中村悠一さん&櫻井孝宏さんの口から語られる『虐殺器官』は“死”と“本音”が見える物語――舞台挨拶をレポート!
伊藤計劃氏のデビュー作を原作とした劇場映画『虐殺器官』が、遂に2017年2月3日(金)より全国の映画館で公開されました。2月4日(土)にはTOHOシネマズ日本橋にてキャスト登壇の舞台挨拶が行われ、クラヴィス・シェパード役の中村悠一さんと、ジョン・ポール役の櫻井孝宏さんが登壇。
アニメーション制作会社・マングローブの倒産という苦難を乗り越え遂に公開へと漕ぎつけた本作。キャラクターの声を担当したお二人からも並々ならぬ思いが語られていました。
無事に公開を迎えた今の心境は?
イベントが始まると、お二人が登壇。まずは公開を迎えての感想が語られます。中村さんは、「僕自身も早く見たかった作品ですし、劇場で見られるのが本当に楽しみだった」とコメント。しかし、「公開初日に出演していた自分が劇場にいるのはどうだろう?」と思い、まだ実際に劇場で見てはいないそうです。
櫻井さんは公開前に起きた色々なことを振り返りつつ、無事この舞台挨拶の場に立てて感慨深く思っている様子。また、大勢の方が会場に足を運んでいることに対しても感謝の気持ちを言葉にしていました。
続いて“マングローブ”の倒産から映画公開が遅れたことに触れると、意外なお話が。現実の世界情勢も日に日に変化し、当初よりも公開が遅くなったことでアメリカをはじめとした現在の世界情勢と『虐殺器官』がリンクしてくる部分多くあるとお二人は言及。
これについて中村さんが「日本でこんな映画をやっているとバレなきゃいいですね」とコメントして笑いを誘うと、櫻井さんは延期にはなったものの注目してもらえるタイミングでの上映になって、良かったと思える部分もあると語っていました。
クラヴィスは視聴者に近い感覚を持っている
自身の演じたキャラクターの印象を聞いていく一幕では、中村さんはクラヴィスについて「軍人ではあっても一般的な感覚を持っている、見ている人たちと同じ感覚でいる人物である」と述べました。また、この点は演じる際も気を付けていたそうです。加えて静と動の差が明確にあるそうで、アクションもキャラクター同士の会話もどちらも濃密なものになっているようです。
クラヴィスが追いかけるジョン・ポールについては櫻井さんが、本作を見た人がキャラクターに抱く印象は人によってばらけると前置きをしました。それを踏まえて、「虐殺の王と呼ばれる彼の本質的な部分に考えさせられるところがある」と話しました。ですが、未だに彼をどういう人物か言い表すのは難しいとも語り、多面的な人物であることを伺わせました。
収録現場が海外のカフェに!?
並々ならぬこだわりを持って作られた本作。収録現場のことに話が及ぶと、実は外国語指導を徹底してやっていたことが明かされました。中村さんによると外国語のシーンの収録は指導者が入ってくれる日にやったそうで、待合室のロビーが多国籍になっていたそうです。これには、周りが何を言っているのかよくわかない海外のカフェに迷い込んだ感覚に陥ったのだとか。
作中には英語、チェコ語、グルジア語が登場します。また、言語学者でもあるジョン・ポールを演じる櫻井さんはたどたどしい言葉をしゃべる訳にはいかず、その設定が圧し掛かってきていたと心境を明かしました。言語学者と言ってもしゃべることが上手いというベクトルではないので、その点をどう表現するか思い悩んでいたそうです。
最後の質問はこの作品をひと言で言い表すなら。先に“本音”と述べたのは櫻井さん。「人間は色々なことを思っていても口に出してはいけない。言わなければ存在しなかったことになる。その本音が、本作には見える」と話しました。
中村さんは“死”と語りました。「一貫して本作のテーマとして存在しており、それはマイナスの意味だけではない」と考えているとのこと。自身にとって死はまだ遠いものですが、物語のなかで死に近しい位置にいるクラヴィスを通して改めて思うことがあると述べました。
イベント終了の時間が近づくと、最後の一言挨拶で中村さんは「原作と劇場版あわせて『虐殺器官』という作品になっている」とコメントしました。ぜひとも映画を見た後は、原作小説でさらに本作への理解を深めてみてください!
[取材・文/胃の上心臓]
拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ガンダムシリーズをはじめとするロボットアニメやTYPE-MOONを主に追いかけている。そして、10代からゲームセンター通いを続ける「機動戦士ガンダム vs.シリーズ」おじ勢。 ライトノベル原作や美少女ゲーム、格闘ゲームなども大好物。最近だと『ダイの大冒険』、『うたわれるもの』、劇場版『G-レコ』、劇場版『ピンドラ』がイチオシです。
作品情報
2月3日全国ロードショー
※「虐殺器官」はR15+指定作品になります。15歳未満の方は、ご覧になれませんのでご了承下さい
【INTRODUCTION】
2007年に刊行された「虐殺器官」は“ゼロ年代最高のフィクション”と称えられ、SF、アクション、ミステリといったジャンルで区分けすることはもはや無用だった。文庫版の帯には、小島秀夫、宮部みゆき、伊坂幸太郎からの絶賛のコメントが大きく掲出された。原作は『一人称で戦争を描く。主人公は成熟していない、成熟が不可能なテクノロジーがあるからである』というコンセプトで書き進められた。
「虐殺器官」の特徴であるリアルで戦列な戦闘シーンと、内省的で繊細な心理描写―この両面を描くことが出来る映像作家は限られている。監督・村瀬修功はその中でも間違いなくトップの一人だ。2015年秋に起こったスタジオmanglobeの倒産により、一時は制作中止の危機に陥ったが、新たに設置されたジェノスタジオにより再始動。「予測のできない事態だったが伊藤計劃さんが再びチャンスをくれたのかもしれない。」村瀬を中心に新たに始動した『虐殺器官』。その映像作品としての純度は必ずや、我々の期待を凌駕するだろう。
計劃〈Project〉は止まらない―。
【STORY】
テロの脅威にさらされ続けたアメリカは、その恐怖に対抗すべく徹底した情報管理システムを構築していた。一方、アメリカ以外の世界各地では紛争の激化が続いていた。世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。その男、「ジョン・ポール」は、紛争の予兆とともに現れ、その紛争が泥沼化するとともに忽然と姿を消してしまう。かつて有能な元言語学者だった彼が、その地で何をしていたのか。アメリカ政府の追求をかわし、彼が企てていたこととは…? ジョンがチェコに潜伏しているという情報を元にクラヴィスは追跡行動を開始。チェコにはかつてジョンと関係のあった女性ルツィアがいた。「虐殺の王」と呼ばれるジョンの目的は一体何なのか…。クラヴィスはジョンから驚くべき真実を聞かされる。
【CAST&STAFF】
<キャスト>
クラヴィス・シェパード:中村悠一
ウィリアムズ:三上 哲
アレックス:梶 裕貴
リーランド:石川界人
ロックウェル:大塚明夫
ルツィア:小林沙苗
ジョン・ポール:櫻井孝宏
<スタッフ>
原作:「虐殺器官」伊藤計劃(ハヤカワ文庫JA)
監督:村瀬修功
キャラクター原案:redjuice
アニメーション制作:ジェノスタジオ
>>「Project Itoh」公式サイト
>>「Project Itoh」公式ツイッター(@PJ_Itoh)