
スーパー戦隊とはどういう番組なのか、今一度とらえ直すーー『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』チーフプロデューサー・松浦大悟さんインタビュー
「今日からあなたは戦隊レッドです!」という世界観
ーーブライダンだけでなく、歴代レッドの力を持ったライバルたちが登場するという展開にも驚きました。
松浦:他社で恐縮ですけど、『ウルトラマン』の「ゴモラ」が、シリーズとしてはすごく羨ましいなって。昔のキャラクターなのに、今の子供たちでも知っているじゃないですか。自分が好きな怪獣として、当たり前のように「ゴモラ」を挙げる小さい子がいるんです。
東映で例えるなら、今の子どもが昭和戦隊を自分のヒーローだと思っているようなものですよね。サブスク時代ならそれもあり得るかもしれないですが、やっぱりアニバーサリーの現行作は一番の入り口になります。この番組を観ている子どもたちにとって、過去ヒーローを「ゴモラ」のように、ある種「現役ヅラ」させるためにはどうするべきかなと。そのうえで、ゴジュウジャーが一番の主役であることも考えなければいけない訳です。
ーー白倉さんとの対談でも話に上がっていた「過去戦隊の扱い」についてですね。
松浦:「レジェンドという言葉は使わない」という話をしました。では『ゴジュウジャー』における歴代レッドの立ち位置は先輩なのか、兄弟なのか、過去なのか、現在なのか。色々と考えて、「ライバル」という立ち位置にするのはどうだろうと。
『仮面ライダーギーツ』の「仮面ライダーケイロウ」や「仮面ライダーパンクジャック」が「ドンモモタロウ」や「クワガタオージャー」になるイメージでしょうか。特撮ファンの方々に「桃井タロウじゃないの!?」と言われるのは百も承知ですが、この番組を観ている現役の子どもたちは「ドンモモタロウ」や「クワガタオージャー」というヒーローを知ることができる。まずは「ライバル」としてキャラクターたちを見てもらって、それと同時にこの番組の世界観も楽しんでいただけると嬉しいです。
ーー堤なつめ役として、『爆上戦隊ブンブンジャー』でブンレッド/範道大也を演じた井内悠陽さんが出演されたことにも驚きました。堤が変身する歴代レッドはまさかの「クワガタオージャー」で……!
松浦: 実を言うと、最初のシナリオで堤くんは変身はしていなかったんです。願いがない吠くんが「テガソード」に選ばれて復活する、ナンバーワンという目標を手に入れて頑張るという、遠野吠の軸だけでした。だけど打ち合わせで「普通だよね」ってなっちゃって。「あ、これは『仮面ライダーディケイド』の時にもあったというやつだ……!」と思い……。
ーー『ディケイド』の時に何があったんです?
松浦:『ディケイド』は、放送にあたる「第2話」の内容を、最初は第1話として作っていたようです。平成ライダーの世界に行く話のフォーマットであるクウガ編を最初に作って、「なんか普通だな」と思い、その後でゼロから急遽、第1話のライダー大戦を作ったと以前聞いたことがあったので、「これはヤバい」と(笑)。『ゴジュウジャー』の打ち合わせでも同じことになっていると感じたので、「何か考えなきゃ」と。
元々の堤くんというのは何でもないキャラクターで、遠野吠というとんでもない人に対する視聴者目線の人でした。『ガッチャード』の加治木や『ドンブラザーズ』の鬼頭はるか、みたいな立ち位置。突拍子もない出来事に対して、視聴者と同じリアクションを取れる人ですね。考えていくうちに、「この人が最初のライバルになるのは面白いんじゃないか?」と思ったんです。
そこからさらに押し進めて、昨年主人公である井内くんをキャスティングし、更にそれを「ブンレッド」以外に変身させる、という仕掛けを思いついたんです。個人的に『ディケイド』第1話の紅渡が「どうやら渡らしいのに別人」みたいなキャラになっていたのが気になっていたので、いっそのこと、しっかり別人にしてしまおうと。「ゴモラ」も番組が変われば外見は一緒だけど中身は別人(別個体)ですから。それなら番組のテーマにも近いことをやれる。「今日からあなたは仮面ライダーです!」ではなく、「今日からあなたは戦隊レッドです!」と言われるようなもので、つまり誰がレッドになってもいい世界観なんです。
ーー撮影時期的に、第1話と第2話は『爆上戦隊ブンブンジャー』と並行して進めていたのでしょうか?
松浦:今回ご一緒して、井内くんは「本当に素晴らしい役者さんだな」と改めて思いました。実は、とても大変な時期に撮影をお願いすることになってしまって……。ちょうどブンドリオさんがやられてしまう回の撮影時期と被っていたんですよ。堤くんを演じた次の日には、大也として「ブンドリオー!」って。気持ちの整理がつかないだろうと、井内くんにも、久慈麗人プロデューサーにも申し訳ない気持ちで……。
でも井内くん自身が、堤をすごく楽しんで演じてくれて。それがとても救いになりました。1年間ずっと範道大也を演じたからこそ、「違うタイプのキャラクターを思い切りできるのが楽しい」って。その姿が吠役の冬野心央くんにもいい影響を与えていたと思います。
ーー今後、歴代レッドに変身するライバルたちがどんな登場をするのかも楽しみにしています。
松浦: 『ゴジュウジャー』を観れば、スーパー戦隊シリーズのキャラクターは総ざらいできるはずです。ただ、たとえば『ゴジュウジャー』の「ドンモモタロウ」は総理大臣になっていますから(笑)。「どうせシンケンジャーは侍でしょ?」と思ったら大間違い。まずは、シンプルに『ゴジュウジャー』に出てくる登場人物として、彼らの生き様や人生を楽しんでいただけたらなと。
ただ、やっぱりそれぞれのヒーローには、それぞれの魂がある。それを避けては意味がありません。表層的には別人なんですけど、なんというか、奥底にあるキャラクターたちの「匂い」みたいなものは入れ込みたいんです。クワガタオージャーの「クワガタオージャー性」を、ドンモモタロウの「ドンモモタロウ性」を自由に捉え直すことで、既存のファンの皆さんにも、新規のファンの皆さんにも、どちらも楽しめるものにできたらいいなと思っております。
そこで「シンケンレッド」の「匂い」が気になったのなら、『侍戦隊シンケンジャー』を観て志葉丈瑠さんに出会ってもらえればいい。幸い今はサブスクが充実しておりますから、すぐ『シンケンジャー』は観られるし、その後はまた『ゴジュウジャー』に戻ってきて……という形で、『ゴジュウジャー』が色々な方の「出会い」の入り口になれたらと思っています。










































