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冬アニメ『僕ヤバ』第2期:島﨑信長インタビュー【連載第5回】

冬アニメ『僕の心のヤバイやつ』第2期連載インタビュー第5回:南条ハルヤ役・島﨑信長さん|今のナンパイはチャラチャラしてはいるけど、山田さんへの思いは本物だったと思うんです。だから僕も必死に告白しました。

山田はナンパイを「個」として認識してない

――18話の台本を読んだとき、率直にどのように思われました?

島﨑:面白かったですよ、すごく。

――実は以前のインタビューで「あ、さよなら」はナンパイのことを無機質なものを見るような感じでというディレクションを受けていたという話をうかがっていて。羊宮さんはかなり苦戦していたとか。

島﨑:ああ、そうそう。横で聞きながら「随分高度なことを言われているな」と思っていました。実は最初の自転車の場面から、それに近いディレクションを出されていたんですよ。近いというと語弊があるかもしれないけど、山田にとってのナンパイの認識にまつわるディレクションは当時から出ていました。後半になってくると、山田のナンパイへの声の掛け方により高度なディレクションが出るようになって。

これはあくまで僕の感想ですけども、山田って、ナンパイに対して「個」としての思い入れがないんですよ。興味がないというか、「個」としては認識していない。例えばイッチは「げっ、ナンパイ!」ってなるじゃないですか。それって南条ハルヤを意識していて、興味を持っていて、だから過剰に反応しているんですよね。よく好きの反対って無関心というじゃないですか? 

――言いますね。

島﨑:山田はそれで言うと無関心に近い。興味がないんです。はっきり言うと、山田にとってナンパイは「大衆の中のひとり」。なんとも思ってない。好きでもないから、嫌いですらない。だから嫌な態度は取らないんですよ。羊宮さんはそれを意識しながら、演じなければいけない。これを表現するって、めちゃくちゃ高度なことなんです。

というのも、羊宮さんって、人の言葉を受けて、聞いて、感じて、心を動かして、相手に言葉を返すという、お芝居の基本をちゃんとできる人なんですよ。それは基本でありながら難しいことなんですけども。だからこそ逆に、ナンパイへの言葉をちゃんと返してしまうんですよね。しかもナンパイとしては山田に興味を持ってもらいたいわけで、僕としては、あの手この手で興味を持ってもらおうというお芝居をしていて。

それをちょっとでも受け取って返してしまうと、山田とナンパイの関係性ではなくなってしまう。それがすごく難しい。でも、彼女のキャリアにとってはすごく良い経験だったと思いますよ。彼女が心を動かしながらお芝居をしているからこそ、苦戦したところはあったと思います。

まあ、ナンパイとしてはつらいところですけどね(笑)。会話しててもなんとなくわかるじゃないですか。「この人、自分に興味がないんだろうな」とかって。それをナンパイも察しているわけなんです。だから告白も、振られる儀式というか。嫌ってくれたらまだなにかできる。でも見てすらいないっていう。

――哀しい……。

島﨑:だからこういう結果になったというね(笑)。18話の中で、保健室に山田と市川といる時、ナンパイが「山田さん話そうよ」って言うけど「ここでいいや」的なことをいう場面があるじゃないですか。「ここでいいや」となっているのも、もはや察しているからなんだと思うんですよ。

そのあとに「卒業おめでとうございます」と山田が言うんですよね。あのときも、羊宮さんは当初はナンパイを「個」として見たお芝居をしていたんですけども、「すれ違った上級生におめでとうっていうくらいの感覚で」というディレクションを受けていました。個人に対する「おめでとう」ではなくて「皆さんおめでとうございます」という感覚。徹頭徹尾、そういうニュアンスに修正してきているんですよね。

――なるほど。

島﨑:ナンパイってもともと夢に敗れて腐っちゃった人で。でもサッカーでキラキラした時代もあったはずで。メディアのプロの世界で輝いている山田さんに対して、リスペクトがあったんだろうなと思っています。好みだったとか、いろいろあるかもしれないけど、単に「かわいいから好き」っていうより、今の自分にないもの、失ってしまったものをどこか山田さんに見出したんじゃないかなと。今のナンパイはチャラチャラしてはいるけど、山田さんへの思いは本物だったと思うんですよ。だから僕も必死に告白しましたね。

最後のセリフには、彼の矜持が出てましたよね。同情から恋がはじまってしまうじゃん?っていう。もっと本音でぶつかれたら、個として認識してくれたのかなとは思います。恋が始まるかは置いておいて。それをしないのもナンパイらしいのかなと思いました。

とは言え、山田にとってあくまでナンパイは“そういう”相手ですから。告白して、振られて。まあ、振られたことでナンパイも前に進むことができたんじゃないかなと。結果、ふたりの背中を押すこともできましたし(笑)。

告白は格好悪いほうが、格好いい

――告白シーンのナンパイの声をはやく聞きたいです。現段階だとアニメーション完成前なので、私は台本しか見られていなくて。

島﨑:ストレートですよ、すごく。告白の場面ってついつい格好つけたくなるんですよ(笑)。良い声で言いたくなるんです。例えば、大正ロマンの作品で御曹司が告白するのであれば、格好良く告白して欲しいじゃないですか。でもこの作品の場合は、登場人物が中学生ですし、ストレートにと。

それは僕のお芝居の過去の経験を生かしたところもあります。それこそ、僕が初めて主人公をやった作品で告白の場面があったんですよ。その作品でも「あまり作らないで」と求められていて。でも役者のスケベ心というか、ほんのり色を足して言ってしまったんですね(苦笑)。「そうじゃない」と。そこで思ったことがあって。確かに本気の告白って、格好つけてる余裕がないと思うんですよ。格好悪いほうが、格好いいよね。

――確かに。素直なほうが思いが伝わるような気がします。

島﨑:ナンパイなりに必死になって伝えてはいるんですけど……ここまで言っておいてなんなんですが、その時のお芝居がどうだったか、正確には覚えていないんですよ。僕もその時その時の気持ちでやってるから。でもカッコつけてはないと思いますよ。ストレートだったとは思います。

――ナンパイへの応え方もまた、山田らしいなとも思いつつ。

島﨑:山田はイッチしか見えてないからね(笑)。他の男は一切興味ないから。

――『僕ヤバ』のお話をしていると、皆さんの芝居論のようなものをおうかがいすることができて、個人的にすごく興味深いです。

島﨑:このメンバーですからね、自然とそういう話にもなるのかなと(笑)。しかも、『僕ヤバ』は手作りなもの、生物(なまもの)な芝居を求められるから。それをやるには、自分の中にパーソナルな情報が入っていないといけないんですよ。例えば、ナンパイの現役時代の話って詳しくは描かれていないじゃないですか。でも僕の中で、その時のパーソナルを想像して「女の子からモテてはいたけど、サッカーに力を入れてたから意外と女性関係はなかったのかな」「でも少しは興味あったのかな」とか。僕の中ではね。桜井(のりお)先生の中では、もしかしたら現役時代から女癖は悪かった、ということになっているかもしれないけど。

さっき話した山田に興味を持った理由も、正確には描かれてないけど「きっとこういう理由で好きになったんだろうな」と、僕なりにナンパイのことを想像しています。ピンポイントで発する一言でも、「こういう人生の上で、このセリフが出たんだろうな」と、僕は考えながらやっていますね。

――たった一言にも、そのキャラクターの人生が詰まっている。

島﨑:限られた情報の中から、どんどんと(描かれていない時間を)自分の中で埋めていくんです。この仕事って埋めていくことが大切だと思っていて。自分の想像とは違う場合もあるんです。でも実際の設定が少し違ったとしても、説得力は乗るから“本物”の言葉として伝わるから、聴き手が解釈してくれるんですよね。

意外と事前準備は大切なんですよね。練習するのとはまた違って。練習しすぎると、ニュアンスが固まってしまう。それは『僕ヤバ』に限らず。キャラクターも型でやってしまうと、『僕ヤバ』の場合は、聴き手側の心は動かないように思います。もちろん、作品によっては型が大切になることはあるんですけどね。それは作品によりけりですが、今回の場合は、掛け合いの空気感というのも大切にしながら。

声のお芝居は、人生が乗るし、人生観が生きる

――このインタビューでは自分の心のヤバイ部分をうかがっているんですが、島﨑さんはどうでしょう?

島﨑:ヤバイかぁ……。ヤバイとは違うかもしれないけども、やっぱり声のお芝居が好きなところかな。今日インタビューで話したようなことばっかり、四六時中考えていますから(笑)。ある程度、この世界で走り続けられる人ってヤバイくらい(芝居が)好きなんだと思いますよ。

例えば、SNSにいらっしゃる絵師さんって「仕事の絵を描き終わったぞー!」って言った後に「これで趣味の絵が描けるぞー!」って、ずっと絵を描かれているじゃないですか(笑)。必ずしもそうじゃなくても、そういう人ってそれぞれの専門で力を発揮しているなって。好きこそものの上手なれって言葉の通りというか。最悪好きじゃなくても良いし、嫌いだからこそ突き詰めるのも良いと思うんです。興味のベクトルは向いているわけですから。でも僕はやはり、声のお芝居が大好きですね。

――羊宮さんは素敵な先輩に恵まれましたね。

島﨑:良い先輩かは分からないですよ(笑)。色々と考えてるからこそ、相手にとってはめんどくさい人と捉えられるかもしれない。でも羊宮さんは本当に役者と言いますか。気持ちが役者に強く向いている人という印象です。

――ところで、先程“埋めていく”というお話がありました。その中には、さきほどの“リアルな物語”について同様、島﨑さんがご経験されていないこともあると思うんです。そういう時はどうやって埋めるんでしょう?

島﨑:経験が無いことのほうが多いかもしれないですね。例えばお酒を飲める人、飲めない人といると思います。それは年齢的にも、体質的にも。でもお酒を飲んでない人は酔っ払っているお芝居ができないのかと言うと、そうじゃないと思うんですよ。自分は経験していなかったとしても周りの人を観察したり、自分と似た部分を見出したりとか。僕も泥酔したり、特殊な状況の人を見かけると少し観察してしまいます。「ああ、こうなるんだ」とか。

――日常がすべてお芝居につながっているんですね。

島﨑:そうそう。そういう普段のインプットが大切なのかなって。別にリアルじゃなくても、小説や映画でも良いと思いますし。引き出しのインプットってたくさんあると思うんですよね。すべての積み重ねといいますか。極端なことを言ってしまえば、僕は世界を滅ぼしたことも、魔法を使えたこともないですし(笑)。

――でもそこにリアルを見出して、お芝居につなげていくっていう。

島﨑:そうそう! それってものすごく大事なことで。世界を滅ぼしたことがなくても、理由がわかれば急に心境が想像できるじゃないですか。そうすると、だんだんとたどり着けるんですよ。「汚いものをずっと見てきたんだな」「お墓が荒らされたんだな」とか。あとは足りないところは埋めていきます。

普通に人生を生きているだけで、いろいろな経験があるわけじゃないですか。さらに人のことを見たり、話をしっかり聞いたりして、年輪を積み重ねていくと、自然と引き出しが増えていくんです。あまり良い例えではないですけど、年齢を重ねていくと、死に近づいていくわけですし、身近な人との別れも増えていくと思うんです。物凄く哀しいことではありますけども、でもその実感も芝居には生かすことができますから。だからお芝居って面白いと思いますよ。人生が乗るし、人生観が生きる。

――では島﨑さんにとっては、年齢を重ねることも楽しい?

島﨑:そうですね。自分の中で一歩一歩積み重ねていけるような人生を送っていけたらいいなと思っています。技術やテクニックももちろん大切ですし、リアルで経験したことが全てではないとは思いますけどもね。

――さまざまなことを冷静に分析されているところも改めてすごいなと……。

島﨑:いやぁ、ただ考えることが好きなだけで。こういう話をするのも好きですし。

――その島﨑さんにぜひおうかがいしたいのですが、ナンパイは今後どうなっていくと思いますか?

島﨑:あははは、それは分からないですね。先のことってあまり考えすぎないほうが良いような気がしているんです。それまでのこと、今生きてるこの瞬間のことを中心に考えています。先のことを考えすぎてしまうと、例えば悪役を演じたときに、「この先、いい人になるから」ってことを想定しながら演じてしまうと、いい人になる助走のお芝居をしてしまうんですよ。でも、本人はそんなことは考えていないわけで。

――確かに。

島﨑:それが伏線になっている場合は、少しは匂わせますけども。でもまあ、妄想はしますけどね。現場でも盛り上がってましたよ。「じゃあナンパイはこの先どうしたら良いんだろうね」「年上の人と付き合ったほうが良いんじゃない?」「でも同級生の間宮先輩じゃない?」とか(笑)。僕もナンパイどうなるのかな」って少し考えるくらいです。でもやっぱり、愛着はすごくあって。

サッカーくらい、好きなものが見つけられたら良いんだろうけど、それってきっと難しいことだろうから。でも雑誌とかテレビで山田のことを見てため息をつくのかな。その時にはそれ以上の相手ができているかもしれないし、それは分からないけどね。でも幸せになって欲しいし、いい方向に進んでほしいなと思っています。

――きっと放送を見た人たちもナンパイの幸せを願っていると思います。

島﨑:みんなには「ふたりをくっつけたのは俺だからね!」と言いたいですね(笑)。

[文・逆井マリ]

作品情報

僕の心のヤバイやつ 第2期

あらすじ

重度の中二病で陰キャの市川京太郎と、クラスで人気者の山田杏奈。

美少女らしからぬ行動を繰り出す山田に、市川は目を離せずにいた。

そんな市川の恋心を知ってか知らずか、山田は天真爛漫に近づいて来る!!

全く違う世界にいたはずの2人。しかしその距離は、徐々に近づいていき……。

キャスト

市川京太郎:堀江瞬
山田杏奈:羊宮妃那
小林ちひろ:朝井彩加
関根萌子:潘めぐみ
吉田芹那:種﨑敦美
足立翔:岡本信彦
神崎健太:佐藤元
太田力:福島潤
原穂乃香:豊崎愛生
市川香菜:田村ゆかり
南条ハルヤ:島﨑信長
イマジナリー京太郎:福山潤
安堂カンナ:井口裕香
半沢ユリネ:上田麗奈
山田父:細谷佳正

(C)桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

 

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