この記事をかいた人

- 藤崎萌恵
- 数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスが癒し。主な記事は『チェリまほ』『陳情令』等。

中国の漫画家であるMTJJ監督および寒木春華(HMCH)スタジオが制作した劇場アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』。2019年9月、中国での公開に続いて日本語字幕版が上映されて評判となり、2020年11月には日本語吹替版『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が公開。
黒猫の妖精・シャオヘイを花澤香菜さん、「最強の執行人」である人間・ムゲンを宮野真守さん、人間嫌いの妖精・フーシーを櫻井孝宏さんが演じ、多くのファンを魅了しながら半年に及ぶロングラン上映を記録しました。
その待望の続編『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』の日本語吹替版と字幕版が2025年11月7日より同時公開。
今作の吹替版では花澤さんと宮野さんが前作に引き続きシャオヘイとムゲンを演じ、総本部の執行人であるナタ役の水瀬いのりさん、執行人のキュウ爺役のチョーさん、龍遊市の館の館長パンジン役の大塚芳忠さんが続投。新たにシャオヘイの姉弟子ルーイエ役の悠木 碧さん、館の長老チーネン役の諏訪部順一さん、同じく館の長老シームーズ役の石田 彰さんら実力派キャストが集結しました。
今作もまた公開するやいなや高評価が相次ぎ、日本でも瞬く間にファンの口コミが広まる熱狂ぶり。もともと本作のファンである筆者も、期待以上の完成度に圧倒されたと同時に、本当に“いい映画”を観た心地良さに浸ることができました。
本稿では、そんな『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』のレビューや見どころをお届け。映画公開からまだそれほど日が経っていないため、できるだけネタバレなしで綴っていこうと思います。とはいえ一部作品の内容に触れていますので、未鑑賞の方はご注意ください。
『羅小黒戦記』はWEBアニメが原点で、2011年3月から動画サイトで公開した後に人気が上昇し続け、中国アニメを代表する作品にまで成長しました。WEBアニメは、シャオヘイ(小黒)がロ・シャオバイ(羅小白)という女の子の家に拾われるお話から始まります。2025年10月より、WEBアニメをTVサイズに編集した日本語吹替版の放送もスタートしました。
2019年公開の劇場版第1作は、WEBアニメシリーズの4年前を舞台とした前日譚。人間により森が開発されて居場所を失った黒猫の妖精シャオヘイに、手を差し伸べたのは同じく妖精のフーシー。しかし、そこへ「最強の執行人」と畏れられる人間のムゲンが姿を現します。
人間=嫌いな存在として反発心を持つシャオヘイでしたが、ムゲンと共に旅をするなかで、人間と妖精の関係は単純に善悪で判断できないということ、どの世界にも色んな人がいるということを自分の目で見て吸収していきました。
人間を許すことができない妖精のフーシーと、人間と妖精の共存を願うムゲン。2人の視点や思いに触れたシャオヘイは、彼自身の意思で進むべき道を選びます。
このように、前作では人間と妖精の共存をめぐる対立を提示しながら、シャオヘイが本当の居場所を見つけるまでの物語を描き、師匠となるムゲンとの絆を深める過程が2人の旅路を通して映し出されました。
そして続編となる新作『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』では、前作から2年後が舞台に。シャオヘイは、師匠のムゲンと共に小さな村で修行に励みながら穏やかな日々を過ごし、6歳から8歳に成長。
しかし、とある館への襲撃事件が勃発し、長きにわたり保たれていた妖精の世界の平和を脅かす事態に。任務を与えられたシャオヘイはムゲンから引き離され、姉弟子・ルーイエと共に、真実を求めて新たな旅へと繰り出します。
今作はルーイエのバックボーンやシャオヘイとの旅に重点を置いていますが、前作のテーマを継承しつつ、妖精の世界全体におよぶ深刻な問題が主軸に。高い文明を持つゆえ脅威となる人間とどう向き合っていくのか、これまで理性的に人間との関係を築いてきた妖精の世界に緊張が走ります。
アクションシーンはより重厚で壮大なものとなり、長老クラスや一級執行人といった大物キャラクターが複数登場するなど見応え抜群。万事解決で締めくくることができるテーマではなく、次なる重大な局面の布石も見え隠れする奥行きのある緻密なストーリーが、観客をさらに物語へと引き込んでいきます。
扱うテーマとしてはシリアスですが、ユーモアの精神が根付いており、絶妙な緩急バランスも本作の特徴。情報密度が濃くて、どの場面を切り取っても心惹かれるものがあり、観客の好奇心や探究心をくすぐってきます。
キャラクターデザインの良さも『羅小黒戦記』の魅力のひとつ。さらに注目したいのが、キャラクター一人一人の背景、性格、仕草、戦法まで細やかに練られていること。皆それぞれ長年生きてきたなかで培った思想があるもので、その歴史が各キャラクターに厚みを持たせています。
『羅小黒戦記』における妖精とは、自然から生まれた、特別な能力を持った存在。人の姿に変身することも可能で、人間よりも長寿。修行をすることで能力を使いこなせるようになったり、複数の能力を得ることができます。人間も修行によって能力を得ることが可能です。
能力は「御霊系」「空間系」「造物系」「心霊系」「生霊系」「鎖御系」と大きく6つに分類。「御霊系」はさらに「火」「金」「水」「木」「土」といった属性に分類でき、「空間系」も「己界」「領界」「転送(テレポート)」など様々な能力の現れ方があります。
シャオヘイとムゲンは同じ「御霊系・金」を持ち、金属を自在に操って戦うことが可能。さらにシャオヘイは「空間系・転送」、ムゲンは外部にある物体を自分の霊域の中に飲み込むことができる「空間系・己界」の能力も有しています。
シャオヘイは霊から生まれた黒猫の妖精。人間の姿と猫の姿の両方になることができ、しっぽは「ヘイシュウ」と呼ばれる複数の生き物に分裂します。この2年で能力の扱いが上達しているだけでなく、精神的にも良い成長をしているシャオヘイ。まだ幼くて理解が追いつかないこともありますが、自分で答えを探して決断できる強さも持ち合わせています。
人間嫌いだったシャオヘイは、2年前のフーシーたちとの出会いやムゲンとの旅を経て人間に対する向き合い方は大きく変化。一方で8歳の子供らしさを発揮する場面もあり、吹替版ではそんなシャオヘイの成長や愛らしさを花澤香菜さんが存分に見せてくれています。
ムゲンは人間でありながら妖精たちの集う館に所属する「最強の執行人」。館とは妖精と人間の融和のために働く組織で、総本部の蒼南会館の他に各都市に支部が置かれ、各館は転送門で繋がっています。執行人というのは館で働く妖精の仕事のひとつで、問題を起こした妖精を捕らえて拘束するのが大きな仕事です。
料理に関しては絶望的だったムゲンですが、どうやら腕を上げているらしい様子も。吹替版では宮野真守さんが声を担当し、クールでありながら不器用でお茶目な一面や優しさを見せるムゲンの魅力を繊細に表現しています。
強すぎるゆえムゲンが一部の妖精から「よく思われていない」と前作で話していたのも、館と一定の距離を置いているのも、今作を観ているとムゲンがどういう存在なのか別視点から捉えることができ、ずしっと胸にくるものがあります。
本作はキャラクター同士の関係性、とりわけ師匠と弟子の関係も大きな見どころ。ムゲンがシャオヘイの頭を撫でるのも、自然に手を繋ぐのも、日常的にやっているであろうことが伝わり、これだけでも胸がいっぱいに。出会った頃はあれだけムゲンに反発していたのに、シャオヘイが師匠と呼んで慕い、走り寄って胸に飛び込む子猫らしさにも感無量です。
そんなシャオヘイとムゲンの“家族“”とも言える師弟関係に、シャオヘイの姉弟子にあたる新たな女性キャラを投じることは非常に難しいことであったと思いますが、実際にこの映画を観た人の多くはルーイエのことが大好きになったはず。
ムゲンに弟子がいることは前作で語られていましたが、今回はまさにその弟子のルーイエがメインキャラクターの一人に。今作はルーイエの物語でもあるのです。
ルーイエは原語版もですが、吹替版の悠木 碧さんも温度を抑えた演技でクールな彼女の性質を体現。魅力的なキャラクターデザインに加えて、生き方、人柄、信念、強さなど全ての要素において、深くまで突き詰めたであろうルーイエの完璧な人物像が観客の心を掴んでいます。
争いにより悲劇を生み出す世界のなかで、温かさと優しさが宿る彼らの居場所はかけがえのないもの。それは、もう二度と壊されることがないよう守らなければならない大切な場所です。きっと、観る人それぞれがルーイエを通じて何かしら感じるものがあると思います。
主軸のテーマに連なる形でムゲン、ルーイエ、シャオヘイの師弟関係が非常に丁寧に描かれており、何度振り返ってもストーリー構成が完璧だったと感嘆せずにはいられないほど見事でした。
この物語はシャオヘイが主人公ですが、才能があって能力が高いとはいえ、小さな子供が全てを背負うわけではなく大人が柱となっているのが大前提。そういった安心感と同時に、強い大人が多く登場するのはやはりゾクゾクします。
本作では館の長老が複数登場し、そのうちの一人であるチーネンの吹き替えを諏訪部順一さんが担当。チーネンは人間に脅威を感じ、支配すべきだと考えているため、何かと対立してしまう立場にあります。血の気が多いイケおじタイプで、大胆な着こなしも良い。ただならぬ感情を抱えながら突き進む彼の戦闘シーンも圧巻です。
同じく館の長老・シームーズは人間を憎む妖精をたしなめていますが、糸目キャラでどこか飄々としていて本心が読めないタイプ。目を引くキャラクターデザインに吹替版で石田 彰さんが担当していることもあり、鑑賞前から気になっている人も多いでしょう。
さらに注目のイチオシキャラは、チーネンの弟子である甲と乙。甲を榎木淳弥さん、乙を土屋神葉さんが吹き替え。甲と乙はルーイエを追跡する役目を師匠から任されているのですが、振り回される立ち位置でもあり、2人の人柄や言動はこの作品の癒やしのひとつにもなっています。
他のサブキャラクターたちも一人一人丁寧にデザインされているのに、劇中でさらっと名前が明かされ、一人あたりの出番がそれほど多くないのが惜しまれるほど魅惑的な妖精ばかり。一級執行人たちが一堂に会する場面は壮観で、またどこかで登場してくれたらいいななんて期待も募ります。さらに、劇場版では名前のみ登場しているキャラクターもいるので、今後彼らの介入もあるのかどうか気になりますね。
『羅小黒戦記』は、柔らかさと温もりのある洗練された映像美も魅力。各地を次々とめぐる際の丁寧な背景美術、美味しそうな料理も見どころです。
そして、独特の質感を保ちながら繰り出される最上級のアクションシーンは実に爽快。美しい体の動き、目で追いきれないほどのスピード感、圧倒的パワーの重み、能力によって異なる戦法、これらの上質で多彩な演出をぜひ劇場で体感してみてください。
前作以上に戦闘の規模が壮大で、“これが見たかった”場面が満載。「最強の執行人」と評されるムゲンの桁違いの強さを堪能できるだけでなく、ムゲンVSナタの最強対決を拝めるという贅沢さ。前作ではその底知れぬ強さを発揮できずにいたナタも今作では比較的出番が多めで、ムゲンとナタの“俺たち最強感”を浴びることができます。
噛めば噛むほど味がする作品で、想像以上に沼が深い『羅小黒戦記』。言葉では多くを説明せず映像で語るのも本作の美点のひとつであり、キャラクターの背景や関係性など観客の知りたい欲求をどこまでも駆り立ててくれます。
劇場版のキャラクターをもっと知りたい人は、『羅小黒戦記』の外伝『藍渓鎮』(木頭原作・孫呱作画)を読むのもオススメ。『藍渓鎮』はWEBアニメおよび劇場版から約400年前の世界を舞台とした、清凝(チンニン)、老君(ロウクン)、玄離(ゲンリ)をめぐる物語です。
現在日本語版が5巻までKADOKAWAより刊行しており、劇場版およびWEBアニメのキャラクターも何名か登場。無限(ムゲン)をはじめ約400年前の彼らの姿を見ることができます。
劇場版第1作の時点で無限は437歳、2作目では439歳、WEBアニメでは441歳ですが、『藍渓鎮』では20代の無限が登場。劇場版で「老君」や「玄離」といった名前が気になった方も、ぜひお手にとってみてください。
また、『羅小黒戦記』の原点であるWEBアニメでは、劇場版第2作から2年後のシャオヘイの姿が。劇場版第1作→劇場版第2作→アニメと、シャオヘイの成長にも注目です。
MTJJ監督の話によると、劇場版を前日譚にしたのはWEBアニメを知らない人が観てもわかるようにするためで、劇場版は独立した作品としても楽しむことができます。ただしアニメや外伝と併せて観ることで、『羅小黒戦記』の世界をより深く堪能できるはずです。
| 作品名 | 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 |
|---|---|
| 放送形態 | 劇場版アニメ |
| シリーズ | 羅小黒戦記 |
| スケジュール | 2025年11月7日(金) |
| キャスト | シャオヘイ:花澤香菜 ムゲン:宮野真守 ルーイエ:悠木碧 ナタ:水瀬いのり ユーディ:多田野曜平 リンヤオ:山路和弘 シームーズ:石田彰 チーネン:諏訪部順一 キュウ爺:チョー パンジン:大塚芳忠 甲:榎木淳弥 乙:土屋神葉 |
| スタッフ | 監督:木頭(MTJJ) 顧傑 副監督:周達煒 程暁榕 李根 鄭立剛 総作画監督:馮志爽 美術監督:呂屹峰 浩客 3D監督:周冠旭 撮影監督:梁爽 音楽:孫玉鏡 プロデューサー:叢芳氷 曹紫建 制作会社:北京寒木春華動画技術有限公司 配給:アニプレックス 協力:面白映画 <日本語吹替版> 音響監督:岩浪美和 音響制作:グロービジョン |
| 主題歌 | 「Little Bouquet」Aimer |
| 公開開始年&季節 | 2025アニメ映画 |
| 作品名 | 羅小黒戦記 |
|---|---|
| 放送形態 | TVアニメ |
| スケジュール | 2025年10月5日(日)〜 TOKYO MX・BS11ほか |
| キャスト | シャオヘイ:花澤香菜 シャオバイ:佐倉綾音 アゲン:潘めぐみ シャンシン:鬼頭明里 ロウクン:山寺宏一 ディーティン:内山昂輝 おじいちゃん:茶風林 ムゲン:宮野真守 |
| スタッフ | 監督:木頭 脚本:木頭 副監督:顧傑 阿根 栗子 呆尾 小榕 作画監督:大爽 美術:呂屹峰 <日本語吹替版> 音響監督:岩浪美和 音響制作:グロービジョン |
| 主題歌 | 「Pastoral」Aimer |
| 公開開始年&季節 | 2025秋アニメ |
| 電子書籍 | 『藍渓鎮 羅小黒戦記外伝』電子書籍(コミック) |

数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスを愛し、大好きな作品はたくさんありますが『チェリまほ』が心のよりどころです。そして『魔道祖師』をはじめ中華BLの沼へ。趣味は国内外のBL漫画や小説を読むこと&ドラマ観賞で、これまでに執筆した記事は『チェリまほ』『美しい彼』『魔道祖師』『陳情令』『ENNEAD』など。
