
『追放者食堂へようこそ!』連載インタビュー第8回:音響監督・小沼則義さん|時代劇のようなわかりやすい音楽の“型”──「観ている方に『楽しい』と感じていただけることを意識して」
2025年7月3日より好評放送中のTVアニメ『追放者食堂へようこそ!』。超一流の冒険者パーティーを追放された料理人・デニス(CV:武内駿輔)が、憧れだった食堂を開店し、看板娘のアトリエ(CV:橘茉莉花)とともに、お客さんに至高の料理を提供するという“新異世界グルメ人情ファンタジーです。
アニメーション制作をてがけるのはOLM Team Yoshioka。食欲をそそる料理作画に加え、笑いあり、涙ありのストーリー展開がSNSを中心に話題をよび、第1話はXで日本トレンド1位を獲得するなど、“深夜の飯テロ人情アニメ”として注目を集めています!
アニメイトタイムズでは、アニメ放送後に掲載されるインタビュー連載を実施。連載第8回は小沼則義音響監督が登場です。燃やされてしまった「冒険者食堂」……このあと、デニスたちはどのような決断をしていくのでしょうか。キャストのお芝居や劇伴のお話を中心に、本作の魅力などについて伺いました。
“型”を作って演出していった物語の前半のBGM
──最初に「音響監督」というお仕事について教えてください。
小沼則義さん(以下、小沼):作品のサウンドデザイン全体の監督をすることが仕事です。具体的に言うと、アフレコでの演技・演出指導、音量バランスの監修、どのシーンにどの音楽を使うのか、なども決めていきます。なので、ひと言で表すと「アニメに関する音を監督する仕事」ということになりますね。
──音楽に通ずるスキルと、お芝居へのディレクションは全く異なるスキルだと思うのですが、どのように身に付けるのですか?
小沼:その人の出身によるかもしれないですね。「どのように音響監督になったのか」でストロングポイントが違ってくるんです。
たとえば音響制作から音響監督になる方は、現場でのコミュニケーションを始めとした全体をまとめる力がある。役者出身であれば、お芝居に強い。僕はミキサー出身なので、どちらかと言えば、選曲などのサウンドデザインが強いと思います。
アフレコでの演出指導という面でいうと、僕は現場で音響監督の仕事を見てきました。「門前の小僧、習わぬ経を読む」ではないですが、現場で覚えた部分があります。また実際に音響監督になる際は、演技のワークショップに行って勉強もしました。やはり何も知らずにはできないものですから。
──監督が思い描く希望を、キャストにわかりやすく伝えるという役割も音響監督のお仕事でしょうか。
小沼:もちろんそれもありますが、私としても「こういうふうにしたい」というプランがありますので、皆さんの希望を聞きながら作ったイメージをキャストに伝えていく仕事になりますね。
──『追放者食堂へようこそ!』では、どのようなコンセプトで演技を含めた音作りをしていったのでしょうか。
小沼:第4話までは、ある程度の型がありました。困っている人が食堂に来て、彼ら彼女らをデニスが助けて解決をして、ご飯を食べるという流れですね。そこでキャラクターの紹介と、デニスがどんな男なのかを描いていく形だったので、音の面でも「良い意味で“型”は作りたいね」という話はしていました。
──本作の冒頭でいうと、特にヴィゴーの悪役感が印象に残っています。
小沼:物語を勧善懲悪にして、ヴィゴーを完全に悪人にして描こうという強い意向があったわけではないんです。ただ、物語のベースとして、この作品は善悪をはっきり描くんだということは考えていました。そこで悪側にも矜持を描くのであれば「嫌な奴にはなるけれど、ただの嫌な奴では終わらせない」という方向で演出していきました。
劇伴に関してはわかりやすいテーマモチーフを作り、時代劇で言う「将軍様が敵を倒し出したら、あの音楽が流れる」というパターンで、キャラクターを活躍させていきました。加えて『追放者食堂へようこそ!』はコミカルなシーンも多いので、そのコミカルさをきちんとフォローするサウンドを作り、視聴者が見て楽しいと思える作品づくりをしていきました。
──わかりやすさに繋がりますね。
小沼:そうですね。表層に見えている部分はわかりやすく、それ以外の部分はあえてフォローせずに、匂わすだけにしておきましょうという話はしていました。なので見返したときに伏線として考えていくと「これはこういう意味があったのか!」と思ってもらえるポイントがあるかもしれません。
──キャスティングについてもお伺いしたいのですが、アトリエ役の橘 茉莉花さんは本作が初のレギュラー出演となりました。
小沼:キャスティングは私だけでなく関係者の皆様のご意見もいただきながら、なおかつキャストのスケジュールも踏まえて考えています。作品の価値を最大にするためにはどうすれば良いのかを意識して決めさせていただきました。
橘さんに関しては、僕の記憶だと志村錠児監督が強く推していた印象があります。また、キャリアから出る空気感というのも確かにあって、良くも悪くも演技が上手くなると「こういう役には合わないよね」ということがあるんです。例えば女子高生役だったら、日常芝居が上手過ぎると初々しさがなくなってしまう。その場合は若手のほうがフレッシュに感じるよね、と。
監督もそのような理由もあって橘さんを推していて、私たちも良いのではないかと思っていました。とはいえ「橘さんのフレッシュさが、たどたどしいアトリエの雰囲気にリンクした」ではなく「初々しさがある上で細かい感情の機微を表現することができた」から選ばれたのだと思っています。
──橘さんには、何かアドバイスをされたのですか?
小沼:なるべく緊張しないよう、冗談を言うなどしていました。最初のうちは特に具体的に「こうしたほうが良いよ」と言ってしまうと、それで頭がいっぱいになってしまって、良いほうに行かないことのほうが多いんですよね。それがわかっていたので、第4話くらいまでは細かいことはあまり言わずに、ちょっとずつ現場に慣れてもらいました。
第4話では、バチェルとじっくり話す、こだわらなければいけないポイントがあったので、そこまでに、緊張でお芝居ができないということがない状態に持っていくことは考えていました。ただ、橘さんは舞台度胸がある方で、そんなに心配することはありませんでしたね(笑)。
──全12話で成長も感じられたのではないですか?
小沼:そうですね。アトリエが心を開いていくという心情の流れが、いい意味で橘さんの成長ともリンクする部分がありました。少しずつ感情が漏れ出ていくようなところは、橘さんの現場での関わり方ともリンクしていて、自然な流れで上手くいったので、とても良かったなと思っています。
──改めて座組を見ると、魅力的な方々が集結された印象です。
小沼:この作品は、以前一緒に作品を作ったことがあるデニス役の武内駿輔さんとビビア役の伊瀬茉莉也さんもいたので、この2人がいれば、現場の空気感は良くなるだろうと思っていました(笑)。武内さんは意外と若いんですけどね……。
これでもし、ヴィゴー役が鈴木崚汰さんではなく、もっと年上の方だったら、間を繋ぐ年齢層の人を入れようかなと考えたりしたかもしれませんが、必要ないくらい年齢層のバランスが良かったです。あと、ポルボ役の下山吉光さんが活躍してくださいました(笑)。とても感謝しております。














































