
無数のトライ&エラーが“傑作”を生み出す――『星つなぎのエリオ』ピクサーで働く日本人スタッフ・奥村裕子さんが語る「ライティング」の世界【インタビュー】
毎日が微調整との戦い! 膨大なカット数にチームワークで挑む
──お話を伺っていると、日々の作業は非常に細かい調整の繰り返しになるのではないかと想像しました。
奥村:ああ、そうですね。本当に細かいです(笑)。
──日々のお仕事も、コミュニケーションを取りながら進める必要がありそうです。
奥村:ライティングの責任者にあたるDP(Director of Photography/撮影監督)の方に、作業したものを毎日見せています。日々の進捗を報告して、良い/悪いの判断をしていただくんです。そして、彼らからアプルーブ(承認)が得られるまで修正を繰り返す、という流れになっています。
また、一つのショットを作り込む中で、他のショットとのコンティニュイティ(連続性)も考慮しなければなりません。全体のバランスや繋がりが自然に見えるかを確認する必要があるため、「一つのショットを仕上げて終わり」というわけにもいかない。
例えば、彩度を上げてゴージャスな絵を作ることは簡単なんです。でも、物語の流れの中で観客に自然に見てほしい場面まで美しく作り込みすぎると、かえって不自然に視線が集中してしまいます。もちろん、どうでもいいショットというのは一つもありませんが、「ここはさらっと流して見せたい」という場面では、全体の調和を保ちつつ、スムーズに視線が流れるような作り方をしなければなりません。全体のバランスが非常に重要です。
──そういった調整を全カットで行い、一本の映画としてまとめ上げるというのは、途方もない作業ですね。
奥村:DPは全てのショット・シークエンスを確認して承認を出しているにもかかわらず、最後にはカラーグレーディングという色調整の工程も入ります。そこでもまた何度もチェックを重ねるわけで、大変な作業量になりますね。最終的には監督にも見せて承認を得る必要がありますが、ライティングに関して一番身近で指導してくださるのはDPの方です。
──ライティングのチームは、どれくらいの人数で構成されているのですか?
奥村:ピクサーでは、一つの映画につきライティング担当は25名ほどです。制作期間は半年から1年半くらいでしょうか。多いように聞こえるかもしれませんが、おそらく他のスタジオや実写映画の現場に比べると少ない方だと思います。
日本アニメは共通言語!?
──実際に働いてみて感じた、ピクサーという会社の印象をお聞かせください。
奥村:皆さんの才能が素晴らしいのはもちろんですが、助け合いの精神もすごいと感じます。誰もが自分の持つ技術を惜しみなく共有し、チーム全体でレベルアップしていけるように協力し合う。「皆で一つの映画を作る」という意識が非常に強いです。
──ちなみに、日本のアニメについて、同僚の方とお話しすることはありますか?
奥村:みんな日本のアニメが大好きですよ。私が日本人だというだけで、喜んでいろいろなことを質問してくれるんです。社内では様々な方がレクチャーをしてくださるのですが、日本のクリエイターも例外ではありません。日本のアニメの上映会(スクリーニング)や、監督をお招きしてのQ&Aセッションが開かれることもあり、その度に感動をしますね。
──実際にそういったお話を聞くと、改めて日本のアニメの影響力の大きさを感じます。
奥村:みんなが日本好きだからこそだと思いますが、日本の作品が参考(レファレンス)として挙げられることもよくあります。入社して最初に携わった『私ときどきレッサーパンダ』のドミー・シー監督は、日本の漫画とアニメが大好きなので、「このポーズはあの作品で〜」といった影響が随所に見られました。あの作品は『美少女戦士セーラームーン』のようなパステル調のテイストもあって、2Dっぽいルックを目指すというスタイルでした。本当に好きだということが伝わってきて、見ていてとても楽しかったです。
──共通言語としてアニメの話ができることで、お仕事もやりやすかったのではないでしょうか?
奥村:そうですね。ただ、本当に知識が豊富な方が多くて、私よりも詳しい人がたくさんいます。逆に「え、あのキャラクターを知らないの?」「この作品を観てないなんて、本当に日本から来たの!?」と言われて、少し恥ずかしい気持ちなりました(笑)。日本の文化は、やはり誇れるものの一つだと感じます。

































