
『薬屋のひとりごと』から学ぶ歴史。中国の宮廷の仕組みや地位はどうなっていた? 「後宮」と「宦官」を知る。
「宦官」とは?
宦官とは何かと聞かれて、単純に答えてしまうなら、去勢された男性ということになるでしょう。
ホルモンのバランスが変わるのか、男性にしては声が高くなったり、髭が薄くなったりする人が多いようです。生殖機能を失ってしまっても、性欲が残る人もいたようで、女官との不義の記録も残っています。なかなかに苦労が多そうですね。
中国史は「宦官」なしには語れない
歴史の中で、宦官は中国以外の世界史でも広く見られ、古代オリエント・エジプト・オスマン帝国・ムガル帝国など、各地でその存在が確認できます。なかでも、中国の宦官は、歴史を動かすほどの権勢を手にするなど、その存在感の強さが抜きん出ています。
中国では古代、去勢手術は罪を犯した者への刑罰だったようです(宮刑)。ですが、時代を経るにつれてその役割が変わっていきます。女性たちの空間である後宮で、雑用に使われるようになったのです。宦官なら、皇帝のお世継ぎ問題を引き起こすようなことはないですからね。
こうして宦官は、門の開閉、庭や館内の掃除、文書管理、皇太子(東宮)の家庭教師まで、時代を経ると同時に宮中のあらゆることに携わるようになります(その力が制限された時代もありましたが)。後漢、北魏、唐、明、清朝などでは、皇帝なみの権力をもつ宦官が出現。次期皇帝選出に多大な影響を及ぼしたり、税の押領で私財を溜め込んだりで、“宦官大専横時代”を築くこともありました。
とはいえ、宦官は悪い人ばかりではありません。立派な功績を残している人もちゃんといます。例えば、『史記』を書いた司馬遷も宮刑をうけた宦官ですし、明代「鄭和の大航海」でおなじみの鄭和も宦官です。
「宦官」になりたい
宦官は、庶民が一生会う機会のない皇后や妃たちに接触することができる存在。つまりは、庶民でも宦官になれば、権力に近づけるかもしれないのです。
宦官の専横に閉口する皇帝が続き、ついに隋が宮刑を廃止します。とはいえ、宦官がいなくなったわけではありません。明・清代では、「自宮者」が多出。自宮というのは、自らの意思で去勢を行うことです。これは、宮中に就職したいがための行為でした。
とはいえ、宦官の世界も競争社会です。宦官の皆が権力に近づけるわけではありません。それでも就活対策のひとつとして、去勢手術があったということでしょう。
清代の記録ですが、去勢手術を請け負っていたのは「刀子匠(切り師)」とのこと。政府公認の手術小屋「小廠」というのが、紫禁城の西門にあり、希望する者はここに行ったそうです。麻酔はなく、傷口には灰を塗り紙で包むだけの手術だったとか。
現在では非難される行為かもしれませんが、当時としては、これが普通で当たり前の光景だったのでしょう。現代の価値観だけで批判してはならないことは、心に留めておきたいところです。
『薬屋のひとりごと』では、この宦官という特殊なポジションが、壬氏の隠れ蓑に使われていて見事ですよね。本当は皇帝の弟であり、東宮(皇太子)である壬氏は、その身分から、猫猫と一緒にはいられないのでしょうか? 兄である皇帝に男子が誕生すれば、また帝位の順位が変わってくるのかもしれませんが、どうなのでしょう?
アニメ シーズン2エピソード22「禁軍」では、猫猫を助けるために、宦官の仮面をかなぐり捨てて皇帝直属軍(禁軍)を率います。物語の行方が気になります。
さいごに
『薬屋のひとりごと』を楽しむ中で、ちょっと調べてみた歴史雑学。こうして調べてみると、原作者の日向夏先生をはじめ、コミカライズされている先生方、アニメスタッフの方々等、みなさん本当に細かく調べていらっしゃることがわかりますね。
「後宮」と「宦官」という、中国史ならではの存在を、少しだけではありますが知ることができたので、より世界観に没入してアニメを観たいと思います!
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