『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第5回:遠藤一樹プロデューサー×秋田書店担当編集・髙橋圭太さん&福田裕子さんインタビュー|「市川が自分の力で頑張って山田の心を動かして、成長していく物語なんです」
市川は「ラッキースケベじゃないんです」
――皆さんが愛を持って本作に取り組まれていることをしみじみと感じます。担当編集のおふたりに『僕ヤバ』のどのようなところに魅力を感じているかをおうかがいしたいです。
福田:ギャグ漫画をずっと描いていた桜井先生だからこその作品だと思います。私は桜井先生のギャグが大好きで、「みつどもえ」連載時代にも担当をさせてもらっていたんです。もともと引き出しがすごく多い方なんですよ。『みつどもえ』に至っては、小学6年生の学校生活を10年近く描いていますから。
私が『みつどもえ』を担当していたのは、2〜3年ほどなんですが、毎年「今年のクリスマス回、どうします?」ってクリスマスネタを考えてもらっていました(笑)。連載が何年も続くと、季節ネタは難しいんです。
でも毎年全然違うアプローチで、最高に面白いクリスマスネタを持ってきてくださるのが本当に凄いなと。桜井先生の「読者をどう楽しませるか」というエンタメ力に惚れ惚れしてます。ラブコメのドキドキとドラマ性に加えて、本来のギャグセンスで笑いやハプニング、そしてキャラクターの愛らしさを発揮して「僕ヤバ」を描いてくださっていると思います。先生のいちファンとしても嬉しいです。
髙橋:ギャグ作家さんでありながら、キャラクターの心の機微を高い解像度で描けるって普通の作家さんでは出来ないと思います。
――桜井先生にお話をうかがった時、髙橋さんが「先生の頭の中には箱庭があるんですよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
髙橋:先生の中でキャラクターが動いちゃうそうなんです。渋谷が登場するお話があるのですが、そのネームをもらった際に路上で読んでいて思わず声を上げてしまったんです。当初聞いていた展開とは違うものが描かれていて、びっくりして先生に電話したら「(市川・山田)2人に任せていたら勝手に……」って。まさに箱庭ですよね。僕が一番好きなエピソードです。
先生の頭の中には2人が実在しているんです。キャラクターたちが生きていて、まるでノンフィクションみたいなリアリティが流れているから、読者も本当にあったことのように感じてしまう。
福田:先生は「2人がこの現実世界のどこかにいると思ってほしい」っておっしゃってましたよね。“ギリギリ在るかもしれない”というものを意識しているので、ありえないラッキースケベではないんですよね、この作品は。市川が自分の力で頑張って山田の心を動かして、成長していく物語なんです。
――ではアニメ最新話についてのお話もおうかがいさせてください。
髙橋:実は僕が福田から担当を引き継いだのが、第8話に登場する「Karte.38 僕はホントにずぶ濡れた」のタイミングだったんです。
福田:私が休む前に、先生が3巻のネームをまとめて上げてくださったんです。当時は怒涛のスケジュールでした。その後、私がお休みに入ったので、髙橋にバトンタッチして。
髙橋:あの時はイレギュラーな進行でした。僕も昔、週刊連載の現場にいたことがあったので桜井先生をお見かけしたことはあったのですが、話したことはなくて。だからほぼ初対面だったんです。福田との密な関係性があった上で生まれた作品だったので、僕が引き継ぐというのは、桜井先生も相当不安だったと思います。そういう中で、そこから1年半くらい、担当編集として一緒にやらせてもらいました。だからとても想い入れがあるお話です。
福田:私は図書室の場面が原作でもすごく好きなんですよ。小林がいなくなったあと、(市川が)山田に勉強を教えるという展開なんですけど、山田のノートが「バカの歴史が詰まったノート」と言われていて、1冊のノートに色んな教科がゴチャゴチャになっているんです。それに市川が思わずフッて吹き出してしまう。市川が自然に笑ったので山田がすごく喜んで、「嘲笑だよ」って市川は言って。
ここが、何ていうんだろう……絶対に今この瞬間しかない、2人だけの眩い空間という感じで、すごく好きなんです。あの場面をアニメ放送で見るのが楽しみですね。
――牛尾さんも「ふたりの邪魔をしないように音楽を作った」といったことをお話していましたね。
髙橋:インタビューで拝見しました。そうですね、邪魔をしたくないし、もはや入り込めないというか。
福田:私は市川の視点で見てしまうんですよね。市川に頑張って欲しいし、素敵な思いをして欲しいという気持ちです。市川が楽しそうだったらうれしい。友だちも、好きな人もいなかった市川が、山田の隣で自然に笑っちゃったというのが、かけがえのない瞬間だなと思いました。
――遠藤さんはいかがですか?
遠藤:8話は市川が雨に濡れて風邪を引いてしまって山田が看病に来るお話です。2人の距離が縮まって掛け合いも増えてきた中で、物理的な距離も近くなって、そのドキドキ感や非日常感がアニメで表現できているかなと思います。そこはぜひ楽しんでいただきたいですね。
――8話は特にエモーショナルな印象です。
遠藤:そうですね。作品の方向性を決める時に、ギャグを重視するかエモさを重視するか……もちろんその2択だけではないのですが、エモーショナルなところを立ててこそ、物語が加速度的に面白くなり、かつギャグの面白さも引き立つかなと考えていました。
福田:エモーショナルさで言うと、3話の「僕は抱きしめたい」で、市川が山田への気持ちに気付くシーンは特に印象的でした。グッと引き込まれる感覚がありました。原作で言うとKarte.14「僕は何もできない」だったのですが、掲載当時一気に人気が出た記憶があります。
髙橋:そこは市川の大事なエピソードですよね。僕は2人にとって大きな出来事が描かれた第6話「僕は溶かした」のエピソードが凄く好きです。山田自身も自覚したのかな?というのがあの場面だったと思うので。ゆっくりと時間が流れているあの雰囲気が好きでした。
遠藤:第6話は転換点だと思います。原作を読んでいる時に「ここをどう決めるかで作品の印象が大きく左右されるな」と考えていました。現場の制作スタッフの皆さんも、すごく力を入れていただいて、音楽もモノローグの入れ方も、全てこだわりました。
髙橋:これまでのギャグ作品では割とコマ割りを細かくしていたので、大きく全ページ1枚使うのはほぼ初めてに近かったのではないかと思います。
福田:一応『ロロッロ!』でもやっているんですが、ラブコメの重要なシーンってギャグ作家さんにとっては少し照れがあると思うんです。そこを勇気を持ってドンと大きく使っていますよね。
クライマックスに向けて
――8話を経て物語はクライマックスに向かっていきます。この先の見どころについても教えて下さい。
髙橋:さきほどお話にもあった、渋谷が登場するお話が今後出てくるかと思います。詳しく言及するとネタバレになってしまうので、内容については避けますが、桜井先生からお願いされて、渋谷の街並みを撮りに行ったんです。その写真を参考にして描かれた風景に市川と山田が描かれていたときは得も言われぬ感動がありました。アニメでは街並みが現代的にバージョンアップされています。漫画とアニメの違いや、2人の関係がこれからどうなっていくのかを楽しみにしてほしいなと思います。
福田:やはり市川の成長ですね。市川は手に入らなかったり、失ってしまうのが怖くて、最初から「要らない」と言って、自分の気持ちに保険をかけてしまう。その気持ちがすごく良く分かるんです。自信のなかった市川がどう成長して、乗り越えていくのか見届けてほしいです。
やっぱり彼が頑張るから、僕ヤバはたくさんの方に応援していただけるのかなと思います。市川が頑張る姿に共感していただけると嬉しいです。私もそうですけど、自分に自信がない人ってたくさんいて。こうできたら良いな、こうあるべきだなって思わせてくれる存在ですね。
遠藤:おふたりが凄く良いことを言ってくれたので、そのまま締めてもらっても構わないんですけど(笑)。
福田:あと、私はおねえが大好きなのでもっと出てきてほしい。
遠藤:この先、おねえがたくさん出てくるの楽しみにしてください(笑)。田村ゆかりさんボイスが凄く良いですよね! ブースでみんな惚れ惚れしていて。
福田:本当にすごい!
――桜井先生もレポート漫画で脳汁を出されていました(笑)。
遠藤:キャスティングも素晴らしいんですよ。
福田:本当にそう思います!
遠藤:キャストさんたちの本気度が回を追うごとにレベルアップしていきます。「そのキャラまんまだな」と思うようなお芝居がバンバン飛び出しているので、ご注目ください。
――ありがとうございます。素敵なお話のあとに恐縮なのですが、この連載インタビューでは、最後に必ず皆さんの「心のヤバイ部分」をお聞きしているんですけど……。
遠藤:あっ、そうでした!(笑)僕はこはなさんと似ていますが、ネコを実家で飼っていて、ネコの前では……皆さんにお見せできない姿になります。
福田:私はおねえと同じでブラコンなんですよね…。だからおねえの気持ちがすごく分かります。桜井先生によく「めっちゃおねえの気持ち分かります!」って言っています(笑)。今でも友人や会社の人に「弟が仕事超頑張ってます!」とか報告してしまうこともあって。弟ももう大人なのに。時々「異常だよ」と言われます(笑)。そこは自分でも変だなと思いますね。
髙橋:僕の場合は、オタク気質が強いところですね。特撮が大好きなんですよ。
福田:いろいろとグッズも集められてますよね。あと、お菓子にシールが付いている商品を箱買いして、編集部員に食べさせてシールだけ回収していて(笑)。
髙橋:あれ全部食べると大変なことになるので、編集部の皆さんに食べていただいて、好感度を上げつつおまけシールもコンプリートできると。ウィンウィンです(笑)。
[インタビュー・逆井マリ]
『僕の心のヤバイやつ』インタビュー連載バックナンバー
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』作品情報
放送情報
4月1日(土)よりTVアニメ放送開始!!
【テレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠】4月1日より毎週土曜深夜1時30分~
【BS朝日】4月8日より毎週土曜深夜1時00分~
【CSテレ朝チャンネル1】4月1日より毎週土曜深夜2時30分~
配信情報
4月1日より毎週土曜深夜2時00分~PrimeVideoにて見放題独占配信!!
各配信サービスにて順次配信開始!!
詳細はこちら
※放送・配信日時は予告なく変更になる場合がございます
イントロダクション
“尊死“続出で大反響!今一番応援したくなる、青春初恋ラブコメ!!
コミックス累計発行部数は300万部を突破。
「このマンガがすごい!オトコ編」に2年連続ランクイン、「次にくるマンガ大賞 2020 Web マンガ部門」では1位を獲得し、注目を集めている『僕の心のヤバイやつ』。
大人にも刺さる甘く切ないストーリーながら、くすりと笑える展開に中毒者が続出し大きな話題を呼んでいる。
そしてついに、2023年4月にTVアニメが放送決定。
監督を務めるのは叙情的な演出に定評のある赤城博昭(『からかい上手の高木さん』)。シリーズ構成・脚本は細やかな人物描写を得意とする花田十輝(『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』)、キャラクターデザインは勝又聖人(『五等分の花嫁∬』)、音楽は牛尾憲輔(『映画「聲の形」』『チェンソーマン』)が担当。アニメーション制作は色彩の美しさに定評のあるシンエイ動画が務める。
さらに市川京太郎役に堀江瞬、山田杏奈役に羊宮妃那を迎え、市川と山田が織り成す初恋模様をリアルに表現。
原作の紡ぐ世界観、そしてもどかしいほどゆっくりと近づいていくふたりの心を丁寧に描いていく。
ストーリー
市川京太郎は殺人にまつわる猟奇本を愛読する、重度の中二病男子。
同じクラスの美少女・山田杏奈をチラチラと見ては、ヤバめな妄想を繰り返していた。
そんなある日、山田が市川の聖域・図書室にやってくる。
一人だと思い込み、大口でおにぎりを頬張ったり、機嫌よく鼻歌を歌ったりと、思うままに振る舞う山田。
予測不能な行動を繰り出す姿に、市川は徐々に目が離せなくなっていき……。
スタッフ
原作:桜井のりお(秋田書店「マンガクロス」連載)
監督:赤城博昭
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:勝又聖人
色彩設計:柳澤久美子
美術監督:黛昌樹
撮影監督:峰岸健太郎 竹沢裕一
編集:肥田文
音響監督:小沼則義
音響制作:マジックカプセル
音楽:牛尾憲輔
制作:シンエイ動画
オープニングテーマ:ヨルシカ「斜陽」
エンディングテーマ:こはならむ「数センチメンタル」
キャスト
市川京太郎:堀江瞬
山田杏奈:羊宮妃那
小林ちひろ:朝井彩加
関根萌子:潘めぐみ
吉田芹那:種﨑敦美
足立翔:岡本信彦
神崎健太:佐藤元
太田力:福島潤
原穂乃香:豊崎愛生
市川香菜:田村ゆかり
南条ハルヤ:島﨑信長