アニメ映画『傷物語 -こよみヴァンプ-』尾石達也監督×石川達也制作Pインタビュー|「役者さんたちは二度とできない演技をしてくれている」
『傷物語 -こよみヴァンプ-』は「シリアスなヴァンパイアストーリー」がコンセプト
――3部作を改めて1本の映画として再構成することになった経緯もお願いします。
尾石:『傷物語〈III 冷血篇〉』の制作が終わって割とすぐのタイミングから本作の作業に入っていました。元々3部作の絵コンテを描いている時点では、1本の映画として制作するつもりだったんです。当時は最終的に3部作になりましたが、自分としてはあれだけ長い話を作り切れたことへの達成感はやっぱりありまして。
そんな時にアニプレックスの岩上さんから、「完全にシリアスなヴァンパイアストーリー」として1本にまとめてみないかとのご提案をいただきました。自分としても、1回作った話をまったく別のコンセプトで再構成するのは面白いのではないかと思ったので引き受けました。
――TVシリーズの総集編を映画にという話はよく耳にしますが、3部作の映画を再構成して公開するというのは中々ないのかなと思います。
尾石:そもそも映画3部作というのも中々ないことですが、それを作った上でさらにもう1回やれるというのは幸せなことだと思いますね。そういう意味では原点回帰といえるかもしれません。ただ、元のままで1本にしたらとんでもない長さになりますから、1回冷静になってから再構成するという段階を踏めて良かったと今では思っています。
――「完全にシリアスなヴァンパイアストーリー」がコンセプトとのことですが、キャラクター同士のコミカルな掛け合いなどはカットされているのでしょうか?
石川:シリアスというコンセプトで尾石監督へ依頼しましたが、重苦しくというより1本の映画として改めて再構成するという意味合いが強いのかなと。物語の筋を通して映画としてみやすいものを目指すことにフォーカスしています。
――本作では1本1時間前後あった映画3本を2時間半程度まで削っています。シーンの取捨選択は苦労されたのでしょうか?
尾石:岩上さんからの「シリアスなヴァンパイアストーリー」という提案が大きかったので、あまり迷いはなかったです。この提案のおかげで1本の映画として決定版を作るんだ、この作品をアニメ『傷物語』の決定版にするんだという意識で作業できたと思っています。
――今回の『傷物語 -こよみヴァンプ-』制作に際して西尾先生とは何かやりとりをされたのでしょうか?
石川:本作では音響やアフレコの再収録を行っているのですが、西尾さんにもそのタイミングでいらしていただきました。西尾さんはアニメに対して凄くリスペクトを持ってくださっているので、基本的には作品をお預けいただいています。アニメ制作の上では、行間の部分などの足りない情報をアドバイスしてくださるので、原作者としてどっしり構えつつ、お客さん目線でフィルムを待ってくれているのかなと。
尾石:音楽もかなりの部分を作り直してもらっていますし、神前さんをはじめ関わるみなさんにはかなり頑張っていただきました。
――アフレコが再度行われているとは驚きました。こちらについてのお話もお聞かせください。
石川:当然そのまま使っているものもたくさんあるのですが、暦、キスショット、メメ、翼の4人は殆ど収録し直しています。
尾石:3部作を1本にまとめるにあたって短く詰めていく作業があったのですが、自分としてはフィルムを切ることに躊躇はなくとも、役者さんのお芝居を切っていくことには凄く違和感がありまして。だから結構な分量ではあるのですが、改めて演じていただきたいなと思いました。
――再収録の時に声優陣とは何かお話されましたか?
尾石:3部作の時、神谷さんにはずっと苦しそうにはぁはぁ息をするお芝居を5分だとか、坂本さんには「本気の命乞いをしてください」だとか、かなりしんどいお芝居を要求したと思います。坂本さんには初対面で要求したのがそれだったものですから、とてつもないプレッシャーがあったと思います。けれどそれを一発OKで演じていただきました。
そうやって演じてもらった3部作を、もう1回やってくださいというのはかなり酷だと思います。ですが役者さんたちは二度とできない演技をしてくれていると思ったので、自分としては編集してしまうのはどうしても嫌でした。
なので心苦しさはありつつも、もう1回演じてもらうことになりました。ですがみなさんプロなので、神谷さんも、坂本さんも、櫻井さんも、堀江さんも素晴らしかったです。
――本作はファイナルシーズン以来のアニメ『〈物語〉シリーズ』になるかと思いますが、そのタイミングで『傷物語』が再び映画になることに意味を感じる方もおられそうです。
石川:ファイナルシーズンは2019年にいい形で着地しましたが、その時点で既に本作の制作は進んでいました。なので何か強い意味があるというよりも、順番に作っていったらこのタイミングになった形です。
ただ今回は、弊社の2023年9月の配信イベント「Aniplex Online Fest 2023」で情報を告知したところ、本当に多くの方がご覧になってくれまして。1度3部作として世に出ているものなので、正直こんなに大きなリアクションをもらえるとは思っていませんでした。
尾石:本当にありがたいことです。前の3部作を制作していた時は絵コンテが遅れて公開が伸びに伸びてしまいましたが、その間にも西尾さんは『〈物語〉シリーズ』の新作を書き続けてファンを増やしていました。だから、西尾さんの力や『〈物語〉シリーズ』自体のファンの多さがあればこそだと思います。
――最後に公開を楽しみにしているファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
尾石:3部作を1本化した本作ですが、また新鮮な気持ちでご覧になっていただけると嬉しいです。3部作とはまた違った雰囲気が感じられると思います。
石川:尾石さんに滅茶苦茶カッコいい1本の映画に仕上げていただきました。アニメ『傷物語』を新たな形で再構成した金字塔映画になっていますので、ぜひご覧になっていただければ幸いです。
『傷物語 -こよみヴァンプ-』作品概要
あらすじ
阿良々木暦は、血も凍るような美女と遭遇する。
彼女は自らを、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと名乗った。
四肢を失い死に瀕していたキスショットは、暦に助けを求める。
恐怖と混乱、そして葛藤の末に、暦は彼女を救うため自らの血を与え──
そして次に目が覚めたとき、暦はキスショットの眷属となっていた。
暦は吸血鬼から人間に戻りたいと望む。
だが、そのためにはキスショットが力を完全に取り戻す必要があった。
交渉人をつとめる忍野メメが間に立ち、暦は失われた彼女の四肢を奪い返すべく、吸血鬼退治の専門家三人に挑むことになる。
高校生活最後の、地獄のような春休みは、このときまだ始まったばかり──
キャスト
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト