アニメ映画『HELLO WORLD』伊藤智彦監督BD&DVD発売記念インタビュー|あのラストシーンは、エンドロールの後に流したかった!?
伊藤監督から見た、「VRMMOモノ」というジャンルと未来
――東宝さんから配給された日本映画としては、初めてDOLBY ATMOSを採用した作品ということになっていましたが、音響面でのこだわりはあったのでしょうか?
伊藤:そこは劇場版『SAO』で出来なかったことでもあったので、今度は(DOLBY ATMOSで)やろうぜと。音響監督を岩浪(美和)さんにお願いすることも決まっていたので、特殊音響上映をやったりもできるだろうという見込みもありました。
――具体的に、これまでの音響とはどう変化があったのでしょうか?
伊藤:より狙ったところに音をはめられるという感じでしょうか。ただ、そういった音響を活かすには、絵コンテの段階から、ここで音を聞かせるということを前提とした尺を用意しておく必要があります。
別に戦車が出てくるわけでもないので(笑)、活かせるかの懸念はあったのですが、やっぱり作ってみると(DOLBY ATMOSが)有効に使えるシーンはいくつもあって。作品の特徴にもなるし、映画館で見てもらうメリットを増やすという意味でも、やって悪いことはないだろうと。
――近年はVRMMOを題材とした作品がたくさん作られていて、その背景には間違いなく『SAO』の大ヒットが影響していると思います。伊藤監督としては、そういった作品をどう受け止められていますか?
伊藤:異世界モノについても言えることですが、どの世界も似たような文化が共通してあるんだなあ、と。パラメーターとかを出したいのは分かるのですが、その出し方についてももう少し差別化する方法はないんだろうかと思うんです。やっぱり見ていて、「なんで皆が同じような魔法陣を使っているんだろう」という疑問が湧いてきますし(笑)。
――『SAO』はもちろん原作があってこその作品ではあるのですが、やっぱりビジュアル的な表現に関しては、伊藤監督たちが作り上げられた部分で、そこはかなり参考にもされているだろうなと。
伊藤:『SAO』の時は、未来的なアトラクションにおけるUIはどのような形になるのか、我々スタッフはバンダイナムコピクチャーズの人たちにリサーチしたりしました。
その上であの表現に行き着いているので、「あの作品がやっているから」という理由で真似をしてみても、それはうまくいかないですよ。
VRMMOというジャンル自体の作品が作られ続けるのは良いと思うのですが、もっと色々な表現が見たいと思いますね。
――VRという技術の現状についてはどう考えられていますか? 普及しはじめているようなそうでないような、なかなか評価が難しい状態かなとは思うのですが。
伊藤:5Gが普及することでどう変わってくるかでしょうか。ただ正直、(5Gでは)そこまで大きな変化が起きるかというのは疑問で、スマートフォンのようなインパクトのあるガジェットが登場するかに掛かっている気がします。
SFアニメとかでも、スマートフォン以上に発達したツールを出すのは難しいのが現状で、例えばメガネやコンタクトをディスプレイ代わりにするとしても、特定の状況下ならともかく、日常的な使い勝手はむしろ不便になるんじゃないかなと。いっそナノマシンで直接埋め込めれば話も早いんでしょうけどね。
――現実よりも高度なツールを出さないといけないSFならではの苦労というか。
伊藤:それがどういうものなのか説明する時間が必要になるのも、特に尺の制限が厳しい映画だと悩みどころで。そういう説明がいらない、現代的なツールの方が出すのも楽なんですね。
(スマートフォンを指しながら)この板上の形状以上に使い勝手のいいデバイスを想像するのって本当に難しくて、この5年くらいずっと考えています。誰が思いつくのかなぁ(笑)。
――『HELLO WORLD』では、生命や現実の定義というのも作品のテーマになっていると感じたのですが、伊藤監督はどう考えられていますか?
伊藤:俺はもし「この世界が現実じゃない」と言われても、割と素直に受け入れられるタイプですね。多分、現実と思わしき外の世界を見たいとも思わないですし、仮に誰かがコントロールをしているんだとしても、自分でそれを自覚できない限りはそれは自分の意思と変わらないんじゃないかなと。
作中の直実が、「ここが記録の世界である」と伝えられてもそんなに取り乱さないのも、俺自身の考えが影響しています。
――確かに、直実もそこまで動揺していないというか、結構素直に受け止めていますよね。
伊藤:これがいわゆるディストピア的な世界だったら、事情は変わってくると思いますけどね。全体としても、70・80年代の頃のSFからは、そのあたりの風潮が変わってきているような感覚があります。
――近年はサブスクリプションモデルのサービスの普及によって、TVアニメ制作の形態が代わりつつあると感じていますが、映画においてもその影響はあるのでしょうか?
伊藤:というよりは、現場が従来通りのTVシリーズの制作に耐えられなくなりつつあるというのが正しい気がします。
働き方改革から、1作品あたりに掛かる制作の単価も上がらざるを得ない流れになってきているので、興行収入のある劇場版や、ネット配信サービスからの収入に期待せざるを得なくなっているところも多いのかなと。
制作現場の立場からすると、TVシリーズだと10回以上納品しないといけないのが、劇場版だと1回の納品で済むメリットも大きいですけど(笑)。
――そういえば最近は、伊藤監督は劇場作品をメインにお仕事をされていますよね。
伊藤:そこはたまたまその仕事が続いていただけではあるんですが、監督って1回映画を経験してしまうと、他の人間に任せるのに躊躇いが生まれるところがあるんです。
TVシリーズなら、各話演出と何人かに割り振る必要が出てきますが、本当は自分でやった方が早いしな……っていう。実際にやりたい、やりたくないかはまた別なんですけど(笑)。
――最後に、パッケージ版ならではの楽しみ方や、ファンに向けてのメッセージをお願いします。
伊藤:映画館だと分かりにくいところがあったら、もう一度映画館に行ってお金を払っていただく必要がありましたが、パッケージなら止め絵として見られるというところでしょうか。
あとはコメンタリーの方とかも見て、何気ないシーンでも、実はいろいろなことを考えながら作っていたんだな、ということを感じていただければ幸いです。
――ありがとうございました。
[取材・文/米澤崇史]
Blu-ray&DVD発売情報
【共通情報】
発売日:2020年4月8日
発売・販売元:東宝
【アニメイト特典】
マイクロファイバークロス(200mm×200mm)
※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。
HELLO WORLD Blu-ray スペシャル・エディション
価格:¥9,800+税
Blu-ray通常版
価格:¥4,800+税
DVD 通常版
価格:¥3,800+税
関連記事
映画『HELLO WORLD(#ハローワールド)』 #伊藤智彦 監督& #武井克弘 プロデューサーロングインタビュー|難解と言われても敢えてお客さんに背伸びしてもらいたかった https://t.co/UW8eTWXcj0
— アニメイトタイムズ公式 (@animatetimes) October 29, 2019
(C)ひかりTV