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『スパイダーマン:スパイダーバース』CGアニメーターも思わず見入ったシーンとは

アカデミー賞長編アニメーション部門受賞『スパイダーマン:スパイダーバース』CGアニメーターの若杉 遼が思わず見入ったシーンとは/インタビュー

2018年、世界中で公開され、『スパイダーマン』シリーズ初のアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞したCGアニメーション作品『スパイダーマン:スパイダーバース』は現在デジタル先行配信中ですが、ブルーレイ&DVDが8月7日にリリース!

字幕版に加え、小野賢章さん、宮野真守さん、悠木 碧さん、吉野裕行さん、高橋季依さんなど豪華声優陣が担当した日本語吹き替え版と、未公開映像を収録! その発売を祝して、本作にCGアニメーターとして参加した若杉 遼さんにインタビューを敢行! 海外で活動することになった経緯や本作の制作秘話や見どころなど語っていただきました。

アカデミー賞・長編アニメーション部門受賞が決まった時の感想は?

――本作は第91回アカデミー賞・長編アニメーション部門受賞しましたが、感想をお聞かせください。

ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス CGアニメーター 若杉 遼さん(以下、若杉):びっくりした気持ちも半分ありつつ、『スパイダーバース』の前評判は高かったので可能性はあると思っていました。

ただずっとアカデミー賞のアニメーション部門はディズニーやピクサーの作品が強くて、今年も『インクレディブル・ファミリー』と『シュガー・ラッシュ:オンライン』の2作がノミネートされていて、もしかしたらその2作のどちらかかもしれないという不安もあったので、決まった時はホッとしました。

――アカデミー賞を常に意識しやすい場所にいるということですよね。

若杉:はい。だから今まで関わってきたアニメーション映画でノミネートまで至らない作品も多かったので、今回ノミネートされて、受賞できたことは僕の中でも大きかったです。

ハリウッド作品に関わりたくて、大学卒業後、単身アメリカへ

――どのような経緯で海外のソニー・ピクチャーズ・イメージワークスに所属することになったのか、教えてください。

若杉:最初にピクサー(・アニメーション・スタジオ)へ入れたんですけど、関わるはずだった作品が2年間制作延期になって、スタッフがみんなレイオフ(一時解雇)されてしまって。ビザの問題でアメリカを離れないといけなくなったタイミングで、たまたま応募したソニー・ピクチャーズ・イメージワークスからオファーをもらって、カナダに行くことになりました。正直、バンクーバーってどこにあるのかも知らなくて(笑)。

――美術系の大学に通われていたそうですが、どうしてCGアニメーターになろうと?

若杉:元々、ハリウッド映画の仕事がしたいという気持ちが強くて。中高と親が洋画好きで、ずっと洋画ばかり見せられて。いわば英才教育みたいな(笑)。それでハリウッド映画に関わる仕事をしたいと思って。大学在学中も選択肢は海外に行くことしかなくて、就職活動もしていませんでした。

若杉さんの仕事はCGでキャラのアクションを制作。今作はCGと手描きの融合で時間も労力も増大

――『スパイダーマン:スパイダーバース』にどのように関わっているのかを教えてください。

若杉:CGの仕事はかなり細分化されていて、僕が担当しているCGアニメーターはキャラクターのアクションを作ったり、演技させたりする仕事です。

CGなので基本的に絵を描くことはなくて、コントローラーが入ったキャラクターを渡されて、パソコンの中で動かしていくような。キャラクターごとではなく、カットごとに担当が割り振られて、このカットはこんなストーリーでと監督から説明を受けて、それを元に演技やポーズなどのアイデアを出して動かしていく流れです。

――日本のアニメーションでは普通、監督は絵コンテを書いて、アニメーターに指示する流れなので違うんですね。

若杉:そうですね。海外のCGアニメではストーリーボード(絵コンテ)を描くチームがあって、監督のディレクションを受けてストーリーボードを作っています。

――若杉さんはご自分が実際に動いた動画を撮って、見せてアイデアを伝えたそうですね。

若杉:僕たちの仕事は動きを作るだけではなく、お客さんにどう感じてほしいかまで考えるのが責任なので、客観的に自分の動きを見て、どうすればどう伝わるのかを確認するためにアイデア出しの段階で自分で動いたものを見たり、見せたりする作業は結構しています。

――今作は通常のCGアニメーションよりも手間暇がかかっていて、監督のコメントによれば1週間で2秒分くらいだったとも言われていますが、今作で難しかった点は?

若杉:普段は考えなくてもいいところまで考えないといけない部分があって。例えば影などは手書きのアニメーションでは原画の段階で書かれているけど、CGだと極端な話、ライト1つ置けば影が付くし、そこは僕らの仕事じゃないので考えなくていいんです。

けど、『スパイダーバース』の場合は影の線に加え、アクションの線……パンチした時、腕が2本に見える演出やしわの線までCGアニメーターがやらなくてはいけなくて。だから時間がかかったんだと思います。

個性的なスパイダーマンが集結。ペニー・パーカーとスパイダー・ハムの描写に苦戦!?

――今作はCGアニメーションながら手書きの要素も多いこともポイントですよね。

若杉:日本の手書きアニメを参考にする部分もありました。

――いろいろな次元から個性的なスパイダーマンたちが集結しますが、ペニー・パーカーは日本のアニメのようなかわいい女の子キャラでかなり特殊だなと。

若杉:個人的に難しかったのはペニー・パーカーとスパイダー・ハムです。主人公のマイルスやピーター、グウェンであれば人間なので自分で動いてみて動きを確認したり、アイデア出しできたたけど、ハムはブタなので自分が動いても表現できないんですよね。

その2人はアニメ的な表現のキャラだけど、他のCGキャラと同じ世界観にいるので、2Dアニメの方向に振り過ぎてしまうと違和感が出てしまうし、スパイダー・ハムをリアルに動かすと頭にかぶりものをした人間の動きに見えてしまうし。どれだけカートゥーンにするのか、どれだけリアルに近づけるのか、そのバランスはおもしろいけど、難しかったです。

またペニー・パーカーについては、僕は日本のアニメの仕事をしたことがなかったので、目の中に丸い球が何個かあって「どっちが瞳孔なんだろう?」とか、わからない線がいくつかあったりして。マイルスなら人間の骨格に近いので、「この線はしわ」とわかるんですけど。日本のアニメ的な表現がわかっていないと難しいなと思ったので、日本のアニメの参考資料を見ました。


マイルスの苦悩に自身の経験が重なって共感!?

――ちなみに仕事として関わる前に『スパイダーマン』シリーズはご覧になっていましたか?

若杉:『スパイダーマン』シリーズやマーベル作品は好きでほとんど見ていました。

――今までのシリーズと今作の違いを挙げるとすれば?

若杉:マイルスがスパイダーマンになってから思うように能力を使えなくて悩んだけど、自分のままでいいんだとわかって、壁に立ち向かっていくストーリーが素晴らしいなと思いました。

僕もプロのアーティストたちと一緒に仕事をしていると、負い目を感じた経験もたくさんあって。ここ数年考えていることは単純にスキルだけで勝負することは無理だし、求められていないだろうなと。日本のアニメを見て育ってきたし、考え方や見方の根源も日本のコンテンツがベースになっているので、それをどう活かすかを求められているはずだと。

マイルスもピーターたちのような立派なスパイダーマンに追いつこうとする気持ちに加え、自分がどうあるべきかを真剣に考えて、今の僕に重なる部分があったのでとても共感できました。

新しい表現とノリにはCGがマッチし、CGを使う意味がある作品

――マイルスは今までのシリーズの主人公像にはなかったタイプですよね。ダウンタウン出身で、ヒップホップの音楽が流れる中で、周りの人々との軽快なやり取りだったり。

若杉:そこも『スパイダーバース』が好きな理由の1つで。ちょっと話がそれますが、最近のCGアニメは手書きでできるところは手書きでやればいいのにと思っていて。

僕は『宝石の国』が好きで、コスト削減のためにCGを使うのではなく、CGだからできる表現や使う意味があるところに使われていて。『スパイダーバース』もただ新しい表現を、今までの映画に当てはめるのではなく、ダウンタウンやヒップホップ系のノリはCGだからこそマッチしている気がするんです。表現の仕方とストーリー、キャラクター性とか。

――今回いろいろなタイプのスパイダーマンが登場するのも見どころですよね。

若杉:そこは作りながら不安だった部分でもあって。キャラがたくさんいるので、話が散ってしまわないかなとか。でも完成した映画を見るとバランスもいいし、素晴らしい作品になったなと思いました。

監督はじめ日本のアニメリスペクトやアメコミ好きの気持ちを出し切った

――随所にマンガのコマ割りや絵が出てきたり、アメコミっぽい演出もたくさんあって、おもしろかったです。

若杉:吹き出しが飛び出す演出もアニメーターが作っているんですけど、シーンによっては絵コンテにも書いてなくて、アドリブでやったところもあります。監督やスーパーバイザーから具体的な指示がなくて、「カッコよかったらいい」みたいな指示が多く、アニメーターの裁量に任されていたので、いい意味でやりたい放題でした(笑)。

関わっている人たちがアイデアを出し合うシステムと、みんなアメコミやアニメが大好きなので、自分たちが好きなものを出し切れた気がするし、そういう作品って光ると思います。

――監督も日本のアニメファンだと語られていて、本作も日本で公開されるにしても、日本のアニメの要素が散りばめられているのはうれしいです。

若杉:海外で生活しないとわからないことかもしれませんが、日本アニメのファンって多いんです。同じCGアニメーターにも。だから今回、自分たちが作れるんだとテンションも高かったです。

若杉さんが仕事を忘れて見入ったというシーンとは?

――いろいろなエッセンスが詰め込まれていますが、人間ドラマがしっかりしているからブレないのでは?

若杉:そこは監督の一番の技量だと思いますね。また楽しませようという工夫がてんこ盛りで。僕自身、映画を見終わった後、ジェットコースターに乗っていたような感覚で、心地いい疲労感がありました。

――好きなシーンを挙げるとすれば?

若杉:僕は物語の終盤からプロジェクトに参加して、今までできたシーンを確認するんですけど、ヒップホップの音楽が流れる中、マイルスがおじさんの家を訪ねるシーンは見入ってしまいました。

普段はシーンの確認作業は仕事として見られるけど、あのシーンだけは家でDVDを見ているような感覚で、「早く次のチャプター見たいな」と思いました。ストーリーの見せ方やカットの切り方も含めて秀逸だなと思いました。

トガった作品が存在できる、自由な日本のアニメ界でいつか仕事してみたい

――日本のアニメもご覧になっていたそうですが、今の日本のアニメシーンについてどう思われますか?

若杉:日本のアニメの仕事をしてみたいなという気持ちもあります。普段はリアルなアニメの仕事が多いけど、『スパイダーバース』でカッコよさを求めた表現に初めて挑戦して。日本のアニメはカッコいい表現や演出を追求する傾向がありますよね。最近だと『プロメア』とか。

カッコよさを追求した引き出しは自分の中にはないし、ハリウッドではできないんですよね。あそこまでトガった作品にすると商業的に難しいという判断になるけど、日本にはそういう市場があって、そういう映画がちゃんと作られていることはいいなと。

僕はオンラインでアニメ講座を開講していますが、それも日本のアニメ業界に少しでも還元できればという想いもあるので、今後もどういう形であれ、日本のアニメに関わっていきたいなと思っています。

――改めてCGアニメーターという仕事のおもしろさと難しさ、魅力を教えてください。

若杉:僕らの仕事はただ映画を作るだけではなく、みんなが見てくれることで興行収入が上がるわけで。またお客さんとコミュニケーションを取っている感覚があって、自分が伝えたい意図が動きやポーズを通して伝わったなと感じられたら満足感や達成感も得られるのでそこがおもしろいところかなと思います。

同時に難しいところでもあって、自分が作った動きの意図が、お客さんに違った印象で伝わってしまう可能性もあるので、繊細さも求められます。

――自分の仕事が世界に繋がっていると実感できるところもやりがいがあるのでは?

若杉:そこもおもしろさの1つです。例えば『スパイダーバース』は北米公開した後に、日本や中国などのアジア、ヨーロッパと様々な国で公開されることで、人と繋がれる実感があって。言語は違っても、アニメで描かれる絵や動きは万国共通で楽しんでもらえるのがうれしいし、アニメーターの仕事の魅力だと思います。

個性的なキャラたちは見れば見るほど魅力や強さや弱さがわかり、妄想する楽しさも

――改めて本作の見どころを教えてください。

若杉:海外のアニメーション、特にマーベル作品はキャラクターの心情表現を常に考えながら動きを作っているので、見れば見るほど、キャラクターの魅力や、強さや弱さがわかるし、「このキャラってこんな食べ方するんじゃないかな?」と妄想できると思います。

また日本のアニメファンの人たちの印象はファンアートを描いてくれる人が多いなと。海外ではあまり見られないので、見るのがすごく楽しくて。デジタル配信やブルーレイなどパッケージが発売されて、もう一度じっくり見ていただければ、よりそれぞれのキャラを好きになってもらえると思うので、またファンアートを描いてもらえたら。

好きな映画ってキャラクターが好きなんですよね。例えばジブリ作品でも『魔女の宅急便』ならキキが好きで見るし。『スパイダーバース』では僕はグウェンが好きなんですけど、カッコよさや体のしなやかさだったり、掘っていけばいくほどおもしろかったし、1つの動きを作るにしてもいろいろな考えてなくてはいけなかったほど。

見る方によって好きになるポイントは違うと思いますが、魅力的なキャラがたくさんいますので、好きになってもられたらうれしいです。

ブルーレイ&DVDでは未公開シーンも収録。アニメーターの作業目線やプロセスがわかる貴重映像も!

――今回のブルーレイ&DVDには様々な映像特典も収録されていますね。

若杉:映画本編でカットされたシーンも収録されています。この作品は他の映画に比べてカットされたシーンが多くて、その中にはかなりいいシーンもたくさんあって。僕が担当したシーンも最初の3ショットがカットされています(笑)。

実はカットされたシーンは、ライティングまで行かないので、色味がちょっと違うんです。アレはアニメーターが作業する時の見た目で、映画のシーンはいろいろな要素が入っているので、アニメーターがどこまで触っているのかわかりにくいけど、普段アニメーターがどんな見た目で作業しているのかもわかりやすいので注目していただけたら。

あとアニメーションの仕上げの最後まで行かず、カクカクした動きがあるところもアニメーターのプロセスがわかります。最初は手書きアニメと同じように原画を描いているのでそこからどう完成させていくのかも。純粋な娯楽作品としてだけではなく、作り手目線でも楽しんでもらえると思います。

『スパイダーマン』シリーズの進化を確認し、今後に期待を。また『スパイダーマン』に参加したいです

――最後に皆さんへメッセージをお願いします。

若杉:『スパイダーマン:スパイダーバース』は『スパイダーマン』シリーズ史上、挑戦的な作品になったと思うので、どう進化したのか確認していただき、今後シリーズがどうなっていくのかを見守ってください。そしてこの作品で初めて触れた方はここから過去の作品をご覧になっていただければいいなと。

できることならまた『スパイダーマン』シリーズに関わっていけたらいいなと個人的には願っていますので、もしまた関わる機会があればツイッターなどでお知らせします。そして僕のようにCGアニメーターやハリウッド映画に関わる仕事がしたいと思っている方は、僕の他にも多くの日本人クリエイターが海外で活躍していますので、夢を信じて頑張ってください。

配信、Blue-ray&DVD情報

『スパイダーマン:スパイダーバース』はデジタル先行配信中!
ブルーレイ&DVDは2019年8月7日発売、レンタル開始!!

・プレミアム・エディション【初回生産限定】(3枚組) 9,200円(税別)

 
・ブルーレイ&DVDセット【初回生産限定】(2枚組) 4,743円(税別)

 
・4K ULTARA HD&ブルーレイセット【初回生産限定】(2枚組) 6,800円(税別)

 
・IN 3D【初回生産限定】(2枚組) 5,695円(税別)

 
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
 
公式サイト
若杉遼公式Twitter(@ryowaks)

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