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映画『アメリと雨の物語』監督陣が見つめた日本の景色【インタビュー】

世界を席巻する色彩の奔流――映画『アメリと雨の物語』マイリス・ヴァラード、リアン=チョー・ハンの両監督が語る「2歳半の神様」が見つめた景色【インタビュー】

色彩と視線に込めた“詩情”

ーー劇中で描かれる季節の移ろいが、アメリの心情に寄り添っていると感じました。こうした演出において、特に意識されたことはありますか?

マイリス: 表現上の工夫については、あらゆるレベルで徹底的に考え抜きました。アメリー・ノートンさんの原作は非常に文学的な内容で、短い本の中に膨大なテーマが詰まっています。そのため、脚本の段階から非常に時間をかけて、「アメリとニシオさんの関係」という本質に絞り込む作業を行いました。

マイリス: 映画は三幕構成になっています。第二幕の終わりに向けた緊張感を、私たちは「エラスティック(ゴム)」という比喩で捉えていました。ニシオさんとカシマさんの対立、そしてアメリを加えた三角関係。この「見えないゴム」が二幕の最後で緊張のあまり伸びきり、プツンと切れてしまう。その瞬間にアメリが人生の拠り所を失って転落するという心理的な構造を、いかにビジュアルへ翻訳するか。

ーー本作の重要なテーマの一つに「死」や「喪失」があると思います。アメリが現実を受け入れていく過程を、どのように演出していったのでしょうか。

マイリス: アメリがニシオさんとの関係を深めていく過程で、自分を「神」だと思っていた彼女は、一歩ずつ現実へと降り、人間として成長していきます。こうしたステップを描くために、日本独自の文化的な要素をあえて追加する必要があると考えました。そのため、日本で死や悲しみがどのように扱われているか、私たちは多くのリサーチを重ねたのです。

劇中に登場する「妖怪の本」や、灯籠流しが行われる「お盆」のシーンは、そのリサーチの結果生まれたもので、原作には登場しない映画オリジナルの演出になっています。

ーー観ていて全く違和感がないほど、作品にフィットしていました。

マイリス: ええ。こうした演出を形にするために、アートチームのメンバーと自分たちの子供時代の思い出についても何度も話し合ったんです。「どんな要素を使えば、あの頃の感覚を呼び起こせるだろう?」と。ニシオさんの子供時代を物語る「浜辺の瓶」のエピソードや、「独楽(こま)」といったアイテムも、そうした対話の中から生まれています。

これらの要素は、むしろ大人たちに向けて、「子供時代はこうだったでしょう?」と語りかけているのです。本作ではシナリオの構成から音楽、さらには色彩の使い方に至るまで、多層的な意味を持たせていますので、ぜひ探してみてください。

ーー作品全体を通して、アメリの感情の変化は、映像の色彩にも反映されています。ビジュアル面にも相当なこだわりがあったのでは?

リアン: おっしゃる通り、色彩については感情や知覚と密接に結びつけるよう工夫しています。

例えば、冒頭の生まれたばかりのシーンでは、新生児の「まだはっきり見えていない、淡くぼやけた視界」を再現しようとしました。そこからアメリが「生きる喜び」を見つけるにつれて色はビビッドになり、秋には落ち着いた色調へと変化していく。

リアン: さらに、アートディレクターのエディン・ノエルの提案で、登場人物ごとに「固有の色」を設定しました。アメリは緑、ニシオさんは太陽の黄色、カシマさんは紫色です。終盤、彼女が人生の拠り所を失ったとき、これらの色が混ざり合う演出を入れました。一人ひとりに結びついていたアイデンティティが溶け合うことで、彼女の混乱を視覚的な仕掛けとして強調しているんです。

マイリス: また、色の繋がりで言うと、アメリとお父さんの目の色を同じにしたことも、親子の関係性を象徴させるための意図的な演出になっています。

ーーポスターにも印象的に描かれているアメリの瞳。「眼差し(まなざし)」は、冒頭のセリフとも深く関わっているので、非常に重要な要素だと感じました。

マイリス: ありがとうございます。眼差しは本作において最も大切にした要素です。子どもの目線、そして「目」そのものに宿る力は作品全体の核となるテーマですから。

特にアメリの表情にフォーカスする場面では、幼い子どものふっくらした頬の柔らかさを表現しつつも、その瞳には強い意志が宿るよう工夫しています。「まなざしを通して感情を語る」という点には、並々ならぬ力を注ぎました。

ーーレミ・シャイエ監督のチームで手がけた作品と比べても、今作はより「目」が雄弁ですね。

リアン: 前作までは、そこまで「眼の表現」を前面に出すスタイルではありませんでした。しかし今作ではその要素をより強調し、キャラクターとの距離が近い瞬間の表情を丁寧に描くことを意識しています。これは日本のアニメーションでもよく見られる手法ですよね。日本の作品は目の表情が非常に細かく豊かで、私たちもその点を強く意識しました。

マイリス: そのまなざしを支える「視点」にもこだわっています。ストーリーボード(絵コンテ)の段階から、日本家屋の中での子どもの目線の高さを正確に再現するよう意識しました。そのために家全体の3Dモデルを制作し、演出家として内部を自由に歩き回ることで、適切な視点を確認できるようにしたんです。

ーー家全体を3Dで作って視点の位置を割り出すというのは、凄まじいこだわりです。

マイリス: 西洋人の私たちにとって日本家屋はとても小さく感じられますが、子供のアメリから見れば広大な迷宮であり、大人は見上げるほど巨大です。3D空間での検証によって、その身体的なスケールの違いや、アメリが感じている世界の見え方をリアルに表現することができました。

リアン: 瞳の描写についても、さらに細部まで工夫を重ねました。黒目の部分を少し浮き上がらせるように描いたり、光の反射や虹彩の位置を微妙に下げたりといった調整です。さらに、黒い瞳孔をあえて透明なレンズの「奥」に配置することで、眼球に立体感を出し、よりリアルで深みのある「目の表情」を再現しました。

ーーこだわりの詰まった映像に、福原まりさんの繊細な音楽が加わることで、より没入感が生まれています。

マイリス: 4ヶ月という時間をかけ、繊細かつ彼女らしいアイデンティティが宿った音楽に仕上げてくれました。映像のタイミングに一秒違わず合わせていただく必要があったので、彼女にとっても大きなチャレンジだったと思います。素晴らしい仕事をしてくれたと感じますし、本当に感謝しています。

ーー最後に、お二人が好きな日本のアニメ作品を教えていただけますか?

マイリス: まずは、『PERFECT BLUE』。あとは『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』……数えきれませんね(笑)。

リアン: 私は人生を変えられた3作を挙げます。『もののけ姫』、『火垂るの墓』、そしてあまり知られていないかもしれませんが、私に一生の衝撃を与えたのは『るろうに剣心 追憶編』(OVA)です。

ーー『るろうに剣心 追憶編』! それだけで1時間お話を聞きたいくらいです(笑)。本日は貴重なお話をありがとうございました。

マイリス&リアン: こちらこそ、ありがとうございました。

[インタビュー/小川いなり 文/失野]

『アメリと雨の物語』作品情報

アメリと雨の物語

あらすじ

1960年代日本—神戸で生まれたベルギー人の小さな女の子アメリ。彼女の成長を描く物語。外交官の家庭に生まれ、2歳半までは無反応状態だったアメリ。その後、子ども時代に突入した彼女は自らを「神」だと信じ、魔法のような世界を生きている。家政婦のニシオさんや家族との日々の生活は、彼女にとって冒険であり、新たな発見の連続。少しずつ変化していく。しかし、3歳の誕生日に人生を変える出来事が起こり、彼女の世界は大きく変わっていく…。誰もが子供時代に夢見た世界を描く感動のアニメーション作品。

キャスト

アメリ:永尾柚乃
アメリ(モノローグ):花澤香菜
ニシオさん:早見沙織
カシマさん:深見梨加
パトリック:森川智之
ダニエル:日笠陽子
ジュリエット:青木遥
クローディア:北林早苗

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