
〈沈黙の魔女〉への共感から生まれた、自分を愛するための歌――羊文学、TVアニメ『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』OP・EDテーマインタビュー
世界で唯一の無詠唱魔術を使える魔術師〈沈黙の魔女〉ことモニカ・エヴァレットの活躍と成長を描く、2025年夏クール注目のTVアニメ『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』。そのオープニングテーマ/エンディングテーマをWタイアップで担当するのが、静と動のコントラストが効いた繊細にして力強い音楽性で支持を集めるオルタナティブロックバンド、羊文学だ。
「more than words」(TVアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」エンディングテーマ)や「Burning」(TVアニメ『【推しの子】』 第2期エンディングテーマ)など、これまでにも数々の話題作とタッグを組み、アニメファンにとっても忘れられない名曲を産みだしてきたバンドが、天才魔術師ながらも極度の人見知りという属性を持つモニカの物語とどのように向き合い、2つの楽曲を制作したのか。バンドの全楽曲の作詞・作曲を手がける塩塚モエカさん(Vo.Gt.)、コーラスも担当する河西ゆりかさん(Ba.)の2人に話を聞いた。
『サイレント・ウィッチ』への共感と楽曲制作の背景
──まず『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』に触れた際の印象について教えてください。作品のどんなところに魅力を感じましたか?
河西ゆりかさん(以下、河西):ファンタジー要素は強いですけど、登場人物がそれぞれの思いや悩みを抱えていて、自分なりの理由があって行動していることがしっかりと描かれているので、細かいところまで楽しめる作品だと思いました。今後の伏線になる秘密も多くて、物語にどんどん引き込まれていく楽しさがあると思います。
塩塚モエカさん(以下、塩塚):私もまずストーリーが面白いなと思いつつ、楽曲を作るとなると、どうしても自分と重ねられる部分を探してしまうので、一番印象に残ったのは、主人公のモニカちゃんが自分と似ていることでした。私は他人とコミュニケーションを取るのがあまり得意ではなくて、「友達って何だろう?」と思うことがあったんですけど、友達とのやり取りで勇気をもらったりするなかで、最近はわかるようになってきたんです。表情も自然と柔らかくなったりして。そういう部分が自分に近いと感じました。
──モニカは、人前でしゃべるのが苦手という理由で無詠唱魔術を習得したほどの極端な人見知りで、本作は彼女が様々な人と出会い、成長していく物語でもありますものね。今回のOP・EDテーマは、そういったモニカに共感できる部分を足掛かりに楽曲を制作したのでしょうか?
塩塚:はい。先にOPテーマの「Feel」から制作したのですが、こっちは自己否定してしまう気持ちからの解放、モニカちゃんに限らず「自分なんて……」と思っている人に向けて「もっといろいろなことを経験してもいいんじゃない?」みたいなことを歌った曲になります。それがこの作品で私が一番注目したポイントだったので。そこからもう1曲、EDテーマを作るとなった時、私はひとつの作品に対して2曲作る経験が初めてだったので、どんな曲にするかすごく悩みました。そんななか、海外に行く友達の壮行会を兼ねて何人かでご飯を食べる機会があったんですけど、それがすごく楽しい時間だったんです。その時の参加メンバーは、自分の気持ちの暗いところも素直に話すことができる子たちで、「あ、私にもこういう心地良い場所があるんだ」ということに改めて気付くことができて。その帰り道に「今日はすごく楽しかったなあ」なんて考えながら散歩していた時に、この感覚は『サイレント・ウィッチ』に触れて感じたことと重なるかも、と思いついて書いたのが「mild days」になります。
──なるほど。では、OPテーマの「Feel」から順番に詳しくお話を伺っていきます。作品およびモニカのどんなところにインスパイアを受けて楽曲を書いていったのでしょうか。
塩塚:まず、オープニングらしい華やかな曲にしたい、という思いがありました。そのうえで私がモニカちゃんに共感できる部分を考えた時に、モニカちゃんは“七賢人”と呼ばれるほどのすごい力を持っていて、実際にその力でいろんな人の助けになっているのに、いつも「自分なんて……」と謙遜して、自分と相手の間に勝手に線を引いてしまうじゃないですか。それはきっと本心からそう思っているのと同時に、その先に踏み込むことが怖い気持ちの表れでもあると思うんです。私にもそういうところがすごくあって、「自分はこうじゃなくてはいけない」みたいな感じで、自分自身のことを縛り付けていた部分が多かったんです。人生って色んなことを経験できるはずなのに、私は自分の中に縮こまってしまっていた。そういう時に他人から言われた「もっと遊んだらいいじゃん?」とか「もっと人生楽しんだらいいのに」という言葉に気付かされた経験があるし、私自身がそういう言葉を求めていた部分があるので、この曲はモニカちゃんに言ってあげるというよりも、自分に重ねている部分が強くて。「もっと自由に、嬉しさも楽しさも辛さも痛みも、いろんな気持ちを感じて、心と体をいっぱい使って生きてもいいんだよ」という曲ですね。
河西:私はこの曲を初めて聴いた時、すごく風を感じたんですよ。その時点ではまだ「Feel」という曲名は付いていなかったんですけど、歌詞を見ると、自分自身をダメと否定したくなるような重圧を蹴飛ばして、自分の感じるまま正直にパッと飛び出すような感じがあって。扉を開けて外に出る時の開放感、風に乗って空を飛んでいるようなイメージが浮かびました。
塩塚:それとこの楽曲は、監督のお子さんに聴いて欲しい気持ちで書いたかもしれないです。事前に打ち合わせをさせていただいた時、監督が「このアニメは自分の子供にも観てもらえる作品にしたい」とおっしゃっていて。そのお話を聞いて、小学生くらいの子供や小さかった頃の自分にも聴いてもらえるものにしたいなと思ったんですよね。後から聞いたら、監督のお子さんはもう中学生らしいんですけど(笑)。その割にはちょっと複雑な曲になったので、ちょうどいいかもしれないです。
──曲調としては、軽快なメロディと躍動感のあるリズムがマッチしたギターロックで、ファルセットによるコーラスも軽やかです。
塩塚:風通しの良い感じにしたかったので、音と音の分離感や流れるような開放感を意識して制作しました。フレーズをつけるにあたって意識していたのは、華やかさとか高いところに連れていく感じかな? いつも「こういう感じがいい」というこだわりはあるんですけど、レコーディングしながら考えていくことが多いので、ひとつひとつに理由があるわけではなくて。メロディはOPテーマらしく華やかになるように、サビがちゃんとわかるように意識して書きました。
河西:この曲、歌がすごくいいんですよね。歌が上手いことがすごく伝わってくるし、息をするように歌っている感じなので、そういう意味での軽やかさもあると思う。
塩塚:確かにそうかも。この時期、歌にハマっていたんだよね。めっちゃ練習してたから、曲ができた時は歌えないかもしれないと思ったけど、すぐ歌えたので成長を感じた。声も大きくて張りがあるし。今は割と“歌はどうでもいい”モードに入ってきたんだけど(笑)。私の歌って雑なところの方がいいんじゃないかなと思うんですよね。
──もう一方のEDテーマ「mild days」は、柔らかな歌声やアコースティックギターの響き、ゆったりしたテンポ感を含め、「Feel」とは対照的なミディアムナンバーになりました。
塩塚:こっちはのんびりした感じにしたいなと思って作りました。歌もいい意味で肩の力抜けた感じにしようと思って。最初のアレンジは宅録で作ったんですけど、同時進行で「声」(2025年1月にリリースされた楽曲)も作っていて、その時期はなんかギターを重ねるのにハマっていたんですよね。「声」はCメロにファズギターを重ねているんですけど、「mild days」も最後のサビにちょっとヘロヘロした感じのギターを重ねていて、お気に入りポイントです。あと、曲の途中で「いいよ」ってつぶやく部分があるんですけど、それはレコーディングスタジオでやるの恥ずかしくて、家で録りました(笑)。
河西:私も彼女(塩塚)のさっきの友達との体験談を聞いて共感できる部分がたくさんあって、何気ない日常の時間にすごく助けられてきた部分があるので、ベースでもじわじわと温かくなる感じを出せればいいなと思って。なのでほろ酔い気分じゃないですけど、幸せの中をふわふわと、ちょっとステップを踏みながら歩いているような気持ちでベースを弾きました。
──ちなみに「mild days」という曲名は、どんなイメージで付けたのですか?
塩塚:今回、tamanaramenのpikaムちゃんにジャケットのイラストを描いてもらったんですけど、彼女にジャケットをお願いするのは結構前から決めていたので、楽曲のタイトルはpikaムちゃんの絵と並んでもかわいい感じにしたくて、英語にしようと思っていたんですよ。「Feel」はもともとこのタイトルにするつもりだったんですけど。で、EDテーマの曲名を何にするか考えていたなかで、さっきお話ししたご飯会で一緒だった友達のひとりとカナダ旅行に行った時、現地の友達の家にいたカナダ人の男の子が、みんなで飲んでいる時にいきなり、片言の日本語でスギちゃんのモノマネをし始めたんですよ。しかも「ワイルドだろ~」じゃなくて「マイルドだろ~」ってずっと言っていて(笑)。帰国してからも、その一緒にいた友達と「マイルドだろ~」をずっと言い続けていて、すごく楽しい思い出なのでタイトルに付けました。“マイルド”という言葉は、普段の私からは出てこなかったと思います。
──意外な由来で驚きました(笑)。話は変わりますが、今回の2曲からは自己肯定感の向上やセルフケア的なテーマ性を感じました。それは例えば、現時点での最新アルバム『12 hugs (like butterflies)』(2023年)などにも感じられたものですが、バンドや塩塚さんにとって大切なモチーフなのでしょうか。
塩塚:そうですね。セルフケアというテーマには、それこそ2020年くらいからずっと取り組んでいて。そもそも私は元がどん底なタイプで、人生自体が自分をケアしていく日々、みたいなところがあるんですよね。自分自身、視点が外側に向いていないなと思っていて、自分の視点が遠くまで飛ばないことが悩みでもあるんです。最近は友達と接することが増えましたけど、それでも自分の視点の割合が高い気がしていて。『サイレント・ウィッチ』のモニカちゃんも似たようなところで悩んでいると思うので、こういう2曲になったんだと思います。
河西:彼女がそういう悩みを抱えているのはすごく感じることで、辛くて仕方ないみたいな時も何回も見ていますし、それがゆえに周りと戦ってしまう自分さえも嫌になることがあると思うんですね。でも、そういう感性がすごく魅力的で、それは私にはあまりない部分なので、共感もしますけど、近くにいて学びを得ることが多いです。私は自分の内側に入って考え込むというよりも、そこに存在するものをありのままに受け取ってしまうタイプなので。バンドをやっていると、人ってそれぞれいろんなことを考えていておもしろいなって思います。
──「mild days」の歌詞になぞらえるなら、バンド活動もまた“チグハグで愛おしい私たちのdays”ということですね。
河西:うんうん。
塩塚:人間同士なので、別にケンカというわけじゃないけど「ん?」と思う時も、絶対にあるじゃないですか。友達にしても、約束してたけどメンタル的に調子が悪くて行きたくないってこともあるし、私もそういうことは全然ある。でも、お互いのことを知っているからこそ、そういうのも全然オッケーだし、いい時もあれば悪い時もある、そんな毎日だね、っていう。気持ちがバッドでも正直に話して「いいよ」と言い合えるくらいの関係性、心地良さはすごく大切なことだと思います。
[文・北野創]
楽曲情報

https://hitsujibungaku.lnk.to/Feel_milddays
作品情報
あらすじ
ところが、その不可能を可能にしてしまった、ひとりの少女がいた。
リディル王国における魔術師の頂点・七賢人がひとり
〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット。
史上、初めて無詠唱魔術を生み出した若き天才である。
しかし…
極度の人見知りであがり症の彼女は、
使い魔の黒猫と山奥に引きこもり、
数式の本に囲まれて、ひっそりと魔術の研究に打ち込んでいた。
そんな彼女のもとに、
七賢人の同僚である〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーが訪ねてくる。
戸惑う彼女にルイスはひとつの王命を告げた。
それは――貴族の集う名門校に潜入し、
第二王子を護衛する極秘任務だった……。
キャスト
(C)2024 依空まつり・藤実なんな/KADOKAWA/セレンディア学園広報部














































