちのキャラクター性だと思ったので、実写とアニメを比較するつもりはありませんが、脚本を作る上でも実写で演じても遜色のないセリフ回しを意識しています。『次元大介の墓標』の頃はアニメに関わった経験も少なく、小池(健)監督の作風もアダルトでお洒落な雰囲気だったので、実写作品を作るくらいの気持ちで書きました。
──ルパンというキャラクターが持つ懐の深さによる部分も大きいのかもしれません。
高橋:そうですね。これまでの歴史でも何十、何百というエピソードがあって、それだけのエピソードでも描き切れない世界観、キャラクターが確立されている作品なんだろうなと。キャラクターにある程度、広がりがないと描きようもないですが、ルパンはどういう場所に放り込んでも活きて、我々を驚かせたり、楽しませたりしてくれます。
──今までTVシリーズやOVAで『ルパン三世』の脚本を担当されていますが、書かれる際に意識していることや難しい点などを教えてください。
高橋:まずはルパンが魅力的に見えないとダメだと思っています。彼は100%の感情で100%の本音を言ってはいけないと僕は思うんです。彼が発する言葉には必ず裏があって、作中の敵や味方だけでなく、視聴者さえも騙すようなキャラクターだと思いますし、「そうであってほしい」という願いでもある。
頭脳明晰で頭がキレるキャラクターゆえに脚本家としての苦しみもあります。基本的に脚本家よりも頭がいいキャラクターは生まれない、僕が考えたセリフしか発することができないので、自分をルパンの頭脳に近づける作業が大変です(苦笑)。できているのかは今でも疑わしいんですけど……それが『ルパン三世』の脚本を作る難しさですね。
──次元や五ェ門、不二子についても、一緒に行動しつつ、口にしない何かを思っている感じがあって。そのさじ加減は難しそうだなと。
高橋:そうですね。ただ初めて関わった『次元大介の墓標』は、「ルパン三世 PART1」のちょっとダーティでダークな世界観のルパンを描くというところから始まっているんです。それぞれが仲間ではなく、たまたま利害が一致して一緒に行動している。「ビジネスパートナー」と言っていたように、仲間じゃないからこそ、感情をオンにしてしゃべり合わないような関係性から入ったんです。
最初の課題としては、「ハードボイルドでお洒落なやり取りにする」という部分でした。もし「ルパン三世PART2」を前提にした世界観で初めて『ルパン三世』に取り組むとしたら、もう少し和気あいあいとした関係性で描いて、ひりひりした肌感覚を落とし込むことができなかったかもしれません。そういう意味では、初めて『ルパン三世』に関わったのが“小池ルパン”で本当に良かったと思っています。
──それこそ「PART2」の銭形は、ルパンと敵対しながらも友情みたいなものが芽生えつつあるような描写を見ることがありました。
高橋:銭形はルパンの人間性までは肯定して、受け入れている訳ではないと思うんです。
「なぜ彼はルパンをずっと追い続けるのか」という彼のアイデンティティを考えてみた時、お互いに孤立している、いわば「個」の存在なんですよね。『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』でも、銭形がルパンから「自分たちは似たもの同士」と言われるシーンがありました。
警察いう組織を背負いながら、あらゆる任務よりも最優先でルパンを追っているのは、どこかルパンに共感する何らかの感情があるからかもしれない。そこを掘り下げて描いてみたいという想いから“小池ルパン”の銭形が生まれた気がします。
“謎の島”が舞台になった理由とは?
──今回の「不死身の血族」のプロットやストーリーはどのように作られたのでしょうか?
高橋:“小池ルパン”の制作は、クリエイティブ・アドバイザーの石井(克人)さんによる敵キャラのデッサンやシチュエーションなどが書かれたプランメモとの“にらめっこ”から始まります。石井さんがイメージした敵キャラクターとフィーチャーするルパン一味のキャラクターをどう戦わせるかについて、小池監督やプロデューサーと一緒に話し合っていく形です。
──そのメモには、ムオムがマモーによって作られていることも書かれていたんですか?
高橋:そうだったと思います。『次元大介の墓標』でマモーを登場させた時には、既にイメージがあったのかもしれませんね。今回の『不死身の血族』に至って、ムオムという名前と独特のフォルム……正拳突きするのも石井さんのアイデアですが、最初は「えっ!? ルパンがこいつと戦うの?」と物議を醸しました。それから紆余曲折を経て、そのイメージを何とか具現化できる世界観を作ったんです。
──舞台が地図に載っていない島というのもミステリアスでいいですね。
高橋:ムオムのデザインを見た時、人型で不気味でしたし、もっと深い意味合いを持たせようというところから、ベニクラゲの不老不死に至る科学的な理屈や島全体の持つ秘密を付けることで、底知れない不気味さや壮大さを出していきました。
また、これまでの“小池ルパン”は、政治や街を舞台にしたエピソードが多かったですよね。『ルパン三世』といえば、街中でのカーチェイスやガンアクションが似合うということで、いろいろな国を旅するルパンを描いてきました。
先ほどの話にも通じていますが、銭形が世界を股にかけてルパンを追うにあたって、ルパンが色々な場所に出没することも描きたくて、色々な国のシチュエーションに変えていたんです。ただ、今回のムオムのデザインを見た時、「コイツ、絶対街にいないな」と(笑)。彼がいる不思議な場所ということから、地図にない島が舞台になりました。
小池監督と石井さんがこれまで作ってきた敵キャラクターがどれも魅力的だったので、「何でそういう人が生まれたんだろう?」という部分を縦軸と伏線で拾っていくと、それぞれの世界観に自然と導かれたような気がします。

































