
見せる覚悟と見る覚悟。『ベルセルク』はものすごい力を持った作品――『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』編集・重村建吾さん&TVシリーズ監督・佐野雄太さんインタビュー(前編)
見せる覚悟と見る覚悟
――今シリーズは、映画三部作の再構成がベースになっています。編集プランは制作の軸になったと思いますが、どのように固めたのでしょう?
佐野:既存シーンの構成は、まずは重村さんに全部お任せして、自分の方は新規カットに集中しました。僕がコンテをやって、重村さんが編集。新規シーンとして、このカットとこのカットを入れるというのを自分からお伝えして、後は重村さんがつなげてくださった感じです。
重村:もともとTVでやることを想定せずに作っていたものを、どうにかTVシリーズとして落とし込むために再構築していく、というのが今回の仕事でした。劇伴がすでに乗っているシーンは基本いじらないことを意識しつつも、各話20分の中のどこにメインを置いて、全13話でどんな波を作っていくかというところを、パズルみたいに組み替えていった感じですね。ここを変えたら、前も全部変えなくちゃ、というようなことになるので、いろいろトライ&エラーを重ねました。そうして20分という枠組みに収めていくと、それはそれで見やすくなる部分があって、より感情移入しやすくなったシーンも多々ありましたね。
佐野: 前半の話数は苦労しましたよね。後半は割とうまく20分ごとに区切れた印象でした。
重村:特に第2話は悩みました。区切りとしては絶対ここで終わりたいんだけど、そうするとAパートがめちゃめちゃ空いちゃって。そこで平沢(進)さんの楽曲「Forces」と共にダイジェストを組み立てるという案があがってきた。しかも、OPも流れるという。たっぷり平沢音楽に浸れるコーナーにできたらいいんじゃないか、ということになっていきました。
佐野:重村さん渾身のMVが映えて、すごくかっこよかったです。
重村:「物語をここで全部見せちゃうの?」という意見も当然あったんですが、映画で公開済みの内容でもありますし、TVシリーズの放送期間というのは、ある種イベント的なニュアンスもあるので、こういうギミックを入れるのも面白いかなって。
佐野:制作時に重村さんが言っていた言葉がすごく印象的だったんですよ。映画は自分の意思で観に行くものだけど、TVはそうじゃない方も見る。そんな中で、『ベルセルク』はものすごい力を持った作品なので、内容を知らない人が接するにはきっとエネルギーが強すぎる、と。最初は戦場の群像劇として観られても、徐々にものすごいことになって、心を病んでしまうことがあるくらい強い作品だから、それを見せるのだという覚悟が必要だし、見る方にも覚悟してもらう必要があるのだ、と。それを聞いて、その通りだと僕も思ったんです。
重村:あとは、何より「Forces」を使わせていただけたことが大きかったですね。かつて『剣風伝奇ベルセルク』の劇中歌として書き下ろされた、ファンのみなさんにとってとても思い入れの深い曲ですから。
佐野:一気に「やりましょう!」となりました。楽曲が使えると聞いた時の重村さんの興奮がすごくて。すぐに引きこもって作り始められましたね。
重村:僕自身、「Forces」がすごく好きで、携帯のプレイリストにもずっと入れていました。もしも学生時代だったら、勝手に自主的に動画を作っていたかもしれないところを、ちゃんとプロとして現場に関わることができているのだから、公式に最高のものに仕立て上げよう、という想いでした。その熱量は画面にもたぶん表れていると思うので、TVシリーズ放送後にもひとつのアーカイブとしてMVを楽しんでいただけたら、うれしいですね。
佐野:楽曲と映像が合っているのはもちろんのこと、『ベルセルク』の運命的なものが感じ取れる映像になりました。ベース音が最後の方にドンと鳴っていくのが、心臓の鼓動だったり、運命の鼓動みたいに聞こえる。
重村:6000カットくらいある中からどれを抽出していくか……大変でもありましたが、非常に楽しかったです。最後は新作パートの佐野さんのコンテ待ちをして。「夢のかがり火」のカットが来た時に「あ、これもう使う!」となりました。編集セクションとしては、このMVも含めて、最初の3話で映画第一部までのエピソードがまとめられている、というところに、まず注目していけたらうれしいです。頑張ってるよね、と(笑)。
――Bパートのすべてをガッツとジュドーの会話で成立させた第7話も印象的でした。
佐野:まさに重村さんの編集あっての場面です。新規シーンですがただ挿入すればいいというわけじゃなくて、そもそも映画の構成はこのシーンはないものとして前後を組み立てているわけで、どうつなげば成立するのか僕には掴みきれなくて。まず酒場のコンテを重村さんにお渡しして、あとはどんなつなぎのシーンを作ったらいいか相談しようと思ったんですね。そうしたら特に追加シーンなど入れることなく、話数の切れ目を利用して次シーンへの流れを成立させてしまった。まさか、会話だけで本当に乗り切れるとは。放送で観ていて、TVの枠として区切られると意外と集中して観られるものだなと実感しました。
重村:そうなんですよ。20分の間にあのボリュームで入ってくるのは、すごくゴージャスな作りだと思います。グリフィスとの決闘シーンに向かうまでの良い溜めが作れたと思います。
佐野:第7話はダンスと酒場での会話で構成された『ベルセルク』の中ではわりと異色の回なのですが、そういう回があってもいいと思えるのもTVシリーズのいいところですね。新録させていただいた岩永(洋昭)さんと梶(裕貴)さんの演技も素晴らしく、鷺巣(詩郎)さんによる新録の劇伴も素晴らしく、そこにSEも入って、本当に良いひとときが描けました。
重村:しっかりテンポをとって描けて本当によかったです。このご時世、制作側にまで「みんな倍速で見る時代だからセリフのテンポなんか短くてもいいんですよ」なんて言う人が出てきているんですけど、僕はそれには反対派で。この酒場のシーンを作れたことで、ドラマを描く上での間合い大切さを再確認できました。
――そういったテンポによる演出効果か、視聴者のみなさんの感想に「すぐ終わる」「体感10分」というような言葉も多数見受けられます。
重村:我々にとって誉め言葉ですね。完全に没入してくれている証拠なので、とてもうれしいです。画のボリュームがすごいので、観ているうちにテンションが上がってすぐ20分経っちゃうというか。初見の方は特にそうなんじゃないですかね?
佐野:没入感という意味では、編集や作画、演出の力ももちろんありつつ、音楽の力も大きいのかなと思います。もともと劇場というハコの中に世界を展開するために構築された音楽なので、リッチさがすごくあって、物語に入り込ませる引力があるのかな、と。普通のTVシリーズとはちょっと違った没入感が得られるのだと思います。
――テンションが上がりすぎて、このままじゃ眠れない、という感想もありますね。
佐野:寝る前にこれを見るのはヘビーですね。
重村:前半はともかく、終盤は大変だと思う。
佐野:蝕は衝撃だと思いますし、絶対悪い夢、見るでしょう。
重村:そういえば、うちの母ちゃんは、映画公開時に劇場に見に行ってくれたのですが、唖然としたそうです。
佐野:僕の母親も見に行ってくれました。一応事前に警告したんですが、感想は何もなかったです(笑)。美術監督の中村(豪希)さんもまったく同じことを言っていました(笑)。
――TVシリーズは、いよいよ最終話を迎えます。ファンのみなさんへメッセージをお願いいたします。
佐野:さあ、ここから『ベルセルク』が始まります、といったところでしょうか。蝕はすごい状況になっているわけですが、よくここまでついてきてくださいました。黄金時代篇でのガッツの戦いを最後まで見届けていただけましたら幸いです。ガッツ、グリフィス、キャスカ、それぞれの想いの迸りをどうぞ受け止めください!
▼映画制作時のエピソードなどが明かされる(後編)に続く
[取材:ワダヒトミ]
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画像をクリックすると、関連記事にとびます。TVアニメ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』作品情報

放送情報
2022年10月よりTOKYO MXほかにて放送開始!
・TOKYO MX 10月1日(土) 24:30-
・とちぎテレビ 10月1日(土) 24:30-
・群馬テレビ 10月1日(土) 24:30-
・BS11 10月1日(土) 24:30-
・アニマックス 10月16日(日)23:00~
配信情報:
ABEMA、dアニメストア、U-NEXT、NETFLIX、WOWOWオンデマンド、GYAO!、ひかりTV、FOD、バンダイチャンネル、Hulu、auスマートパスプレミアム、TELASA ほかにて配信予定
イントロダクション
全世界累計発行部数5000万部突破(2022年現在)日本を代表するダーク・ファンタジー超大作がTVシリーズとして放送決定!
1989年の連載開始から今もなお孤高の存在として本格ダーク・ファンタジーの軌跡を現代漫画界に刻み続けている『ベルセルク』(著・三浦建太郎/白泉社『ヤングアニマル』連載)。
ファンの間でも最も人気が高い“黄金時代”を三部作で映画化し、2012年~13年に日本をはじめ世界16カ国で公開しました。そして2022年、劇場公開から10年の時を経て、『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』として2022年10月よりTVシリーズにて地上波初登場を予定。
【黄金時代篇三部作】
2012年2月4日公開 『ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵』
2012年6月23日公開 『ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略』
2013年2月1日公開 『ベルセルク 黄金時代篇III 降臨』
今回の放送では2012年の劇場公開時にはなかった原作人気シーンの一つでもある「夢のかがり火」など原作珠玉の名シーンが、劇場版同様に恩田尚之総作画監督のもと新規カットとして追加することが決定!さらに、既存カットも、数百カットに手を加え、リマスターとしてバージョンアップ!
新規カットには、平沢進、鷺巣詩郎による、新たな楽曲提供が決定。
ストーリー
己の剣だけを信じてきた。友も家族も帰る故郷もない──孤独な剣士ガッツは、百年戦争に揺れる地を傭兵として渡り歩いていた。身の丈を超える長大な剣を自在に操り、強大な敵をいとも簡単に倒すガッツ。そんな彼に目をつけたのが、傭兵集団“鷹の団”を率いるグリフィス。
美しい姿からは想像もつかない統率力を持ち、大いなる野望を秘めたグリフィスは、自らの夢を叶えるためにガッツを決闘で制し、鷹の団に引き入れる。数々の激戦を共にくぐり抜けるうちに、信頼で結ばれていく仲間たち。なかでもグリフィスとガッツの絆は、今や特別なものとなっていた。
やがて鷹の団はミッドランド王国の正規軍にのし上がるが、それはグリフィスの目指す頂点へのはじめの一歩にすぎなかった。一方ガッツは、グリフィスの「夢」に取り込まれ剣を振り回すだけの人生に疑問を抱き始める。だが、ガッツはまだ知らない。果てなき夢が二人に与えた、恐るべき宿命を──
STAFF
原作:三浦建太郎
メモリアル・エディション監督:佐野雄太
劇場版監督:窪岡俊之
脚本/メモリアル・エディション脚本総監修:大河内一楼
キャラクターデザイン/総作画監督:恩田尚之
アニメーションディレクター:岩瀧智
美術監督:中村豪希 竹田悠介 新林希文
動画検査:梶谷睦子 加来由加里
色彩設計:成毛久美子
CGI監督:草木孝幸 廣田裕介 斉藤亜規子 今中千亜季
編集:重村建吾
音響デザイン:笠松広司
音楽:鷺巣詩郎
オープニングテーマ:平沢進「Aria」(テスラカイト)
エンディングテーマ:中島美嘉「Wish」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:STUDIO4℃
CAST
ガッツ:岩永洋昭
グリフィス:櫻井孝宏
キャスカ:行成とあ
ジュドー:梶裕貴
リッケルト:寿美菜子
ピピン:藤原貴弘
コルカス:松本ヨシロウ
ガストン:矢尾一樹
バズーソ:ケンドーコバヤシ
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